そもそもフレームワークとは何か
番組ではこれまでGEマッキンゼーフレームワークやPESTなど個別のフレームワークをちらほら扱ってきましたが、そもそも「フレームワークとは何か」を正面から取り上げたことはありませんでした。
高宮さんはフレームワークを、あくまで戦略を考えるためのツールであり手段だと位置づけます。大事なのは、戦略を考える上でクリティカルな要素を浮き彫りにできるかどうかだと話します。
フレームワークって、やっぱりあくまでも戦略を考えるためのツール、手段だと思ってて。戦略を考えるためのクリティカルな要素を浮き彫りにしなきゃいけないんですよ。
コンサル文脈ではMECEMutually Exclusive, Collectively Exhaustiveの略。「抜け漏れなく、かぶりなく」対象を分類する考え方で、ロジカルシンキングの基本原則とされるがフレームワークの条件として語られがちです。ただし高宮さんは、MECEはあくまで要件であって、それ自体が目的ではないと指摘します。
MECEなだけでは意味がない――介護事業を例に
たとえば介護事業の戦略を考えるとき、単純にMECEにするだけなら「住んでいる町名」や「男女」で分ければ網羅性は担保できます。しかし、それが事業対象の課題を浮き彫りにする切り口になるとは限りません。
要介護度は年齢と相関するので年齢は意味を持ちうるし、体が弱っているのか、麻痺しているのか、認知症なのかといった「症状の切り口」も、提供すべきバリューを決めるうえで重要になります。
どういうプロブレムを抱えていて、よってどういうバリューを出さなきゃいけないか変わってくるので、それを浮き彫りにしなきゃいけないわけで。
つまり、課題を浮き彫りにする切り口を選べているかどうかが本質であり、それこそがフレームワークだというのが高宮さんの立場です。
道具としてのフレームワーク――ハサミ・ナタ・包丁
高宮さんはフレームワークを、切るための道具にたとえます。対象や場面に合わせて、ハサミが適切なのか、ナタが適切なのか、包丁が適切なのかが変わるという考え方です。
3Cのように、まず大きくジャングルを切り開いて全体像を整理するための粗い道具
SPROのように、戦略を実行レベルに落とすため、内部を細かく切り分けていく道具
同じ「切る」でも、ジャングルでハサミを使ってもチョキチョキ枝を切っているうちに前に進めません。場面に応じてナタでバキバキ進むほうが合理的なように、フレームワークも使いどころで選び分ける必要があります。
SPROというフレームワークの構造と使いどころ
高宮さんが『起業の戦略論』でも中心に据えるのが、SPROというフレームワークです。ビジョンを加えてVSPROと呼ぶこともあります。
SPROは、競合施設にどう勝つかといった外向きの検討にはあまり向きません。むしろ、戦略が決まったあとに、それを組織内でどう実行に落とすかという内向きの検討で強みを発揮します。
たとえばリッツ・カールトン型のハイタッチな福祉事業を選ぶなら、顧客要望を取り込むCRMのような仕組み(P)、ホスピタリティ意識の高い人材(R)、現場に権限を渡す自律型の組織文化(O)まで、ビジョンから一貫して降ろせているかをチェックできます。
3Cで粗く整理する――長谷川さんの福祉事業を題材に
高宮さんはもう一つ、超有名なフレームワークとして3Cを取り上げます。顧客(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)の三つの円をベン図のように重ね、全部に適合する領域が正しい戦略だと考える枠組みです。
SPROとの関係で言えば、3Cは「戦略S」を導き出すためのフレームワークにあたります。ただし、3Cはかなり粗いので、戦略まで一気に導出しようとするとメッシュが足りません。
ここで高宮さんは、長谷川さんが手がけるB型就労支援事業を題材に3Cを回していきます。まずカスタマーを問うと、「利用者さん」と答えたくなりますが、行政も顧客と捉えられます。
利用者さんなんですかと。カスタマーは。っていう問いもあるわけですよ。
仮に利用者を顧客と置いても、「どういう利用者で、どんなニーズを抱え、それがなぜ満たされないのか」まで踏み込まないと分析としては足りません。長谷川さんは、業界を知っているからこそ、身体・知的・精神という自前の切り口を持ち込みます。
うちで言うと知的、精神、身体ってまず分かれるんですよね。障害者って聞くと、多くの人はその身体障害者の人を思い浮かべるんですけど、それはほぼうちの事業では取ってなくて。取ってなくてというか対応できないんで取ってなくて。
