リスナーからの質問と、川上牧場のいろいろな牛たち
今回のテーマは、リスナーから届いた素朴な疑問です。白黒のホルスタインと、茶色いジャージー。この2品種は一緒に飼っていいのか、という質問が寄せられました。
ジャージー種とホルスタイン種は同時に飼育できますか?
川上牧場の各SNSアイコンには、かつて牧場にいたジャージー牛「マロンちゃん」の写真が使われています。研修生が名前を付けた牛だそうです。
川上さんは就農後、岡山県の蒜山(ひるぜん)岡山県北部の高原地域。ジャージー牛の飼育で知られ、ジャージー牛乳などの乳製品でも有名。で飼育されていたジャージーの双子の子牛を子牛市場で2頭買い、そこから増やしていったと話します。一番多い時で4頭ほど飼っていたそうです。
さらに島根県の木次乳業の管内でブラウンスイスを飼う牧場と子牛を交換したり、ホルスタインの茶色と白の品種であるホルスタインレッドがいたり、お肉の牛である黒毛和牛もいたりと、多様な牛を飼ってきたと振り返ります。
ですが、コロナ禍で餌代が上がり、牛乳が売れにくい状況になったことで経営が厳しくなりました。生産量や経済性が低い牛を淘汰せざるを得ず、今はホルスタインと黒毛和牛だけを飼っているそうです。
結論は「飼える、ただし同じようには飼えない」
結論からいうと、ジャージーとホルスタインは一緒に飼えます。川上牧場でも実際にやっていました。
ただし、ポイントは「同じようには飼えない」ことだと川上さんは言います。
まず、2品種はそもそもの性質が違います。ホルスタインは乳量が多く、量を絞る牛です。一方でジャージーは牛乳の量は少ないものの、成分が濃く、乳質の高い牛です。
さらに体の大きさや食べる量も違い、性格も異なります。川上さんは「別の生き物くらい違う」と表現しています。
乳量が多く、量を絞る牛。体が大きく食べる量も多い
乳量は少ないが成分が濃く、乳質が高い牛。体が小さい
一緒に飼う時の現場のポイント
では、同じ牛舎で飼うことは可能なのか。飼うこと自体は可能です。ただし管理面での工夫が必要になります。
まず餌の管理です。ジャージーは体が小さいため、同じ餌だと過剰になりやすく、太りやすいそうです。
搾乳の管理も分けたほうがよいと言います。乳量や乳質が違うので、分けて管理するほうが牛にとって負担が少ないためです。
また、ホルスタインの群れにジャージーを入れると体格差が出ます。好奇心旺盛で負けないジャージーもいて、個性によるところもあるそうです。
ただ、体格の大きい牛に囲まれて自分だけ弱い立場になると、ジャージーにとってはストレスになる場合もあります。そのため、一緒に飼うなら分けて飼うほうが飼いやすいというのが川上さんの見解です。
なぜ日本はホルスタイン中心なのか
日本の牛のほとんどがホルスタインである背景には、量を重視してきた歴史があります。
戦後の食糧難の時代、国民を支えるために農業政策が力を入れ、GHQ第二次世界大戦後、日本を占領・統治した連合国軍最高司令官総司令部。戦後日本の政策全般に大きな影響を与えた。の影響で牛乳を飲む文化が広がりました。学校給食で脱脂粉乳牛乳から脂肪分を除いて乾燥させた粉末。戦後の学校給食で広く使われた。が飲まれるようになったのもこの流れです。
人口に良質なタンパク質を届けるため、牛乳の量を求める飼い方が続いてきました。大量供給が必要だったのです。
そのため食文化も飲用牛乳が中心で、チーズなどへの加工は他国と比べるとまだ少ないと言います。四季による需要と供給の差を調整するために、バターや脱脂粉乳へ加工する流れもあります。
こうした事情から、量を求めるためにホルスタインが飼われ、日本で飼われている牛の98パーセント、ほぼ99パーセントがホルスタインだと川上さんは話しています。
世界はもっと多様、雑種という選択肢
ここからが面白い話だと川上さんは言います。海外はホルスタイン一択ではありません。
ジャージーやブラウンスイス、ガンジーなどが主要品種として飼われている国もあります。各国でブランドとして飼われる牛もいて、放牧場でさまざまな品種が混ざって飼われることもあります。
牛乳をメインでどんどん絞っていく国と、自分たちの文化や農業の中で牛を飼う農村的な国とでは、飼い方も違います。後者ではクロスブリード、つまり交雑牛が飼われていることもあります。
世界を見渡すと、いろいろな品種が混ざった雑種のほうが多いのではないか、と川上さんは言います。
雑種のいいところは、両方の親のいいところを取れる点です。病気に強かったり、繁殖性が安定したり、乳質を確保できたりと、その国に合わせたバランス型の牛になる傾向があります。
ただし、その強さは最初の雑種一代目に限られます。これがF1異なる品種をかけ合わせた雑種一代目のこと。両親の良い形質が強く出やすいとされる。と呼ばれるものです。F2、つまり雑種二代目になるとまた弱くなるため、F1を群れの中で増やす取り組みが行われています。
チーズを食べる文化の国では乳質重視の牛が飼われるため、ジャージーがホルスタインより多い地域もあるそうです。
これからの日本の酪農と牛の多様性
これからの日本では、牛乳の生産量や消費の仕方が変わっていくと川上さんは見ています。農家は減り、平均年齢も上がり、人口も減ると予測されているためです。
国産チーズを増やそうという動きや、加工品を食べていこうという流れも出てきています。そうした中で、これからの酪農では雑種という選択肢もあり得るのではないか、と話します。
高温多湿の日本ではホルスタインが飼いにくくなってきており、他の品種を入れて日本に合った牛を作っていくのも一つの手だと言います。すでに研究が進んでいる部分もあるそうです。
牛は長く人間の生活に寄り添ってきました。エジプトの壁画にも牛が描かれているほど歴史が長い動物です。
日本では昔、牛乳が薬として飲まれた時代もあり、その後は健康食品となり、今は消費が減って「他の飲み物でいい」という声も出てきています。牛の目的や必要性は、これからも人々の望みに合わせて変わっていくのではないか、と川上さんは語りました。
まとめ
ジャージーとホルスタインは一緒に飼えますが、餌や搾乳、群れの管理は分ける必要があります。日本がホルスタイン中心なのは量を重視してきた歴史があるからで、世界を見れば多様な品種や雑種が各地の文化に合わせて飼われています。
- ジャージーとホルスタインは同時に飼育できるが、管理は分けるほうが飼いやすい
- ホルスタインは量を絞る牛、ジャージーは乳質が濃い牛で、体格も性格も異なる
- 日本は戦後の大量供給の必要から、飼育牛のほぼ99パーセントがホルスタイン
- 海外では品種の多様性が高く、その国に合ったバランス型の雑種(F1)も飼われている
- 高温多湿の日本ではホルスタインが飼いにくくなり、雑種という選択肢も研究されている
