相性の悪さは「価値観のずれ」から始まる
今回のテーマは「相性が悪い部下やメンバーとの付き合い方」です。宇尾野さんは冒頭で、経営者も人間である以上、それぞれに思うことがあると前置きします。
池原さんは、ハーバード・ビジネス・レビューで読んだ記事を引きながら、リーダーの負荷の大きさに触れます。
経営者、リーダーというのは、ある意味感情労働、つまり人と常に接して、人の育成とか、いろんな人に向き合うところがあるので、疲れやすいという記事があったんです。
宇尾野さんによると、経営者にはコンフリクトへの対応が上手な人と、対立自体を起こさないようにする人がいるといいます。ただ、組織は人と人が営む場である以上、相性やコンフリクトは避けて通れないテーマだと話します。
組織においては必ず人と人とが何かを営む場面なので、どうしてもこの相性とかコンフリクトっていうのはちゃんと見つめなきゃいけないテーマなんだろうなと。
退職理由の上位には、いつも人間関係や大事にしていることの違いが並びます。宇尾野さんは、価値観のずれがどこで起きているかをわかっているかどうかが、相性の良し悪しにも影響すると指摘します。
モヤモヤの正体を「価値観の違い」と認識する
相性が悪いと感じたとき、宇尾野さんが最初の入り口に挙げるのは、「あなたと私はこの点で価値観が違う」とお互いに認識し合うことです。
その背景として、人間の価値観理論に触れます。安全を大事にするか、権力やパワーを大事にするか、伝統を重んじるか、原理原則を大事にするかなど、人によって重視する軸が異なると説明します。
宇尾野さんは、価値観の差が大きいとコンフリクトが起きやすく、結果的に相性が悪いと感じてしまうと話します。だからこそ、まず違いを理解するところから始めると、対処の仕方も変わってくるといいます。
何かモヤモヤするなとか気になると思った時には、自分とこの人の中では大事な価値観が少し違うものを持ってるんだなとアンテナを立て替えて、このずれが何なのかを理解する取り組みをしていただけると。
一方で、部下側からの自己開示には勇気がいるため、なかなか進みにくいと池原さんは指摘します。宇尾野さんは、上司側がアンテナを張って違いを見立てることに加え、相互理解の起点を作る場づくりを挙げます。
一対一だけでなく、チーム全体でそれぞれが大事にしていることを自己開示し合う場面や、第三者が仲介役として価値観を見える化する取り組みも有効だと話します。
相性とは「感情的行動的適合性」
池原さんが「相性」という言葉を調べたところ、「感情的行動的適合性」と定義されていたと紹介します。
池原さんは、価値観の共有や話し方のスタイル、たとえば結論から言ってほしいのか、感情を大事にしたいのかといった表現の調和が、相性を左右すると整理します。
安全・権力・伝統など、何を大事にするかが近いか
結論から話すか、感情を大事にするかなどの表現の調和
根本的なフィット感があるかどうか
池原さんは、相性の悪さは埋まるのか、埋める必要があるのかと問いかけます。そのうえで、会社である以上、淡々と仕事を遂行する方向へ切り替えることも大事ではないかと投げかけます。
相性が悪いと感じたとき、仕事へうまく切り替えられる人は、どんなふうにやっているのか。
宇尾野さんは、コンフリクトの管理には5つほどのタイプがあると説明します。対立から逃げる回避型、相手に合わせる適応型、一緒にいいところを探す協調型などです。
宇尾野さんは、どのやり方が仕事を進めやすく、お互いが健康的に働けるかについて、組織文化に合わせてコンフリクトのあり方を設計することをすすめます。
コンフリクトを回避させない組織のつくり方
池原さんは、部下が1人のケースと、5人、10人、20人といるケースの違いに触れ、一人ひとりに調整していくリーダーの大変さを挙げます。そのうえで、チームとして健全でいるための設計を尋ねます。
宇尾野さんは、会社のバリューを例に挙げます。たとえば「思ったことはちゃんと伝えよう」というバリューがあれば、対立が生まれたときにコンフリクトを歓迎する文化になっていくといいます。
ただし、その分だけ相手を傷つけたり、精神的に苦しくなる場面も同時に起きると宇尾野さんは指摘します。苦しくなった人を助ける文化や施策がないと、ギスギスして終わる構図になりかねません。
相性が悪い人と対峙した時にどう向き合うかを組織のルールとして決めておいてもらえると、比較的乗り越えやすく、新しい価値観に出会うシチュエーションは作りやすいと思いますね。
逆にそうしたルールがないと、多くの人が回避へ向かうと宇尾野さんは話します。とくに日本ではコンフリクトを歓迎せず回避する傾向があり、黙り込んだり、その場や職場から離れてしまうことが起きやすいといいます。
池原さんは、この話を前回の多様性・同質性の回とつなげます。多様な人が増えるほど相性の悪い相手も増えるからこそ、いざこざを想定した行動規範をバリューに埋め込んでおくと解決しやすい、と整理します。
宇尾野さんは、1人では対立のリスクを踏みづらいが、会社として応援・支援している、うまくいかなくても助けやサポートがあると思えれば、一歩踏み出しやすくなると話します。
日本人は荒波を立てたくないと溜め込みがちで、その結果として突然の長文メールが飛んでくることもあると池原さんは言います。宇尾野さんは、それを「スラック爆弾」と呼ぶらしいと応じます。
