SLAPSが解こうとした「常連なのに区別されない」もどかしさ
この回のテーマは、小畑翔悟さんが手がけるデジタル会員権サービス「SLAPS」です。原亮太さんの求めに応じて、概要から一歩踏み込み、ビジネスとしてどう成立しているのかが語られます。
出発点にあったのは、身近な不満だったといいます。服を買うために並ぶ、人気のレストランの予約が取れない、しかも常連なのに特別扱いされない。そうした「権利」のあり方を変えたい、という発想です。
例えばその服を買う時に並ぶとか、人気なレストランの予約が取れないとか、しかも常連なのに区別されてなくてみたいなところが結構あって。その権利って変えた方がいいよねみたいに思ったのが一番初めのきっかけなんですよ。
SLAPSの基本の仕組みはシンプルです。ブランドが会員権を発行して販売し、買った人が特典を得られる、というものです。
洋服のブランドの例では、毎回展示会に呼ばれて好きなものを購入できる特典が挙げられました。ブランドによっては、Tシャツに自分の名前を入れてオーダーできたり、シリアル番号がついたりと、自分だけの特別な一着を持てる形もあるといいます。
サーフブランドのように、好みの近い人が集まるコミュニティでは、会員限定のイベントを開くといった使い方も考えられると話されています。
ブランドと客が直接つながると、誰が得をするのか
なぜこの仕組みをやるのか。小畑さんは、ブランド側と客側の双方にメリットがあると整理します。
ブランド側の背景には、情報の多様化と過剰さがあります。SNSやメディアで全員に同じ情報を出すよりも、好きなブランドから直接、自分だけに届く方が客はうれしいし、ものも買う、という考えです。
直接つながることで、企業は広告費を抑えられ、客はストレスなくブランドと付き合える。こうした関係をいろいろなブランドで作りたい、というのが狙いだといいます。
具体例として挙げられたのが「フォションホテル京都」です。年間十万円で会員になれる会員権を販売しているといいます。
会員になると、スイートルームなどの上位客室に割安で泊まれるほか、会員だけが入れる体験が用意されているそうです。京都のお寺と組んで紅茶を楽しむイベントや、フレンチのレストランに茶屋を招く「フォション×京都の抹茶」といった企画が挙げられ、実際に売れていると話されています。
Web3を組み合わせると会員権が「資産」になる
ここにWeb3の技術を組み合わせると、何が変わるのか。小畑さんは、数を限定できることと、それに価値がつくことを挙げます。
会員権はブロックチェーンに乗っているため、いらなくなったときに売却できる、という点が従来との違いです。百個限定なら、九十九番の権利を誰かに売る、といったことが可能になります。
ファッションブランドからは「転売を誘発するのでは」と言われることもあるといいます。ただ小畑さんは、自分が持つものに価値がつくかどうかは大事で、価格がつくこと自体が満足感を示すと考えていると話しています。
メリットが大きいのは、どちらかといえば客側だといいます。ブランドが価値あるコンテンツを出し続ける前提で、応援していたブランドが人気になれば、会員権を欲しい人が増え、値段が上がっていく、という流れです。
応援していたブランドがどんどん人気になっていくと、その会員権を欲しい人が増えていって、値段が上がっていくと。そうすると、自分が持ってるものに資産性がより出てきて、まあ売ってもいいかなみたいな感じになってくる。
タクシーアプリのような会計と、紹介で広がるいいお客さん
原さんは、以前聞いた別の使い方に触れます。レストランでの会計をカードのところで完結させたり、仲のいい友達に自分の権利で「行ってきなよ」と渡せたりする点が、いいと思ったといいます。
小畑さんはこれを、ブランドとファンを近づけ、さらに「ファンの周りにはいいファンがいる」という思想で作っていると説明します。ファッション、ホテル、レストランのなかで、最も先行しているのはレストランだそうです。
レストランでは、アプリの中でチケットを買って友達にあげられるため、いいお客さんの紹介でいいお客さんが増えていく、という循環が生まれるといいます。
会計についても、SLAPSのアプリ内でその場で決済でき、領収書も発行できる仕組みが紹介されました。イメージはタクシーアプリに近く、QRを撮ってそのまま出るような体験に似ているといいます。
京都の料亭とかを結構意識してて。好きなんですよ。
会計させないっていうね。
最近使っている店では、客がそのまま帰り、店側が「やっとくね」と決済まで済ませる運用も出てきていると話されています。原さんは、店側の煩わしさが減り、客は特別扱いされていると実感できる点で、飲食との相性の良さに触れました。
ホテルの予約サイトなどでは手数料がかかるため、直接客とつながる方がいい、という事情も語られました。ファンを囲い、紹介してもらい、特別な体験を提供して全体の売上を上げていく。これは多くのブランドに共通する狙いだといいます。
情報が溢れAIが当たり前になる時代の「逆張り」
