トラブルを避ける「退職勧奨」の進め方──誠実な別れが組織を強くする
株式会社事業人共同代表の宇尾野彰大さんと、株式会社Mentor For代表の池原真佐子さんがパーソナリティを務めるおいしい組織。第50回のテーマは「退職勧奨」です。経営者なら一度は直面するこの難題について、宇尾野さんが豊富な実務経験をもとに、法的リスクを避けながら双方が納得できる形で進めるポイントを語ります。その内容をまとめます。
退職勧奨とは何か──解雇との違い
退職勧奨は、解雇会社が一方的に雇用契約を終了させる行為。労働契約法により客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が求められ、要件を満たさない解雇は無効になる。とは異なり、会社が従業員に対して「退職してほしい」と働きかけ、本人の同意を得て退職に至るプロセスです。宇尾野さんは「直接規制する法律はないが、やり方を間違えると退職の強要となり、違法になってしまう」と注意を促します。
重要なのは、退職勧奨を単なる「辞めさせる行為」ではなく、「その人が一番活躍できる場所を一緒に考える機会」と捉える視点です。宇尾野さんは人事の大先輩から「人事たるもの、退職勧奨をちゃんと丁寧にやれないとダメだよ」と教わったといいます。
その人にとって本当にいい職場とか合う場所ってどこなんだっけ?っていうことを一緒になって考える大事な機会だったりもします。
転職市場が活況な現在、退職勧奨は「会社との別れ方をデザインする」プロセスでもあり、最終的な評判にも影響します。丁寧に進めることが、組織の信頼性を保つ鍵になると言えます。
退職勧奨が起こる3つの典型パターン
池原さんがインターネットで調べたところ、退職勧奨の理由として多いのは以下の3つでした。
宇尾野さんによれば、業務態度上司の指示に従わない、チームの和を乱す発言や行動を繰り返すなど。ただし、同じ行動でも職場の文化や環境によって「適性がない」と捉えられるか「合っている」と捉えられるかは変わる。に関する問題は、職場の文化や環境によって評価が分かれます。「一回や二回であればその日の感情かもしれないが、度重なると問題になる」と宇尾野さん。環境か本人の資質かの見極めが難しいため、時間をかけた対話が必要です。
また、会社の事業戦略が大きく変わると、それまで適性があった人でも「フィットしなくなる」ケースが発生します。この場合、会社都合として退職パッケージや再就職支援を用意することが一般的です。
PIPを組んで半年かける──丁寧なプロセス設計
退職勧奨は、一度の面談で結論を出すものではありません。宇尾野さんは「半年間ぐらいかけて、今何が起きているかをお互いが認識するところから始める」と説明します。
重要なのは、最初の段階で「本人と対峙する」ことです。「確かにそうですね」と当事者が自覚すれば、その後の改善プロセスはスムーズに進みます。しかし、「そんなつもりはない」「言われる筋合いがない」と食い違いが起きると、理解を得るだけでも時間がかかります。
本人との合意のもとに最後退職に向かっていくので、その方が一番納得する期間っていうのが答えになる。
形式的にPIPを組むだけでは不十分で、誰がどのように説明するか、どのタイミングで誰が登場するかといった「役者の配置」も含めた丁寧な設計が求められます。
残った社員への説明──沈黙が最悪のパターン
退職勧奨で見落とされがちなのが、「残った社員」への配慮です。宇尾野さんは「当事者ではない周辺の人たちの心理的不安を考慮する必要がある」と強調します。
退職勧奨は個人情報にかかわるため、詳細を語ることは難しい。しかし、何も説明しないのは最悪のパターンです。「よくわかんないけど、なんかそうなってた」という状態は、組織に不信感を植え付けます。
少人数の組織では退職者が誰か特定されやすいですが、それでも「ある程度公開した方がいい」と宇尾野さんは言います。ただし、個人を特定する形ではなく、「どういう基準でこの判断をしたか」という組織としての判断軸を伝えることが重要です。
どういうふうに皆さんがこれを受け取るのか、どう伝えれば誤解なく伝わるかを考えながら、メッセージングを綺麗にやらないといけない。
これは前回テーマの「感情労働」にもつながる話です。残った社員が「会社が辞めさせたくて辞めさせたんでしょ?」と受け取らないよう、経営チームや人事が台本を作り、誰がどう発信するかを綿密に設計する必要があります。
