ヴェルサーチを着たガイドと巡る地下宮殿
イスタンブール編の終盤となるこの回は、滞在最終日に現地で収録されています。渡邉さんと荒木さんはこの日が最終日で、深井さんはフライトを変更して翌日の夕方に帰国する予定だと話します。
3人がまず口にしたのは、イスタンブールの予想外の寒さです。気温は2度から4度ほどで、前日は一日中雨と強風、雪の予報も出ていました。
なんとなくその中東と続いて暖かそう気味な感じかなと思って。ちょっと軽めの冬服持ってきたら極寒だったみたいな。
だからさ、軽めの冬服マジミスった。ほんと。
寒さの話のあと、3人は前日の行程を振り返り始めます。最初に訪れたのは、東ローマ帝国時代に作られた地下貯水槽「地下宮殿」でした。
地下宮殿を訪れたきっかけは、以前の料理体験が良かったことから、Airbnbのエクスペリエンスでローカルの人に会いつつ歴史的な遺物も見たい、という希望が重なったことでした。翌朝すぐ予約できる体験としてバシリカ・シスタン ── イスタンブール旧市街にある東ローマ帝国時代の地下貯水槽。多数の柱が並ぶ幻想的な空間で、地下宮殿とも呼ばれますのガイドツアーを見つけたといいます。
ただ渡邉さんは、予約したあとで、地下宮殿はチケットを買えば一人でも入れる場所だと気づきます。さらに予約後には「日本語を流暢に話す人について行かないこと」という注意メッセージが5回ほど届いたそうです。
でも実際に会場前で彼本人と会った時にエアビーとか言って聞かれて、いや、お前が怪しいみたいな。
当日現れたガイドは、黄色や金色のディテールが入ったヴェルサーチのジャンパーとポシェットに身を包み、Airbnbの帽子をかぶった陽気な男性でした。雨宿りしていた露店の屋根の下から出てきたため、深井さんは最初、露店の人かと思ったと振り返ります。
地下宮殿の実際の規模について、渡邉さんは数字を挙げて説明しています。大理石の柱が天井を支える空間で、普通の体育館よりずっと大きいといいます。
深井さんによれば、地下宮殿はコンスタンティノープル時代に水不足を解消するために作られた貯水槽です。現在は幻想的なライトアップで、映えるスポットとして日本人観光客も多く訪れているそうです。
ガイドはiPadでローマ時代の水道の構造を見せたり、地下宮殿が『007 ロシアより愛をこめて』や『インフェルノ』の撮影に使われたことを紹介したりしました。『インフェルノ』の最終場面は、トム・ハンクスのスケジュールが合わずスタジオで作り直したと聞き、3人は人件費の高さに驚いています。
そうだよね。予定合わせるより作った方が安いってことだもんね。
ローマ人が作り、オスマン人が征服した貯水槽の物語
地下宮殿のガイドは「伝説によると」と前置きしながら、設計やデザインの理由を複数の仮説とともに説明していました。ガイドの訛りが強く聞き取れなかったという荒木さんのために、渡邉さんが内容を整理し直します。
渡邉さんの記憶では、都市を作るにはまず水のインフラが必要で、ローマ帝国時代にこの貯水槽が確保されました。その後オスマン人がやってきたとき、征服のためにまずインフラを破壊したといいます。
ガイドの説明によると、オスマン人が貯水槽を再利用しなかったのは、イスラム教徒には流れる水しか飲んではいけないという戒律があったからだそうです。一方で、水が足元ほどに減った後も、飲料以外の庭や家事の水として使われ、鯉が飼われていたといいます。
地下宮殿の鯉には、毒味の役割もあったとガイドは説明しました。食事をまず鯉に与え、魚が生きているかどうかで安全を判断していたという話です。
地下宮殿の大理石の柱の下には、小さな印が彫られています。ガイドによれば、これは石工たちが工房のロゴとして使ったもので、柱が長持ちすれば次の仕事が舞い込み、壊れれば死刑になるほどの仕打ちを受けたそうです。
