なぜ今メンバーシップなのか
後編のテーマは、鳥羽さんが今回メンバーシップを発行する理由です。小畑さんが「なんで今?」と切り出します。
鳥羽さんは、二、三年前にコロナ禍でオンラインサロンが流行った頃から、ファンが課金して何かを得る仕組みには魅力を感じていたと話します。
ただ、オンラインサロンは運営が続かず、しっくりこなかったといいます。
そんな中、料理研究家の詩織さんの存在が転機になったと振り返ります。マメでファンサービスも手厚い姿を見て、シェフが店以外でどう稼ぐかという今後の課題を考えたそうです。
客単価かける人数で売り上げは決まってしまう。その中でシェフがこれから自分の才能や能力をどうしていくか、今の時代のお客さんをどうエンゲージメント高めていくかと考えた時に、わかりやすく言うとファンクラブ、芸能人でいうファンクラブを作っていこうとなった。
鳥羽さんは、ポッドキャストと同じく、好きな人しか来ないからアンチがいないことが今の時代の一番大事な点だと語ります。
選んで来てる人に対して、自分たちは百二十で応えていく。これがめちゃくちゃ最高なんですよ。
洋服の世界では熱狂的なファンがつくブランドが以前からあるものの、飲食は割と遅れていると指摘します。
今までは、店に行って飯を食う、予約の取れないところに行くってだけだった。もうちょっと違う形もあっていい、応援の仕方があってもいいじゃんという時に、「これや、メンバーシップだな」っていう。
クラウドファンディングとの違い、そして出会い
鳥羽さんは、Makuakeのようなクラウドファンディングは持続的な感じがしないと話します。
一方で、メンバーシップやファンクラブはずっと続いていく、両思いの関係だといいます。だからこそ本質的だと考えているそうです。
きちっとコンテンツ化して運営していくのはチャレンジングでもあるけど、自分たちの背筋が伸びる。手を抜いたら離れていくし、ずっとお客さんに愛情を注ぎ続けることで、新しいことが生まれていく。
その仕組みを手掛けるのが、小畑さんの会員権サービスSLAPSです。ここで意外な裏話が明かされます。
鳥羽さんは、自分たちが依頼したのかと思ったら、小畑さんの方からプレゼンの連絡をくれたと聞いて驚いたと話します。
普通に食べに行って超いいと思って。問い合わせフォームから連絡しました。で、絶対返ってこないと思って。まず問い合わせフォームからポエムをしたためて、資料を送った。
小畑さんは、詩織さんの店を「レストランというよりブランドだと思った」と語ります。ポリシーとスタンスを強く感じたからだといいます。
これ、たまたま食を通してお客さんに提供してあげてるだけで、めちゃくちゃポリシーがあってスタンスを感じるから、ブランドだと思った。強烈に、超いいと思ったんですよね。
料理は手段、目的はお客さんの幸せ
鳥羽さんは、手段と目的の整理が重要だと強調します。美味しいご飯を作ること自体が目的の人もいますが、自分たちは違うといいます。
俺らは料理を通してお客さんをハッピーにしたいというのが目的で、料理は手段。ここが明確に整理されてるかどうかで全然違う。ミシュランを取ることが目的じゃなくて、取ったからこそお客さんに還元できることがある。
最後はお客さんにたどり着くことを常に考えているからこそ、メンバーシップができるのだと鳥羽さんは話します。自分のやりたいことを押し付けるやり方は、あまりうまくいかないと考えています。
お客さんをハッピーにすること。ミシュランもお客さんへの還元のための手段と捉える
料理。美味しさそのものを最終目的にはしない
AI時代だからこそ高まるリアルな体験の価値
小畑さんは、直接お客さんと繋がる価値が今後さらに高まると話します。理由はAIの普及です。何でも聞けば答えが出てくる時代だからこそ、繋がりや好きといった人間の根源的な欲求に立ち返るといいます。
鳥羽さんも、SEOが意味をなさなくなる状況の中で、本当に好きなところと情報を共有していく価値が上がると応じます。
鳥羽さんは、情報の集約であるChatGPTには表面的なデータでは敵わないものの、それを元に体験したリアルの方が深いと語ります。
ディズニーランドめっちゃいいよ、こんなことがあってという話よりも、ディズニーシーでソアリンに乗った方が感動する。それはリアルだから。体験には情報は勝てないんですよ。
小畑さんは、情報が簡単に手に入るからこそ、情報と体験の落差が開いていると指摘します。昔は体験しかなく相対評価できなかったが、今は体験の価値がより上がっているという見方です。
行った気になっちゃうんですよね。身につけてないのに身につけてる気になるし、食べたことないのに食べログの点数だけ見て、そんな美味しくないなとなる。だからこそリアルのストリートファイトが強いってめちゃくちゃ大事なんです。
会員権に価値がつくということ
小畑さんは、SLAPSで発行する会員権を、いずれブロックチェーン上のNFTとして載せる準備を進めていると明かします。
