高層の雑居ビルと鳴りやまない音、初めての香港はどう見えた?
超相対性理論の渡邉康太郎さんと荒木博行さんは、香港旅行の最中にホテルの部屋で番外編を収録しました。深井龍之介さんは一足先に帰国していて、3人で撮った別バージョンとは別に、2人で「香港雑感」を話す回です。
渡邉さんは中学生の頃、1997年ごろから2年半ほど香港に住んでいました。30年近く前のことですが、街は意外と変わっていなかったといいます。今回の旅でも荒木さんと一緒に母校を訪ね、10年ほど前に香港の大学で教えていた時期にも母校を再訪していたそうです。
香港が初めてだった荒木さんが最初に挙げた印象は、建物でした。狭い土地に雑居ビルが上へ上へと連なる景色を見て、生活はかなり大変なのではないかと感じたといいます。
なんかやっぱり建物がすごく印象的で、めちゃくちゃ狭いところにこの雑居ビルみたいな、上にこうどんどん連なってってみたいな。
2人はタイクーにある「モンスターマンション」と呼ばれる集合住宅も見に行きました。渡邉さんは、満島ひかりさんの「ラビリンス」のPVで、密集するビルの間を踊りながら走り抜ける映像が撮られた場所だと紹介しています。
だから観光地として面白いという側面と、一方であそこ(モンスターマンション)にはリアルな生活があるからね。
荒木さんがもう一つ挙げたのは、街のノイズです。信号のタイマーがずっと「カカカカ」と鳴り続ける音が気になったという荒木さんに対し、渡邉さんは「あんなもんかな」と特に気にしていなかったようです。
モンコックの人混みが渋谷や新宿と「次元が違う」理由
荒木さんは繁華街のモンコックにも足を運びました。週末だったこともあり、道は狭く人は多く、渋谷や新宿とは次元が違う混み方に感じたといいます。
荒木さんが考えた理由は、人の密度だけではありませんでした。香港では、周りへの音の配慮をあまり気にしない人が多いように見えたというのです。
電車の中でも平気で電話話してたりとかするし。あんまりこう静かにするっていうカルチャーがないのか。
渡邉さんも、日本の電車には「なんとなく静かにしよう」という空気があると応じます。日本の「みんなの場」という感覚に対して、香港には一人ひとりが思い思いに振る舞ってよいという空気がある、と2人は整理しました。
一応みんなの場だから、なんとなく静かにしようという空気がある
電車でも平気で電話をし、一人ひとりが思い思いに過ごしてよいという空気がある
旅の思い出として、深井さんが財布をなくした一件も話題になりました。深井さんはあまり慌てておらず、翌朝、立ち寄ったカフェで財布は普通に見つかったそうです。
世界2位のバー「バーリオーネ」に4時半から並んだ夜
渡邉さんにとっての旅のハイライトは、THE WORLD'S 50 BEST BARS ── 世界のバーを専門家の投票で順位づけする国際的なランキング。毎年発表され、上位の店は旅行者の目的地にもなっていますで世界2位に選ばれた香港のバー、バーリオーネでした。クラシカルなイタリアンのカクテルバーです。
予約を受け付けない店で、初日は夜10時の時点で50組待ちとなり、入れませんでした。2日目はオープン30分前の4時半に並び、最初の回で入店できたといいます。
大興奮の渡邉さんに対し、荒木さんと深井さんは「バーって何?」と半信半疑で並んでいたそうです。それでも荒木さんは、行ってよかったと振り返っています。
いや、行ってよかったね。食べ物も美味しかったんだけど、やっぱお酒が美味しかったね。本当に。あんなカクテル飲んだの初めてだったけど。
渡邉さんによれば、ネグローニや、スモークとオリーブのダーティーマティーニなど、イタリアのスピリットを感じるクラシカルカクテルのアレンジが中心でした。モルタデッラのフォカッチャや牛のタルタル、イタリアンフムスといったバーフードも充実し、どれも繊細で優しい味だったといいます。
サービスの良さにも2人の意見は一致しました。そして荒木さんにとっては、何より渡邉さんが一番楽しそうだったことが印象に残ったようです。
その(楽しそうな)表情を見れてよかったよ。
旅先でバーや本屋に行く習慣は何のため?