地下宮殿の柱の土台には、メデューサの顔を彫った大理石が3つ使われています。横向きや逆さなど意味ありげに並んでいますが、高さを調整するために別の場所から持ってきたものだと説明されました。
メデューサを見た瞬間、深井さんは「だからあのガイドはヴェルサーチを着ているのか」と気づいたといいます。ヴェルサーチのシンボルがメデューサだからです。ガイド本人も、稼いだお金はすべてヴェルサーチにつぎ込むと決めていて、「メデューサは金のかかる彼女なんだよ」と冗談を言っていたそうです。
まあやっぱガイドいた方が良かったなって最終的には思った。
柱にこんな印ありますとか、ライトでパッて見せてくれたり、あれ多分絶対気づけない。
ガイドの説明の締めくくりは、地下宮殿の歴史を一言でまとめたフレーズでした。3人はこの言い回しに笑ったといいます。
荒木さんは、地下の貯水槽に行かなくても地上のタワーのような設備で水位がわかる仕組みがあったという話に感心しています。渡邉さんはそこから、ローマでは政治イコール土木という感覚を受けたと語りました。
確かにね、やっぱ兵馬俑ぐらいじゃないと対抗できない感覚あった。
昼に入ったピデの店と「驚きに満ちた普通」のウォシュレット
地下宮殿のあと、3人は昼食を取ります。目当てのカフェが潰れて別の店に変わっており、たまたま入ったのが、細長いトルコ風ピザピデ ── トルコの伝統的な料理で、細長い舟形の生地に肉やチーズをのせて焼いたもの。トルコ風ピザとも呼ばれますの店でした。
ピデの店のスタッフは、白地に小さな赤丸をあしらったTシャツを着ていました。渡邉さんは、グラフィックデザインとして洗練されていて、日本の愛国的な雰囲気ではまったくなかったと話します。
店では角切り肉、ひき肉、ブルーチーズとカッテージチーズなどのピデを注文しました。テーブルクロス代わりの薄紙に注文をペンで直接書き込み、みんなで落書きするような楽しさもあったそうです。
一方で、ピデの店では英語がほとんど通じませんでした。おしゃれな店なので水タバコバーのおすすめを聞いたところ、時間をかけて確認してくれた末に「ホテルの最寄り駅に行けばある」と教えられたといいます。
このピデの店で印象に残ったのは、電動ウォシュレットでした。渡邉さんによると、宿泊中のホテルのトイレは電動ではなく、便器の中に余分な蛇口が付いていて、ひねると水が出るという物理的な仕組みだったそうです。
直接便器の中に入り込んでる水道口、エクストラ水道口を目撃したのはちょっと初めてだったかもしれない。
と思ったら、なんかそこのピザ屋さんには電動ウォシュレットがあり、で、押してみたら普通だった。めちゃくちゃ普通。
なんかものすごい驚きに満ちた普通だった。
昼のシーシャバーにいたのはトルコ麻雀のおじさんたち
雨の中を散歩したあと、3人は勧められたシーシャバーに向かいます。ところが着いてみると、昼のシーシャバーはおじさんたちがたむろする雀荘のような場所でした。
シーシャバーの地下では、4人が麻雀に似た薄い札のゲームを囲んでいました。調べるとオケイ ── トルコで広く遊ばれる、数字の書かれた牌を使うラミー系のテーブルゲーム。カフェなどで年配の男性が遊ぶ姿がよく見られますと呼ばれる、ラミー系のゲームだったそうです。1階のシーシャ席は誰もおらず、猫しかいませんでした。
ちょっと改めてなんだけど、夜なんだよね、多分シーシャって。
渡邉さんは、トルコのシーシャは夜のおじさんの立ち飲みのような位置づけなのかもしれないと推測しています。気を取り直した3人は、次の目的地であるハマムへ向かいました。
ハマムへの道中には骨董通りやハマム通りがあり、不思議な地区だったといいます。立ち寄った骨董屋では、広い店なのに店員が棚から棚へとにこにこしながらついてきて、3人はかなり怪しまれたと振り返ります。
1453年の建物のハマムは日本のスーパー銭湯に勝てるのか?
