リスナーからの質問と川上牧場の飼い方
この日のお便りコーナーに届いたのは、配信アプリ「スプーン」のもぐらききせんさんからの質問でした。
放牧している牛さん、リーダーの牛がいたりしますか?夜は固まって寝たりするのですか?この時期は寒いので。
まず川上さんは、自分の牧場の飼い方から説明します。川上牧場は牛がつながれた状態で立ったり座ったりする「つなぎ牛舎」が中心で、日本で昔から使われてきたスタイルなんだそう。
一方で、牛が自由に歩き回って餌を食べたり搾乳室に行ったりする「フリーストール」や「フリーバーン」も、いまでは半分ほどまで広がっているといいます。
逆転するんじゃないかなとは思われますけども。
放牧牛の細かい動きは専門外だったため、川上さんはリサーチした内容をまとめて読み上げるかたちで答えていきます。
放牧牛にリーダーはいる。ただし「ボス」ではない
結論から言うと、群れにリーダーはいます。ただし力でねじ伏せる「ボス」ではなく、信頼される存在としてのリーダーなんだそう。
牛の群れには体格や年齢、経験で決まる社会的な順位があり、一度序列が定まると、群れの中でほとんど争いは起きなくなります。
行動学の研究では、ホルスタインやアンガス牛の群れで、移動行動の約80パーセントがリーダー個体の動きに追従して始まると観察されているそうです。
そのリーダーの特徴は、年長で経験豊富なこと、放牧地の地形や危険を知っていること、パニックを起こさない落ち着いた性格、そして群れから信頼されていること。
群れの行動は「合意」で決まる
リーダーは、朝の採食、日中の休息、夕方の移動など、群れの行動開始の合図を出す存在です。実験的にリーダー牛を一時的に外すと、残りの群れの行動開始が遅れたり、バラバラになったりするといいます。
ただし、全員がリーダーに従うわけではありません。放牧牛の社会には「コンセンサス型(合意型)行動」があり、1、2頭が動き出して、3頭目4頭目が続くと、群れの合意ができて全体が移動します。
この仕組みを「社会的促進」と呼ぶそうで、リーダーとフォロワーの関係は固定ではなく、状況によって入れ替わる柔軟なものなんですね。
リーダーが動く
経験豊富な牛が採食や移動の合図を出す
数頭が続く
1、2頭が動き、3頭目4頭目が追従する
群れの合意
全体が移動を始める(社会的促進)
夜は交代で休み、自然に防風陣形をつくる
続いて「夜は固まって寝るのか」という質問へ。放牧牛は夜も完全には眠らないそうです。
群れ全体の約3分の1だけが同時に休息し、ほかの個体は立ったまま反芻したり、周囲を警戒したりしています。
これは牛の先祖である野生種「オーロック」の名残で、群れ全体が同時に眠ると捕食者への警戒が途切れてしまうからなんだとか。
休息は、立ったまま数分から数十分の浅い眠りと、横になって1〜2時間ほどの深い眠り(横臥休息)を繰り返します。深い眠りに入るのは夜の中盤から後半で、風下で地面が乾いた場所が選ばれることが多いそうです。
さらに、群れの中央にリーダーや年長牛が位置し、若い牛や小柄な牛はその外側にいます。こうして自然に「防風陣形」ができあがるんですね。
寒さに強い牛たちの冬の過ごし方
気温が下がると牛は寒くないの?と思う人も多いですが、実は牛は寒さにとても強い動物です。
ホルスタインの快適温度はマイナス5度から20度で、暑さよりも寒さに強く、マイナス10度程度なら問題ないといいます。
寒い夜には、群れで寄り添って体温を共有したり、腹部を地面につけて放熱を防いだり、毛を立てて空気の層をつくって断熱したりと、さまざまな行動を取ります。
放牧地に防風林や藁小屋があると、自然とそこに群れが集まります。これは「環境選択行動」と呼ばれ、牛は居心地のいい場所をちゃんと選ぶ能力を持っているそうです。
興味深いのは、日中の採食では移動のリーダー、夜間の休息では防衛リーダーと、リーダー牛の役割が少し変わること。寒く風が強い日には、経験豊富な牛が風の少ない斜面の下や建物の影へ群れを導いていきます。
これは「社会的学習」の一例で、若い牛たちは年長牛の行動を観察しながら、冬の過ごし方を覚えていくんですね。
リーダーの特性を生かす、酪農家の腕の見せどころ
川上さんの牧場でも、子牛の牛舎はフリーバーンの形にしていて、強い牛が餌を横取りすることもあるそうです。
ただ、そうした牛は餌の食べ方や水の飲み方を、新しく群れに入ってきた牛に教えてくれる面もあるといいます。いいところも悪いところもあるんですね。
だからこそ、その特性を生かしながら牛舎の構造を考えたり、牛にストレスのない餌のやり方をしたりするのが、酪農家の腕の見せどころなんだそう。
この子を搾乳室に一番に持っていったら、他の牛がついてくるみたいなのを覚えていくと、本当に群れの動かし方が楽チンになりますね
新しい機械設備や動線、新しい従業員を入れるときも、牛の序列を意識して作業すると、作業性がぐっと上がるといいます。
まとめ
放牧牛にはリーダーがいますが、それは力ではなく信頼と経験で決まる存在でした。群れは合意で動き、夜は交代で休みながら自然に身を寄せ合う——その社会性を理解し、現場で生かすのが酪農家の仕事なんですね。
- 放牧牛のリーダーは「ボス」ではなく、経験と信頼で前に立つ存在
- 群れの移動は1、2頭の動きに数頭が続く「合意型」で決まる
- 夜は約3分の1ずつ交代で休み、リーダーや年長牛を中央に防風陣形をつくる
- 牛は寒さに強く、環境を選んだり群れで温め合ったりして冬を過ごす
- リーダーの特性を生かして群れを動かすのが酪農家の腕の見せどころ
