「言語化力」の正体は構造化力──ビジネスに効く"本質を捉える技術"とは
ぼくらの戦略論は、グロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナーの高宮慎一さんと、編集者・ライターの長谷川リョーさんが戦略について語る番組です。今回はリスナーからの「高宮さんの言語化力の秘訣を教えてほしい」という質問をきっかけに、言語化の本質は"言葉選び"ではなく"構造化"にあるという議論が展開されました。話し上手な人に共通する思考パターンから、AI時代のコミュニケーションの行方まで広がったその内容をまとめます。
リスナーからの質問──高宮さんの言語化力の源泉
高宮さんの言語化力が高くてすごく勉強になっています。戦略的に言語化力を鍛えるやり方や、意識していることがあれば教えてください。
この質問に対して、高宮さんはまず「今まであまり意識してこなかった」と前置きしつつ、自身の言語化力の土台として3つの要素を挙げました。
1つ目は、子供の頃からの読書習慣です。もっとも本を読んでいた時期には週に5〜10冊を読破していたそうで、小学生の頃は「将来小説家になりたい」と言っていたとのこと。言葉に対するこだわりは、この頃から自然と育まれていたようです。
2つ目は、日本と海外を行き来する生活の中で「言葉だけで伝えなければならない」環境に身を置いてきた経験です。日本国内なら阿吽の呼吸で通じることも、文化的な前提が異なる環境では通用しません。「何が前提にあって、だからどう考えるのか」を切り分けてクリアに伝える習慣が自然と染みついたと言います。
3つ目は、英語と日本語の間で「ぴったりの言葉」を探す習慣です。たとえば高宮さんが好きな英単語に「Conviction(コンビクション)」があるそうですが、これを日本語の「信念」と訳すと、内なるものだけのニュアンスになってしまいます。Convictionには「自分の信念としてやりたい」という内的な動機と、「このマーケットは絶対いける」という外部環境の確信の両方が重なって「ガチでやる」と決まる感覚が含まれているのだそうです。この一語を日本語でどう表すか──そうした言葉選びの葛藤自体が、言語化力のトレーニングになっていると語りました。
「コンビクション」って日本語で「信念」って訳されがちだけど、それだと自分の内なるものすぎる。外部環境の確信も合わさって初めて「ガチでやる」ってなるニュアンスなんですよね
言語化力の本質は「構造化力」にある
長谷川さんが「高宮さんの最大の特徴は構造化ですよね」と指摘すると、高宮さんは「まさに今日のネタとして後出しで言おうとしていた」と笑いました。高宮さんの主張はこうです──言語化力の本質は「言語としてアウトプットする力」ではない。
つまり、ステップ1の「本質を正しく捉える力」がなければ、どれだけ言葉を磨いてもただの言葉遊びになってしまうということです。
高宮さんが例として挙げたのは、「ゴールドラッシュのリーバイス」19世紀のカリフォルニア・ゴールドラッシュ期に、金の採掘者ではなく採掘者向けに丈夫な作業用パンツを売って成功したリーバイ・ストラウス社のビジネスモデルの比喩。というアナロジーです。ゴールドラッシュでは金を掘る人が殺到し、後期には採掘がサチュレーション(飽和)していきました。その中で金そのものを掘るハイリスクな勝負をせず、殺到している人たち全員に耐久性の高いズボンを売るという「ミドルリスク・ミドルリターンのサービスビジネス」を展開したのがリーバイスだったわけです。
この構造を理解していれば、たとえば「スマホアプリのゲーム開発がヒット・オア・ミスの世界になっている中で、開発者全員に向けてアナリティクスのマーケティングツールを提供する」というビジネスも、同じフレームで説明できます。「ゴールドラッシュのジーンズだよね」の一言で構造が伝わるのは、背後にある構造の理解が共有されているからです。
高宮さんは、普通のビジネスパーソンにとっては、コピーライターのようなタグライン力よりも、まずは構造化して理解する力のほうが圧倒的に大事だと強調します。野暮ったくても「人が殺到しているところにサービスビジネスを展開することですよね」と言えれば、ビジネスとしては十分に通じるからです。