トルコ式の公衆浴場ハマム ── トルコをはじめ中東地域に伝わる蒸し風呂式の公衆浴場。温められた大理石の上で体を温め、垢すりやマッサージを受けるのが一般的ですは、深井さんの希望で、調べた中から一番歴史の古い施設を選びました。渡邉さんによると、建物は1453年頃にできたものだそうです。
渡邉さんのおすすめは、ハマムには水着を持っていくことです。今回の施設は混浴で、大きなタオルを1枚巻いて過ごす開放的な場所だったため、女性にはおすすめしにくいという声も出ています。
ハマムの大きな部屋全体はサウナのようになっていて、端には洗い場があります。部屋の中央のステージ状の場所で、直接温められた大理石の上にみんなで寝転がる仕組みで、渡邉さんは「言ってしまえば岩盤浴」と表現しています。
天井がやっぱりドーム型になってたから、あれはすごい神秘体験というか。
天井見ながらこう寝転がりながらドーム見ながら温まるの面白かった。
20分ほど温まると順番に呼ばれ、大理石のベッドで垢すりを受けます。渡邉さんは「まな板の上の鯉になる」と笑いつつ、力強い垢すりとマッサージのあと、熱された泡を体に載せられたことが気持ちよく、その後2時間ほど体が温かかったと話します。
ハマムの感想でまず出てきたのは、日本のスーパー銭湯との比較でした。荒木さんは、日本の銭湯やサウナのレベルの高さをかえって感じたといいます。
あそこの凄さは中世の時点で多分設備がほぼあんま変わらないから、昔からあるっていう意味ではめちゃくちゃすごいなと思うけど、技術的アップデートがあんまりないじゃん、古すぎて。
渡邉さんは、日本の岩盤浴には特徴の違う部屋がいくつもあるのに対し、歴史的なハマムはそうしたアップデートができない、してはいけない場所なのだと整理しています。荒木さんは、メフメト2世の征服の翌年ぐらいに作られた建物だという点に驚いています。
中世から設備がほぼ変わらず、ここでしかできない歴史的な体験ができる。技術的なアップデートはできない
岩盤浴の部屋が複数あるなど技術面も含めて充実し、総合的なクオリティが高い
ハマムのあと、3人はリラックスチェアでジンジャーティーとターキッシュデライト ── トルコの伝統菓子「ロクム」の英語名。でんぷんと砂糖を練り固め、ナッツや香料を加えた弾力のある甘いお菓子ですを味わいました。渡邉さんは、ハマムの人たちが日本に来たらどう思うだろうかと考え、それは「完全にテルマエ・ロマエ」だと話しています。
小説と同時に作られた『無垢の博物館』とは?
ハマムのあと、3人は急な坂道を上った先で、オルハン・パムクの『無垢の博物館』を見つけます。坂道は狭くて路上駐車も多く、水はけが悪いため道全体が小川のように水が流れ続けていたといいます。
渡邉さんによれば、オルハン・パムク ── トルコの小説家。2006年にノーベル文学賞を受賞し、イスタンブールを舞台にした作品で知られますは同名の小説と博物館を同時に作るプロジェクトとして『無垢の博物館』を手がけました。小説は1970〜80年代のイスタンブールの風景を感じ取れる作品だそうです。
渡邉さんの説明では、小説の主人公は婚約が決まっている富裕層の青年ケマルです。ケマルが遠い親戚の18歳の女性フュスンと危険な恋に落ち、彼女が触ったものや使ったものを執拗に集め続ける物語です。
博物館の壁には、フュスンの口紅がついたタバコの吸い殻が4000本あまり並んでいます。1本ずつ80年代の日付とともに標本のように留められ、いつどんな状況だったかが書かれていたそうです。
だから架空の物語なのに、現実の遺物とともに置いてあるっていうこと自体が、物語に没入するきっかけを作っているっていうのが一個あるし。
あとは普通の博物館って歴史的に重要な遺物が並ぶんだけど、あれはある個人の物語であるっていうのがやっぱりすごい面白くて。
『無垢の博物館』では、小説の章ごとに展示箱が1つずつあるようだと渡邉さんは推測しています。荒木さんは、小説を読んでいなくても、1つの箱に1つの物語が入っていそうだとわかる点が良かったと話します。
