日本人にとって宇宙は「アニメの世界」
話題はまず、宇宙産業の認知の入り口から始まります。アメリカで宇宙といえば世代によってアポロやスペースシャトル、そしてSpaceXが思い浮かぶといいます。
一番有名なところでいうと、多分世代によって違うと思うんですよね。50、60代の人たちでいうと、アポロやスペースシャトル。今の若い人たちがよく目にするのはSpaceXですね。
一方で日本では、宇宙にビジネス感度が高い人はSpaceXやispaceを追っていても、一般にはそこまで浸透していないと久下さんは指摘します。
この認知の差の背景として、嶋田さんは日本独特の事情を挙げます。日本にとっての宇宙は、ガンダムや宇宙戦艦ヤマト、鉄腕アトムといったアニメの世界だったというのです。
日本って宇宙っていうと、ガンダムとか戦艦ヤマトとか、僕の世代は宇宙って身近だよねっていうのはアニメの世界だったんですよね。
そのアニメが身近すぎることで、逆に現実の宇宙開発が自らハードルを上げてしまっていると嶋田さんは話します。人の創造力を可視化することに日本人は長けている一方、仕事になると実直で現実的な方向を探り、理想と現実のギャップが生まれやすいといいます。
アメリカはマーベルのようなコンテンツで日本のアニメに勝つのは難しい代わりに、冷戦下で国を挙げて宇宙開発を進めた歴史があると嶋田さんは整理します。
輸送機の「その先」にあるビジネスチャンス
嶋田さんは、ロケットを開発して競争する時代はとうに終わったと考えています。再使用型ロケットの実現は短期的に重要で社命でもある一方、その先を見据える必要があると語ります。
物を運ぶだけでなく、人を宇宙に連れていくことが普通になったとき、宇宙経済圏をどう醸成するか。そこにビジネスチャンスがあるといいます。
宇宙旅行時代、ジーパン履いていくんですか、そこの靴履いていくんですかって言った、そういった疑問に答えられる会社って、グローバルにも存在しないっていうところが、僕はビジネスオポチュニティだと思うんですよ。
嶋田さんはこの構図をiモードとスマートフォンの歴史にたとえます。iモードが出た頃はコンテンツ以上に端末そのものが注目され、所有感がエントリーポイントになったといいます。
今はみんながiPhoneやAndroidを持ち、アプリの使い勝手を議論する段階に移りました。宇宙開発も同じで、宇宙輸送機はいずれ当たり前になり、次はコンテンツの時代が来ると嶋田さんは見ています。
端末(輸送機)そのものが注目され、所有感がエントリーポイントになる段階
輸送機が当たり前になり、何を持っていくか・どう楽しむかというコンテンツを議論する段階
何を持っていくのか、どう楽しむのか。そうしたソフト面へ産業が向かうのは見えているからこそ、いち早く掘っていくべきだと嶋田さんは話します。
次世代宇宙港をつくるワーキンググループ
話題は、ISCが立ち上げようとしている次世代宇宙港のワーキンググループに移ります。久下さんはこれを、スマホビジネスにおけるアプリマーケットのような位置づけとして捉えます。
嶋田さんによると、日本には6つの宇宙港があり、それぞれ特徴があります。種子島はJAXA専用、北海道の大樹町は垂直打ち上げ、大分空港は水平着陸用といった具合です。ただ、いずれもアクセスしにくく盛り上げるのは難しいという課題があるといいます。
みんなが行きたくなるような宇宙港を作る必要性がすごくあると思っていて。その解を見つけたいなと思ってるのが、このワーキンググループを作るきっかけとなったポイントですね。
ワーキンググループでは、参画メンバーが15ヶ月かけて宇宙港の姿形、事業モデル、事業計画、最終的なCGモデルまでをつくります。最終的には政府提言に持っていき、こうした宇宙港が必要だと国に訴えることを目指すといいます。
ワーキンググループとは何なのか。
次世代型宇宙港を着想するために、参画者が15ヶ月かけて姿形や事業モデル、事業計画、最終的なモデルを作り上げ、政府提言につなげていくパートナーシッププログラムに近い取り組みだと説明されています。
海を活かすモジュラー式の海洋型宇宙港
発想の核はシンプルです。宇宙港がアクセスしづらいなら、来てもらえるようモビリティ性の高い宇宙港を作ればいい、というものです。
日本は土地の制限が大きく、自然災害も多いため、陸地に新しい宇宙港を作るハードルが高いと嶋田さんは指摘します。一方で、東側がずっと開けている海洋には恵まれているといいます。
この海を活かすと、自転で東へドリフトする再使用型ロケットの着地先にもなり、街づくりとしての洋上型宇宙港も構想できると語ります。
さらにモジュール型にすることで、宿泊や蓄電ユニットなど多様な機能を組み込めるといいます。陸地で災害が起きれば、そのモジュールを分離して被災地へ寄せ、海洋から送電したり避難民を洋上の宿泊施設へ逃がしたりできると嶋田さんは説明します。
日本は海洋建設技術が進んでいるため、オールジャパンで作り、最終的には海外へブループリントやモジュールをライセンス販売するIPビジネスにも展開できると話します。
