編集長ではなかった!? トネリライナーノーツの始まり
「トネリライナーノーツってモテるために作られたメディア」──と語り出したおしょうですが、すぐに「全然嘘だわ」と訂正。そもそも当初の編集長はおしょうではありませんでした。
始まりは全楽寺フリーコーヒーおしょうの寺の駐車場で毎週末に無料でコーヒーを振る舞う活動。番組の告知でも紹介されている。で知り合ったプロのライターとウェブディレクターとの雑談。「ローカルメディアを作りたいね」という話から、仲良し6人で法人を立ち上げ、そのライターが初代編集長になったといいます。
しかしライターは本業が忙しく手が回らず、さらにコロナ禍が直撃して「法人崩壊」に。残ったのは代表理事だったおしょうと、「トネリライナーノーツ」という箱だけでした。こうしておしょうが編集長を引き継ぎ、元編集長は副編集長として残る形になりました。
もう残った、俺が頑張れそうな残ったやつが、トネリライナーノーツっていう箱しかなかったの。
気になるのは編集経験の有無。おしょうは「ない」と即答します。小説を書いていた時期はあったものの鳴かず飛ばずで、「どう考えてもお前は小説家側じゃなくて編集者側だぞ」と当時の自分に言ってあげたいのだとか。早稲田の商学部(通称「チャラ商」)出身で、文学部的な編集の素養には縁がなかったと振り返ります。
記事を量産した「ポートレート」時代
編集を独学するきっかけになったのが、幻冬舎の編集者・箕輪厚介幻冬舎の編集者。「NewsPicks Books」などのヒット書籍を手がけたことで知られる。さんの手がける「NewsPicks Books」でした。その中で読んだ批評家・宇野常寛批評家。著書『遅いインターネット』などで知られ、オンラインサロンで文章講座も行っていた。さんの『遅いインターネット』に感銘を受け、宇野さんのオンラインサロンに入って文章の作り方を「見よう見まね」で学んだといいます。
とはいえ初期は骨太な記事などなく、「ただ記事を増やすだけ」の状態。ウェブディレクターに「100記事を超えたらPVが伸びる」と言われ(実際はそうでもなかったそうですが)、とにかく量産を目指しました。
そこで生まれたのが「トネリライナーポートレート」です。取材記事はカロリーが高く、当時はAIもなかったため手間がかかりすぎました。そこで、つながっている人の写真を撮り、テキストメッセージでコメントをもらって記事にする、という軽量な方法で数を増やしていったのです。
つながっている人に声かけ
インスタなどで見た情報や人物をピックアップ
写真+テキストメッセージ
写真を撮り、本人からコメントをもらう
ライトな記事として量産
5日に3本のペースで公開
この時期を支えたのが、当時学生で「レタッチすら知らない」駆け出しのカメラマン・山本陸さんと、副編集長の井上さんの3人体制。陸さんはnoteの自分語り記事が面白く、地域の物語の初期には彼が写真も記事も手がけた作品が残っているそうです。
取材は好き、ライティングは地獄
「一度やめようかな」と思っていた時期に、食べる場の川野文さんの紹介で清水いずみさんと出会います。おしょうは「しいちゃんが入らなかったらやめてた」と語り、彼女の参加が転機になったことを明かしました。
いずみさんが加わったことで手が空き、骨太な取材記事が作れるようになります。おしょうが取材し、いずみさんがテキスト化と一次編集、陸さんが撮影、最後におしょうが仕上げる──この分業でクオリティが一気に上がりました。今では学生や、いずみさん自身が聞き役として取材することも増えているといいます。
おしょうにとって取材は楽しい作業。自分から声をかけている=相手の話を聞きたいと思っているからです。一方でライティングは「地獄」「もうやりたくない」と本音を吐露します。かつて小説家を志した人物が「文字を書きたくない」と言うのは矛盾のようですが、いずみさんはその理由をこう分析しました。
自分が言いたいことを垂れ流す文章は気楽。でも誰かの目に触れる目的のある文章は、それがわからないからつらい、という感覚ですかね。
おしょうも深く同意し、宇野さんの言葉を紹介します。「価値転倒していないテキストには価値がない」という考え方です。
情報メディアではなく「資産」になるメディア
展望を問われたおしょうが強調したのが「資産になるメディア」という考え方です。一般的な情報メディアは「◯月◯日オープン」といったインフォメーションが中心。しかしそれは期限切れで消えてしまい、資産にはならないと指摘します。
「◯月◯日オープン」などのインフォメーション中心。X(Twitter)っぽく、期限が来ると価値が消える。
人物や物語を記事化。noteっぽく、書いたものが資産として蓄積されていく。
実例として挙がったのが、7人の子を持つ足立区で有名なあさこさん。テレビ出演後に検索すると、トネリライナーノーツの記事が上位にヒットし、人物像が伝わるといいます。これは検索上位に「骨太で価値のあるもの」を置いておく、という宇野さんの『遅いインターネット』の思想の影響だとおしょうは語ります。
いずみさんも、ジョイン前に周囲へヒアリングした際、同じ使われ方を確認していました。足立区内で活動する人が「この領域に詳しい人は誰か」を探すとき、まずトネリライナーノーツで人物を検索している、というのです。
ウェブページの虫眼鏡で名前を入れると関連記事が出てくる。そういう「人物調べ」に使ってるって結構聞いたんです。
それは全然狙い通りだね。
すべてはモテのため──応援の循環という仕組み
トネリライナーノーツ最大の資産は、ウェブ上の記事だけではありません。おしょうが「一番の価値」と断言するのが、取材した人たちとの「えげつない数のメッセージグループ」です。日常的に連絡を取り合い、いろんな活動に生かせる関係を築いているのです。