編集者が見た「言語化がうまい人」の共通点
話題は「高宮さん以外で言語化がうまい人は誰か?」に移りました。長谷川さんがまず名前を挙げたのは、批評家の宇野常寛批評家、PLANETS編集長。サブカルチャーを切り口に社会批評を行うスタイルで知られる。著書に『ゼロ年代の想像力』『遅いインターネット』など。さんです。宇野さんはアニメや漫画などサブカルチャーに深い知見を持ち、それを立脚点にビジネスや社会の議論にも転用していくスタイルが特徴的だと言います。
高宮さんも宇野さんとは「構造的に物事を理解して、同じ構造のものを探す」という思考パターンが同じだからプロトコル(思考の通信規格)が合い、対談していてやりやすいと語りました。
次に挙がったのは堀江貴文実業家、著作家。ライブドア元代表取締役CEO。多数の著書やメディア出演で知られる。さんの名前です。長谷川さんは堀江さんの本を複数制作した経験から、堀江さんの強みは「パンチライン力」と「吸収力(インストール速度)」にあると分析しました。毎日のように対談をこなす中で、聞いた話を次に会った時にはもう自分の話かのようにアウトプットしている──インプットとアウトプットのPDCAが不可分になっているイメージだそうです。
堀江さんは次会った時にはもう自分の話かのようにインストールして出力してるんで、インプットとアウトプットのPDCAが不可分になってるイメージですね
高宮さんは「それも結局、構造化力だと思う」と応じます。話がうまい人は、相手のどんな質問に対しても自分のネタに引きつけて話しているように見えますが、実は「この話のこの部分と、あの話のこの部分は同じ構造だ」というアナロジーの転用ポイントを瞬時に見つけているのだと言います。
もう一人、高宮さんが挙げたのがクラシコム「北欧、暮らしの道についてまで」を運営するライフカルチャープラットフォーム企業。2022年に東証グロース市場に上場。代表の青木耕平クラシコム代表取締役。独自の経営哲学で知られ、ビジネス的なフレームワークではなく哲学的な思索からビジネスの本質をえぐるスタイルが特徴。さんです。高宮さんは青木さんを「哲人経営者」と呼び、ビジネス的なフレームワークではなく、哲学的な視点から物事の本質をえぐってビジネスに役立てている点が好きだと語りました。
深い立脚点を持つ
宇野さん=サブカルチャー、青木さん=哲学、など自分の"ホーム領域"がある
リベラルアーツ的にネタをストックする
幅広い領域のインプットを続け、自分の軸との関連を常に整理する
構造の転用で語る
ストックしたネタを構造的に結びつけ、アナロジーや比喩でアウトプットする
ここから導かれるのは、「ビジネス書だけ読んでいても言語化力は本質的には深まらない」という学びです。自分の立脚点となる深いテーマを1つ持ちつつ、リベラルアーツ的にいろんな領域のネタをストックし、その軸との関連を常に整理しておく──インプットとアウトプットは両輪であり、単独では成り立たないものだと二人は合意しました。
動画全盛期でも「テキスト」が強い理由
動画全盛の時代に、インプット手段としてテキスト(活字)はまだ有効なのか──長谷川さんのこの問いに、高宮さんは「効率の問題」だときっぱり答えました。1秒あたりにインプットできる情報量は、テキストのほうが圧倒的に多いというのがその理由です。
長谷川さんも同じ意見で、堀江さんも動画は一切見ず、すべての情報摂取はテキストで行っていると紹介しました。読書家として育ってきたバイアスはあるかもしれないが、情報摂取の効率でテキストが優位であることは変わらないだろうと二人は語ります。
フィジカルな本のほうがパッと見て先まで捉えやすいし、めくる動作も電子のほうが意外とタイムラグがある気がして
本の厚みで全体像が分かるじゃないですか。今ここら辺読んでるから、みたいな
さらに高宮さんは、電子書籍よりもフィジカルな紙の本のほうが読むスピードも速く、記憶にも残りやすいと感じているそうです。紙の本は本の厚みで全体の中の現在地が直感的に分かり、構造を理解しながら読み進めやすいという点も大きいと長谷川さんは補足しました。
