夕食の会話で常識が壊れるのはなぜか
超相対性理論のイスタンブール編は、この回で最終回を迎えます。渡邉さんの呼びかけで、3人は約4回分にわたって収録してきた旅のまとめと振り返りを始めました。
荒木さんがまず挙げたのは、旅の途中、主に夕食の時間に交わした会話です。荒木さんにとっては誰にも話していないようなことまで2人に共有でき、2人もそうした話をしてくれたといいます。
(夕食時に)お互いのいろんな、他に話してないようなこと、俺にとっては誰にも話してないようなこととか、結構二人に共有できて。それはやっぱ旅ならではの感じだったかな。
そうね、仲のいい友人との旅ならではって感じだよね。一緒にいる時間が長くないとなかなかできないなって感じ。
渡邉さんによれば、旅の体験は収録で棚卸しするため、夕食中はあえてその日の振り返りを避けていたそうです。ところが結局、取っておいたはずの話は収録でも一切しないまま忘れてしまったと笑います。
深井さんは、このメンバーと話すときの喜びとして「自分の常識が壊れる」ことを挙げました。他の友人とはあまり起こらないことが、この3人だと比較的高い頻度で起こるといいます。
自分の常識が壊れるってやつ。壊しに行ってるよね、自ら。
深井さんの説明では、自分が感じないことを「なぜそう感じるのか」と尋ねると、2人から高い解像度で答えが返ってきます。そのため自分との差分を比べやすく、持っていない感覚を自分の中で再現できるのだそうです。
すごいディテールというか解像度で返ってくるから、自分との差分比較が相当しやすいので、相対化しやすくなって、自分の中でメイクセンスしやすい。
差分に気づく
自分と相手の感覚の違いに目を向ける
理由を尋ねる
自分はそう感じないが、なぜそう感じるのかを聞く
解像度高く返る
細部まで言葉にされた答えが返ってくる
感覚を再現する
自分を相対化し、持っていなかった感覚を理解できる
渡邉さんは、ある夜に音楽を聴くときのこだわりと美術を見るときのこだわりの違い、文脈と感覚のどちらが大事かといった話に長い時間をかけたと振り返ります。荒木さんは「収録しちゃってよかった」と言いつつ、3人しか知らない話として残る良さも語りました。
渡邉さんは、旅そのものが日本を離れて日本の常識を壊しに行く行為だと捉えています。常識が壊れている最中に、別の話題でも常識を壊しに行くことに、旅先の会話の良さを見ていました。
モスクに船にコーヒー、偶然が重なった旅
荒木さんから印象的な体験を聞かれた渡邉さんは、詰め込んでさまざまな体験ができたことを喜びます。トルコ式サウナや、観光地ではなく生活圏内のモスクを訪れたことがその例です。
アフメトくんが三時間付き合ってくれるとか、結構ミラクルだったり。モスクの中で優しくしてもらうところまではまだいいとして、船乗せてくれるぞみたいな。この若者コーヒーおごってくれるぞみたいな。
渡邉さんにとって、この旅は一人やプライベートの旅よりも、文化的な部分に踏み込む体験になったといいます。オズゲさんの家での料理体験も、その人の話を聞き、プチインタビューができる楽しさがあったそうです。
荒木さんは、計画を立てていなかったからこそ、いろいろな偶然に巡り合える旅だったとまとめます。深井さんは、目に留まった場所に立ち寄る余裕がない旅はつらいと話しました。
まあ僕はそれ以外やだね。やっぱ目に留まった行きたい場所とかあるじゃん。そこに入れる余裕とかがないと。
実際、3人は本屋、土産物店、洋服屋などに気軽に立ち寄りました。渡邉さんは、イスタンブールにフリーダ・カーロをあしらった品が多いことを不思議がり、地下宮殿の土産物店にまでフリーダ・カーロのバッグがあったと笑います。
仲間だけが知る深井龍之介の素顔とは
荒木さんは、偶然の要素に加えて2人のキャラクターも面白かったと語ります。特に深井さんについては、コテンラジオなどで見せるアイコンとしての姿とは違う側面が、普段の付き合いにはあるといいます。
面白いよね。なんか子供っぽい部分が全開になるから。この関係性の中だと特にそうなのかな。
深井さんは、友達の前では基本的にそうだと認めます。渡邉さんは、これからランチに行くのにトラムに乗る前にパンを買おうとする深井さんの「あるある」を紹介しました。
