タンス預金一千兆円と「タンス不動産」という視点
話の入口は、関口さんの投稿にあった「タンスに眠る一千兆円が日本の景色を変える」というフレーズでした。
日本のタンス預金が非常に多いという話はよく知られています。関口さんはこれを金融資産全体、つまり普通預金や定期預金も含む大枠で捉えていると話します。
関口さんは、この預金の話を不動産にも当てはめて「タンス不動産」と表現しています。使われていない、あるいは本来の価値どおりに使われていない不動産のことです。
タンス不動産って不動産タンスに入んないから、そもそもなんだけど、寝ている不動産っていう意味合いは二つあって、一つは利用されてない、または本来の価値として利用されてない不動産。あともう一つは非流動化不動産って言って、流動化っていうのは所有と使用っていうものを分ける。
不動産流動化と「所有から表現へ」
関口さんは、GREENINGの本社ビルを例に「不動産流動化」の考え方を説明します。全部を自社で使ってはいるものの、所有はしていないという状態です。
十数億円の取得費用を借り入れて自社ビルとして持つと、長期間キャッシュを寝かせてしまう。それならバランスシートから外して誰かに持ってもらい、賃料を払うほうが資金効率がよいという考え方です。
関口さんによれば、意味は二つあります。使っていないところは使おう、そして持つ意味より使う意味が重要なら流動化させよう、というものです。
一つの不動産、十億円のものを自社で使っていたら、その十億円というのは不動産っていう形で寝てしまってるわけね。それを流動化する。一旦売却をして借り上げることで、その会社には十億円っていうフリーキャッシュが生まれる。事業投資するもよし、設備投資をするもよし、お金がぐるぐる回るから経済的にも活性化する。
ただし関口さんは、老舗企業が代々受け継いできた本社ビルなど、所有そのものに別の意味がある場合もあると補足します。すべてを流動化すればよいとは考えていないという立場です。
ロケーションIP──土地そのものが表現になる
話題は「所有から表現へ」というキーセンテンスに移ります。かつての箱物行政では美術館や科学館が地域の表現とされてきた、と関口さんは振り返ります。
関口さんが重視するのは、その土地にしかない不動産を「表現の場」として捉える向き合い方です。具体的なプロジェクトというより、一つのスタンスだと語ります。
不動産ってのはその地域にしかないから、その地域の表現っていうものを、使ってない不動産を生かしてどうするのかっていうのは、具体的なプロジェクトがあるってことではなく、一つの向き合い方として、その地域にしかないロケーションを表現の場として捉えていくっていうことは、すごく意味のあることなんじゃないか。
例として挙がったのが、ニセコの「プレミアムパウダー」や、サーフィンのパイプラインでした。それらはスキー場や波という、その土地でしか表現できないものです。
関口さんは、人口が減り総生産が落ちる先進国において、伸びしろのある産業は観光であり、より大きく言えば文化産業だと話します。その基本に立ち返るとロケーションIPが「基本の基」になる、という見立てです。
持つより使う。寝ている不動産を流動化し、フリーキャッシュを事業に回す
その地域にしかないロケーションを表現の場として捉え、観光や文化の資源に変える
気づかれていない価値をどう編集するか
小畑さんは、パウダースノーや波のようなわかりやすいIPばかりではないと指摘します。そこにただあるものを、どう切り取り、どう見せるかが重要だと話します。
そこに住む人ほど当たり前になっていて価値に気づきにくい。関口さんは「他人の芝は青く見える」を逆に使い、他人の目で自分の芝を見ることの大切さを語ります。
僕がやることによって、実はなんか全然みんな気づいてないけど、それが突然宝物になってきた。
種市さんは、その価値をマネタイズし「応援に変わる」仕組みに関心を寄せます。関口さんの会社が事業を進め、そこに投資したりインセンティブが返ってくる形があれば、お金の使いがいがあると話しました。
スラップスの会員のじゃないけどさ、お金払ってやれば持ってればみたいなことが街づくりでできたりすると、俺もお金払いたくなるし、行きたくなるし、そういう拠点がいろんなところにできると、日本全国めちゃくちゃ楽しいだろうし、お金の使いがいがある。
小畑さんはこれを「推し活」の高位版として捉えます。自身が手がけるデジタル会員券も近い領域にあり、金融の文脈とつながると、旅や食への応援がより面白くなるのではと語りました。