原さんは、コンテンツビジネスの現場感から、情報の過剰さを語ります。五年前ですら、世界のコンテンツはビーチの砂の数だけあると言われ、いいコンテンツを見つけてもらうのは至難だといいます。
SEO偏重で情報がノイズ化した結果、人々はウェブ検索よりSNSで探すようになった。そこにWeb3で情報が整理され、お金のやりとりや付帯サービスまで一つの情報として登録されていくなら、ユーザーのメリットは高そうだと評価します。
小畑さんは、ここにAI時代ならではの視点を重ねます。レコメンドがスマホやPCに当たり前に出てくる時代だからこそ、仲のいい人からの紹介に価値が出てくる、という考えです。
食べログで調べて、あ、これ三点六と三点五だからどっちにしようかな、口コミこうだなってやるよりも実は良かったり。教えてもらって行って(紹介者の)知り合いですって言うと、食べる前と食べた後の全ての体験が、普通にウェブで調べていくよりも良くなると思ってて。
原さんは、ラグジュアリーブランドのブルネロクチネリが、AIでのコミュニケーションのためのサイトを立ち上げた例を挙げます。Tシャツを買った直後にまたTシャツを勧めるようなことは、対面の接客ならしないはずで、それをきちんと教育・アップデートできなければ今後のラグジュアリーは成り立たない、という思想だといいます。
AIの使い方についても、原さんは前向きな立場を示します。アイデア出しのフリと最終決定は人が担い、判断や修正、次の提案といったプロセスをAIが担う、という役割分担です。数億のコンテンツを土台にした壁打ち相手として、どんどん使うべきだと話しています。
メディアやセレクトショップとの相性、そして番号への愛着
種市暁さんは、OCEANSのようなメディアでの活用を想像します。固有のファンに向けた会員権を作り、限定サービスや共同企画を行い、権利を売買できるようにする、という発想です。
そのうえで、ファッション「ブランド」よりも、メディアや飲食、セレクトショップのように、もともとコンテンツを持つ存在の方が相性が良いのではないか、と話しました。
元々コンテンツを持ってるところとはすごい相性が。
原さんは、幕の内弁当のたとえで運用側の負担にも触れます。ファッションブランドで会員権という「箱」を作っても、常に中身の付帯サービスを入れ続けなければならず、それは大変だという指摘です。
一方で小畑さんは、飲食では接点が増える点を具体的に説明します。予約の数日前にコースの内容が届いてワクワクし、食べた後にはメニューやワインを見返せる。忘れがちなワインをそこから買える、といった体験です。
リピートの難しさにも解決策があるといいます。季節でコースが変わったこと、予約が取れること、今日空いたことなどを直接プッシュで届けられるため、リピート率が上がる、という説明です。
種市さんは、会員権に条件を設けることで、店側がいい客をセグメントできる可能性にも触れました。SNSでは全登録者に一律に出すしかないのに対し、特別な人にまず体験してもらう使い方ができる、という点です。
小畑さんは、SLAPSをLINE公式アカウントの高級版のようなイメージだと表現します。よりクローズドで特別感のあるUXで、紹介機能がつき、権利として外で売却もできる、という位置づけです。
応用として、カーシェアのような個人事業や、単価の高いレンタカーの権利販売も相性が良さそうだと語られました。さらに、会員権を先に売ることでキャッシュが先に入る点も、経済原理上のメリットだといいます。
だから第二のクラファンみたいな言われ方もする。
最後に、会員番号を使った「くじ」のような仕掛けも紹介されました。1から100の会員のうち、今月は5の倍数の人だけがこれをできる、といった企画です。すでに実施しているそうで、番号への執着や帰属意識が生まれ、「3も持っておくか」と別の番号も欲しくなる、という反応が語られました。
原さんは締めくくりとして、これは自分たちメディアの未来というより、生活者としての未来だと話します。モニターの中で完結してきた平面の体験に、もう一つ奥行きを持たせる。そうしたつながりを前提にしないと成り立たない企画が今後出てくる、という期待が語られました。
まとめ
SLAPSは、常連が区別されないもどかしさへの逆張りから生まれた、信頼でつながるデジタル会員権のサービスです。ブランドと客が直接つながり、Web3で会員権が資産となり、AI時代だからこそ「紹介」の価値が増す、という思想が、フォションホテル京都やレストランの具体例とともに語られました。
- SLAPSはブランドが会員権を発行・販売し、買った人が特典を得る仕組みで、洋服・ホテル・レストランで展開されている
- Web3により会員権に数量限定と資産性が生まれ、売却も可能になる点が従来の会員システムとの違い
- アプリ内決済や紹介チケットにより、会計の煩わしさを減らし、いい客の紹介でいい客が増える循環をつくる
- 情報とAIレコメンドが溢れる時代だからこそ、信頼できる人からの紹介の価値が高まるという逆張りの発想
- メディアやセレクトショップなど、もともとコンテンツを持つ存在との相性が良く、先に売ることでキャッシュが先に入るメリットもある
