リスナーから届いたシンプルな質問
今回のお便りは、TikTokのたつぼうさんから届いた、まっすぐな質問でした。
なぜ酪農をしているのですか?
川上さんは、この質問に正直に「困る」と話します。いつもは牛に餌をやって乳を搾って、と日々の作業をこなしているだけに、改めて理由を問われると答えに詰まるのだそうです。
なぜ酪農をしているのかと言われると、そう、なぜやってんだろうって思いながら。
そこで川上さんは、ふだんから自分の考えを壁打ちしているAIに「川上哲也になりきって答えてほしい」とプロンプトを打ち込み、返ってきた答えを読み上げる形で応じることにしました。
本音は「牛が好きだから、楽しいから」
AIに答えさせる前に、川上さんはまず素の自分としての答えを口にします。
本当に酪農してる、なんでしてるんですか?って言われたら楽しいからっていうしかない。牛が好きだから楽しいからっていうしかないんですけど。
ただ、それだけで終わると聞いている人も「へー」で終わってしまう。だからこそ、深掘りした答えをAIの力を借りて言葉にしていく、という流れです。
最初は使命ではなく「生活」だった
ここからはAIが川上さんになりきって語る、深掘りバージョンの答えが読み上げられていきます。
まず出てきたのは、最初から立派な理由があったわけではない、という正直な告白でした。
最初から日本の食を守るために、社会課題を解決するためにみたいな立派な理由があったわけじゃないです。今もそんなにないです。
牛がいて、牧場があって、そこに日常があり、気づいたら自分の仕事になっていた。酪農は理念で始めるより、今日の仕事の積み重ねがあるから明日もやる、その繰り返しが人生になっていく仕事だと語られます。
ただ、続けるうちに「生活だけでは続けられない瞬間が必ず来る」ことにも気づいたといいます。
飼料価格の高騰、乳価が追いつかない状況、暑さによる乳量の低下、病気、災害、世界情勢によるコスト高。しかも牛は生き物なので「今日は休みます」ができません。
このどうにもならなさの中で続けるには、腹落ちする理由が必要になります。
酪農は「気合い」ではなく「設計」の仕事
続けるための理由が変わっていくなかで、川上さんが今おもしろいと感じているのは、牛乳を作ることそのものより「牛の体と環境を設計すること」だといいます。
牛の体は正直で、休めないと乳が落ち、ストレスがあると反すうが落ち、飼料設計がずれれば体が酸性に傾いて繁殖が崩れる。根性ではどうにもならず、設計がずれれば結果で返ってくる、という話です。
だからこそ酪農は体感の仕事でありながら、データと科学の仕事でもある。ここが川上さんが配信でくり返し伝えているポイントです。
次の世代が酪農を諦めなくていい世界へ
ここから話は、より個人的な思いへと移ります。川上さんにとって酪農は「家族の仕事」であり、次の世代という意味での家族も含んでいるといいます。
未来の子どもたちやこれから酪農を志す人が、酪農を楽しくできる環境を残したい。
昔のように「気合いで乗り切れ」「我慢が美徳」ではもう続かない。続く形に作り替えないと、酪農そのものが消えていくことが嫌なのだと語られます。
社会的地位や賞賛が目的ではなく、むしろ資本主義の構造が酪農では特にきつく出ている、という視点も示されました。
作る側は増産か縮小か廃業かで揺れているのに、消費側は値上がりに敏感で、制度は毎年同じ問題を繰り返す。余れば脱脂粉乳が積み上がり、足りなければ騒ぐ。この状況を「気合ではなく情報と設計で変えたい」と話します。
生産と消費をAIでつなぐ「参加できる酪農」
川上さんがやりたいのは、生産と消費をAIや仕組みでつなぎ、飲みたい人に過不足なく牛乳を届けること。サブスク型だけれど、ただのサブスクではない「地域支援型農業」のような形だといいます。
お金だけでなく、消費者にも参加してもらう発想です。イラストが得意なら酪農×イラスト、歌が得意なら酪農×歌、開発ができるなら酪農×開発、隙間時間があれば酪農×作業参加、というように関わり方を広げていきます。