渡邉さんは、世界の都市へ旅行するとTHE WORLD'S 50 BEST BARSのランキングに入っている店に行くことが、十数年来の習慣になっています。美術館に行くような感覚で、この町ならこのバーという楽しみ方だと話します。
荒木さんにも同じような習慣があり、旅先では本屋と美術館に基本的に行くようにしているそうです。今回も2人で香港の本屋を訪れました。
香港の本屋では繁体字の本ばかりで、荒木さんは選ぶのに苦労しました。英語の本を期待していた荒木さんに、渡邉さんは「英語の本なら他でも買えるのでは」と問いかけます。
それでも全然良くて。ここで買ったっていう思い出と共に読むっていうのが僕の中の大事な行為なので。
訪れた大型書店では英語売り場が改装中で、荒木さんは1階でランキングの棚だけを見てさっと本を決めたといいます。
香港の本屋が日本の本屋に似て見えるのはなぜ?
渡邉さんが改めて気づいたのは、香港の本屋の景色が、目を薄く開けてぼんやり眺めると日本の本屋とほとんど同じ色合いに見えることでした。
渡邉さんによると、英語圏やヨーロッパの本屋では、ペーパーバックが分厚く、表紙は黒や赤など重めの単色で塗られている印象があります。一方、香港の本屋は本が薄めで判型が大きく、いろいろな色が並べられていて、日本の本屋のビジュアルに近いといいます。
ペーパーバックが分厚く、表紙は黒や赤など重めの単色
本が薄めで判型が大きく、いろいろな色の表紙が並ぶ
荒木さんはモンコックでも本屋を3、4軒回っていました。どの店も2階にあり、怪しい階段の先にある、開けるのをためらうような扉の向こうにあったそうです。
モンコックの本屋の中は、神保町の古本屋のようなレイアウトだったと荒木さんは話します。扱っていたのは基本的に新品の本でした。
神保町のみならず古本屋って結構似てると思うんだけど、奥にさ、その(主人がいる)。
奥のカウンターに店主がいて、空間を2つに分けるように背の高い本棚がそびえ立つ。荒木さんは、大型書店とは全く違う意味で、モンコックの本屋も日本的だったと感じています。
ヤム茶三昧と、マイクを握って収録した初日の夜
2人は今回の旅でひたすらヤム茶 ── 中国・広東地方の、お茶を飲みながら点心を食べる食文化。香港では朝から点心を楽しむ人も多くいますを食べました。荒木さんは「もうしばらくいいかな」と言うほどです。
朝ごはんのヤム茶では、5品頼んだうち3、4品がご飯ものになってしまったそうです。メニューには英語も書いてあるものの、選ぶのが難しかったと荒木さんは振り返ります。
初日のヤム茶の店では、番組の収録もしました。周りがガヤガヤと食事をする中、深井さんが日本から持ってきたコンタクトマイクを3人で握り、カラオケのように語り合ったといいます。
あれ(ヤム茶店での収録)にあんまり違和感を感じられないっていうのが香港なんだなって気がしたね。
渡邉さんも「自由が許されてる感じあったね」と応じました。電車の話と同じく、2人は香港の場の空気のおおらかさを感じたようです。
駅名とタイルの色がよみがえる「記憶のクオリア」
荒木さんは、多感な時期を香港で過ごしたことが渡邉さんの人格形成に影響したのかを尋ねます。渡邉さんは、細かい話としつつ、地下鉄の記憶を語り始めました。
渡邉さんは中学時代、毎日地下鉄に乗っていたため、アドミラルティー(金鐘)やクオリーベイといった駅名、駅のタイルの色、駅の順番や書体まで鮮明に覚えているといいます。香港を再訪して、それらの記憶が一気によみがえったそうです。
(駅名や書体が)すごい深く印象に刻まれているものが、改めてこういろんなクオリアが、記憶のクオリアがぶわっとこう思い出されるんでね。
当時の渡邉さんには、発音が難しくて言いたくない駅名や、よく歩き回った駅と怖くて歩けなかった駅がありました。治安の問題ではなく、自分の縄張りと感じられるかどうかという「自分内の謎ルール」だったといいます。
大人になった今はGoogleマップを見ながらどこにでも行けます。だからこそ、理由もロジックもなく形成された当時の行動パターンや好き嫌いを、時間を経て客観視できたのが面白かったと渡邉さんは話しています。
懐かしさが戻らない荒木さん、どこへ行けばいい?
