AI導入の2つの基本パターン
高宮さんは、AI導入には大きく分けて2つのアプローチがあると語ります。1つ目は出島型既存組織から独立した別チームを作り、新しい手法を試す戦略。出島のように本土と切り離されているため、既存の慣習に縛られず実験できる。です。
別組織を作って、AI駆動でとにかく全部AIでやる組織を作って、そこにクイックウィンで成功事例作らせて、あのチームあれで成功したよみたいになる。
出島型では、AI人材だけを集めた専門チームを立ち上げ、そこで成功事例を作ります。その後、そのチームを他部署に展開するか、あるいは出島単独で成長させて既存のやり方とカニバってもいいから自社で食う、という2つの選択肢があります。
2つ目は薄く広く型全組織に一斉に新しいツールや手法を導入し、全員で使うことを前提とするアプローチ。浸透のスピードは早いが、抵抗も大きくなりやすい。です。全組織でAIツールをみんなに支給し、まずは触るバリアを下げることから始めます。使うことを奨励し、組織全体で文化を作っていく方法です。
薄く広く型で使うアメとムチ
薄く広く型で全社展開する場合、高宮さんは「アメとムチの両方」が必要だと強調します。アメの例として、月に1回AIエージェントコンテストを開催し、優勝者には「AIエバンジェリスト」の称号や金一封を贈る仕組みを挙げました。
・月1回のAIコンテスト開催
・優勝者に称号や報奨金
・成功事例の全社共有
・月1回のAI専用デー設定
・人事評価項目に組み込み
・使わない人は評価減
一方、ムチの例としては、月に1回「この日はAIしか使っちゃダメ」という日を設けたり、人事評価の項目にAI活用を組み込んで、使わない人は評価が下がる仕組みを作ることが挙げられました。
高宮さんは、「これってAIに限らず、新しいことをやるためのセオリー」だと語ります。組織の文化を変えるには、放っておいても動かないからこそ、最初は人力でも気合で押し始める必要があるというわけです。
レッドゾーンの設定とリテラシー
一方で、薄く広く型でAIを全社展開する場合、触ってはいけない「レッドゾーン」の設定が重要だと高宮さんは指摘します。たとえば、データベースのマスターや決済、セキュリティなど、ミッションクリティカル事業の中核を担う重要な部分のこと。ここに問題が起きると事業全体に深刻な影響が出るため、慎重な運用が求められる。な部分にノンエンジニアが安易にAIを使うとリスクが大きいからです。
そこはあれですか、経営陣の一定リテラシーが求められるですね。
そこはトップダウンで一定のルールの下やんないとダメだと思うんですね。野放図にみんな全部やれみたいなのはさすがにそれは危ない。
レッドゾーンの線引きは、経営陣やCTO、AI人材とタッグを組んで決める必要があります。また、組織のAI習熟度が上がるにつれて、レッドゾーンは徐々に後退していくものだと高宮さんは語ります。
ボトムアップで広げる実践例
長谷川さんは、自身が福祉業界で経験したボトムアップの実践例を語ります。スタートアップ業界に近い環境から、シニアが多い福祉業界に移り、まさに「テクノロジーとの距離がある環境」でAI導入を進めてきました。
僕と僕のチームというか、一番ちっちゃいところから始めて、一人に教えて、そのチームに教えて、成功事例ができて、他の事業所に広がってって。
長谷川さんのアプローチは、まず自分一人で使い、次にチーム、事業所へと段階的に広げていく方法でした。口で説明しても伝わらないため、「勝手にやって結果を見せてから承認を得る」という順番が効果的だったと振り返ります。
高宮さんは、このアプローチを「ミッションクリティカル度が低く、自分完結度が高いところから始めて、徐々に広げていく」と整理します。まずは手作業で2時間かかっていたことをAIで一発でやるような、リスクの低い業務から始めるのがセオリーだと語ります。
日本型組織とAI導入の親和性
高宮さんは、ボトムアップのAI導入は日本の得意技である改善サークル日本の製造業で生まれた、現場の従業員が自主的に業務改善を行う活動。小集団で問題を発見し、解決策を考え、実行する。トヨタ生産方式などで有名。や改善活動に似ていると指摘します。
