書籍への反響と「自分たち向けじゃなかった」という声
大長さんの書籍「自走する新規事業のつくりかた」が発売され、一ヶ月ほど経ちました。
バズるような反響ではないものの、丁寧なDMで感想が届き、励みになっていると話されています。
丁寧にDMをくれて感想を送ってくれる。それがめちゃくちゃ励みになっています。
なかでも印象的だったのは、「自分たち向けじゃないと思っていました」という感想が多かったことだそうです。
自分の会社にはフィットしない、自分は経営や新規事業担当じゃないから関係ないと思っていた、という声も届いたと言います。
大長さんによると、bridgeの支援は大企業が多い一方、この本自体は中堅企業向けに書いたものだそうです。
潤沢な予算やリソースがあるわけでもない。革新的なテクノロジーで市場を席巻するスタートアップのやり方でもない。
基盤の事業がありながら、それを地場で丁寧に育てつつ、それでも新しいことをやっていこう。でもリソースもやり方もわからない。そういう企業向けに書いたんです。
303社調査でわかった経営と現場の認識ギャップ
今回は書籍と同じタイミングで進めた、中堅企業向けの新規事業の実態調査がテーマです。
過去の調査は大手企業の専門部署が対象でしたが、今回はそうした部署を持たない、より規模の小さい企業を対象にしています。
調査の分析を推進した村上さんが、回答者の内訳を説明します。
Nでいうと303件。回答者の約半分が経営役員、あと半分が経営企画や新規事業のマネージャー、ミドルの方です。
経営と現場を半分ずつ見られたのが、これまでの調査にない面白いポイントだったと言います。
調査では「御社の新規事業の成功度合いを評価してください」という設問を1〜10で聞き、1〜4を非成功企業、7〜10を成功企業として比較しました。
そのうえで、成功と非成功の差分や、経営と現場の認識ギャップを読み解いていきました。
大きな発見は、認識ギャップが思っていたより大きかったこと、とくにコミットメントの捉え方のズレでした。
経営としてはコミットしてるつもりだけど、現場のマネージャーからすると全然足りていない。
象徴的だったのがリソースの壁です。現場のマネージャーは「リソースが足りていない」を最大の課題に挙げる一方、経営ではそれが課題の上位に来ていませんでした。
「伴走」とは何か。成功企業の経営者の関わり方
大長さんが注目したのは、成功企業の経営者がこれだけ伴走しているのか、という点でした。
伴走というと、ずっと張り付いているイメージを持ちがちですが、実際はそうではないと言います。
要所要所で顔を出して声をかけてくれる。あるいは、この予算を当ててあるからここを考えて、と任せる。そういう関わり方なんです。
大長さんは、過去に支援した企業の具体例を挙げます。
ある企業では、Teams上に社長の独り言チャンネルがあり、新規事業に関する感想ややりたいことをそこでつぶやいていたそうです。
普通は会議でみんな聞けない。でも今日こんな会議があって、こういう感想を持ったとか、こういうことをやりたい、とそこでつぶやいている。
一方、サイバーエージェントのような先行企業では、経営陣が三日間張り付いて事業プランニングのコンテストをやる、といった例も紹介されました。
関わり方は違っても、経営陣の本気度や一緒にサポートしてくれている感覚が、現場に伝わっているのだと言います。
村上さんは、コミットメントの言葉と実態のズレを指摘します。
決算発表やキックオフで「新規事業やっていきます」と言うこと自体がコミットメントか、という気もする。実際に人や予算が張られているのか、現場に膝を突き合わせてくれるのか。そこがシビアに見られている。
大長さんは、本業と同じやり方では温度感が薄れてしまうと言います。新規事業はただでさえ摩擦が大きいからです。
コミットメントを「感じてもらう」ための発信
社長自身が現場に関われない場合は、ミドルが接点をデザインする必要があるという話につながります。
ここはちょっと顔を出して、メッセージをこういう感じで投げてほしいんです、と(社長に)お願いする。キャラクターによって設計していく。