荒木さんは、渡邉さんの「記憶のクオリア」の話をうらやましく聞いていました。荒木さんの場合、自分の母校に息子が通い、実家にも頻繁に帰っているため、昔の場所に行っても懐かしさが戻らないというのです。
なんかそういうのがあって。なんかもうもはやクオリアが戻らないっていうか。
渡邉さんは一度だけ行った旅行先を提案しますが、荒木さんは、しばらく過ごした場所とは違うと考えます。小中高のころに何度も行き、それ以降一切行っていない場所にこそ、感情がパッケージされているというのです。
それ(感情がパッケージされた場所)開け尽くした感あるな俺。
渡邉さんは、小学生のころ同級生をなぜかフルネームの呼び捨てで呼んでいたことを例に出しました。その年代特有の謎のカルチャーや暗黙のルールの蓋を開けるのも面白い、という話に、荒木さんは「場所に限らずなんだな」と納得しています。
英語が話せないまま入ったカナダ系の学校
渡邉さんにとっての香港は、英語が話せないまま到着し、カナダ系の学校に通った場所でした。生徒はインド人、香港人、韓国人、日本人が多めで、カナダ人はほぼ先生だけだったといいます。
周りにさまざまな文化背景を持つ人がいること自体が刺激だった一方、当時の渡邉さんには、それぞれの文化や香港の歴史を掘り下げる気力はあまりありませんでした。分からないものを分からないまま放置していたと振り返ります。
香港にいるっていう特殊性を子供の頃あんまり感じきれてなかったから、そこをもう少しありがたく思えてたらさらに楽しかったのかもなって今からは思うけど。
小学6年の卒業まで日本で過ごした渡邉さんは、最初は学校でみんなが何を言っているのか全くわからなかったそうです。そこで、先生が言いそうなことや自分が聞きたい質問を家で準備して、しのいでいました。
渡邉さんは、ESL ── English as a Second Language の略。英語を母語としない生徒が、第二言語として英語を学ぶためのクラスですのクラスで英語を学びました。英語の授業は英語が苦手な生徒の組で受け、数学や科学、歴史はみんなと同じクラスで受けていたといいます。
日本での準備
香港へ行く前の半年ほど教室に通うが、曜日の綴りを覚える程度で話せるようにはならない
話せないまま渡航
先生が言いそうなことや質問を家で準備してしのぐ
ESLクラス
英語の授業は第二言語としての英語クラスで受け、他の教科は通常クラスで受ける
卒業
多くの生徒は半年から1年ほどでESLクラスから通常クラスへ移っていく
衝撃ではなく「戸惑いがフルタイム」という日常
異文化に放り込まれるのは衝撃的な体験ではないかという荒木さんの問いに、渡邉さんは、衝撃はあるものの、雷に打たれたような感覚とは違ったと答えます。
これが新しい当たり前なんであるっていう風に受け止めざるを得ないみたいな感じかな。ビビってる暇はないというか。
荒木さんは、環境適応のためのサバイバル的なスイッチが入るのだろうと受け止めました。渡邉さんはそれをさらに言い換えています。
渡邉さんの香港時代の記憶は、五感とも結びついています。新学期の塗りたての壁のペンキの匂いや、日本の印刷物とは違うカナダの教科書特有のインクの匂いを、今も覚えているそうです。
塾通いの合間に探したエヴァンゲリオンの古本
渡邉さんは中学時代の終わりに、日本人が通う塾で受験勉強をしていました。渋谷のような街だというトンローワン(銅鑼湾)のオービットという塾に通う合間に、日本の古本屋のような店へ立ち寄っていたといいます。
その店で渡邉さんは、少し遅れてエヴァンゲリオンの古本を探していました。輸入品なので日本で買うより高く、貯金して頑張って買った記憶があるそうです。
深井さんの忘れ物と「彼らしい」コミュニケーション
荒木さんは「いい旅だった」と振り返り、深井さんがエンタメを作ってくれたことにも触れます。
渡邉さんが挙げたのは、深井さんの「俺これからタクシーで移動しようかな」という一言でした。その含意がよくわからず、「じゃあ一緒に行く?」と返したといいます。こうした深井さんらしいコミュニケーションは旅の至るところにあり、別の番外編でも話したそうです。
深井さんは財布をなくしたあとにも、ケーブルの入ったバッグを荒木さんのホテルに忘れていきました。荒木さんは大したことではないとしつつ、「楽しかった」と旅を締めくくっています。
まとめ
香港を初めて訪れた荒木さんと、中学時代を過ごした渡邉さんの視点が重なり、街の密度や音、食やバー、本屋の見え方から、場所に刻まれた記憶の話へと広がった回でした。
- 荒木さんは、狭い土地に連なる雑居ビルや、音への配慮が少ない街の空気に香港らしさを感じた
- 渡邉さんは旅先でTHE WORLD'S 50 BEST BARSの店を訪ねる習慣があり、世界2位のバーに4時半から並んで入店した
- 香港の本屋は、大型書店は色合いが、モンコックの本屋は神保町のようなレイアウトが、それぞれ日本的に見えた
- 渡邉さんは地下鉄の駅名やタイルの色から、少年時代の謎ルールや「記憶のクオリア」を思い出した
- 英語が話せないまま入った学校での日々を、渡邉さんは「戸惑っているがフルタイム」と表現した