誰かが払って誰かが作るじゃなくて、関われる余白を増やす。そうすると、牛乳が買う・買わないだけのものじゃなくなります。
そのために大事なのが、ハードルを下げること。川上さんは、酪農は知らない人から見ればブラックボックスだといいます。
だから牧場を合理化し、情報を透明化し、誰でも理解できる言葉に変換していく。これが音声配信やSNSをやっている意味だと語られました。
私が配信で一番やりたいのは、感情を煽ることではなく、理解を積み上げることです。
規模拡大か分散か、これからの酪農のかたち
最近よく話しているのが、「規模拡大イコール正解」という単純な時代ではなくなった、という認識です。
気候変動や世界情勢など変化が激しい時代には、一極集中は強いけれどリスクも大きい。だから小規模でもAIを最大限に活用し、多様な経営体が点在する形がしなやかで継続的だと考えているといいます。
一方で世界人口は増え続けているので、生産性を上げる努力も欠かせません。つまり二択ではなく、生産性と多様性を両立させる設計が必要だ、という結論です。
生産性は高く強い一方、変化の激しい時代にはリスクも大きくなる
小規模でもAIを活用し、点在することでしなやかに継続しやすい
そして川上さんは、この2つを対立させるのではなく、両方を組み合わせるのが次の時代の考え方ではないか、と話します。
結論と、リスナーへの問いかけ
ここまで話したうえで、川上さんは改めて「なぜ酪農をしているのか」に答えます。
酪農をしている理由は、牛乳を作るためだけではなく、酪農という現場を使って未来に続く仕組みを作るためです。
最後に、聞いている人への問いも投げかけられました。牛乳は安いほうがいい、高いのは困る、となりがちですが、もし続く仕組みがなければ、安いも高いも選べなくなる、という指摘です。
私は牛乳の価格の話をしているんではなく、牛乳を選べる未来の話をしたいんです。
素の川上さんが語る、酪農を続ける理由
AIによる答えを読み終えたあと、川上さんは自分の言葉でも思いを補足します。難しい言葉で伝えるのは自分でも難しいと感じつつ、根っこにあるのはシンプルだといいます。
川上さんはもともと酪農ヘルパーとして、いろいろな酪農家のもとで学ばせてもらい、今の自分があると振り返ります。だからこそ、それを次の世代につなげたいのです。
これから酪農やりたいなっていう方が、諦めるんじゃなくて、ちょっと頑張ればできそうだなって思えるようにはしたいなと思ってて。
自身が未経験から酪農家になった経験から、こんなものがあったら助かったな、という知見を記事やnote、電子書籍として形に残しているといいます。
そして最後は、やはり「牛が面白いから」という思いに戻ってきます。牛乳の歴史はおよそ1万年。そのなかで自分がやってきた十数年は一瞬だけれど、その積み重ねが歴史を続けてきたのだと語ります。
自分が変えるというより、次の世代がここから何かを感じて変えてくれたら嬉しい。その歯車の一つになれればいい、という思いで締めくくられました。
まとめ
「なぜ酪農をしているのか」という素朴な問いに、川上さんは「牛が好きで楽しいから」という本音と、「次の世代が酪農を諦めなくていい世界を作りたい」というビジョンの両面から答えてくれました。気合いではなく設計で、対立ではなく両立で酪農の未来を考える姿勢が印象的な回です。
- 素の答えは「牛が好きだから、楽しいから」。でもそれだけでは続けられない瞬間が来る
- 酪農は根性ではなく、牛の体と環境を「設計」する、データと科学の仕事でもある
- 目指すのは、生産と消費をAIでつなぎ、消費者も「関われる余白」がある参加型の酪農
- 規模拡大か分散かの二択ではなく、生産性と多様性を両立させる設計が次の時代のかたち
- 一番の理由は「次の世代が酪農を諦めなくていい世界を作りたい」という思い
