起業のビッグウェーブ到来!「人力受託→AIエージェント化」というAI時代の定石
ぼくらの戦略論の高宮慎一グロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP)代表パートナー。Forbes「日本で最も影響力のあるベンチャー投資家ランキング」2018年1位。メルカリなど多数の投資実績を持つ。さんと長谷川リョー編集者・ライター・ポーカープレイヤー。経営者や企業の発信支援に取り組む。東大情報学環→リクルート→独立→ケニアでのポーカー生活を経て現在。さんによるAI時代の戦略論シリーズ第4回。インターネットバブル以来の起業チャンスが到来するなか、「まず人力受託で入り、裏側をAIで回して利益率を最大化し、将来のAIエージェント化を狙う」という起業の定石が語られました。その内容をまとめます。
インターネット以来の起業ビッグウェーブ
高宮さんは、今がまさに2000年のインターネットバブル以来の「起業し時のベストタイミング」だと断言します。米国ではスタートアップの新規ラウンドの75%がAI関連で、日本でもAI一色の状況が広がっているとのことです。
なぜハードルが下がったのか。インターネット時代は製造業のような設備投資が不要になったことで起業コストが劇的に下がりましたが、それでもプロダクト開発には数億円が必要でした。ところがAI時代では、バイブコーディング自然言語でAIに指示を出してコードを生成するプログラミング手法。Claude CodeやCursorなどのツールで実現できる。コーディングスキルがなくてもプロダクトを作れる可能性がある。を使えば開発コストが「2桁3桁違う」レベルまで下がっているといいます。
三人ユニコーンっていう、三人しか社員がいないのにユニコーン企業になっちゃったみたいなのですら、マジで夢じゃなくて本当に起こり得てるので
起動資金が少なくて済み、ランニングコストも人依存度が低いため少人数でスケールできる。お金もテーマ性に惹かれて集まりやすい。こうした環境がそろっている今こそ、起業の大波に乗るタイミングだという見立てです。
プロダクト開発に数億円
運用・顧客対応に人手が必要
スケールには人員増が不可欠
バイブコーディングで開発コスト激減
運用・顧客接点もAIが一部代替
3人でユニコーンも現実に
AI受託ビジネスという入口戦略
しかし、AIエージェントが技術的に作れるからといって、企業にいきなり導入するのはハードルが高いと高宮さんは指摘します。重要な業務でミスが起きた時の責任問題、既存の人件費とAI費用の二重コスト、日本特有の雇用の硬直性──こうした「フリクション」が導入を阻むからです。
では、AIはどこから浸透するのか。答えは「受託(BPO)」です。人手不足で回らない業務、あるいはすでに外注に出している業務を「まるっと引き受けます。品質保証も責任も取ります。人が担当としてつきます」という形で提供すれば、発注側の心理的なフリクションは大幅に下がります。
ポイントは、表向きは人が窓口として品質を保証しつつ、裏側ではAIエージェントが業務を回すという構造です。人を積み上げる従来の受託ビジネスと違い、エージェントを増やすだけでスケールでき、コスト構造が軽いため利益率も高くなります。
高宮さんは、三人で売上数億円、あるいは三人で売上10億円も「結構簡単に行けちゃう」と述べています。スタートアップ的なメガスケールを目指さなくても、儲かるスモールビジネスとして成立し、場合によっては数億〜10億円でのM&A売却も現実的な選択肢になるといいます。
BPOからAIプロダクトへの進化パス
受託で入る戦略のもう一つの魅力は、そこから先に「進化パス」があることです。最初は付加価値が低い業務の受託で片足を入れ、そこから周辺業務へとアップセルしていく。対象業務が広がるほど、社内のAIエージェントでカバーする領域も拡大していきます。
やがて顧客側が気づくタイミングが来ます。「あれ?人がプロマネとしてついているけど、実はAIが勝手に回してない?だったらAIプロダクトそのものを導入させてよ」──顧客側がレディになった瞬間、プロマネの人すら不要になり、AIプロダクトの「物売り」へと転換できる。これがさらにスケーラブルなビジネスモデルへの跳躍点です。
