応援したくなる「余白」とは何か
この回の入り口になったのは、にぎりむすびの代表・山本明子さん(通称あきさん)の人柄でした。おしょうは彼女を「応援しやすい人」だと表現します。前回テーマになった「応援しづらい人」の逆で、あきさんには「余白」がとても多いのだといいます。
たとえば、原価計算のエクセルの使い方がわからず、移動中のおしょうに電話をかけてくる。おしょうは相手の情報を聞きながら計算式を教える。そんな「できないことが本当にできない」チャーミングさが、周囲の「やってあげたくなる」気持ちを引き出しているというのです。
余白がすごい多いっていうか、めちゃくちゃチャーミングなんだけど、できないことが本当にできない。
興味深いのは、おしょう自身は正反対のスタンスだという点です。頼られる数が多いぶん、自分は「人にやってもらう」ことを最初に考える。禅学寺の寺院運営も、4人の職員に実行をほぼ任せているといいます。頼る/頼られるの両極を知る人だからこそ、「余白の多さ」が持つ引力に敏感なのかもしれません。
にぎりむすびが生まれるまでの経緯
にぎりむすびは、足立区・東伊興の「寺町」と呼ばれる地域にあります。もともとの発端は、あきさんが「ママと未就学児が集まれる拠点(コミュニティ)を作りたい」と考えたこと。しかしコミュニティそのものには事業性がありません。そこで生まれたのが、おにぎり屋「にぎりむすび」でした。
経緯は簡単ではありませんでした。数百万円の改修費がかかる物件が見つかり、当初はおしょうが運営する一般社団法人(THE 12TH PLAYERおしょうが運営する一般社団法人。地域メディア「トネリライナーノーツ」の母体にあたる組織として番組内で語られています。/トネリライナーノーツの母体)の中で、男性5人+あきさんの6人で始めようとしていました。しかしスタート直後にコロナ禍が来て、人間関係を含め法人は崩壊状態に。事業担当だったメンバーが音信不通になるなか、工事の期限が刻々と迫っていました。
そんな緊迫した場面で、おしょうが居酒屋で発した一言が転機になります。
もう、軽い感じで。おにぎり屋でもやればって。
この軽い提案に周囲が乗り、体制が固まります。おしょうが事業担当、小学校の同級生でカフェ「トリコ」を営む長村さんが商品開発担当、子ども食堂「食べる場」代表のあやさんが営業担当、あきさんが代表。年齢に関係なく全員タメ口で行こうと決め、「にぎりむすび」がスタートしました。
あきさんの想い
ママと未就学児が集まれる拠点を作りたい
物件は見つかったがコミュニティに事業性がない
法人での立ち上げを試みるもコロナ禍で崩壊状態に
「おにぎり屋でもやれば」
事業・商品開発・営業・代表の4役で「にぎりむすび」が始動
アクセスの悪い立地で始まった苦戦
ここでおしょうは、飲食店を始める人への警告を口にします。にぎりむすびがある場所は、竹ノ塚駅から徒歩15分以上。周囲は大きな寺が多く、じつは世帯数が少ない地域です。つまり「アクセスが悪いのに、単価の低いおにぎりを売る」という、飲食としては厳しい条件でした。
実際、初日に「これ3ヶ月で潰れるわ」とおしょうは感じたといいます。全員出勤で人件費がかさむ一方、おにぎりは1個200円程度。何個売れば人件費をまかなえるのかと計算するほどでした。さらにオープン当初は提供スピードが遅く、味も十分ではなかったといいます。
そこでおしょうは、日本一と評される大塚の伝説的おにぎり屋ぼんご東京・大塚にあるおにぎり専門店。行列のできる名店として知られ、番組内では「日本一・伝説のおにぎり屋」と紹介されています。の動画をスタッフに徹底的に見せ、ストップウォッチで提供時間を計り、味を見比べる指導を行いました。あえて煽るような言い方で嫌われ役を買い、時にはスタッフを泣かせてしまうほどだったといいます。だし巻き卵作りに苦戦する長村さんに「そんなんだったら出さなくていい」と言ってしまったエピソードも語られました。
でもそこでちゃんと嫌われ役を買って、なんとか美味しいおにぎり作らないと潰れちゃうっていうね。
その甲斐あって、いまのにぎりむすびのおにぎりは大きく味が向上。清水も「めちゃくちゃ美味しい」と太鼓判を押します。当初来て「あまり美味しくない」と感じた人こそ、もう一度足を運んでほしい、とおしょうは呼びかけました。なお、おしょうは事業計画をあまり立てず、現在地を知るための数字だけは出すというスタンスも明かされました。
「にぎりむすびギフト」という発明
数字を見て「潰れる」と危機感を抱いたおしょうは、編集者の視点で「にぎりむすびのコアな価値は何か」を考えます。たどり着いた答えは、出汁もすべて手作りで「美味しくて栄養が取れる食事」であること。チェーン店が多い地域で、この差別化ポイントは際立っていました。
次に「では誰に届けるべきか」を考え、コロナ禍で栄養ある食事が給食に偏りがちな子どもたちに焦点を当てます。ただし直接ではなく、子ども食堂やNPOを通じて届ける形に。資金は足立区の経営者などに支援してもらい、支援企業はトネリライナーノーツで「どの団体の子どもが食べたか」を発信する——この循環が「にぎりむすびギフト」の骨格になりました。
