寄せられた素朴な疑問と、その鋭さ
今回の配信では、リスナーから届いた質問に川上さんが答えていきます。
質問は、コロナ禍で学校給食や飲食店が止まり、牛乳が余ってしまったニュースを見たときの素朴な疑問でした。
コロナ禍で学校配給停止からの牛乳廃棄騒ぎの時に、チーズにして保存に動かないのなんでだろう?と素人ながらに思ってました
当時、SNSでも「なんで捨てるの」「チーズにすれば保存できるじゃん」という声が多く上がっていたそうです。
川上さんは、この疑問自体はかなり鋭いところを突いていると話します。
実際、日本でも牛乳をチーズやバターへ回す動きはあったからです。まったく何もしなかったわけではありません。
ただし、全部をチーズにするのは無理だった。ここが現実だと言います。
なぜ全部をチーズにできなかったのか
一番大きな理由は、工場を急には増やせないことです。処理そのものができないのです。
チーズ工場は普段からギリギリで動いていることが多く、日本ではチーズを作る場所が限られています。
しかも小規模な乳業が作るチーズは日常品ではなく、特別な日に楽しむような嗜好品としてブランド化されているものが多いといいます。
そもそも日本は、そのまま飲む飲用牛乳の需要が大きい国です。
逆にヨーロッパのような「余ったらチーズへ」という巨大な加工インフラが、日本にはそこまでないのです。
さらにチーズは、ただ固めれば完成というものではありません。
殺菌して乳酸菌を添加し、凝固させ、水分を調整し、熟成させて温度管理をするなど、多くの設備が必要になります。
熟成タイプのチーズなら、何ヶ月も保管スペースが要ります。つまり「今余ったから来週全部チーズに」という世界ではないのです。
牛は止められないという酪農の特殊性
もう一つ大きいのが、原料としての牛乳の設計です。
牛乳はどの用途向けかで流れがかなり違い、飲用向け、バター向け、脱脂粉乳向け、チーズ向けで、工場も物流も契約もそれぞれ別だといいます。
飲用向け
そのまま飲む牛乳。日本ではこの需要が大きい
バター向け
専用の工場や物流、契約で処理される
脱脂粉乳向け
保存はきくが在庫として積み上がりやすい
チーズ向け
設備も熟成スペースも限られている
だから学校給食が止まって突然大量の牛乳が余ったとき、物流もタンクも工場の能力も人員も、一気にパンクしかけたのが実情でした。
そして工業製品と違い、牛乳は生産をピタッと止めることができません。
牛は毎日絞らないと、乳房炎という病気になります。だから需要が落ちても、牛乳は出続けます。これが酪農の難しさというところですね。
チーズにすると量が減るという別の壁
意外と知られていないのが、チーズにすると量が大きく減る問題です。
ナチュラルチーズは、牛乳およそ10キロ前後からチーズ1キロほどしかできないといいます。
つまり大量の牛乳を消費するには、ものすごい量のチーズを売らなければなりません。
しかも当時は飲食店も止まっており、家庭用チーズの需要が急に10倍になるわけでもありませんでした。
チーズを大量に作っても消費先がなければ、今度は在庫のリスクになってしまうのです。
日本の酪農は、学校給食、コンビニ、カフェ、外食、パン屋など、毎日消費される前提で組まれている部分が大きいと川上さんは言います。
コロナ禍では、それらが一気に止まりました。社会全体の牛乳の流れが急停止したのです。
見えた弱点と、いま続く課題
一方で、あのとき多くの人が牛乳を飲もう、乳製品を買おうと動いてくれました。
自分の作ってるものが、本当に何やってんだって思ってる時だったんで、皆さんの応援がありがたかったですね。SNSで拡散したり、料理に牛乳を使ってくれたり、アイスやチーズを買ってくれたり、本当に支えになりました。
そしてこの経験から、日本の酪農も乳業も多くを学んだといいます。保存技術や加工体制、輸出やチーズ需要、在庫調整など、いろいろな議論が進みました。
そして今も、牛乳が余る、脱脂粉乳が積み上がるという課題は続いています。
今度はコロナ禍ではなく、物価高が背景です。飲む量を減らしたり、より安い乳飲料に変える人が増えているといいます。
このままだと年末年始に需要が減ったとき、コロナ禍と同じように倉庫がパンクしかねないと川上さんは危惧します。
解決に向けては、まだ牛乳を飲んでいない人に飲んでもらう取り組みや、酪農に関心のない人に関心を持ってもらう工夫が大事だと話されています。
その試みの一つとして、6月6日の18時からAWAという配信アプリで「牛乳で歌おうライブ」を企画しているそうです。音楽の力で牛乳や酪農に関心を持つきっかけを作りたいとのことです。
まとめ
コロナ禍の牛乳廃棄は「チーズにすればよかった」で片づく話ではなく、工場や物流、需要のシステム全体が抱える弱点が一気に表面化した出来事でした。川上さんは酪農現場の現実を丁寧に説明しつつ、今も続く牛乳消費の課題への取り組みを語っています。
- 日本でも牛乳をチーズやバターに回す動きはあったが、全部をまわすのは無理だった
- チーズ工場や加工インフラは限られ、殺菌・凝固・熟成など多くの設備と時間が必要になる
- 牛は毎日搾らないと乳房炎になるため、需要が落ちても牛乳は出続ける
- ナチュラルチーズは牛乳約10kgから1kgほどしかできず、大量消費には向かない
- 物価高で牛乳消費が落ち、脱脂粉乳が積み上がる課題が今も続いている
