会社に正しく評価されるには?「評価・報酬制度」攻略の戦略論
ぼくらの戦略論ep.47では、高宮慎一グロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP)代表パートナー。Forbes「日本で最も影響力のあるベンチャー投資家」2018年1位。メルカリなど多数のIPO実績を持つ。さんと長谷川リョー編集者・ライター・ポーカープレイヤー。東大情報学環→リクルート→独立→ケニアでのポーカー生活を経て、経営者や企業の発信支援に取り組む。さんが、前回の「経営者目線での評価・報酬制度の設計」に続き、今回は「評価される側=従業員目線」から制度をどう読み解き、どう行動すべきかを語りました。制度の表面だけをハックするのではなく、背後にある経営者の哲学を読み取ることが本質的な評価につながる──その内容をまとめます。
藤田晋氏の新刊『勝負勘』とAI時代のライティング
冒頭の雑談で話題に上がったのが、藤田晋サイバーエージェント代表取締役。1998年に24歳で同社を創業し、2000年に史上最年少(当時)で東証マザーズに上場。ABEMAの立ち上げやFC町田ゼルビアの経営にも関わる。氏の新刊『勝負勘』です。長谷川さんはカンボジアへの機内で読み、「ライターが入っていない、藤田さん本人の文章だからこそ面白い」と評しました。
藤田氏はブログを長年書き続けてきた人物。麻雀やポーカー、競馬といった勝負事の臨場感ある描写に加え、経営面では「任せるところは完全に任せる」一方で、ABEMAサイバーエージェントが運営するインターネットテレビ局。2016年開局。藤田氏自身が陣頭指揮を執る事業として知られる。やFC町田ゼルビアのように自ら陣頭指揮を執る領域では「超マイクロマネジメント」を行うという押し引きが興味深かったとのことです。
ライターが入っているか本人が書いているかは秒で分かりますね
話はそこからAI時代のライティングへ。長谷川さんは、最近の書籍制作では「AI前提でスケジュールが組まれるようになった」と明かしました。高宮さんが「AI臭は消せるのか?」と問うと、長谷川さんは「今は過渡期で、エンジニアもデザイナーもライターも同じ課題を抱えている」と答えました。
従業員目線で考える「評価・報酬制度」
前回のエピソードでは、経営者目線から「評価・報酬制度をどう設計するか」を議論しました。今回はその逆、つまり従業員として制度にどう向き合うべきかがテーマです。
高宮さんは「制度設計する側の話だけしてしまったが、その制度の中でどう泳ぐかという話も重要」と切り出しました。長谷川さんも、以前の人気回「経営者目線って何?」で語った内容と通じる部分があると指摘。経営者目線を持って報酬のロジックを理解しながらバリューを出していく──これが出発点だと言います。
制度をどう設計するか。思想・哲学をどう込めるか
制度をどう読み解き、どう行動するか
制度の「ハック」と「本質」の違い
高宮さんは、評価制度に対する向き合い方を「ハック的な視点」と「本質的な視点」に分けて整理しました。
ハック的な視点とは、目標設定や評価項目の表面だけを見て、そこに最適化してパフォームすること。たしかに短期的にはスコアが上がるかもしれません。しかし、それだけでは視野が狭くなりがちです。
一方で本質的な視点とは、「なぜそういう設計になっているのか」を考えること。前回のエピソードで触れた通り、制度設計には経営者の思想や哲学が色濃く反映されます。その哲学を読み取り、それに沿った行動をすることが長期的な評価につながるという話です。
評価制度の背後にある哲学を読み取る
高宮さんは具体例として「お客様ファースト」を掲げる企業の話を挙げました。もし会社の哲学が「お客様のために、利益をそこまで追わなくてよい」というものであるにもかかわらず、利益目標が設定されているからといって、お客様を犠牲にして利益を出しても、それは本当の意味での「評価」にはつながらないと言います。
利益目標だけを見て、顧客を犠牲にしてでも数字を達成する → 短期的には評価されるかもしれない
「お客様ファースト」という哲学を読み取り、顧客価値を優先した行動をとる → 上位グレードでも通用する本質的な評価につながる
短期的にはハックで点数を稼げても、グレードが上がれば「ゲームが変わる」のです。下のランクで通用した戦い方が、上のランクではまったく通じなくなることがあります。だからこそ、目の前の項目だけでなく、その奥にある経営者の意図や会社のカルチャーを理解して動くことが、長期的なキャリアアップには不可欠だと高宮さんは強調しました。
ゲームのルールを超える──新しい価値の創出
長谷川さんは「ゲームのルールをハックして最上位の点数を出すこと」とは別に、「ゲーム自体を作り出せる=新規事業を生み出せる力」も評価されるのではないか、と投げかけました。
これに対して高宮さんは興味深い反論をします。「それって、実は新しいものを作ってないんですよ」と。なぜなら、評価の合意をする段階で「あなたの仕事は新しいものを作ることです」と定義されてしまっているから。つまり、どんなに革新的に見えるアウトプットも、評価制度の枠組みの中で事前に定義された役割の遂行である──という視点です。
それって、ある意味新しいもの作ってないんですよ。だって「あなたの仕事は新しいものを作ることです」っていう定義がされてしまっていて、その定義に則って何かをやるわけで
この指摘は、評価制度というフレームワークの本質を突いています。どれだけ自由に見えるミッションでも、それが評価項目として設定されている以上、「ルールの中での行動」であることに変わりはないのです。だからこそ重要なのは、ルールの外に出ることではなく、ルールの設計意図を深く理解したうえで、本質的な価値を出すことだと言えるかもしれません。
既存ルールのハック
目標項目に最適化して高スコアを出す
新規事業の創出
一見「ゲームを作る側」だが、「新しいものを作る」こと自体が評価項目として定義されている
本質的な価値提供
制度の背後にある哲学を理解し、それに沿った行動をとる
まとめ
今回のエピソードは前回の経営者目線に続き、「評価される側」の戦略を論じた回でした。短い回ながら、制度との向き合い方の核心が凝縮されています。
評価制度を攻略するというと、つい「項目を満たして点数を稼ぐ」方向に目が向きがちです。しかし高宮さんが繰り返し強調したのは、制度の表面ではなく、その背後にある哲学を読み取ることの重要性でした。上司の視点、さらにはその上の経営者の視点を持って行動することが、グレードが変わっても通用する力になるという考え方です。
また、「新しい価値を作り出す」ことすらも、評価の枠組みの中で定義された役割の一つであるという指摘は、評価制度の本質を考えるうえで示唆に富んでいます。制度の中にいる限り、大切なのはルールを超えることではなく、ルールの意図を深く理解して動くことなのかもしれません。
- 評価制度の表面(目標項目・スコア)だけを見て最適化する「ハック」は、短期的には有効でもグレードが上がると通用しなくなる
- 制度設計には経営者の思想・哲学が込められている。その意図を読み取り、本質に沿った行動をとることが長期的な評価につながる
- 「上司の視点」「上司の上司の視点」「経営者目線」を持つことが、いわゆる「経営者目線を持て」の真意
- 新規事業の創出など「ゲームを作る側」に見える行動も、評価制度の中では事前に定義された役割の遂行。ルールの外に出ることよりも、ルールの設計意図を理解することが重要