海洋の活用
陸地の制限を避け、東へドリフトするロケットの着地先や洋上型宇宙港を構想
モジュール化
宿泊・蓄電などの機能を組み込み、災害時は被災地へ分離・送電も可能に
IPビジネス化
オールジャパンで作り、海外へブループリントやモジュールをライセンス販売
空港のように「行くだけで楽しい」宇宙港へ
久下さんは、この構想を旅客機の空港のアップグレードとして捉えると想像しやすいといいます。事業を自分事化するには、自分が関わっていたり好きだったりする必要があり、その点で誰もが乗ったことのある空港は入り口になりやすいと話します。
嶋田さんは羽田空港を例に挙げます。飛行機に乗らなくても商業施設が集まり、屋上から離着陸を眺めるだけでも楽しい場所です。そうした位置づけの宇宙港こそ、宇宙を身近にすると語ります。
どこかへ行くための玄関口であるなら、いま流行っている玄関口との差異があってはいけない。その差異があるのが今の宇宙港だと嶋田さんは指摘します。普段行っても面白くない、やることがない状態になっているというのです。
要はどっかに行くための玄関口。今流行ってる玄関口と差異があっちゃダメなんですよ。で、今差異があるのが今の宇宙港なんですよね。
宇宙好きにとってはハンガーや試験のモニタリングを見るだけで楽しいものの、それはマジョリティではないと2人は笑いながら確認し合います。
宇宙産業に足りないクリエイティブとナラティブ
嶋田さんは、宇宙港も宇宙輸送を使ったビジネスも、クリエイティブが極めて重要だと繰り返します。自分たちのビジネスを可視化しなければ、何をやっている会社なのか伝わらないからです。
実際、久下さんと取り組んだ宇宙旅行の事前予約は、昨年12月に数百名規模の申し込みを集め、大盛況だったといいます。一般の人にも宇宙は身近だと、デザインの力で示せた事例です。
一般人にも宇宙って身近なんだよねっていうのを、クリエイティブとデザインの力を使ってやっていくところって、案外日本の他のスタートアップやってないのが、ものすごくもったいない。
久下さんは、保険業界のようにデザインへ力を入れる領域が増える中で、一番好きそうな人が多いはずの宇宙産業で意外にリソースがかかっていないのは不思議だと指摘します。
嶋田さんが手本に挙げるのはSpaceXのナラティブです。地球がいずれ住めなくなるから火星移住だという大義を掲げることで、スターシップの必要性や、火星と地球の間に補給用の機体を駐留させる計画までが逆算で見えてくるといいます。
嶋田さんは、今の宇宙業界はテキストが多すぎて、挿絵が全部同じだと感じています。地球と青い大気、背景の星空という似た絵ばかりで、自分たちの色を出せていないというのです。子供が挿絵で発想力を育てるように、ストーリーテリングをきっちりやることが目下の課題だと語ります。
現実に動き始めている宇宙産業
ISCでは、事業を見る嶋田さん自身がナラティブやクリエイティブを重視し、なおかつ合理的にその必要性を語れると久下さんは話します。まだ物も宇宙への打ち上げもない段階ながら、注目を集めているといいます。
アメリカのウルサ・メジャーからエンジンを買う話など、まだ結実していなくても裏側では多くのことが動いていると2人は語ります。それが人の目につけば、宇宙産業が意外なほど普通に存在していると気づいてもらえると考えています。
世の中の人が思ってるよりも普通に今あるぞっていう感じですよね。お金も動いてるし、めちゃくちゃ立ち上がってもきてるし。
ワーキンググループは8月2日をキックオフのスタートラインとし、それまでに興味のある企業がMOUを締結できればと嶋田さんは話します。連絡は嶋田さんのXへのDMでもよいとのことです。
最後に、嶋田さんが最近Xで宇宙ビジネスのニュースを発信し始めた理由も語られます。宇宙業界であまりに無名だったためプレゼンスを上げようとしたものの、知識不足でコメントが薄くなってしまうと本音を明かします。久下さんは、英語がわかる嶋田さんなら海外ニュースのニュアンスや温度感を伝えられ、非英語ネイティブに需要があるはずだと後押ししました。
まとめ
後編では、宇宙を日本人にとって身近にするための鍵として、輸送機の先にある宇宙港ビジネスと、それを可視化するクリエイティブの力が語られました。アニメの国だからこその難しさと可能性を踏まえ、行くだけで楽しい宇宙港という具体的なビジョンが示されています。
- 日本では宇宙がアニメの世界として身近な一方、現実の宇宙開発は自らハードルを上げてしまっている
- ロケット開発競争の先にある宇宙経済圏やコンテンツにこそビジネスチャンスがある
- 陸地の制限と災害を踏まえ、海を活かすモジュラー式の海洋型宇宙港が構想されている
- 羽田空港のように行くだけで楽しい宇宙港が、宇宙を身近にする玄関口になる
- SpaceXのように大義とナラティブを可視化するクリエイティブが宇宙産業には不足している