高宮さんはこれを自動運転のアナロジー自動運転の進化段階になぞらえた比喩。人が運転席にいるが実際はAIが運転する「コパイロット」段階から、完全に人が不要な「フルオートパイロット」段階へ進むイメージ。で説明します。最初は人が責任を取るためだけに運転席に座り、実際の運転はAIがやっている「コパイロット」の状態。そこから完全自動運転=完全エージェンティックへとジャンプしていく流れです。
「エージェントが作れます」というテックレディな状態じゃなくて、お客さんがレディになっているかどうかの要素もでかい
ただし、ここで重要なのは「IfじゃなくてWhen「起こるかどうか(If)」ではなく「いつ起こるか(When)」が論点だという意味。AIによる業務置き換えは確実に進むが、そのタイミングは技術の進化と顧客の受け入れ態勢の両方に依存する。」──つまり、AIへの置き換えが起きるかどうかではなく、いつ起きるかが論点だということ。そしてそのタイミングは、技術の進化だけでなく、顧客側の組織の慣性や危機感といった「ウェットな人間的・政治的な要素」にも左右されるとのことです。
B向けが先行する理由とC向けの可能性
長谷川さんは、AIで起業しやすくなった状況が、かつてのキュレーションメディア2010年代前半に乱立したまとめサイト型メディア。複数の情報源から記事を集約・編集して配信するモデル。参入障壁が低く学生起業も多かったが、提供価値の薄さと競争激化により多くが淘汰された。勃興時代を想起させると指摘します。確かに起業しやすさは共通しますが、今回は事情が違うと高宮さんは説明します。
今のAIビジネスの議論がBtoB中心に盛り上がっている理由は明確です。B側は「やらなきゃいけないこと」「何で困っているか」「何が価値か」が定義しやすく、成果が定義されればルール化してAI化もしやすいからです。一方でC向けは、AIキャラクターやAIアバターなどの試みはあるものの、まだ本当に「芯を食った」プロダクトが出てきていないといいます。
課題・成果が明確に定義できる
ルール化→AI化がしやすい
ビジネス経験・営業力が武器に
新しい価値の創造が必要
ユーザー自身の慣れも必要
Next Big Thingは時間の問題
BtoB領域では、ビジネス経験や顧客理解、セールスプロセスの知見が大きなアドバンテージになります。AIパワードBPOやAIプロダクトを「売るのは人力」という皮肉な構造があるからです。とはいえ、経験が浅くても、知人の会社の悩みを解決するエージェントを作って類似企業に売るだけで年商数千万円に到達するのは「そんな難しくない」とも。やりながら経験を積み、やがてスケールする道を見つけるパターンも十分にありえます。
ルール化しやすい業務がAI化の狙い目
では具体的にどんな領域が狙い目なのか。高宮さんは「それがわかったら起業してます。だからVCって起業してないんですよ」と笑いつつも、いくつかのヒントを挙げてくれました。
AI化しやすい業務の特徴
同じ作業を何回も繰り返している領域──会計・税務、法務の契約テンプレ、業界特有の帳票処理など──は、パターン化してAIで効率的に処理できます。さらに「例外処理」が多くて人手がかかっていた部分も、AIに例外データを食わせ続ければルール化されていくため、置き換えの余地が大きいといいます。
戦略コンサルはどうなるか
長谷川さんの「戦略コンサルタントがAI武装して起業するのでは?」という問いに対し、高宮さんは興味深い分析を展開します。業務改善コンサルやITコンサルはルール化しやすく、AI置き換えが早い。一方、最上流の経営戦略・事業戦略はアウトプットの抽象度が高く、完全な置き換えには時間がかかるとのことです。
ただし、パートナーが顧客の課題をヒアリングして問題を定義すれば、解決方法のWhat(何をするか)とHow(どうやるか)はAIでかなりカバーできます。業界リサーチだけをしているジュニアメンバーは置き換えられやすく、将来的には「パートナー一人とAI」という構造もありえるかもしれません。