その狙いは、一発のバズではなく、いいものを提供し続けてお客さんが支持してくれる関係を可視化することにあります。会員権に価値がつくことは、その関係が続いているバロメーターになるという考えです。
二次流通や転売はネガティブに捉えられがちですが、小畑さんはそうは思わないと話します。価格がつくことは、それだけ欲しい人がいる証だといいます。
自分の持ってるものに価格がつくと、これ持っててよかったなとなる。事情があって手放す時は、その価値がちゃんと高く売れる。これは絶対あった方がいいんですよ。
鳥羽さんは、二年乗って価値が上がりリセールで売れるランドクルーザーに例えます。ここから軽妙な脱線も挟みつつ、二次流通の価値を語り合いました。
紹介とギフティングが生む繋がり
鳥羽さんは、メンバーシップの具体的な特典を新幹線の中でずっと話し合ったと明かします。会計の割引や、予約が先まで取れること、メンバー限定の特別メニューなどを検討しているそうです。
ただし、単に値段を安くするだけにはしたくないといいます。
単純に値段が安くなるとなると、ただの乞食みたいな人ばっかりになっちゃう。そうじゃなくて、お客さんにとってもいいことだけど、ちゃんとものの価値をつけていく作業をやりたい。
実例として、青山の店では夜のコースを昼に食べると同じ内容で五千円引きになると紹介します。その結果、ランチの平均単価が上がり、夜の売り上げ予想が立てやすくなったといいます。値下げしているのに売り上げが上がる仕組みだと説明します。
小畑さんは、SLAPSで紹介をやりやすくし、それがお店側にも見える化されるといいと提案します。自分が持つチケットをLINEで友達に送り、店側では「小畑さんの友達」だと文脈まで分かる状態を想定しています。
ハーゲンダッツ理論っていうのがあって。いいもの誰かに紹介したいってあるじゃないですか。だから予約をプレゼントする。プレゼントしてくれてありがとうございます、だから半額にしますとか、そういうのもいい。
鳥羽さんは、来てもらいさえすればリピーターにする準備ができているからこそ、最初のハードルを下げる紹介制やギフティングが有効だと話します。
さらに、プレゼントの本質にも触れます。自分ではなかなか買わない良いものをもらうと嬉しい、レストランのチケットはそこに近いといいます。予約が取れなければなおさらだと語ります。
お会計を安くするよりも、ギフティングしてくれた人を優待してあげる。友達の輪なんですよ、いいともスタイル。
プラットフォームに頼らず自力で戦う
鳥羽さんは、料理を作ることだけがお客さんへの幸せのやり方ではないと語ります。トイレの香りでも、カルボナーラの味でも、メンバーシップの仕組みでもいい、幸せにする手段は何通りもあるという考えです。
話は、レストランの予約サイトや評価制度への疑問に及びます。誰が何の基準で選んでいるのか分からないブラックボックス感が好きではないといいます。
一つのプラットフォームにこだわらなくても自力でやれる時代になった。だったら俺メンバーシップでやるわという方が、ダメだったら本当に実力ないなと分かる。プラットフォームに入れないから実力ない、そんな時代じゃない。
鳥羽さんは、自分の実力と世の中が直接戦える状況になったからこそ背筋が伸びると話します。プラットフォームに選ばれず烙印を押される仕組みは良くないと考え、それを救済するのがメンバーシップだといいます。
ただし、メンバーシップは誰にでも向くわけではないと釘を刺します。強い意志やブランド力、来てもらった時に必ず喜ばせられる中身がなければ成り立たないといいます。
もっと良くしたいという強い意志がないところにメンバーシップは不向き。仕組みありきじゃなくて、中のコアの部分の強さがあって初めて仕組みを最大化できる。
コアの強さ
ブランド力、ストリートファイトの強さ、来てもらえば必ず喜ばせられる中身
仕組み
その強さを最大化する装置としてのメンバーシップ
持続的な繋がり
紹介・ギフティングを通じて広がる、リアルで深いファンとの関係
まとめ
AIで情報が均質化する時代に、鳥羽さんが選んだのは、リアルな体験と持続的な繋がりを軸にしたメンバーシップでした。料理を手段と割り切り、お客さんの幸せという目的に立ち返る姿勢が、その根底にあります。
- 鳥羽さんはオンラインサロンやクラウドファンディングの一過性を避け、両思いで続く「ファンクラブ」としてメンバーシップを選んだ
- 料理は手段であり、目的はお客さんを幸せにすること。この整理がメンバーシップの土台になっている
- AIで情報が簡単に得られる時代だからこそ、体験には情報は勝てず、リアルな繋がりの価値が上がると二人は語る
- 割引ではなく、紹介やギフティングによる繋がりの拡張と価値の付与を重視する
- プラットフォームの評価に頼らず自力で戦う手段として、コアの強さがある者にこそメンバーシップは機能する