一般的なメディアは「取材してコンテンツができておしまい」になりがち。しかしトネリライナーノーツは取材後もつながり続けます。だからこそ「ガチャダチクラブのゲストに立ちませんか」と声をかけられるし、「一緒にやりましょう」につながる。そして、そのベースにあるのが“モテ”だとおしょうは語ります。
いずみさんは、おしょうの動き方を「編集の視点」だと表現します。新しいプロジェクトが立ち上がると、つながりのある人の中から「誰に、どの組み合わせで頼めるか」をまず考える。それはテキストを編集するのと同じ感覚だとおしょうも同意します。
おしょうは、これまで自分をハブに広げてきたつながりが、ガチャダチクラブによって「アメーバ化」していくと表現します。自分が最初につないだとしても、その後は自分がいなくても人同士がつながりやすくなる、というのです。いずみさんはこれを「応援の循環」と言い換えました。番組では応援を「ポジティブなコミュニケーション」と定義しており、それがコミュニティの中で循環していく仕組みだといいます。
記事に載った人にどう活用してもらうか
いずみさんは課題を投げかけます。「記事に載った人に、どう活用してもらいたいか」。おしょうは「メディア慣れしていないと感じることが多い」と答えます。データ上、記事をシェアしない人の記事は読まれにくく、逆にシェアしてくれる人の記事はよく読まれるからです。
おしょうがメディアの価値として挙げたのが「三人称の信用」です。
「僕たちはこの日にやります」──自分で言っている。
「彼らはこの日にやります」──メディアが言うことで信用が生まれる。
ただし、いずみさんはここで大切な心理を補足します。自分の顔写真や個人的な話が世に出ることは「嬉しいけど恥ずかしい」という気持ちがある、というのです。取材相手から「嬉しいけど恥ずかしいです」というコメントが返ってくることに気づいた彼女は、自身も初取材のときに「この記事をどうしていいかわからなかった」と振り返ります。
載った方々も活用してもっと活動や仕事がうまくいったら嬉しい。このメディアがどれだけ影響を与えたのか、そこを意識したいなって。
だからこそ、「よかったらシェアしてくださいね」と伝えるなど、活用してもらう働きかけを意識したい──それが今の課題だと語られました。
今後の展望──グッズ、お守り、クラフトジン
ウェブメディアは構造上マネタイズが難しい、とおしょうは言います。大手メディアは広告モデルでPV争いをしていますが、トネリライナーノーツはそこに参加していません。お金はトントンで回っており、その分「いい記事を作ろう」という自由度が高い一方、PVを追う施策はほとんど手つかずだといいます。
検索でウェブページを探す行動自体が減り、AIに聞く時代になりつつある中で「どうなっていくんだろうね」と二人は語り合います。数字で戦わないなら、影響力の価値をどこに置くのか──その答えとして、おしょうは「次はグッズ」だと考えていることを明かしました。
記事に出た人が関わるプロダクト・サービス
ローカルのものを一緒に作って売る
売れると元になったところに還元される
リアルな場(ガチャダチクラブ)を強みに展開
ウェブやSNSが得意でない分、強みはローカルでのリアル戦。ガチャダチクラブという場を活かして地域の人たちの商品やサービスを一緒に作る、という発想です。その具体例が、いま話題の「お守り」。ただし温度感は「半分以上ノリ」だそう。一人で作るのはつまらないので、関わる人を同じくらいのノリに巻き込みたい、というのがおしょうの流儀です。
一緒に関わる人が損しなきゃいいと思ってる。うちが失敗したら被る、うまくいけばみんなハッピーみたいな。
もう一つのアイデアが「クラフトジン」。名前も何となく決まっていて、「売れれば売れるほど子ども団体にお金が行き渡る」という物語を描いています。自分の住む土地で仲間と作ったプロダクトなら、それぞれが勧めたくなり、応援したい人の元に届く循環になる──いずみさんもその狙いに共感します。
ただし、あれもこれもと言いつつ、おしょうは「まずは雑誌をちゃんとやらないと怒られる」と現実に立ち返ります。協力してくれる多くの人がいるからこそ、本業の僧侶業と並行しつつ、優先順位をつけて進める必要があるのです。理想は「意思決定はするけれど、関わらなくても回っていく」状態だと締めくくりました。
まとめ
トネリライナーノーツは、編集未経験のおしょうが「箱だけ残った」状態から引き継ぎ、ポートレートで量産する時期を経て、仲間との分業で骨太な取材メディアへと育ってきました。その根底にあるのは、つながった人たちに“モテたい”という思いです。
記事は検索上位に残る「資産」となり、取材後も続くメッセージグループが最大の価値になります。三人称の信用を持つメディアを、載った人にどう活用してもらうか。そして数字ではなく、グッズやクラフトジンといったリアルなプロダクトを通じて応援を循環させていく──それがこのメディアの次のフェーズとして語られました。すべてが“モテ”と“応援の循環”につながっていく回でした。
- トネリライナーノーツはコロナ禍で法人が崩れた後、おしょうが編集長を引き継いで続けてきたローカルメディア
- 初期はポートレートで記事を量産、いずみさんの参加を機に分業で骨太な取材記事へ進化した
- 「情報メディア」ではなく、検索上位に残る「資産になるメディア」を目指している
- 最大の価値は取材後も続くつながり。その根底には「つながった人にモテたい」という思いがある
- 三人称のメディアは信用が高く、載った人にシェア・活用してもらうことが課題
- 今後はグッズ・お守り・クラフトジンなど、リアルなプロダクトで応援の循環を広げていく構想
