リスナーの質問から始まった深掘り
この回のきっかけは、YouTubeコミュニティのセイさんから寄せられた「ミモレット・ヴィエイユを食べたことがありますか?」という質問でした。
川上さんは酪農家ですが、チーズにはあまり詳しくないと正直に打ち明けます。それでも調べ始めたら、想像以上に面白かったそうです。
僕あんまりチーズとか詳しいの知らないんですよね、酪農家ですけど。でも実際、調べてきたらめっちゃ面白かったんで、ちょっとこちら読んでいこうかなと思います。
ミモレット・ヴィエイユは、オレンジ色で外側がメロンみたいにゴツゴツしていて、熟成が進むとカラスミっぽい旨味と言われるチーズです。
ミモレットって何者?
ミモレットは、フランス北部のリール周辺で伝統的に作られてきた牛乳の非加熱・圧搾タイプのチーズです。フランスではブールドリールなどとも呼ばれています。
特徴は2つ。1つ目は爽やかなオレンジ色で、これは植物由来の色素によるものです。
2つ目は外皮のゴツゴツ。これは熟成庫で働くチーズダニ(シロン)が表面に微細な穴を作ることで生まれる、月面みたいな皮なんです。
そして、長期熟成のものが「ヴィエイユ」、さらに長いものは「エクストラ・ヴィエイユ」と呼ばれます。
なぜ生まれた?戦争と経済政策の産物
ミモレットの起源は、料理の流行ではなく、戦争と経済政策の中にありました。
17世紀のフランスで人気だったのが、オランダのエダムチーズ。ところがルイ14世の時代、財政を握っていたコルベールが輸入を絞る政策を始めます。
そして1672年、オランダとの戦争でオランダ由来のチーズが入ってこなくなりました。そこで「国内でエダムっぽいものを作れ」となって生まれたのがミモレットだったのです。
さらに面白いのが色。オリジナルのエダムと区別するために、フランス側はチーズをオレンジ色に着色して差別化したとされています。
つまり、ミモレットは敵国の人気商品を国産化して、見た目で「うちは別物だ」と宣言したチーズなんです。めちゃめちゃ現代のブランディングみたいですよね。
製造の肝と、主役はダニ
ここからは製法の話です。ミモレットは「ウォッシュドカード」という作り方のチーズとして紹介されています。
これは、固まった凝乳(カード)を細かく切った後、ホエイの一部を抜いて温水を加えて洗う工程が入るというもの。
この洗いによって乳糖が減り、乳酸菌が作る乳酸も減って、pHが下がりすぎなくなります。結果、酸っぱさが出にくく、柔らかく甘みの土台が残るんです。
そして熟成の主役が、みんながびっくりするチーズダニです。ミモレットの熟成には、このダニが関わっているとされています。
2016年の研究では、ミモレットに関係が深いとされるダニが「ネラール」という香り成分を作り、それがレモンのような香りに関わることが示されています。
ダニは単に表面を削って乾かすだけではなく、香りの輪郭に科学的に関与している可能性が高いです。
もちろん、実際の熟成はダニだけでなく、温度、湿度、ブラッシング、反転の管理があって成立します。乾燥・凝縮と生物由来の香りが同時に進む、かなり珍しいタイプの熟成なんです。
ヴィエイユになると何が起きる?
熟成が進むほど、ミモレットは硬く砕けやすくなっていきます。そして中に、時々ジャリっとする粒が出てきます。
これは多くの長期熟成チーズで見られるアミノ酸などの結晶として説明されるもの。日本ではよく「カラスミみたいなチーズだね」と言われるそうです。
理由は2つ。塩味と旨味の密度が高いこと、そして熟成による水分減少と分解生成物の蓄積が起こることです。
香りもナッツや焦がしバターっぽさに加えて、どこか海産物っぽい連想を呼ぶことがあるそう。だからカラスミみたいと言われるんですね。
日本酒とのペアリングが強い
ここはリスナーが一番うれしい実用パート。ミモレット・ヴィエイユは旨味が強く脂肪もあるので、相性の軸は3つあります。
そこで登場するのが日本酒です。日本酒はアミノ酸由来の旨味を感じやすいタイプが多く、ミモレットの濃い旨味とぶつかっても負けにくいとされています。
おすすめは純米系で旨味と酸がはっきりしたタイプ。可能ならぬる燗がおすすめだそうです。温度が上がると、口の中でチーズの脂肪がほどけやすくなって香りも立ちやすくなります。
ワインなら熟成系のシャンパーニュや骨格のある赤、ビールならスタウトやトラピスト系。繊細な白ワインで寄り添うより、同格以上で組みに行く方が成功しやすいそうです。
ダニが引き起こした輸入差し止め事件
最後に、ダニをめぐる問題です。2013年、アメリカでミモレットの輸入が差し止められたり、流通が止まった時期がありました。
理由は外皮にいるチーズダニ。報道では、一平方インチあたりのダニの数が問題視されたとされています。
この時期には「セーブ・ザ・ミモレット」的な運動や話題があったことも、複数のソースで確認できるそうです。
ただ、ミモレットのゴツゴツした外皮は、通常は食べずに外すことが多いもの。だから川上さんは、リスクを煽らず、文化と規制の衝突として有名な出来事として扱うのが誠実だと話します。
文化と乳製品のつながり
戦争と経済政策が生んだエダムの代用品から始まり、ウォッシュドカード製法で甘みの土台を作り、ダニ熟成という生物学の力で香りと凝縮を極限まで進めたチーズ、それがミモレット・ヴィエイユです。
しかもその風味が、日本では「カラスミっぽい」と受け取られて日本酒とつながっていく。この文化の交差点こそがミモレットのロマンだと締めくくられています。
文化と乳製品の深く深い関わりが分かっていただけると、安易に「牛乳、乳製品、別に食べなくてもいいじゃん」というところにならないですよね。
川上さんは「ちょっと難しすぎたかな」と笑いつつも、個人的にはめちゃめちゃ面白かったと振り返ります。気になる乳製品があれば、コメントで教えてほしいと呼びかけていました。
まとめ
リスナーの質問から始まった今回の回は、1つのチーズの向こうに戦争・経済・科学・食文化が広がっていることを教えてくれる、深掘りの楽しさが詰まった内容でした。気になる乳製品があれば、ぜひコメントで川上牧場に教えてみてくださいね。
- ミモレットは1672年、オランダとの戦争でエダムが入らなくなり、その代用品として生まれた
- オレンジ色は、オリジナルのエダムと区別するための着色が由来
- ウォッシュドカード製法で酸味を抑え、甘みの土台を作っている
- 熟成にはチーズダニが関わり、レモンのような香り成分にも関与しているとされる
- ヴィエイユは旨味が濃く「カラスミみたい」と言われ、日本酒とのペアリングが強い