VC業務で考える「身近な不の解決」
抽象論だけでは伝わりにくいと感じたのか、高宮さんは自身のVC業務を具体例に挙げます。実際に外部のエンジニアと協力して、自分用の便利ツールをいくつか作っているそうです。
一つは「オムニチャネル自分メディア」。YouTube、Podcast、テキストのRSSを全部拾ってきて、AIが自動で重要度に濃淡をつけてヘッドライン化し、クリッピングまでできるツールです。もう一つは「コンプスComparables(類似企業比較)の略。投資の世界で、対象企業の価値を算出する際に類似企業の株価倍率(マルチプル)を参照する手法。の類似企業探索ツール」。類似企業の中からマルチプルが高いところを特定し、さらにその類似企業を辿ることで、投資先のビジネスモデルをどう寄せれば市場で高く評価されるかを分析できます。
身近な不を解決して、ささやかな価値を出して、コストがゼロに限りなく近すぎて、ささやかな価値でも儲かるっていうのはすっごいやりやすくなってる
一つひとつは小さなツールですが、これをワークフローとしてつなげていくと見える景色が変わります。類似企業の探索→モデルに合う企業のリストアップ→アポイントメールの送信→PDCA──こうした一連のプロセスを小さなエージェントの束として組み上げれば、ソーシングからデューデリジェンス投資判断の前に行う詳細調査のこと。財務、法務、事業性などを多角的に精査する。略してDD(ディーディー)とも呼ばれる。まで自動で回るワークフローになりえます。
小さなエージェント①
類似企業の類似企業を探索し、マルチプルが高いモデルを特定
小さなエージェント②
そのモデルに該当する投資候補企業をリストアップ
小さなエージェント③
候補企業にアポイントメールを自動送信
統合エージェント
全プロセスを束ねて同時実行し、PDCAを回して改善
マーケットサイズは大きくないVC業務でも、開発コストがほぼゼロなら「リターンがそんなになくてもやればいいじゃん」となる。類似のVCに売ればスケールはしなくても儲かる受託にはなる。これがまさに先ほど語られた「AI時代の起業の入口」の具体例です。
高宮さん自身もバイブコーディングへの関心を強めており、Claude CodeAnthropic社が提供するAIコーディングツール。自然言語の指示だけでコードを生成・実行できるとされ、プログラミング経験が少ない人でもプロダクト開発が可能になると期待されている。を本格的に触るためにMacを購入したとのこと。VCの「隠れキャラCTO」として番組内で言及される今井さんへの期待も高まっていました。
まとめ
AI時代の起業は、インターネットバブル以来のビッグウェーブです。開発コストの劇的な低下により、少人数・低資本でもプロダクトが作れる環境が整いました。その中で高宮さんが提唱する起業の定石は、「まず人力受託(BPO)で入り、裏側をAIで回して利益率を最大化し、顧客がレディになったタイミングでAIプロダクトへと転換する」というステップです。
スモールビジネスとしてなら少ない経験でも始めやすく、経験を積んだ先にメガスケールを狙うシリアルアントレプレナーの道も開かれています。「If(起きるかどうか)ではなくWhen(いつ起きるか)」──その波に乗る準備を、今から始めることが大切なのかもしれません。
- AI時代はインターネットバブル以来の起業ベストタイミング。開発コストが2〜3桁下がり、少人数でスケール可能に
- 起業の入口は「AI×人力受託(BPO)」。人が品質保証の窓口になり、裏側をAIエージェントで回すことで高利益率を実現
- 顧客がレディになったタイミングでAIプロダクトの「物売り」へ転換し、さらなるスケールを狙う
- BtoBは課題・成果が明確でAI化しやすいため先行。CtoC向けの Next Big Thing はまだこれから
- AI置き換えは「起きるかどうか」ではなく「いつ起きるか」の問題。技術の進化と顧客側のレディネスの両方を見極めることが重要
- 経験が浅くても身近な「不」を解決するエージェントから始め、シリアルアントレプレナーとして成長する道もある