村上さんは、最近は地場の中小の社長でもポッドキャストやYouTube、noteなどで発信する人が増えていると指摘します。
自分の本心として、どういうことにコミットしたいのか、理由も含めて本気度が感じられる発表の機会は、昔より多くある。
社長と社員という場以外で、何を発信して本気を感じてもらうか。それが大事になってきていると話されています。
規模の話も出ました。数万人の大企業では末端まで社長のメッセージを届けるのは難しい。
一方、数百人規模なら社長の振る舞いを社員が直接見ているため、メッセージが届きやすいと言います。
そこをうまく利用して、ちゃんとメッセージを届ける。みんなのモチベーションにスイッチを入れていくのは、すごく大事だなと思いました。
ただし、届きやすいのは逆方向も同じです。
逆に言うと、コミットしていないと思われるのも届きやすい。
本当は本気でも、本業と同じ会議体、同じ発信の仕方だと「そこまで本気じゃないのかな」と受け取られてしまうこともある、という指摘です。
初期から関わるか、最後だけ関わるか
伴走のタイミングに関するデータも紹介されました。
「検証の初期段階から経営層が議論や評価に参加しているか」という設問への回答です。
約88%の経営層が初期段階から議論に入っている
約57%にとどまり、初期から伴走していない
非成功企業では、最後の承認や決裁の場、つまり続けるか撤退するかの判断のときにしか経営が関わっていない、という傾向が読み取れました。
大長さんは、初期から関わることで「どの領域でやるか」という方針を示せると言います。
関わっていないと、本業じゃないもので考えてみて、と緩くお題だけ渡されて、最後に結果だけ見る、となってしまう。
限られたリソースをどこに投資するか。その見極めに経営陣がリーダーとして関わることが大事だと話されています。
村上さんは、初期から見ることで事業アイデアだけでなく、任せる人がやりきれるかも見えると付け加えます。
審査会の十分二十分では見えない人の部分が、伴走初期から見ていると見える。この人はアイデアさえ変えればいける、というのも絶対ある。
大長さんが、ある社長へのインタビューで受けた印象的な言葉を紹介します。
なんでそこまで関わるんですか、と聞いたら「これって僕のテーマだからだよ」と。新規事業は社長のミッションで、みんなの力を借りてやっている。だから僕が見るのも決めるのも当たり前だ、と。
村上さんは、社員は一年後、社長は十年後を考える、という言い方でこれを整理します。
新規事業は未来の話。十年後に成果を出すために今何をやるか、なので、社長のプロジェクトであり社員のプロジェクトでもある。視座と時間軸が違うだけで、コミットメントは両者に求められる。
大長さんは、いいアイデアが上がってこないと嘆くとき、経営者の関わり方が間違っている可能性がある、と話しています。
注力領域とやらない領域を決めているか
経営の役割として、注力領域とあわせて「取り組まない領域」を定義しているか、という設問も紹介されました。
成功企業では8割以上が、やらない領域まで定義していました。
一方、多くの企業では注力領域がぼんやり決まっているだけで、取り組まない領域は決めていない、という印象が語られます。
大長さんは、領域を決めている会社のほうが前に進んでいるのは実感として間違いないと言います。
ただ、決めることには勇気がいります。若い社員から広くアイデアを集めたいから決めたくない、という意見もあると言います。
結果どうなるかというと、上がってきたものに対して最後「これってうちがやることか」という問いに戻っていく。
だからこそ、「うちがやることか」という問いは初期段階でフィルタリングしておく。この領域ならチャンスがあればやるべき、と議論して領域を決めておくのが有効だと話されています。
大長さんは、中堅企業がまったく違う領域に飛び込むのは難しいとも指摘します。
自分のリングサイドの隣からじわじわ広げていく。顧客基盤が使えるか、社内の技術や強みを転用できるか。そういうブリッジがないと、全く違うところには行けない。
