マニアックな話大歓迎、堆肥への質問が到着
この回のテーマは「牛の堆肥の作り方」です。牛乳やお肉のイメージが強い酪農ですが、川上さんいわく、それと同じくらい牛からはうんちやおしっこがたくさん出るんですよね。
質問はSpotifyのリスナー、セロリさんから。前回の草の話に続いての質問で、こんなお便りでした。
川上さんがみんな引いちゃうよって思っているようなマニアックな話が私は大好きです。牛のうんちとおしっこから堆肥を作るんですよね。普通の牧場の堆肥を作る工程と、川上牧場独自のこだわりがあれば教えてください。
マニアックな話が好き、という一言に川上さんも大喜び。かなり張り切って解説がスタートします。
個人的にはめちゃめちゃテンション上がってます。
堆肥が発酵する3つの条件
まず前提として、堆肥は好気性微生物の分解で発酵していきます。川上さんは、うまく発酵させるための条件を3つ挙げます。
1つ目は水分です。目標は含水率55%から65%。多すぎても少なすぎてもダメで、握るとじわっと軍手が湿るくらい、ポタポタ落ちない程度がちょうどいいそうです。
2つ目はCN比、炭素と窒素の比率です。25から30対1くらいで混ざるのが理想で、炭素が足りないと臭いやアンモニアが出てしまいます。
そして3つ目、いちばん大事なのが酸素です。好気性発酵という名前のとおり、空気が必要なんですね。
堆肥内部の酸素が10%を超えると、空気を入れない嫌気性発酵を避けられます。つまり空気をたくさん入れることで、いい発酵が進んでいくというわけです。
これが3つ目が本当に一番重要だというところですけど、酸素ですね。空気が必要なんですよね。
この3つのどれかが欠けると、臭いが出たり、腐敗が進んだり、温度が上がらなかったりしてしまいます。
水分
含水率55〜65%。握るとじわっと湿るくらい
CN比
炭素と窒素が25〜30対1。炭素不足で臭いが出る
酸素
内部酸素10%超で嫌気性発酵を回避。空気が最重要
温度で見る発酵の3段階
堆肥の発酵は、温度の推移で3段階に分けて説明できます。
最初が初和相。20度から40度くらいの立ち上がりで、糖分などの分解が始まる段階です。
次が高温相で、45度から70度になります。ここが発酵のメインの反応器。55度から65度を保つことで、牧草や雑草の種子、もみ殻に残ったヒエやアワの種、そして病原体が熱で死滅します。目安は55度以上を3日間です。
最後が成熟相。40度以下に落ち着いて、堆肥が熟してくる段階です。品質が安定し、悪臭も少なくなってきます。
ここで川上さんが注意点を強調します。温度が高ければいい堆肥、と思われがちですが、上げすぎは逆効果なんですね。
温度が高くなりすぎると、中温層で活発に動く微生物が死んでしまうんですよね。なので、あんまり温度を上げすぎると良くないと言われてますね。
さらに温度を上げすぎると、肥料に必要な窒素が水蒸気になって空気中へ逃げてしまいます。ピークを上げすぎず、でも種子や病原体が死ぬ温度は維持する、そのバランスが大事だと話します。
一般的な牧場での堆肥づくりの工程
ここからは、実際の作り方の工程です。まず牛舎から出たうんちを、バーンクリーナーなどでダンプや堆肥舎に運びます。牛から出たほかほかの生糞ですね。
この生糞に副資材を混ぜます。何を使うかは牧場や地域によって違うそうです。
川上牧場では、お米農家が多いので手に入りやすいもみ殻がメイン。ほかに製材所のおがくずやカンナくず、ゴルフ場の芝刈りくず、菌床しいたけの廃材などを水分調整に使っています。
混ぜたら「切り返し」という撹拌作業を行います。ホイールローダーや専用のロータリー、スクリュー式の機械、マニアスプレッダーなどを使って、水分や材料の偏りをなくして均質化していきます。