深井さん自身が一番驚いたというのは、夕食で満腹になった後、シーシャバーで「腹減った」と言い出した場面です。渡邉さんは、深井さんには今の感覚をそのまま言葉にし、行動に移す無邪気さがあると評しました。
話は以前の香港旅行にも及びます。世界のベストバー第2位のバーに行く前、開店まで1時間ほどあるからと入ったカフェで、深井さんはマティーニを頼み始めたそうです。
俺今日はイケる気がするみたいなことを言って。で、飲んでへべれけになり、財布もなくし。
好奇心に忠実な人は仕事でどう振る舞うのか
渡邉さんは、ビジネスの付き合いでは深井さんが無邪気さを抑えているのかと尋ねます。深井さんの答えは、気をつけなければ仕事でも同じようになるが、その側面が問題にならない設計にしているというものでした。
でも一応気をつけてるから大丈夫なんだけど、どういう時にバグるかを知ってるから、気をつけ方を知ってるって感じかな。仕事だと。全パターン経験したから、バグり。
深井さんは、抑えたいという欲求はあまりなく、好奇心に忠実であることを重視していると話します。渡邉さんも、それはいいことだと受け止めました。
深井さんは、3人が年に1回数日間行動を共にする時間を「かけがえのない時間」と表現します。誰かと芸術の話をして自分の常識が変わる経験は、深井さんにとって得難いものだといいます。
誰かと芸術の話して、自分の常識が変わるようなこと言われるってあんまりないの。どっかで合わせられたりしちゃってるんだと思う。
深井さんによれば、渡邉さんはそうした場面でもさっとかわしながら、言いたいことを普通に言うそうです。そういう人は少なく、日本だから特にそうなのかもしれないと深井さんは考えています。
写真ではわからないイスタンブールの空気
深井さんは、イスタンブールを「すごく行きたいけど、用がない場所」だったと話します。アジアとヨーロッパの中間で両方の要素があるとよく言われますが、それは実際に感じないとわからないといいます。
深井さんが挙げたのは、写真ではわからないアヤソフィアや街の空気感です。雨が小川のように道を流れる様子、侵入した車をパンクさせそうな一方通行の車止め、ノーレカフェの壁の隙間に通された電線などを細かく感じ取っていました。
やっぱその適当さ加減とかも国によって違うから、そういうとか、人の感じとか、アジア人見てどんなリアクションするかとか、そういうのを一つ一つやっぱりちゃんと感じて。
深井さんは、観光地を回っただけでも国ごとの差分はあり、イスタンブールは香港ともヨーロッパとも違ったと話します。イスラム教国であることも大きく、毎朝聞こえるアザーン ── イスラム教で1日5回の礼拝の時刻を知らせる呼びかけ。モスクの塔などから街に向けて流されますは、昔から体験したかったことでした。
起きてアザーン聞こえるという体験昔からしたかったんだけど、初めてできたかな。トルコで。
深井さんは、マレーシアに滞在したときのホテルではアザーンが聞こえなかったといいます。イスタンブールでは大きなモスクが多く、このあたりならどこでも聞こえるのだろうと話しました。
なぜイスタンブールには猫があふれているのか
渡邉さんは、現地で話題になった「モスクと猫と坂が多すぎる」という言葉を振り返ります。深井さんも、ムスリムが猫を大切にすることは知っていたものの、イスタンブールの猫の多さは段違いだったと驚いていました。
同じイスラム教国でもトルコは多分イスタンブールがだと思うんだけど、段違いで猫多いね。全部猫カフェだったね。
レストラン、カフェ、道端、広場、ギャラリーと、猫は街のどこにでもいたそうです。渡邉さんがカルチャーショックを受けたのは、激しい雨の日にたくさんの猫が道を横断していく光景でした。
雨の日は野良猫がいても隠れていて、遭遇しない
雨が滴る中でも、たくさんの猫が道を横断していく
一方で渡邉さんは、去勢がうまくいっているのか、皆が餌をあげて大丈夫なのかという懸念も口にします。深井さんは、中心の観光地では去勢しているかもしれないが、すべてに対応するのは無理だろうと応じました。
それでも深井さんはイスタンブールを「すごくいい街」と評し、1か月ほど住んでみたい、現地の人と一緒に仕事もしてみたいと話しています。