どこを探索してもらうかを決めておけば、社員はその範囲で存分に探索できる、という整理です。
村上さんは、この設問が成功・非成功で倍以上の差がつき、他の質問と比べても顕著だったと補足しています。
撤退を「EXIT」と呼ぶ。終わらせ方のデザイン
最後のテーマは、撤退や中止の扱い方です。
「撤退・中止の際に、経営が会社全体に公式に共有するプロセスや基準があるか」という設問への回答が紹介されました。
86%が撤退を経営の公式な判断としてオープンにし、次への学びの種にしている
50%強しか、こうした判断軸を持っていない
村上さんは、撤退や中止が社内でネガティブに、失敗として受け止められている裏側を読み取ります。
うまくいっていないけど撤退できないまま、社員のリソースが溶けていく事業がたくさん生まれている状態は、会社にとって良くない。
大長さんも、撤退の難しさに共感します。一部はうまくいっている中で、情に流されずにやめる判断が必要だからです。
終わる基準をちゃんと持っておいて、このプロジェクトはその基準を満たせなかったから終わろう、という判断をどう社内でやるか。すごく大事だと感じました。
ここで、GEへのインタビューの話が出ます。GEでは撤退のことを「EXIT」と呼んでいるそうです。
やりきった結果、脈がなかったと経営判断したなら、それも一つの出口。ちゃんと学びを回収してみんなでシェアして、ちゃんと終わらせる。終わらせる儀式もある。
大長さんは、キックオフはみんなするのに終わらせ方は知らない企業が多い、と指摘します。
言葉一つで、失敗ではなく次の学びに行くのだ、というメッセージになる。予算がなくてもできる工夫だと村上さんも同意します。
探索の日常化と、外部リソースのつなぎ方
今回のレポートは数字を並べるだけでなく、今後の働き方や組織のあり方への読み解きも含めているそうです。
村上さんは、レポートのタイトルにあたる考え方を紹介します。
新規事業の担当者だけが探索するのではなく、全員の社員が改善も含めて探索していく「探索の日常化」の時代になっていく。
大長さんは、新規事業と既存事業の垣根がなくなっていくと語ります。
営業の人は毎日お客さんの課題を見ている。商品企画の人もマーケットの情報から、こんなのがあったら売れるんじゃないかと考える。それをみんなで試して広げていくのが自走する組織の思想です。
もう一つ紹介されたのが、外部リソースとのつながりに関するデータです。
約80%が外部の専門知識とつなぐ役割や場を持っている
約30%しか外部とのコネクションを社員が持てていない
大長さんは、社員を雇い入れなくても外部の専門家とチームを組みやすくなっていると言います。
社員にスキルや経験がないということではなく、外部とうまく組み合わせて、ちっちゃく素早く試すことが大事になってくる。
進め方や知見は社外のリソースも使いながら、社内のアセットや顧客基盤とどうつなげるか。そこが重要になってきていると話されています。
村上さんは、書籍で実感値として書かれていたことが、今回の調査で定量的に補完されたと振り返ります。
本では大長さんの300社以上の経験から実感値で書かれていたが、今回の調査でそれが定量でも補完された。今後もっと掘っていきたいテーマも見つかった気がします。
まとめ
今回は303社を対象にした中規模企業の新規事業調査から、経営と現場の認識ギャップ、とくに「経営のコミットメント」の中身が語られました。伴走のタイミング、領域の定義、終わらせ方、そして探索の日常化まで、数字と現場の実感が重なる回でした。
- コミットメントは宣言ではなく、人・予算・現場での関わりとして現場にシビアに見られている。
- 成功企業ほど経営層が初期段階から伴走し、非成功企業は最後の決裁の場にしか関わっていない傾向がある。
- 注力領域だけでなく「取り組まない領域」まで決めている企業ほど前に進みやすい。
- 撤退を「EXIT」のように前向きな出口として扱い、学びを回収して終わらせる設計が大切。
- 新規事業と既存事業の垣根が薄れ、全社員が探索する「探索の日常化」と外部リソースのつなぎ方が今後の鍵になる。