展示箱には、カーテンがなびく窓やイスタンブールの地図のほか、70年代の社会を示すものもありました。婚前交渉が女性にとってタブーで、公になれば新聞に目線入りの顔写真が載るという社会的制裁を示す箱では、そうした写真が数十枚並んでいたといいます。
最上階には手書きの原稿や、展示の構想スケッチも置かれていました。荒木さんはもともとオルハン・パムクの小説を持っていたものの、トルコ人作家だとは知らなかったそうで、この訪問をきっかけにちゃんと読もうと思ったと語ります。
俺はもう一回行こうかなと。で、オーディオガイドを聞いた方が多分いいんだろうなと思っていて。
「星2つ」の店と、イスタンブール最古のシーシャ専門店
『無垢の博物館』のあと、3人は縦に長く狭い喫茶店「NORRE」で時間をつぶします。荒木さんは、日本にはない建物のレイアウトが良かったと振り返ります。
夕食に向かったのは「People」というレストランです。深井さんが「星2つだからイスタンブールの本気を見よう」と言って選んだものの、行ってみると客は3人だけの大衆店でした。
「星2つ」の情報は、ChatGPTに聞いたものだったそうで、3人はハルシネーションだと笑います。ただ、カジュアルに地元の料理を食べられたという意味では良かったと渡邉さんは話しています。
僕はちょっと結果めちゃくちゃ美味しいなと思ったもの食えてないから、トルコで。世界三大料理の場所なのに。ちょっと本気知りたい、本当。
最後にタクシーで向かったのは、イスタンブールで最も歴史のあるシーシャ専門店という触れ込みの店でした。観光客も混じりつつ地元の人もいる大衆的な雰囲気が良かったと、3人とも満足しています。
深井さんはリスナー向けに、シーシャとはフレーバー付きの水タバコだと補足します。渡邉さんの説明では、タバコの葉を炭で熱し、その煙が水のフィルターを通って口に入る仕組みです。
シーシャ専門店ではお茶が次々に出され、会計は「水タバコいくつ、お茶何杯」と客が自己申告する方式でした。荒木さんはこれを「性善説に基づいたシステム」と表現し、料金も安かったそうです。
深井さんは、その場でGeminiにシーシャの歴史を聞いた内容を紹介します。AIの回答によれば、シーシャは次のように広まったとされています。
ムガル帝国
16世紀頃にインドで生まれる
ペルシャ
ペルシャへ伝わる
オスマン帝国
17世紀以降に到達し、爆発的に普及する
一方で渡邉さんは、Wikipediaには、たばこ総合研究センターの川渡邦男さんが2005年に「インド起源説が有力だが、いまだ水タバコの起源に定説はない」と述べたとあると紹介します。渡邉さんは、リサーチ系はAIだとやや心もとないと感想を漏らしました。
シーシャ専門店では、深井さんが炭を落としたり器をひっくり返したりして周囲の注目を集める一幕もありました。渡邉さんは「しっかり観光客しました」と笑い、旅の出来事の振り返りはこの回で終わりだと締めくくります。次回は、イスタンブールの総括や「旅とは何か」について現時点の仮説をまとめる予定です。
まとめ
この回は、冷え込むイスタンブールで3人が巡った1日を、現地で振り返る旅の雑談です。地下宮殿のガイドの語りやハマムの体験、個人の物語を展示する『無垢の博物館』を通じて、日本との違いや歴史の重みが具体的に語られています。
- 地下宮殿は高さ9メートル、柱336本の巨大な貯水槽で、ガイドの話から柱の印やメデューサの土台、ローマの土木力が見えてきた
- 1453年頃の建物のハマムは、技術的な更新ができないぶん、ここでしかできない歴史的体験だと整理された
- 『無垢の博物館』は、架空の物語を現実の遺物とともに展示し、個人の物語として見せる点が面白いと語られた
- AIが教えた「星2つ」の店やシーシャの起源の話から、リサーチをAIに頼る心もとなさも話題になった





