そもそも牛はなぜ暑さに弱いのか
今回の質問は、配信アプリのポポポから届いたものです。
夏場は暑さでミルクが出にくくなると聞きますが、川上牧場さんでは牛さんにどんな暑さ対策を講じてあげていますか?
川上さんは、これはまさに今の時期の酪農家にとって一番大きなテーマかもしれないと話します。
そもそも牛は、人間が思っている以上に暑さが苦手です。乳牛のホルスタインは、もともとヨーロッパの比較的涼しい地域がルーツだからです。
そのため、人間が「今日はちょっと暑いな」と感じる頃には、牛はすでに暑さのストレスを受け始めていると言います。
目安としては、気温20度前後から影響が出始め、25度を超えると乳量が低下します。
30度を超えると命の危険もあるくらい、かなり厳しくなってくるそうです。
暑くなると牛は餌を食べる量が減り、呼吸が荒くなります。寝る時間も減り、繁殖成績も悪化し、乳量も落ちていきます。
酪農家にとっては台風よりも怖いと言われるくらいの季節です。夏場はもう、生産性度外視で飼っているような感じですね。
川上さんは、牛が「牛革のジャケットを着ながら、お腹の中に発酵熱という湯たんぽを抱えて、乳量を30キロ40キロ出す化け物」だと表現します。
だからこそ、その牛の健康と生産性を守るために酪農家は日々工夫していると話します。
基本は換気、そして冷たい霧
川上牧場の暑熱対策で、一番大きな基本になるのが換気です。
現在、牧場には約30台の換気扇が設置されています。牛の数でいうと、おおよそ2〜3頭に1台の割合です。他の牧場と比べてもかなり多めだと言います。
牛舎の中に風を作り、牛の体表面から熱を逃がしていく仕組みです。人が扇風機に当たると涼しく感じるのと同じで、特に湿度の高い島根の夏は風の有無で大きく変わるそうです。
次に導入しているのが細霧装置です。牛舎内に細かい霧を噴霧する設備です。
ここで川上牧場ならではの工夫があります。AIに夏場対策を相談したところ、思わぬ提案があったそうです。
牛乳を集めて冷やすバルククーラーは、朝早く牛乳を回収した後、昼間は空いています。この空き時間を有効活用しようという発想でした。
バルククーラーは4度まで水を冷やせます。その冷たい水を細霧装置につなぎ、昼間に牛舎内へ吹きかけて暑さをしのいでいます。
冷たい霧が体にかかり、その水分が蒸発するときに熱を奪ってくれます。イベント会場やコンビニ前のミストシャワーのようなイメージです。
うちもかなり、これで去年からやってるんですけども、かなり昼間は楽そうにしていますね。
見落としがちな餌と水の工夫
扇風機やミストに注目が集まりがちですが、川上さんは餌も非常に重要だと言います。
川上牧場では夏専用の餌に切り替えています。ビタミンやミネラル、カビ毒を抑える吸着剤などを加えているそうです。
さらに、最近注目されているバイパスグリセリンという飼料や、基本となる重曹も使っています。
暑さで牛が草をあまり食べられなくなると、お腹の中のルーメンのpHが下がってしまいます。それを中和するために重曹を与えているそうです。
暑いと牛は餌の量が減るため、少ない量でも必要な栄養を確保できるよう工夫しています。また、夏は餌が傷みやすいので、カビ毒対策も重要になります。
そして意外と大事なのが水です。
牛乳の約87パーセントは水分です。つまり、水を飲まなければ牛乳は作れません。
川上牧場では、飲水量を確保するために水圧ポンプを設置しています。
牛が水を飲むウォーターカップから、水量が少なくなるとスイッチが入り、水圧が一時的にぐっと上がる仕組みです。
実際に、飲水設備を改善しただけで平均乳量が上がった経験もあるそうです。
人間も暑い日に、蛇口からちょろちょろとしか水が出なかったら嫌なものです。牛も同じで、飲みたい時にたっぷり飲めることが非常に重要だと話します。
暑熱対策は牛乳を守ること
暑熱対策というと、何か特別な秘密の技術があるように思われるかもしれません。
しかし実際は、風・水・餌という基本を徹底することだと川上さんは言います。
そして、酪農家にとって暑熱対策は牛のためであり、牛乳を守るためでもあります。牛が快適に過ごせれば健康も乳量も維持でき、皆さんの食卓に安定して牛乳を届けることにつながります。
特に夏場は牛乳の消費量が伸びます。その時期にしっかり牛乳が届くよう、酪農家が努力していることを知ってほしいと話します。
川上牧場では今後、屋根に暑さ対策の塗料を塗ったり、屋根裏に断熱材をつけたりする計画もあるそうです。
さらに、常に10度前後の地下水を飲水に使ったり、水冷機に風を当てて冷たい空気を牛舎全体に流したりする設備もあると言います。ただし設備投資は高くつくのが悩みどころです。
皆さんもね、夏場お仕事して本当に暑いなと思っていますけど、牛さんはもっと暑がって、その中でも頑張ってると思ったら、今日もお仕事が頑張れるんじゃないかなと思います。
まとめ
牛はもともと涼しい地域出身のため暑さに弱く、夏の暑熱対策は酪農家にとって最大級のテーマです。川上牧場では換気・冷たい霧・餌・水という基本を徹底し、安定した牛乳を届けるために工夫を重ねています。
- 乳牛のホルスタインは涼しい地域がルーツで、25度を超えると乳量が低下する
- 換気扇は約30台、2〜3頭に1台とかなり多めに設置している
- バルククーラーの4度の水を細霧装置で活用するAI発の工夫を取り入れている
- 夏専用の餌や重曹でルーメンを整え、水圧ポンプで飲水量も確保している
- 暑熱対策は牛の健康を守り、食卓へ安定して牛乳を届けることにつながる
