リスナーからの質問「牛一頭、一生でいくら?」
この日の配信は、TikTokの味噌さんから届いた質問がテーマです。内容は「牛一頭生まれてから一生いくらぐらいかかるんですか?」というもの。
川上さんによると、最近はこうした経営に踏み込んだ質問が増えてきたそうです。
牛乳ってどうやったら美味しいんですか?とか、そういうんじゃなくて、もうゴリゴリ経営の中に入ってくる質問が増えましたけれども
川上牧場は、自分の牧場の母牛から赤ちゃんを産ませて育て、その子がまた母牛になる「自家育成」の牧場です。
今回は川上牧場の数字だけでなく、できるだけ全国平均に近いところを狙って答えていくとのこと。牛乳がどう作られているのかを、丁寧に伝えたいという思いからです。
酪農は「命を預かる長期投資」
川上さんはまず、酪農という仕事のイメージを整理します。牛を飼って牛乳を売る、シンプルな仕事に見えるけれど、実際はそうではないんですよね。
酪農って牛を飼って牛乳を売るシンプルな仕事に見えますが、実際は命を預かる長期投資型のビジネスと思ってもらってもいいんじゃないでしょうか
そのうえで、牛の一生を大きく3つのステージに分けて見ていきます。
この間に必要なお金を合計すると、1頭あたりざっくり300万円から400万円前後かかると考えられています。ただし、飼料価格や地域、経営の形態によってかなり差が出ます。
子牛から育成期は「お金を生まない時期」
最初のステージは、0ヶ月から24ヶ月まで。まだ牛乳を出せない、完全なコスト期間です。
この時期はまだお金を生まない完全なコスト期間です。扶養期間みたいな感じですかね
この時期にかかる主な費用を、川上さんが挙げていきます。
さらに人件費や電気代、牛のベッドに敷くもみ殻やおがくずといった管理費も加わります。これらを含めると、合計で約40万円から60万円ほど。
つまり、大人になるまでにすでに1頭あたり50万円近い投資が必要というわけですね。
搾乳牛として働く時期のランニングコスト
続いて、だいたい2歳から6歳くらいまでの搾乳期。いよいよ牛乳を搾り始めますが、ここでもお金はかかり続けます。
まず大きいのがエサ代です。搾乳牛になると食べる量が増えるため、1日あたり1500円から2000円ほど。乾乳期があることも考えると、平均で1500円くらいが365日続く計算です。
これだけで年間約60万から70万円ほど。さらに診療費やワクチン、次の赤ちゃんを産ませるための種付け料金なども加わります。
搾乳機や冷却機の電気代、敷料、糞尿処理などの共通費用まで含めると、1頭あたり年間で80万から100万円ほどかかるとのことです。
1頭が生涯で働けるのは、おおむね3年から4年。この維持費を合計すると、300万から400万円ほどのランニングコストになる計算です。
生涯コストは約500万円。どのくらい稼ぐ?
子牛の時の投資が約50万円、搾乳期の維持費が年間100万から150万円、そこに設備や人件費などの間接コストを足していくと──。
しかも牛乳を生産できるまでに数年かかります。牛はすぐ利益を生む商品ではなく、何年も先を見据えた投資なんですね。
では、どのくらい稼ぐのか。ここも川上さんが計算してくれます。
1日約30リットル
平均的な乳牛が出す牛乳の量
年間約1万リットル
1日30リットルを1年続けた量
1リットル100円で計算
全国平均をざっくり100円と仮定
年間売上 約100万円
1頭あたりの年間の売上
この年間約100万円を、3年から4年続けて、やっと投資を回収していく。だからこそ、1頭1頭の健康、繁殖、飼料管理が命綱になるんですよね。
牛は単なる生産動物ではなく、5年以上人と一緒に生活を共にするパートナーです
だから酪農家は数字だけでなく、どうすれば長く健康に生きてもらえるかを常に考えている、と川上さんは話します。
軽自動車が牛舎に並んでいる、という現実
最後に川上さんは、この数字を身近なイメージに置き換えます。
300万から500万、軽自動車、普通車ぐらいのやつがずっと並んでるって思ってもらったらいいんじゃないでしょうか
それだけのお金をかけて育てた牛が、2年後にようやく牛乳を出せるようになる。ところが、そのタイミングで「もう牛乳いらない」「搾りすぎだよ」と言われてしまうと、投資が一気に回収できなくなってしまいます。
そうなると、頭数を減らそうか、酪農をやめようか、という人が増えてくる。これが今の日本の酪農業界の現状だと川上さんは語ります。
さらに物価高やインフレで牛の値段も上がる一方、牛乳の販売価格はあまり変わりません。上がったコストを酪農家が負担している部分があるんですね。
だからこそ川上さんは、毎日コップ1杯200ミリリットルでいいので牛乳を飲んでほしい、と繰り返し呼びかけています。
まとめ
牛一頭が生まれてから一生を終えるまでには、生涯で300万から500万円ほどのお金がかかります。子牛の時期がいちばんコストがかさみ、搾乳期に入ってやっと回収が始まる──酪農はまさに「命の投資」なんですね。牛乳一本の重みを、少し感じてもらえたらうれしいです。
- 牛一頭の生涯コストは、ざっくり300万〜500万円ほど
- 子牛から育成期(0〜24ヶ月)は牛乳を生まない完全なコスト期間で、約40〜60万円かかる
- 搾乳牛になると年間80〜100万円ほどの維持費がかかり、稼ぎは年間約100万円
- 牛が利益を生むまで数年かかるため、酪農は長期の「命の投資」と言える
- 物価高でコストが上がる一方、牛乳の価格は変わりにくく、酪農家の負担が増えている