早い段階でお互いが違うよっていう前提で、健全な意見の対立ができる状態が、実はすごくいいのかもしれないですね。
過度に干渉しないことと、経営者のメンタルヘルス
宇尾野さんは、SNSでの匿名の対立に話を広げます。自分の人生に関係ないことまで対立のテーマにして、戦うこと自体が目的になっている面があると見立てます。
そのうえで宇尾野さんは、組織の中でも水面下で似たことは起きているとし、相互に理解し踏み込み合うことと同時に、過度に干渉し合わないことも組織には大事だと話します。
池原さんは、それが経営者自身のメンタルヘルスにもつながると受けます。あるデータでは起業家は通常の人よりうつになるリスクが何倍も高いと紹介し、実感として頷けると語ります。
リーダーシップって全部リーダーに聖人君子になりましょうみたいなメッセージが多いじゃないですか。そうもいかないこともあるので、どう人間らしく、自分も守りながら組織も健康でいるかが大事かなと。
橋渡し役「バウンダリースパナー」を置く
宇尾野さんが、対立において機能としてすすめたいものとして挙げたのが「バウンダリースパナー」という考え方です。
宇尾野さんは、この特性を持つ人や役割を意識的に社内に置くことをすすめます。上司と部下の相性が悪く、当人同士で話しても埒が明かないときに、間に入る人がいるかどうかが効いてくるといいます。
組織の部門間とか、社内の内と外の境界を越えて、人とか情報をつなぐ人。越境をする人とか、橋渡し役という言い方をするんです。
バウンダリースパナー役は、人事かもしれないし、間を取り持つのが上手な誰かかもしれません。宇尾野さんは、その人が「ここは価値観がずれている」「ここはお互い共通している」と整理できると、組織を円滑に進めるうえで大事だと話します。
池原さんは、こうした役割を得意な人に属人化させるのではなく、チーム全体で外部とつながる、斜めのメンタリングを取り入れるなど、仕組みにする発想を挙げます。
宇尾野さんは、いざこざが起きたら誰かがバウンダリースパナー役として間に入ると、お互いで決めておく運用を紹介します。前職では、2人でやりとりして埒が明かなかったら必ず誰かを呼ぶことを習慣化していたといいます。
同じ発想は、M&Aの場面にも当てはまると宇尾野さんは続けます。お互いの会社は最後までわからないからこそ、両社の間に立ってコンサルティングし、うまく調停できる人を置くことで、M&Aの成功確率が上がることもあると話します。
宇尾野さんは、多様性は組織内にすべて担保するだけでなく、間に立つ人に他社やチームの違いを見立ててもらう形でも活かせると整理します。そのために、「あなたこの瞬間、バウンダリースパナー役やってよ」と任命することも大事だと話します。
池原さんは、この役割は対立回避だけでなく、組織の殻を破ってイノベーションを生み出すためにも重要になりそうだと受け止めます。
乗り越えられないとき、決別をどう判断するか
池原さんは、人と人が乗り越えられないときもあるとし、決別に至る場合の判断基準やタイミングを尋ねます。
宇尾野さんは、判断は難しいと前置きしたうえで、組織のミッションやバリューとの整合を軸に置きます。対立や摩擦が慢性的すぎて、バウンダリースパナーが入って直そうとしてもまたすぐ喧嘩になり、かつミッション・ビジョン・バリューとも合わない、という状態が重なったときだといいます。
関係維持コストが高いみたいな状態ですよね。
宇尾野さんは、決別といっても段階があると説明します。社内の一部門だけであれば配置転換で対応でき、社外への転出を促す場合は退職勧奨になります。退職勧奨自体はスキルとプロセスが重要で、丁寧に進める必要があると話します。
違いを認識する
価値観のずれがどこにあるかを理解し合う
仕組みで支える
コンフリクトのルールやバウンダリースパナーを置く
配置を変える
社内の配置転換やチーム移動、タスクの変更を検討
決別を検討する
慢性的でMVVとも合わない場合に退職勧奨などへ
池原さんは、相性が悪いというだけで退職に至るわけではなく、配置転換やチーム移動、タスクの変更を経て、お互いが生き生きできる場所を見つけていく可能性があると整理します。
宇尾野さんは、自身のポリシーとして、摩擦の負荷にコストをかけ続けるより、早く新しい方向へ解消し、流動性が上がる方がいいと語ります。我慢せず次の道を模索することも大事な意思決定だと話します。
あんまり我慢せずに、次の新しい道を模索するっていうのも大事な意思決定なんだろうなとは考えてますね。
最後に宇尾野さんは、深刻に見えるテーマながら、相性が悪くてもどう付き合えるかを少しでも感じ取ってもらえたらいいと締めくくります。
まとめ
相性の悪さは、多くの場合「価値観のずれ」から生まれます。宇尾野さんと池原さんは、まず違いを認識し、組織の仕組みで支え、それでも難しければ配置転換や決別も選択肢に入れるという段階的な向き合い方を語りました。
- 相性の悪さは、まず「価値観のずれ」がどこにあるかを認識し合うところから始める
- 相性は「感情的行動的適合性」であり、コンフリクト管理には回避・適応・協調などのタイプがある
- 対立が起きたときの向き合い方を組織のルールやバリューとして決めておくと、回避されにくい
- 境界を越えて間を取り持つ「バウンダリースパナー」を仕組みとして置くと、対立が和らぐ
- 慢性的でミッション・ビジョン・バリューとも合わない場合は、配置転換や決別も検討する