再就職支援の実例──エージェント活用も視野に
退職勧奨では、退職後のキャリア支援も重要な要素です。宇尾野さんは「どこまでやるかはケースバイケース」としながら、いくつかの事例を紹介しました。
転職エージェントに状況を伝え、「うちでは合わなかったが、こういうところでは絶対活躍する」と依頼。三者で一緒に転職活動を進める。
定期的にキャリア面談を組み、相談を受ける形で伴走する。
再就職期間の猶予として3〜6ヶ月分の給与を補填し、その間に次の仕事を探してもらう。
特に会社都合の退職勧奨(事業戦略の変更など)では、本人に責任がないため、手厚い支援を用意するのが一般的です。再就職活動の時間を確保し、経済的負担を軽減することで、双方が納得しやすい形に持っていくことができます。
揉めるケースとハッピーなケース
池原さんの質問に応じて、宇尾野さんは退職勧奨が揉めるケースとうまくいくケースの違いを説明しました。
揉めるケース:景色が合わない
退職勧奨を進めたい側と拒否する側で「景色が合わない」状態が続くと、話が平行線になります。「自分のせいではなく環境のせい」「そんなつもりはない」と当事者が主張し続けるパターンです。
この場合、対話を尽くす手続きの公正性だけでなく、誠意を持って情報を伝える「情報的公正性」も重要。何度も繰り返し、なぜこの判断をしているのかを丁寧に説明する姿勢が求められる。しかありません。誰が説明するか(社長、人事部長、人事メンバー)によって受け取りが変わるため、「役者の配置」を丁寧に設計する必要があります。表面的にPIPのプロセスだけをなぞると、「あなたにそんなこと言われる筋合いはない」と反発を招きやすくなります。
ハッピーなケース:一緒に最適な場所を探す
うまくいくケースでは、「あなたが一番合う場所を一緒に探す」という姿勢が共有されています。宇尾野さんは「北風と太陽」の役割分担を推奨します。
「ここが合わない」「ここは直さないとダメ」と厳しく伝える人
次のキャリアを一緒に考え、サポートする人
この二つのプロセスをチームで設計し、本人が「この会社では合わないかもしれないが、他のところなら活躍できる」と前向きに捉えられるよう導くことが理想です。
経営者自身のメンタルケアも必要
退職勧奨は、実行する側にも大きな精神的負荷がかかります。特に中小企業の経営者は、自ら当事者として登場しなければならないケースが多く、「せっかく招き入れた人を別の形で送り出す」というプレッシャーは計り知れません。
退職勧奨をしたっていう経営者の方々が結構病んじゃうケースってやっぱりすごく多いですよね。
宇尾野さんは「最もつらい仕事の一つ」と位置づけ、経営者自身が感情を整理する時間を持つことや、外部の支援者に相談することの重要性を強調しました。「今回のこの話はどうやったら起きなかったのか」と論点を変えることで、バランスを取ることも有効だといいます。
池原さんも「適切に事例を共有できたり、サポートしてくれる外部の支援者が必要」と応じ、前回テーマの感情労働と合わせて、経営者が一人で抱え込まない仕組みの大切さを再確認しました。
まとめ
退職勧奨は、単なる「辞めさせる行為」ではなく、その人が最も活躍できる場所を一緒に考え、組織としての信頼性を保つための重要なプロセスです。丁寧な対話、公正な手続き、残った社員への配慮、そして経営者自身のメンタルケアまで視野に入れることで、双方が納得できる別れをデザインすることができます。
宇尾野さんの豊富な実務経験から語られる具体的な事例とアドバイスは、多くの経営者にとって貴重な指針となるでしょう。「人事たるもの、退職勧奨を丁寧にやれないとダメ」という言葉の重みを、改めて噛みしめたい内容でした。
- 退職勧奨は「その人が一番合う場所を一緒に考える機会」と捉える
- PIPを組み、半年程度かけて本人との対話と合意形成を丁寧に進める
- 残った社員への説明は「沈黙が最悪」。組織としての判断基準を台本を作って伝える
- 再就職支援はケースバイケース。エージェント連携や退職金パッケージなどの選択肢がある
- 揉めるケースは「景色が合わない」とき。対話を尽くし、誰が説明するかの役者配置も重要
- ハッピーなケースは「北風と太陽」の役割分担で、厳しさと寄り添いを両立する
- 経営者自身のメンタルケアも必須。外部の支援者に相談し、一人で抱え込まない