この仕組みは、フードロス対策も兼ねていました。仕込んであった食材を基本に使うことで、食品を無駄にしない設計になっていたのです。ただ、アイデアを最初に伝えたときの、あきさん・あやさんの反応は「薄かった」といいます。おしょうは「熱いうちに打て」とばかりに、つながりのある経営者に月額8,800円の支援を直談判。6社ほどが賛同してくれました。一方で、ある信用金庫からは「そんなことやるの意味ない」と一蹴された、忘れられない出来事もあったと明かします。
ギフトは2021年6月にスタート。事業を一気に加速させるため、あきさん自身を主役にクラウドファンディングを実施し、約200人から支援を集めました。認知・売上・子どもへの提供が同時に回りはじめ、あきさんもあやさんも手応えを掴んでいきます。誰の支援がどの団体に届いたかを全て公開したことも、おしょうにとって重要なポイントでした。
ボランティアに頼り切らない事業設計
話題は、コミュニティや自主的な活動をどう回すかへ移ります。おしょうは、法人立ち上げ当初に「みんながそれぞれの分野でやってくれる」と期待しすぎたと振り返ります。実際には誰もあまり動かず、ショックを受けたといいます。反省点として挙げたのが「やり方が民主主義すぎた」こと。スピードを求めるなら、最初は独裁的に進めた方が早いという学びでした。
やっぱ最初は独裁の方が早いよね。
特にお金が発生しない活動では、個人のやる気に頼るとうまくいかない場面が続出します。ここでおしょうが明かしたのが、ボランティアへの考え方です。ボランティアとして関わる人自身は否定しない。しかし「サービス主がボランティアからやってもらう発想だけで進むのは危険」だと考えているといいます。
だからこそ、にぎりむすびギフトの配送は、団体側に取りに来てもらうか、報酬を払っているスタッフやあきさんが届けるか、という設計になっています。ボランティアだけに依存しない仕組みにしたのです。
好きでやる・応援したい気持ちでのボランティアは全然いい。適度な距離感で関われるという良さもある
「ボランティアからやってもらう」前提だけで事業を回すのは危険。負担を強いる設計にはしない
清水も、自身のボランティア経験から「自分のペースでやれる良さもある」と共感。どちらが正解ということではなく、運営側がどう仕組みを決めるかが要点だと二人は確認し合いました。
みんなが幸せになる仕組みを考える
おしょうは、自分は経営者として向いていないかもしれない、と率直に語ります。「儲かるか」という視点があまりなく、事業計画も立てない。その代わり、「そのサービスでみんなが幸せになるか」を強く考えるといいます。僧侶としての価値観が、事業づくりの根っこにあるようです。
関わる人が不幸な顔をしていたら、そのプロジェクトはつらい。だから、うまくいかなければやめる判断も大切だと語ります。実際、北千住のガチアダチクラブおしょうが関わる、曜日ごとにスタッフが替わる形態の飲食の取り組み。番組では、お酒の単価で売上を確保しつつファンとの距離が近い場として語られています。では、大学生スタッフと話し合って辞めることもあると明かします。「うちにいて楽しめないなら辞めた方がいい」という考えです。一方で、飲食店経営者としては「辞められると困る」現実もある、と正直に付け加えました。
ちなみにおしょうは、注文を受けて握りたてを皿に置かず「手渡し」で食べてもらう提供法を推しています。試食のときに一番おいしかったのがその食べ方で、「寿司よりうまい」ほど温度が大事なのだといいます。関わる人の幸せと、商品そのものの魅力。その両輪を大切にする姿勢が、にぎりむすびが続く理由につながっているようです。
最後に、あきさんのエピソードがひとつ紹介されました。ある団体が食事を取りに来ず、連絡すると逆に「忙しいから無理」と返された際、あきさんは珍しく泣きながら怒ったといいます。「食べ物を粗末にするなんて信じられない」——その熱量に、彼女が本気で食を大事にし、届けたいと願っていることが表れていました。
まとめ
第4回は、にぎりむすびとにぎりむすびギフトの成り立ちを通して、「応援される力=モテ」の本質に迫る回でした。応援したくなる「余白」を持つあきさんと、責任感から嫌われ役も引き受け、みんなが幸せになる仕組みを考えるおしょう。異なるタイプの二人が組んだからこそ、厳しい立地の小さなおにぎり屋が5年近く続き、子どもたちへの食支援まで広がったのだと感じられます。
事業計画より「誰が幸せになるか」を先に置く発想、ボランティアに頼り切らない設計、そして辞める判断も含めた関係性の見つめ方。どれも、仕事やコミュニティ運営に通じるヒントでした。次回のにぎりむすびナイトは3月28日に予定されているとのことです。
- 「できないことができない」あきさんの“余白”が、周囲の「やってあげたくなる」気持ち=応援されやすさを生んでいる
- にぎりむすびは、あきさんの「拠点を作りたい」という想いから、事業性を持たせるために始まったおにぎり屋
- アクセスの悪い立地×低単価という不利な条件を、味の徹底追求と「にぎりむすびギフト」で乗り越えた
- ギフトは、スポンサーの支援で子どもへ食事を届け、フードロスも抑える循環型の仕組み(元ネタは西野亮廣さんの絵本サービス)
- ボランティアに頼り切らず、関わる全員が幸せになる仕組みを優先するのが、おしょうの事業づくりの軸