AI時代に言語化力はどう変わるのか
話はAI時代の言語化へと広がりました。GPTネイティブの世代は、ちょっとした疑問も全部AIに聞いて育つことになります。そうした人たちの言語化力は10年後、20年後にどうなっていくのでしょうか。
高宮さんは、これまでの言語化が「人対人」で最適化されていたのに対して、今後は「人対AI」の言語化力というものが重要になる可能性を指摘しました。プロンプトエンジニアリング的に、AIに伝わりやすい物の言い方を身につけた人がAIを最も効率よく使いこなせる──いわば「AI言語化力が高い人」が出てくるかもしれないという視点です。
人→人に最適化
暗黙知の共有を前提
比喩・ストーリーで伝える
人→AI+人→人の両面
プロンプト設計力が加わる
曖昧さの活用も鍵に
長谷川さんは、佐渡島庸平株式会社コルク代表取締役。元講談社の編集者で、『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などを手がけた。現在はクリエイターのエージェント事業を展開。さんの言葉を引きました。「AIによってライターはなくなるのか、それとも10倍稼げるライターが出てくるのか」という問いに対して、佐渡島さんは「人間ならではの視点を持ったライターは10倍稼げる」と語っていたそうです。対AIの言語化力と対人間の言語化力、この二つは今後ますます分岐していくのかもしれません。
高宮さんはさらに興味深い視点を加えました。QWERTY配列現在のキーボードの標準的な文字配列。タイプライター時代にアーム同士が絡まないよう、あえて打鍵速度が上がりすぎない配置にしたのが起源とされる。人間工学的にはもっと効率のよい配列が存在するが、習慣により今も使われ続けている。の例を出し、「マシーンが人に合わせるのか、人がマシーンに合わせるのか」という問題は、人とAIの結節点のデザインにおいて非常に面白いテーマだと語ります。どちらに最適化が進むかは、世代のネイティブ体験によって徐々に変わっていくのでしょう。
さらに番組スタッフからの情報として、「日本語はハイコンテクストだからこそ、文脈を拾ってくれるAIと相性がいい」という見方も紹介されました。要件を完全に定義できるならそれは従来のITで済む話で、曖昧さを忖度して「いい感じ」にやってくれるのがAIの強みです。日本人が得意な阿吽の呼吸によるハイクオリティなすり合わせは残しつつ、それでカバーできない部分をAIが補完してくれる──そんな未来像が描かれました。
まとめ
エピソードの終盤、高宮さんは「アウトプットの力も両輪として大事だ」と補足しました。コンサルタント時代にスライド1枚のリード文を1行に凝縮することを徹底的に鍛えられた経験が、ビジネスにおけるアウトプット側の言語化力を磨いたと振り返ります。「ゴールドラッシュのリーバイスビジネスですよね」と一言で言えるのと、もっさりと説明するのでは伝わり方が違う──言葉に対するセンシティビティを高く持つことの重要性を改めて語りました。
そして最後に高宮さんが挙げた例が「黒歴史」という言葉。「過去の自分がおかした恥ずかしい、なかったことにキャンセルしたい過去」というニュアンスを、「黒」と「歴史」の2語で文学的に表現してみせた秀逸なワードだと感心していました。論理的な左脳型の言語化と、比喩やイメージで伝える右脳型の言語化、その両方がビジネスでも日常でも武器になるということでしょう。
- 言語化力は「言葉選び」の前に「構造化力」が土台になる。本質を捉えられなければ、どんな言葉も言葉遊びに終わる
- 言語化がうまい人は、自分だけの深い立脚点(サブカル・哲学など)を持ちながら、リベラルアーツ的に幅広いネタをストックし、構造のアナロジーで異分野をつないでいる
- 情報インプットの効率ではテキスト(活字)が依然として優位。紙の本は全体構造を把握しながら読める点でも有利
- AI時代には「人に伝わる言語化力」に加え、「AIに伝わる言語化力(プロンプト設計力)」も重要になる可能性がある
- 構造化(左脳)と比喩・イメージ(右脳)の両輪でアウトプットを磨くことが、ビジネスパーソンにとっての言語化力の完成形
