リスナーからの質問「牛が食べる草って?」
今回のお便りコーナーには、Spotifyのセロリさんから草についての質問が届きました。初めてのリスナーさんからの、久しぶりに川上さんが「グッとくる」と話す質問です。
牛が食べる草について質問があります。一概に草といってもいろんな種類があると思いますが、どういう目的で、どんな種類の草を、どんなタイミングで与えていますか?また、乳牛と肉牛では食べる草も違うのですか?
草の種類は「無限と言ってもいい」ほどある一方で、主要な草はある程度決まっているとのこと。まずはそのメインどころから解説が始まります。
草は大きく2種類、イネ科とマメ科
牛の草は、大きく分けてイネ科牧草とマメ科牧草の2つがあります。それぞれ役割がはっきり違うのがポイントです。
イネ科牧草は繊維が多く、牛がもぐもぐする反すうをうながして、胃の健康の元になります。
一方のマメ科牧草は、タンパク質が多いのが特徴です。成長期の牛や、乳量の多い牛に与えたりします。
繊維が多く、反すうをうながして胃の健康の元になる。代表はイタリアンライグラス、チモシー、オーチャード、スーダングラスなど。
タンパク質(粗タンパク質=CP)が多い。成長期や乳量の多い牛向け。クローバーの親戚にあたるアルファルファなど。
ちなみに川上牧場では、イネ科牧草が中心で、マメ科牧草は使っていないそうです。その理由はあとの飼料設計の話につながっていきます。
一番草、二番草って何?刈るタイミングで変わる草
同じ草でも、刈り取るタイミングで性質が変わります。それが「一番草」「二番草」「三番草」という呼び方です。
草は同じ畑から年に何回か収穫できます。雑草を草刈り機で刈っても、根が生きていてまた伸びてくるのと同じイメージですね。
最初に刈ったものが一番草、次に生えてくるのが二番草、その次が三番草。だから草の種類は「無限」になる、というわけです。
一番草は茎が太くて繊維が多く、反すうの刺激になるけれど消化に少し時間がかかります。この繊維をNDF(中性デタージェント繊維)と呼びます。
二番草、三番草は柔らかくて消化はいいものの、繊維質は少なめ。つまりエネルギーは高いけれど、胃が動きにくくなることもあるそうです。
だから酪農家は、一番草と二番草を意識してブレンドし、タンパク質とNDFのバランスをとって牛に与えているんですね。
川上牧場の餌のリアルな中身
ここからは、川上牧場が実際に使っている餌の話です。牛のステージごとに餌を変えているのが特徴です。
搾乳牛には、トウモロコシや穀類の入った配合飼料をエネルギー源として与えます。そこに稲発酵飼料のWCSやトウモロコシサイレージ、購入牧草のクレイングラスなどを組み合わせます。
さらに餌代を下げつつ、地域の食品残渣を活用する取り組みも。もやしカスや酒粕、醤油粕などを使っていて、これらはタンパク質(CP)が高いそうです。
このタンパク源があるからこそ、マメ科牧草を買わずに済んでいるというわけですね。
子牛から育成牛のまだ乳が出ない牛たちには、WCSやイタリアンライグラスを与えます。牧場の近くを流れる一級河川の河川敷の雑草も、土木会社が刈り取って配ってくれるので活用しているそうです。
出雲市の栄養補助食品の会社から出る食品残渣も、育成牛や子牛に与えているとのこと。ビタミン剤やタンパク源が豊富で、子牛にちょうどいい栄養になるそうです。
出産前後の乾乳牛には、餌会社が独自にブレンドした専用の配合飼料や牧草を混ぜたTMRを与えています。
牛飼いは虫飼い?胃が4つある消化の仕組み
餌の組み合わせを意識しないといけない理由が、牛ならではの消化の仕組みにあります。
牛は草を食べ、その草をお腹の中の微生物が分解します。増えた微生物を牛が栄養として取り込む、という流れなんですね。
牛飼いは虫飼いだなんてことを言われたりしますけども、これを意識しないといけないですね。
牛には胃袋が4つあります。中でもメインで消化が行われるのが第一胃で、ここに微生物がたくさんいて、草を分解してエネルギーを作っています。
ただ、この第一胃にトウモロコシや穀類をあげすぎると、お腹の中のpHが酸性に傾いてしまいます。すると「ルーメンアシドーシス」という病気になってしまうそうです。
穀類をあげすぎる
トウモロコシや穀類を与えすぎると第一胃のpHが酸性に傾く
ルーメンアシドーシス
反すうが減り、食べる量や食欲、乳量が落ちる
足への影響
毛細血管が傷つき、足が痛くなって蹄病の原因にもなる
だから配合飼料と草のバランス、そして消化の順番まで考えて餌をあげているんですね。餌会社には、人間でいう栄養士のような「飼料設計」の担当者もいるそうです。
タンパク質が多いと乳量は上がりますが、エネルギー源のNDFが少ないと乳タンパク質や脂肪が下がり、牛の体調バランスが崩れることもあるとのこと。
乳牛はトップアスリート、肉牛は?
質問にあった乳牛と肉牛の違い。川上さんはそれぞれをわかりやすく人間にたとえてくれました。
乳牛は1日にすごいエネルギーを使って、自分のパフォーマンスを上げるのが求められる存在。食べないと体がどんどん痩せて、体力が落ちてしまいます。
一方の肉牛は、健康的に太らせるのが目的。お相撲さんやボディビルダーのように、体重を増やしていくイメージだそうです。
トップアスリート型。タンパク質や繊維を過不足なくバランスよく与える。多くても少なくてもダメ。
健康的に太らせる型。穀類や大豆粕を多く与えるが、ルーメンアシドーシスにならないようバランスをとる。
どちらも穀類のあげすぎには注意が必要で、目指すゴールが違うからこそ餌の考え方も変わってくるんですね。
牛乳1リットルに血液400リットル?牛のすごさ
配信の後半では、リスナーからのコメントをきっかけに、牛のすごさが語られました。「乳牛は毎日献血しているようなもの?」という声への答えです。
牛乳は血液が乳房に送られて変換されたもの。牛乳1リットルを作るのに、400リットルの血液を送らないといけないと言われているそうです。
日本で生産される牛の1日の乳量はだいたい30リットル。つまり1日に1万2000リットルもの血液を送っている計算になります。
一日に4万キロカロリーを摂取しないといけないと言われていますんで、もう化け物なんですよ。トップアスリートなんです、この牛たちというのはね。
体重700キロの牛が1日に30リットルの乳を出す。人間でいえば毎日2〜3リットル献血して、しかも朝晩それを繰り返すようなものだと川上さんは驚きを語ります。
まとめ
今回は「牛が食べる草って?」という質問から、草の種類、刈るタイミング、胃4つの消化の仕組み、乳牛と肉牛の違いまで、酪農のリアルがぎゅっと詰まった回でした。牛のすごさに川上さんのテンションも上がりっぱなしでしたね。
- 牛の草はイネ科(繊維が多い)とマメ科(タンパク質が多い)に大きく分かれる
- 同じ草でも刈るタイミングで一番草・二番草と性質が変わり、繊維とタンパク質のバランスをとってブレンドする
- 牛は胃が4つあり、第一胃の微生物が草を分解。穀類のあげすぎはルーメンアシドーシスの原因になる
- 乳牛はトップアスリート型、肉牛は健康的に太らせる型で、餌の考え方が違う
- 牛乳1リットルに血液400リットル。1日4万キロカロリーを摂る牛は「化け物」級のすごさ