改善サークルでは、現場のメンバーが自分たちでアイデアを出し、やってみて、成功したら表彰される。それが他の工場にも横展開され、組織全体の改善文化が育つ。この「普遍的な文化と活動の仕組み」は、AI導入にもそのまま当てはまるというわけです。
一方で、日本はすり合わせ型組織ジョブディスクリプション(職務記述書)が明確でなく、各メンバーの役割がオーバーラップしながら協力し合う組織形態。日本の大企業に多く見られる。モジュラー型(役割が明確に分かれている)の対義語。が多く、「この機能をこの人が担っている」という1対1対応がないため、「ここをAIで置き換える」という切り分けがやりにくいという課題もあります。たとえば、Meta旧Facebook。マーク・ザッカーバーグが創業したSNS大手。Instagram、WhatsAppなども傘下に持つ。が社員の10%をリストラしてAIに置き換えるのは比較的やりやすいですが、日本企業ではそう簡単ではないという話です。
戦略と仕組みの整合性
話は、「AIでどの業務を自社開発すべきか」という経営判断に移ります。高宮さんは、既存のSaaSがある場合、それを車輪の再発明で自社開発する意味があるかは、ROI(投資対効果)と競争優位性で判断すべきだと語ります。
→ 戦略次第で自社開発
→ 自社開発すべき
→ 既存SaaSを使う
→ 車輪の再発明を検討
たとえば、リッツカールトン世界的に有名な高級ホテルチェーン。一人ひとりの顧客に合わせた細やかなサービス(ホスピタリティ)で知られる。従業員が顧客の好みを記録し、次回以降のサービスに活かす文化がある。のように、一人ひとりの顧客に合わせたホスピタリティが競争優位の源泉なら、それを支えるCRMシステムは自社で作るべきです。一方、コスパ重視で量を捌くビジネスモデルなら、業界標準の安いSaaSを使う方が合理的かもしれません。
戦略とやっぱり仕組みの整合性が取れている。逆に言うと戦略はWhyに否定されるみたいな。
高宮さんは、戦略(What)は目的(Why)に従い、仕組み・プロセスは戦略に従うという階層構造を強調します。福祉業界のリッツカールトンここでは比喩として使われている。福祉業界で「リッツカールトンを目指す」とは、一人ひとりの利用者に寄り添ったプレミアムなサービスを提供する戦略を意味する。を目指すなら、プレミアム戦略に合った仕組みを作る。万人がアクセス可能なコスパ重視の福祉を展開したいなら、コスト効率を最優先する仕組みが必要だというわけです。
長谷川さんは、今回の回で「仕組みやプロセス」という視点が新鮮だったと語り、次回は7Sマッキンゼーが開発した組織分析フレームワーク。Strategy(戦略)、Structure(組織構造)、System(仕組み)、Staff(人材)、Skill(スキル)、Style(スタイル)、Shared Value(共通価値観)の7要素で組織を整理する。などのフレームワークを取り上げることを予告しました。
まとめ
今回は、リスナーからの質問をきっかけに、AI導入の戦略論を深掘りしました。出島型と薄く広く型の2つのパターン、アメとムチの使い分け、レッドゾーンの設定、ボトムアップで広げる実践例、日本型組織との親和性、そして戦略と仕組みの整合性まで、幅広いテーマが語られました。
高宮さんは、「組織の文化を変えるには、ボトムアップな活動にならざるを得ない」と強調します。一方で、レッドゾーンの設定やROI判断は経営陣の役割です。AI導入は単なるツール導入ではなく、組織文化を変える取り組みであり、日本の得意技である改善サークルの現代版とも言えるかもしれません。
次回は、フレームワークの基本と7Sを取り上げる予定です。ぜひお楽しみに。
- AI導入には「出島型」と「薄く広く型」の2つのアプローチがある
- 薄く広く型では、アメ(奨励・褒賞)とムチ(強制・評価)の両方が必要
- ミッションクリティカルな部分には「レッドゾーン」を設定し、慎重に扱う
- ボトムアップで小さく始めて成功事例を作り、徐々に広げるのが効果的
- AI導入は日本の改善サークル文化と親和性が高い
- 戦略(What)は目的(Why)に従い、仕組みは戦略に従う
