ディープテックって結局なに?技術で日本が勝ち抜くための戦略論
ベンチャーキャピタリストの高宮慎一さんと編集者の長谷川リョーさんが、スタートアップと戦略を語るぼくらの戦略論。今回はリスナーからの質問をきっかけに、「ディープテック」の定義から日本の勝ち筋、バイブコーディングがもたらす変化まで、スタートアップ業界の地殻変動を掘り下げました。その内容をまとめます。
ディープテックの二つの軸
リスナーからの「ディープテックの解像度を高めたい」という質問に対し、高宮さんは「瞬発力で答える」と前置きしつつ、ディープテックには二つの軸があると説明しました。
第一の軸:技術開発の進捗度
サイエンス(理論)→ 技術開発 → 商品化 → 量産化 → 事業化という段階のうち、どこまで進んでいるか。デジタル系は既に技術が完成しているため「浅い」が、量子コンピューター従来のコンピューターが0か1のビットで計算するのに対し、量子ビットを使って並列計算を行う次世代コンピューター。理論上、特定の問題ではスーパーコンピューターを大幅に上回る計算速度を実現できる。や再生医療は理論構築から技術開発の段階にあるため「深い」。
第二の軸:資本集約的度合い
技術開発や量産化に必要な投資額の大きさ。核融合原子核同士を融合させてエネルギーを得る技術。太陽が輝く原理と同じで、実用化すればクリーンで膨大なエネルギー源になると期待される。ただし実験炉の建設だけで数千億円規模の投資が必要。やバイオ医薬品などは数百億〜数千億円規模の資金が必要で、回収までの道のりが長い。「Jカーブを深く掘る」ファイナンス的な意味でもディープ。
技術開発が深いところでやらなければいけない、お金をいっぱい突っ込んで、お金が深い沼にはまっていくという意味でもディープだ。二つの意味でディープがあるっていう、そういうニュアンスなのかなと思ってます。
VCとディープテックの相性問題
長谷川さんから「VCの償還期限とディープテックの長い時間軸は合うのか?」という本質的な問いが投げかけられました。高宮さんは2000年代前半のクリーンテック太陽光発電、風力発電、リサイクル技術など、環境負荷を減らす技術分野の総称。2000年代にVCの投資ブームが起きたが、開発期間の長さと巨額の資金需要のため、多くが失敗に終わった。投資の失敗例を挙げ、当時はVCのモデルと合わなかったと振り返ります。
しかし現在は状況が変わりました。レイトステージ投資の増加でファンドが大型化し、数千億円規模の資金でディープテックの深いJカーブを乗り越えられるようになったのです。
日本の競争優位性はどこにあるか
「資本集約的なモデルで日本に競争優位性はあるのか?」という長谷川さんの二つ目の質問に対し、高宮さんは資金量では劣るものの、技術の筋の良さで勝負できると語ります。
国内最大級のVCでも700億円規模。アメリカのアンドリーセン・ホロウィッツシリコンバレーを代表するVC。略称a16z。2009年創業ながら1兆円規模のファンドを運用し、Facebook、Airbnb、Slackなど著名企業に初期から投資。やセコイア1972年創業の老舗VC。Apple、Google、PayPal、YouTubeなど数々の巨大企業を育て、「シリコンバレーで最も影響力のあるVC」とされる。が運用する数千億〜1兆円級には遠く及ばない。
量子コンピューター、再生医療などサイエンスが強い分野が存在。技術さえ強ければ、言語・文化の壁を越えて一気にグローバル市場を取れる。デファクトスタンダード事実上の標準。法律や公的機関が定めた正式な標準ではないが、市場で広く使われることで事実上の標準となった技術や規格のこと。VHSやWindowsが代表例。を取れば独占的構造を築ける。
高宮さんは「発明とイノベーション」の違いにも言及しました。ライト兄弟が飛行機を発明したこと自体は世の中を変えなかったが、太平洋横断飛行を実現した航空会社がグローバル化を進めた——実社会に影響を与えるのがイノベーションだという考え方です。
バイブコーディングがもたらす変化
話題は一転、ディープの反対側——超シャロー化した世界へ。長谷川さんが「バイブコーディングプログラミング不要で、自然言語の指示だけでアプリやサービスを開発できる技術。生成AIの進化により、非エンジニアでも数時間で実用的なプロダクトを作れるようになった。で一人でアプリを作れる時代、VCの支援はどう変わるのか?」と問いかけました。
シード期でも数千万〜数億円の資金が必要。エンジニア採用、オフィス、サーバー費用などに充当。VCの関与期間も長い。
AIがコーディング・マーケティング・カスタマーサポートを代行。初期費用は最小限で、収益化も早い。VCが必要な期間が極端に短くなる。
高宮さんは、コスト削減と収益化の早期化が同時に起きている「フライホイール」構造を指摘しました。お金がかからないから利益率が上がり、利益が出るからさらに資金調達が不要になる——こうした変化により、「お金を必要とする領域」がディープテック側にシフトしているといいます。
投資分野としてはそのディープな方が注目されて、お金いるのどこや?みたいな感じになってきてる
ディープテック投資の現在地
では、グロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP)はディープテックにどう向き合っているのでしょうか。高宮さんは過去の失敗と現在の違いを丁寧に整理しました。
| 項目 | 2000年代前半(失敗例) | 現在(チャンスあり) |
|---|---|---|
| 技術テーマ | デジカメ用画像素子、小型チップなど既存技術の改善 | AI、量子、再生医療など応用可能性が桁違いに大きい |
| 必要資金 | 数十億円だがVC業界が未成熟で調達困難 | 数百億円だがファンドが大型化し調達可能 |
| リターン見込み | 成功してもリターンは限定的 | デファクト取得で独占的構造を築ける |
GCPは最新の7号ファンド(727億円)の10〜20%をディープテックに配分しているそうです。3〜5号ファンドではほぼゼロだったことを考えると、明確な方針転換といえます。
ただしディープテックといっても領域は多岐にわたります。量子コンピューターと再生医療では専門知識がまったく異なるため、キャピタリストに求められる素養も変わってきています。
まとめ
高宮さんは最後に、技術専門家でなくてもディープテックに飛び込める時代だと強調しました。「技術そのものの専門家でなくても、それをビジネス化する専門家であれば飛び込める」——これは以前取り上げた「政治や経済のマクロとどう向き合うか」というテーマとも通じる話です。
ディープテックは政治・経済・社会・技術の四要素(PEST)のうち「T(Technology)」そのもの。自分の関心がある領域を見つけ、専門家と対話しながらビジネスを組み立てる——そこに大きなチャンスが広がっています。
- ディープテックには「技術開発の進捗度」と「資本集約度」の二軸がある
- ファンド大型化でVCがディープテックに投資できる環境が整った
- 日本は資金量では劣るが、量子・再生医療など技術の筋の良さで勝負できる
- バイブコーディングで超シャロー化が進み、シード期のVC需要が激減
- ディープテックは技術専門家でなくても、ビジネス化の専門性があれば飛び込める
