リスナーの質問「牧場ではどんな匂いがする?」
今回のお便りは、配信アプリSpoonのぱっくんちょさんから届いた質問です。
牧場の現場ではどんな匂いがしますか?イメージでは牛糞は匂いが少なめで、飼料などで匂いがしそうです。
動物園に行くと動物特有の匂いがあるように、牛舎にもやっぱり匂いはあります。酪農教育ファームで子どもを受け入れると、年齢が小さい子ほど鼻をつまんで入ってくることも多いそうです。
ただ面白いのは、鼻はすぐ慣れてしまうこと。酪農家に匂いを聞いても「うちはそんな匂いしないよ」と返ってくることがほとんどなんだとか。
私、酪農ヘルパーでいろんな牧場に行ってたんですけど、ここの牛舎は目にくるみたいな。鼻にもくるけど目にくる、みたいなのもあったりします。
牛糞の匂いは犬や猫より弱い理由
まず結論から。牛糞の匂いは、犬や猫のフンよりはるかに弱いそうです。
理由はシンプルで、反芻動物である牛の排泄物はほぼ植物だから。牛は草や稲、豆、サイレージなど繊維中心の餌を食べていて、腸内で発酵した植物繊維が主体になります。
だから獣臭や腐敗臭というより、発酵した草の匂いに近いんですね。
肉食や雑食の動物はタンパク質由来の硫黄化合物が多く、強烈な匂いになります。一方の牛は繊維中心なので、匂いの元は主に揮発性脂肪酸で、匂いが弱くなるというわけです。
タンパク質由来の硫黄化合物が多く、匂いが強烈になりやすい
繊維中心の餌で揮発性脂肪酸が主。匂いが弱い
一番強いのは飼料の匂いだった
質問者さんの「飼料で匂いがしそう」という予想は、実はかなり正しかったようです。
なかでもサイレージの匂いが一番強いとのこと。トウモロコシサイレージは酸っぱいヨーグルトのような乳酸発酵の匂い、稲のWCSは穀物っぽい甘い蒸した草のような匂いがします。
配合飼料には大豆やトウモロコシ、ふすまなどが入っていて、パンとは違うけれど香ばしいような匂いがするそうです。
実際、外から牧場に来た人が最初に感じるのは牛ではなく、ほとんどが飼料の匂いです。これは全国どの牧場も同じだと思います。
川上牧場では、もやしかすや酒粕、醤油粕なども餌に使っています。もやしかすは野菜の青臭さ、酒粕はお酒のような甘い匂い、醤油粕はもう完全に醤油の匂いなんだとか。
子供たちに「これ何でしょ?」って餌やって、口に食べようとしちゃうくらいおいしい匂いがします。食べちゃダメだよって言うんですけどね。
匂いは季節と施設で変わる
牛舎の匂いは、季節や施設によっても全然違います。ここは現場の経営者しか語れない話です。
冬は匂いが少なめ。気温が低いとアンモニア臭が出にくく、おしっこの量も減って牛が乾いていて、牛床も発酵しやすいからです。
逆に夏は、糞よりも湿気が匂いの原因になりやすく、アンモニアが発生してツンとした匂いになりがち。ただ、通気性の良い風通しのいい牛舎なら、あまり匂いはしないそうです。
気温が低くアンモニアが出にくい。牛も牛床も乾いていて匂いが少ない
湿気でアンモニアが発生しやすくツンとする。通気性が良ければ抑えられる
堆肥舎が牛舎に近いと、そこから匂いが来ることもあります。ただし、きちんと発酵した堆肥ならそんなに匂いはしないんだとか。
正しい水分量で発酵していると、蒸しパンや腐葉土、場合によっては焼き芋のような匂いになることもあるそうです。
体験に来た中学生や高校生に堆肥を直接触って匂いを嗅いでもらうと、「すごい、匂いなくなってる」って言ったりしますから。
堆肥は発酵温度が60度から70度くらいまで上がってしっかり発酵すれば、嫌気性発酵の匂いが飛んで匂いが少なくなります。逆にキーンときついアンモニアがする時は、発酵がうまくいっていないサインなんだそうです。
牧場の匂いの正体と、匂いでわかること
結論として、牧場の匂いの正体は、ほとんどが発酵飼料の匂い。そこに牛舎の湿気によるアンモニア、堆肥舎の距離や堆肥の状態が加わってきます。
つまり、牛そのものの匂いはほぼないと言っても過言ではないそうです。健康で乾いた牛はほとんど匂いがせず、雨に濡れたり湿った床に長くいると臭うようになります。
発酵飼料
サイレージや配合飼料。牧場の匂いのほとんどを占める
牛舎の湿気
アンモニアの匂い。夏に強くなりやすい
堆肥舎
距離や堆肥の発酵状態で匂いが変わる
牛そのもの
健康で乾いていればほぼ匂わない
これらの要素がブレンドされて、牧場ごとに違う匂いができあがるというわけですね。
最後に川上さん個人の見方として、匂いがきつい牛舎は生産性が低いという「あるある」も紹介されました。
牛舎が乾いていて通気性が良くて、堆肥がちゃんと健全に回っている牧場は本当に綺麗ですし、匂いも少ないイメージがあります。
だから視察でくさいと感じる牧場は、堆肥がうまく回っていない可能性がある、と川上さん。乳量が出ている、儲かっていると言われても、匂いを見ると「本当かな」と思ってしまうそうです。
都市近郊の匂い対策と最近の話題
リスナーからは「有機溶剤の匂いが苦手」というコメントも。牛舎の消毒剤や洗剤など、牧場によってはそうした匂いもあるかもしれません。
最近はアニマルウェルフェアの観点が厳しくなっていることや、都市近郊で牧場の周りにアパートが急に建って問題になるケースもあります。
そうした背景から、アンモニアとくっついてチョコレートのような匂いに変える、匂いを減らす製品もあるそうです。もともとはペット用品で応用されたものかもしれない、と紹介されていました。
まとめ
牧場の匂いというと牛糞をイメージしがちですが、実際にいちばん強いのは発酵飼料の匂い。牛そのものはほとんど匂わず、匂いのきつさは牛舎の湿気や堆肥の発酵状態にも左右されます。匂いは牧場の健全さを映す手がかりでもある、という現場ならではの話でした。
- 牛糞の匂いは、繊維中心の餌のため犬や猫より弱い
- 外から来た人が最初に感じるのは、牛ではなく飼料の匂いがほとんど
- 冬は匂いが少なく、夏は湿気でアンモニアが出て匂いが強くなりやすい
- しっかり発酵した堆肥は匂いが少なく、きついアンモニア臭は発酵不良のサイン
- 匂いがきつい牛舎は生産性が低い傾向があるという現場の見方も
