仕事のキャパオーバー、どう対処する?「信頼貯金」の戦略論
ぼくらの戦略論ep.49では、高宮慎一グロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP)代表パートナー。Forbes「日本で最も影響力のあるベンチャー投資家」2018年1位。メルカリなど多数のIPO投資実績を持つ。さんと長谷川リョー編集者・ライター。東大情報学環→リクルート→独立→ケニアでポーカー生活を経て現在。堀江貴文氏の著書など編集協力多数。さんが、リスナーからの「仕事を受けすぎてキャパオーバーになる問題」について議論。長谷川さん自身の20代でのバーンアウト経験も交えながら、期待値コントロールと「信頼貯金」の積み上げ方を掘り下げました。その内容をまとめます。
リスナーからのお便り──仕事を受けすぎる問題
スタートアップや個人事業主のような「依頼を受けるタイプの仕事」をしています。仕事を受けすぎることで一件一件の質にムラが出てきたり、抱えきれなくなったりしてしまいます。どうすればいいでしょうか?
今回の番組は、このリスナーからのお便りをきっかけにスタートしました。長谷川さん自身もフリーランスやライターの会社を経営していた経験があり、「すごく分かる」と共感を示します。高宮さんもこの問題は個人事業主やスタートアップに限らず、「あらゆる仕事人に共通する話」だと指摘しました。
前回のエピソードで取り上げたプロフェッショナリズム自分の仕事に対して高い基準を持ち、約束した成果を確実に果たす姿勢のこと。この番組では繰り返し登場するテーマ。の話とも接続する内容であり、「評価される側として何が大事か」という本質的なテーマに踏み込んでいきます。
「約束を守る」ことが最大の信頼資産
高宮さんは、仕事における信頼構築の核心をシンプルに語ります。入り口で期待値をすり合わせ、そこで風呂敷を広げすぎないこと。そして約束した結果をしっかり出すこと。「約束したことを守らないのが一番マイナス」だと断言しました。
風呂敷はなるべく広げず、結果を大きく出せ
この考え方は、会社対会社の関係でも、社内の上司部下やチーム間の横連携でも同じだといいます。具体的には、自分ができる範囲のギリギリ上限で約束を設定し、それをしっかり達成していくのがベスト。もしその上限の見極めが難しいのであれば、「最初は少なめに期待値調整をしておく」ほうが安全だと述べました。
120%の量を120%のクオリティでこなそうとするのは、現実的にはきわめて難しい。クオリティは妥協できないのだから、数を絞るか、受ける仕事の範囲を狭めるかして調整するべき──というのが高宮さんの結論です。
大きく約束 → 結果が追いつかない → 信頼を失う
控えめに約束 → 期待以上の結果 → 信頼が積み上がる
フリーランスが陥る「恐怖心」の罠
長谷川さんは、自身がかつて経営していたモメンタムホース長谷川リョーさんが設立した編集・ライティングの会社。「モメンタム(勢い)」を社名に冠し、スピード感を売りにしていた。という会社での経験を振り返ります。「モメンタム(勢い)があること自体がブランディングだと履き違えていた」と率直に反省を語りました。
量をこなすことで評判やキャッシュを確保しようとする。しかしそこにはサステナビリティ持続可能性のこと。短期的に無理をして成果を出しても、長期的に続けられなければ意味がないという文脈で使われている。がなく、メンバーが疲弊していった結果、依頼に対する期待値も満たせなくなっていく。まさに本末転倒のネガティブループです。
依頼を断ると依頼が止まっちゃうんじゃないかっていう恐怖心。そこが結構肝な気はするんですよね
高宮さんもこの「恐怖心」の存在を認めつつ、それに負けて「あっちもこっちも」と手を広げると、ネガティブループに陥ってしまうと警鐘を鳴らします。特に個人事業主は自分の生活がかかっているため、スタートアップは売上規模がまだ小さいため、断ることへの恐怖が大きくなりがちです。
仕事を断れない
恐怖心から依頼をすべて受ける
キャパオーバー
一件ごとの品質にムラが出る
信頼の毀損
期待値を下回り、評判が落ちる
さらに断れなくなる
失った信頼を取り戻そうと量で補おうとする
期待値コントロールの具体的な考え方
高宮さんは、恐怖心への対処法としてPOCProof of Concept(概念実証)の略。本格展開の前に、小規模で試して実現可能性を検証すること。ここでは「自分のキャパを小さく試す」という比喩で使われている。的な考え方を提案しました。「長谷川株式会社」としてどれくらいのキャパシティがあるのかを、まず小さく検証するというアプローチです。
いきなり大量の仕事を受けるのではなく、自分が確実にこなせる範囲で実績を積み、その結果から自分のキャパシティの上限を見極める。これは、前回のプロフェッショナリズムの議論で出た「期待値のすり合わせ」と同じ構造です。
つまり、仕事の量ではなく「約束を守った回数」が信頼の貯金になる、という考え方です。一度に大量の仕事を受けて中途半端に終わるよりも、少ない案件を確実にやりきるほうが、長期的にはポジショニングもブランドも確立できる。これがこのエピソードの核心となるメッセージでした。
まとめ
リスナーからの「仕事を受けすぎてキャパオーバーになる」という相談をきっかけに、高宮さんと長谷川さんが語ったのは、短期的な量より長期的な信頼の積み上げが大切だという原則でした。
長谷川さんの20代でのバーンアウト経験は、「勢いがあること=ブランド」と思い込み、依頼を断れなかった結果のネガティブループそのものでした。高宮さんが繰り返し強調したのは、風呂敷を広げすぎず、約束したことを確実に守ること。それこそが、スタートアップでもフリーランスでも会社員でも、あらゆる仕事人に共通する「信頼貯金」の積み上げ方だといえそうです。
- 約束したことを守らないのが、仕事における最大のマイナス評価になる
- 期待値は控えめに設定し、結果で上回る「アンダープロミス・オーバーデリバー」が基本
- 「断ると依頼が止まる」という恐怖心がキャパオーバーの根本原因になりやすい
- 量をこなすことより、確実にやりきった回数が「信頼貯金」として積み上がる
- まずはPOC的に少量から始め、自分のキャパシティの上限を見極めることが大切
