仕事でどう期待値を上回る?「プロフェッショナリズム」の戦略論
ぼくらの戦略論第48回は、グロービス・キャピタル・パートナーズ日本を代表するベンチャーキャピタル(VC)。スタートアップへの投資・育成を手がけ、メルカリやカヤックなど多数のIPO実績を持つ。代表パートナーの高宮慎一さんと編集者・長谷川リョーさんが「プロフェッショナリズム」をテーマに対談。結果へのコミットメント、バリューの出し方、キャリアが進むにつれて広がる視座について掘り下げています。その内容をまとめます。
プロフェッショナリズムとは何か
前々回のエピソードでは「評価制度」について話していたふたり。その中で、MBOManagement by Objectives(目標管理制度)の略。上司と部下が期初に目標を合意し、その達成度合いで評価する仕組み。的な業績評価における「期待値設定の握り」や「アンダーコミット・オーバーデリバー約束する成果をやや控えめに設定し、実際には期待値を上回る結果を出す戦略。信頼構築の定石とされる。」について議論を重ねてきました。その延長線上で、高宮さんが「これは独立したテーマとして面白い」と感じたのが「プロフェッショナリズム」でした。
ベタなんですけど、プロフェッショナリズム、プロ意識みたいなのがすごい大事なのかなと思っています
高宮さん自身、新卒で入ったのがアーサー・D・リトル世界初の経営コンサルティングファームとされる。技術経営やイノベーション戦略に強みを持つ。というコンサルティングファーム、いわゆる「プロフェッショナルファーム」でした。そこでプロ意識を徹底的に叩き込まれた原体験が、現在の仕事観の土台になっているといいます。
ただし高宮さんは、「これは自分の好みや主観に近い話かもしれない」とも付け加えています。万人に押し付ける価値観ではなく、あくまで自分の内側から湧く"気合い"としてのプロ意識──そこがこの議論の出発点です。
「ことに向き合う」姿勢と結果へのコミット
高宮さんがプロフェッショナリズムの核心として繰り返し強調したのが「ことに向き合う」という言葉でした。入り口で期待値を握ったからには、絶対にそれをデリバーする──結果を出すことに妥協しない姿勢です。
ただし重要なのは、これが「上司や会社がメンバーに押し付けるもの」ではないという点です。押し付ければパワハラやブラック企業の論理になってしまう。あくまで自分自身の気の持ちようとして、仕事全体で求められている結果を出すために何ができるかを考え抜くことだ、と高宮さんは線引きしています。
具体的には、約束した期間とクオリティを守るために「ちょっと残業すれば結果を出せるなら、残業してでも出す」──そうした判断を自分の意志で下せることがプロの証だという考え方です。ただし「1週間徹夜しろ」という根性論とは明確に一線を画しています。
リソース不足時のアラート上げもプロの仕事
プロフェッショナリズムというと「とにかく自力でやり切る」というイメージを持たれがちですが、高宮さんの定義はそれにとどまりません。
たとえば「1週間でできる」と約束した仕事に着手してみたら、前提としていたデータが存在せず、データ収集から始めなければならないことが判明したとします。そんなとき、早いタイミングで「このままでは間に合いません。リソースの追加投入が必要です」とアラートを上げること──これもまたプロ意識の発露だと高宮さんは語ります。
自分の能力を鑑みたら行けると思ったんですけど、思ったより難しくて行けませんと言って、早めにアラートを上げて早めにヘルプを呼ぶのも、それもプロ意識だと思うんですよね
リソースが足りないケースだけでなく、自分のスキルが想定に追いつかなかったケースでも同じです。大切なのは「自分の評価を守ること」ではなく、「仕事として求められている結果を出すこと」。そのために必要なら助けを求めることも、プロとしての正しい行動だという考え方です。
多少の残業をしてでも約束した結果を出し切る。自分の意志でコミットする。
早期にアラートを上げ、リソース追加やヘルプを要請する。抱え込まない。
どちらの判断にも共通するのは、「自分の面子」よりも「仕事の結果」を優先するという軸。ここにプロフェッショナリズムの本質があるようです。
受託と事業会社で変わる意識のあり方
ここで長谷川さんが投げかけたのが、「受託型の仕事と事業会社では、プロ意識の持ち方が違うのでは?」という問いです。
長谷川さん自身、ライターとして発注を受けてデリバーする受託型の仕事を長く続けてきました。この場合、クライアントが期待値を明示してくれるため、「何をどこまでやれば合格か」が比較的わかりやすいと言います。一方で、現在携わっている福祉の事業会社では、ゴール自体を自分たちで定義しなければならない。意識しないとプロ意識が曖昧になりやすい構造がある──そんな気づきを語っていました。
クライアントが期待値を提示。「何をデリバーすべきか」が明確で、プロ意識を発揮しやすい。
ゴール自体を自ら定義する必要がある。意識的に期待値を設定しないとプロ意識が曖昧になりがち。
高宮さんがコンサルファームで叩き込まれたプロ意識は、クライアントからの期待値が明確に存在する環境だったからこそ鍛えられた面があるのかもしれません。事業会社で同じ水準のプロ意識を保つには、「自分で自分にゴールを課す」という一段階上の自律が求められる──そんな示唆がこの対話からは読み取れます。
まとめ
今回のエピソードでは、評価制度の議論から派生して「プロフェッショナリズムとは何か」を掘り下げました。高宮さんが語るプロ意識は、根性論でも自己犠牲でもなく、「自分の評価」より「仕事の結果」を優先し、そのために最適な行動を選び続ける姿勢でした。自力でやり切るのもプロなら、早めに助けを求めるのもプロ。そして、受託か事業会社かによってプロ意識の持ち方は変わるものの、「ことに向き合う」という本質は同じです。
- プロフェッショナリズムとは「ことに向き合う姿勢」──自分の評価よりも仕事の結果を優先する意識
- アンダーコミット・オーバーデリバーの前提として、入り口での期待値の握りが不可欠
- 自力でやり切れないときに早期アラートを上げることもプロ意識の発露
- 受託型は期待値が明確だが、事業会社では自らゴールを定義する自律性が求められる
- プロ意識は会社が押し付けるものではなく、あくまで自分自身の内なる基準として持つもの