さらに精神の中でも、統合失調症の方ではなく、うつやADHDの方をボリュームゾーンとして想定しているといった具合に、業界知に基づいて切り口を細かくしていきます。
競合と自社――ベン図の中で戦略を見つける
続いてコンペティターを整理していきます。同じB型事業所を展開する法人はもちろん競合ですが、「外部サービスを使わず家族で対応している家庭」も広義の代替品として競合にあたります。
さらに議論は、就労支援における顧客ニーズが「本気で就職したい人」と「居場所として社会と接点を持ちたい人」に分かれる、という論点へ進みます。この違いを浮き彫りにすることこそが、フレームワークの役割だと高宮さんは念押しします。
就労もしながら、居場所としての居心地の良さも担保しながらっていうとビジョンがぶれるよねって話を今日もしてたんですよ。
長谷川さんは、これまで「居場所」を押し出してきた事業所を、「就職させてあげる、実績をつくる」方向へ切り替えようとしていると明かします。ここから3Cの議論は自然に、自社のビジョンと戦略の話につながっていきます。
解像度を上げていくプロセス――3CからSPROへ
3Cはナタで粗く整理する道具であり、そこから戦略を導出するには、もう一段細かいフレームワークをかませる必要があります。3Cで大枠を切り、そこから包丁で切り刻んでいくイメージです。
1. ナタで整理
3Cで顧客・競合・自社をざっくり切り分け、全体像を掴む
2. 業界知で切り口を作る
既存フレームだけに頼らず、対象領域に合った切り口を自作する
3. 戦略を導出
ベン図の中心で、自社が取るべき戦略を見つける
4. VSPROで縦に貫く
ビジョンから戦略、プロセス、リソース、組織まで整合性を確認する
5. 行動・KPIに落とす
組織内のメンバーの行動や指標に落とし込めるレベルまで解像度を上げる
高宮さんは3CとVSPROの関係を、水平と垂直の組み合わせとして整理します。3Cは平面上で外部のプレイヤーと自社の位置関係を捉える道具で、VSPROは決まった戦略を自社の中に垂直に貫いて実行に落とすための道具、というイメージです。
この整理から高宮さんは、フレームワークを使う上での要点を三つに絞ります。
SPROを福祉事業に当てはめてみる
最後に、SPROを長谷川さんの福祉事業に当てはめてみます。ビジョンから戦略、プロセス、リソース、組織へと、上から下へ整合させていく作業です。
近視眼的に考えると、就職しないで居続けてもらった方が、一見マネタイズできるように思えちゃうんですけど。ほん心にその人のためを思って就労支援をさせてあげれば、それが実績となり、いい噂となり、集客には困らないのではないかなという、コペルニクス的展開でやってみようかなと思ってるんですよね。
利用者が自立して卒業していく前提に立つと、集客は一定周期で行い続ける必要があります。一方で、自立実績そのものがブランドとなり、次のユーザーを引きつけるという構造も見えてきます。
どの領域でどういう戦い方をするっていうのを、戦略が決まりますと、ビジョンとその外部環境から決まった時に、どう組織内に落とし込んでいくのか、そして実行につなげるのかっていう時に、まあ使えるフレームワークですと。
最後には二人とも、フレームワークがそもそも「絵で見てわかる」ものだからこそ強力である、というポッドキャストならではの逆説にたどり着き、「音声だけでどこまで伝えられるかへの挑戦」だと笑い合っています。
まとめ
フレームワークは戦略を考えるための道具であり、MECEに整理することそのものが目的ではないという、シンプルだが見落とされがちな原則が、3CとSPROを題材に一貫して語られた回でした。長谷川さんの福祉事業というリアルなケースを通して、粗い解像度から細かい解像度へと道具を持ち替えていく感覚が具体的に共有されています。
- フレームワークは戦略を考える道具であり、大事なのは課題を浮き彫りにする「意味のある切り口」かどうか
- MECEは要件のひとつにすぎず、単なる網羅的な分類はフレームワークとしての価値を持たない
- 3Cはナタのように粗く整理する道具、SPROは戦略を実行に落とすために内部を垂直に貫く道具
- 既存フレームに思考停止で当てはめず、業界知をもとにその場で切り口を作り出す姿勢が重要
- ビジョンから戦略、プロセス、リソース、組織まで整合させることで、戦略は初めて行動とKPIに落ちる