切り返して置いておくと中温相からスタートし、発酵が落ち着いてきたらまた切り返して空気を含ませ、高温相へと進めていきます。ペースは週1回くらいが目安ですが、3日に1回、毎日やるところもあるそうです。
この高温相を60度から70度手前くらいで維持するのが肝心です。最初の水分調整に失敗すると、酸っぱい匂いやアンモニア臭、黒く腐ったような状態になってしまいます。
温度が落ち着いたら熟成へ。山積みにして1〜2ヶ月、スペースの大きいところなら半年ほど置いて水分を落とし、完熟堆肥にしていきます。
仕上げはダマにならないよう切り返して、袋詰めしたり配達したり。川上牧場はお米農家やブドウ農家などに届けています。
できあがった堆肥の確認には、カイワレ大根の種をまいてちゃんと発芽するかを見る簡易テストが使われるそうです。あわせて、匂いがないか、ダマがないか、水分が落ちているかもチェックします。
川上牧場の独自システム、堆肥の発酵熱を活用
質問のもう一つのポイント、川上牧場ならではのこだわりがここです。それは、高温相になった堆肥の発酵熱を利用する仕組みです。
床下に水のパイプを這わせて循環させ、ブロワーで空気を送りながら発酵熱を活用する、島根県が考えたシステムを導入しています。
このシステムのおかげで、手間のかかる切り返しの回数が大幅に減るのが大きなメリットです。空気の量を調節する機能があり、堆肥の量を見ながら調整できるそうです。
これはちょっと特別、他の牧場ではないような特別なシステムなんじゃないかなと思います。
そしてこの堆肥は、自分の牧草地にまくだけでなく、地域の野菜農家や果樹農家、お米農家に販売され、地域の農業を支えています。
堆肥に悩む人へ、コストとJクレジットの話
話し終えて時間を確認した川上さん、思わず「めっちゃ長くなっちゃった」と苦笑い。それだけ熱が入った回でした。
この島根県の堆肥発酵システムは、日本政策金融公庫の取材記事にもなっているそうです。雪の多い秋田で使えるかを確認して導入した方の事例が紹介されており、概要欄にリンクが貼られます。
川上さんによると、堆肥施設は導入費用が高くて採算が取りづらいのが今の悩みどころ。でも川上牧場の設備はホームセンターで買えるようなもので作れるといいます。
うちの費用は本当にめちゃくちゃ、あのホームセンターで買ったものとかね、そんなので作れますんで、本当にもう悩まなくていいです。
さらに、CO2などの温室効果ガスの削減量を売買できるJクレジットの話も。妹さんが関連会社で働いているそうで、この仕組みを使えば堆肥舎の改修や設備導入の費用をまかなえることもあるといいます。
地域住民との関係やおがくずの入手で堆肥に悩む人へ、川上さんは何度も「もう悩まなくていい」と呼びかけていました。相談があればDMを、とのことです。
何回も言いますけど、もう悩まないでいいんで。
まとめ
牛乳やお肉の裏側で、牛の糞尿から生まれる堆肥。水分・CN比・酸素という3条件と、温度の3段階をおさえることが、いい堆肥づくりのカギでした。川上牧場は発酵熱を使う独自システムで手間を減らし、できた堆肥で地域の農業まで支えています。
- 堆肥の好気性発酵には、水分55〜65%・CN比25〜30対1・酸素10%超の3条件が必要
- 発酵は初和相・高温相・成熟相の3段階で進み、55度以上を3日で種子や病原体が死滅
- 温度は上げすぎもNG。中温の微生物が死に、肥料に必要な窒素も逃げてしまう
- 川上牧場は発酵熱を循環させる島根県のシステムで、切り返しの回数を大幅に削減
- 堆肥は地域の農家に販売され、酪農が地域の農業を支える役割も担っている
