SaaS is Deadは本当か?!AIエージェントとSaaSの「垂直統合」をめぐる戦い
ポッドキャスト番組「ぼくらの戦略論ベンチャーキャピタリストの高宮慎一氏と、編集者の長谷川リョー氏が戦略をテーマに語る番組。」が、AI時代の新シリーズをスタートさせた。 第一弾のテーマは、テック業界を揺るがしている「SaaS is DeadAIの進化により、従来のソフトウェア提供モデル(SaaS)が終焉を迎えるという予測。」という過激なテーゼだ。
投資家として最前線に立つ高宮慎一グロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナー。メルカリ等への投資実績を持つトップVC。氏と、 多方面で活躍する編集者の長谷川リョーリクルート出身の編集者。堀江貴文氏らの著書を手がけ、ポーカープレイヤーとしての顔も持つ。氏。 二人の議論は、単なるバズワードの検証を超え、AIがビジネスモデルをどのように再定義するのかという深い洞察にまで及んだ。その内容をまとめます。
一夜にして「お通夜」状態?SaaS株価暴落の裏側
議論のきっかけとなったのは、ここ数週間の米国テック業界の動向だ。 特にAIモデル「ClaudeAnthropic社が開発する大規模言語モデル。プログラミングや複雑な推論能力に定評がある。」が新機能を発表した際、 「外部のSaaSを使わなくても、自前でシステムが組めるのではないか」という懸念が広がったという。
SaaS企業の価値は、これまで売上の何倍かという「マルチプル」で測られてきましたが、Claudeの登場でその前提が揺らぎました。一夜にして株価が大きく落ち、業界全体が「お通夜」のような状況になっていますね。
かつてはARRAnnual Recurring Revenue。年間経常収益。SaaSビジネスの成長性を測る最重要指標の一つ。の10倍以上の評価が当たり前だったSaaS企業だが、現在はその期待値が急速に冷え込んでいる。 自社でエンジニアソフトウェアやシステムを設計・構築する技術職。AIの登場でその役割が変化している。を抱えずとも、AIがコードを書き、業務システムを自動生成してしまう未来が現実味を帯びてきたからだ。
「上から攻める」か「下から登る」か。垂直統合の争い
高宮氏は、「SaaS is Dead」という言葉には、AI側のプレイヤーによるポジショントーク自分の立場を有利にするための発言。ここではAI企業の優位性を強調するニュアンス。の側面もあると指摘する。 実際には、SaaSとAIは対立するものではなく、同じ「ゴール」を目指して異なる方向から攻めている状態だという。
業務を自律的にこなす「AIエージェント人間の代わりに目的を理解し、自律的に判断・実行するAIソフトウェアのこと。」が機能するためには、 前提として「綺麗な構造のデータ」が必要だ。そのデータベース整理された情報の集まり。SaaSの核心的な価値の一つ。を既に握っているのは既存のSaaS企業である。 そのため、SaaS側がAIを実装すれば、エージェント企業へと進化できる可能性があるのだ。
結局、データの出口と自律処理の両方を「垂直統合」した者が勝ちます。SaaS側も甘んじて殺されるわけではなく、AIを乗せてエージェント化していくでしょう。これは領土争いのようなものです。
バーティカルSaaSが持つ「最強の盾」
議論は、どの領域のSaaSが生き残るかという話題へ。 高宮氏は、業界を問わず共通の機能を提供する「ホリゾンタルSaaS経理や人事など、業種に関係なく横断的に利用されるSaaS。」よりも、 特定の業界に特化した「バーティカルSaaS建設、医療、福祉など、特定の業界の商習慣や法規制に特化したSaaS。」の方が、AIに対して守りが強いと分析する。
長谷川氏は、自身が関わる福祉業界の事例を挙げた。 SMS株式会社エス・エム・エス。介護・医療業界向けの情報インフラを展開する大手企業。が提供する福祉SaaS「カイポケ(壁なし)介護事業所の経営・業務を支援するSaaS。膨大な書類作成や請求業務を効率化する。」の強みについて、 単なるシステム以上の価値を語る。
福祉現場はとにかく書類が多く、法改正も激しい。このSaaSは厚労省厚生労働省。福祉・介護のルールを策定する官庁。の規制に勝手に対応してくれるんです。さらに、行政による「実地指導行政が介護事業所に立ち入り、運営が適切かチェックする調査。不備があると厳しい処分も。」への対策まで、裏側の人間がノウハウを教えてくれる。これはAIだけでは代替しにくいですね。
こうした業界特有の複雑なルールや、運用でカバーされている泥臭いノウハウこそが、汎用的なAIエージェントに対する高い壁になる。 ビジネスの要件定義システムが解決すべき課題や必要な機能を明確に定義する作業。を深く理解していることが、AI時代の新たな競争優位になるという。
AIが進化する「4つのステップ」と最後に残るもの
AIはどのように業務を侵食していくのか。高宮氏は、業務の抽象度が上がっていくプロセスを提示した。 現在はまだ個別の「作業」を代替している段階だが、いずれはワークフロー複数の作業を組み合わせた、業務の一連の流れ。全体、さらにはビジネスプロセスそのものをAIが管理するようになるという。
このプロセスが進んだ果てに、人間に残されるのは「意思決定」だけだという。 AIは「How(どうやるか)」や「What(何をやるか)」の最適解を出すことは得意だが、 「Why(なぜやるのか)」というコンテキスト背景、文脈、目的意識。人間特有の判断の拠り所となるもの。に基づいた動機付けは人間にしかできない。
AIがエージェントをマネージし、修正するエージェントまで現れるマトリョーシカのような構造になります。そこで唯一残るのは、例外処理しかない「意思決定」の領域。Whyが違えば答えも変わる。そこが人間の最後の砦になるでしょう。
最近では、ポーカーアプリ開発などの領域でもAIが活用され、機能のパクり合い(同質化)が加速している。 そうした世界では、もはや機能の差ではなく「コンセプト(なぜこれを作るのか)」というWhyの部分が、ユーザーを惹きつける唯一の差別化要因になりつつあるようだ。
- 垂直統合 ── データの出口(DB)と自律処理(AI)の両方を抑える。
- ドメイン知識 ── 業界特有の複雑なルールや法規制への深い理解。
- 意思決定への集中 ── 効率化の先にある「Why(目的)」を定義する。
というわけで
SaaSが死ぬのではなく、SaaSという形態が「AIエージェント」へと脱皮していく過渡期に私たちはいるようです。 これまでの戦略論では「二兎を追うものは一兎をも得ず」とされてきましたが、AIの力を借りることで、そのセオリーすらも変わる可能性があると高宮氏は示唆しました。
次回、その「AI時代の新戦略」についてさらなる深掘りが行われるとのこと。 これまでの常識が次々と無効化される中で、私たちがどのような「Why」を掲げるべきか、そのヒントが見つかるかもしれません。