イスラムの「表向き」と本当の姿はどう違うのか
渡邉さんにとって、この旅で一番大きかったのはイスラムへの解像度が上がったことでした。深井さんはサウジアラビアにも行ってみたいと話し、渡邉さんはサウジアラビア帰りの同僚から、厳しさのレベルが違うと聞いたことを紹介します。
深井さんが知りたいのは、戒律を表向きにどう示しているかと、実際にどこまで守っているかの違いです。ただし、その本当の部分は外国人からは見えにくく、見せるべきものでもないと考えています。
渡邉さんは、ドバイについて人から聞いた話を紹介しました。ドバイではムスリムでも飲酒する人は主に移民で、髪を隠さない女性や肌の露出をいとわない人もいるそうです。
渡邉さんによれば、そうした人もエミラティ ── アラブ首長国連邦の国民を指す言葉。ドバイを含むUAEでは、国民より外国からの移住者のほうが多いことで知られていますの前では敬意を払い、一緒に飲まないなどの配慮をするといいます。また、ドバイでは国民の9割が移民という逆転現象があると語られています。
地元の人は基本的に厳しく敬虔にしている
家族や仲間の間でこっそり飲酒する人もおり、人による
深井さんは、そうした話は関係性がよほど深くならないと外国人、特に非ムスリムには話してもらえないと受け止め、それでも知りたいと話しました。
本で知ることと、旅で感じることは何が違うのか
深井さんは話を旅という抽象度に移し、現地に行かないとわからない情報量はまったく違うと語ります。匂い、気温、音まで含めた体験は、デジタルに保存しようとしても膨大な量になるといいます。
深井さんが決められた旅行を嫌うのは、情報量が増えなさそうだからだそうです。深井さんにとって旅には、情報を感じに行くことと、一緒にいる人と時間を過ごすことの2つの意味があります。ただ、普段は一人旅がほとんどで、友達と行くスタイルは珍しいと明かしました。
渡邉さんは、本で読んで知っていることと、体感して知ることの違いを、五感を通して自分の経験として知ることだと表現します。深井さんも、感じたことがあるという事実がまず大きく違うと応じました。
渡邉さんは、同じ『地球の歩き方』を参照して同じ場所を巡ったとしても、自分が感じたことに意味があると考えています。そのうえで、ものづくりにも同じことが言えると話を広げました。
誰かが先にイスタンブール行ってるから私は行かないとかってあんまりしなくていいじゃん。人がいいって言ってたら、自分でも体験するために行くみたいなところがあるんだけど。
渡邉さんによれば、先行者がいるからやらないと考えていては、世の中のあらゆることができなくなります。やりたかったらやっちゃえばいいというシンプルな姿勢が大事だといいます。
渡邉さんは、その足かせを外すきっかけの一つが旅であり、仲間の存在なのかもしれないと締めくくりました。
次の旅はアウシュビッツか北欧か
最後に話題は次回の旅先へ移ります。深井さんは、仮の候補としてアウシュビッツを挙げました。
あーねー、やっぱ気後れするな。本当。
渡邉さんは、ポーランドのアウシュビッツに加え、ノルウェーやアイスランドといった北欧も候補にあると整理し、改めて候補を出し合うことになりました。
渡邉さんが「たまに来てください」と声をかけると、深井さんは「前より暇なんで」と応じます。こうして、5回にわたるイスタンブール編は幕を閉じました。
まとめ
イスタンブール編の最終回では、仲間と旅をする意味が改めて語られました。夕食時の会話で互いの常識を壊し合うこと、計画のない旅で偶然に出会うこと、そして五感で街を感じることが、3人にとって旅の価値として共有されています。
- 深井さんは、このメンバーとの会話では感覚の差分を高い解像度で比べられ、自分の常識が壊れると話した
- 計画のない旅だったからこそ、モスクの案内や船、コーヒーなど多くの偶然に巡り合えた
- アザーンや雨の日の猫など、写真ではわからない街の空気を現地で体感した
- 渡邉さんは、先行者がいてもやりたいことはやればいいという姿勢を、旅とものづくりの共通点として挙げた
- 次回の旅先として、アウシュビッツや北欧が候補に挙がった