動物福祉という課題に事業で向き合う
続いて、まだ詳細を明かせない次のプロジェクトの話になります。大枠は「動物共生」、より真剣に捉えると「動物福祉」の領域だと関口さんは説明します。
関口さんによれば、動物福祉には動物実験、愛玩動物、食用畜産動物などのカテゴリーがあり、それぞれに課題が山積しています。ペットの殺処分や動物実験の尊厳の問題などです。
犬とか猫とかと暮らしてることによって、その幸せを享受させてもらってる分、自分が生きてる間、自分が仕事をしている意味合いとして、課題の解決に少しでも形にして貢献できないかっていう思いがあるのね。
その思いを、宿泊施設や飲食施設、Eコマース、コミュニティビジネスといった形に仕立てていくといいます。皮切りの拠点は2026年から2027年にかけて立ち上がる予定です。
関口さんは、動物共生は大枠では自然共生でもあると話します。イエローストーン国立公園の生態系の事例を挙げ、自然環境との調和という視点から、クマやシカ、メガソーラーなど複数の問題が絡み合うと語りました。
どの視点からものを言うかによって、その物言いの内容が多分変わってくると思うんだけど。でも根本的にはその自然共生、動物共生っていうのがあって、日本の自然環境があり、日本の四季があって、それを日本の価値としてこれから観光産業だったり文化産業の基幹にしていく。
一点集中と「始めること」の重要性
種市さんは、GREENINGを「ないものをここに作る面白い会社」と評します。関口さんは、志が高いという評価に対し、それだけ課題が大きいのだと返します。
関口さんは、動物福祉のような大きな課題を、選挙の一票にたとえます。一票では変わらないと思っても、入れなければ変わらない。始めなければ始まらない、というせめぎ合いです。
エベレストに向かって一歩二歩進んだところで全然届かないよみたいな、その感覚ってのはあるわけ。でも始めないと始まらない。やっぱ始めることの重要性ってのをもう一回考えよう。
一方で関口さんは、いろいろな事業をやっていることを自身の「弱み」だとも語ります。ある起業家から、一点集中も能力だと言われたことを引き合いに出しました。
だからこそ、動物福祉を単独で追うのではなく、自分たちの既存事業を通じて課題解決を始める形を選んだといいます。着手は2027年春の予定です。
小畑さんと種市さんは、この判断に一貫したストーリーを見ています。関口さんの事業は日本の価値や自然へのリスペクトがベースにあり、そこに動物共生のプロジェクトも自然につながっているという受け止めです。
カルチャーカラーが担う、これからのGREENING
最後に、関口さんはこれからの展望を語ります。カルチャーホテル「ベースレイヤー」はまだ名古屋のみで、成長過程にあると位置づけます。
AIによって人の仕事が代替されていく一方で、関口さんはホワイトカラーやブルーカラーとは別に「カルチャーカラー」という言葉を挙げます。料理や歌、習字など、リアリティの中に価値を生み出す人たちのことです。
そうしたカルチャーカラーを形にするのは人であり、だからこそ拠点数や事業規模を一定量まで成長させる必要がある、と関口さんは話します。
カルチャーホテル、動物共生型事業、飲食拠点、そして前回までに話した雑居ビルシリーズ。関口さんは、成長と新しい芽が混在する現在を「成長カオス」と表現しました。
種市さんと小畑さんは、その場で言葉を生み出す関口さんの表現力に感心します。文字だけでは伝わりきらない魅力があるとして、こうした話を定期的に語ってほしいと締めくくりました。
まとめ
最終回は、寝ている不動産の流動化から、ロケーションを表現として捉えるIP化、そして動物福祉への挑戦まで、関口さんの事業観が一本の幹でつながっていることが見えてきた回でした。テクノロジーが進むほど、その土地や人にしかない価値をどう編集し、応援に変えるかが問われるのかもしれません。
- タンス預金と同じく、日本には使われていない「タンス不動産」が眠っている
- 所有より使用を重視する流動化と、土地そのものを表現とするロケーションIPが鍵になる
- 気づかれていない価値は、切り取り方と見せ方次第で宝物になり得る
- 動物福祉という大きな課題に、既存事業を通じて2027年春から着手する予定
- AI時代に価値を増すのは、料理や歌のようにリアルで価値を生む「カルチャーカラー」の人々
