未払い残業代でIPOが遅れた実例
この回は、吉田さんが知人の会社で耳にした出来事から始まります。
未払い残業代が発覚したために、IPOが遅れてしまったというのです。
知人の会社で未払い残業代が発覚したために、IPOが遅れたという話を聞きました。
大事件じゃないですか。
発覚のきっかけは、従業員が労働基準監督署にその事実を通報したことでした。
会社側は残業代をきちんと支払っているつもりだったものの、実は計算が間違っていたといいます。
未払いはなぜ起こるのか
アシスタントは、そもそも未払いがどのように発生するのかを尋ねます。
吉田さんは、一番多いのは経営者の残業代支払い意識の問題だと話します。ただしIPO準備中の会社では、そうした意識の低さは珍しいといいます。
IPO準備中の会社はそういうことが良くないっていうのは、十分に理解してるんですね、多くの場合。
そのうえで吉田さんは、IPO準備中の会社でよく起こる未払いの原因をいくつか挙げます。
打刻の不備
スタッフがタイムカードを適切に打刻していない
給与設計の誤り
固定残業代の計算が間違っている
ソフトの設定ミス
給与計算ソフトやタイムカードソフトの設定が誤っている
特に給与計算ソフトの設定ミスは、珍しいことではないと吉田さんは指摘します。
給与計算ソフト自体もありますし、その前のタイムカードソフトもあって、両方が正しく完璧に設定されてないと、正しい計算結果にならないんですね。
ソフト自体に誤りがあることはほとんどないものの、設定に誤りがあるのはよくあることだといいます。
信用や株価にも及ぶ影響
実際に問題になったケースがあるのかという問いに、吉田さんは公的な調査の数字を示します。
これはIPO準備中の会社に限らず、すべての会社を対象とした件数です。
IPO準備中の会社の未払いは、単に未払い債務があること自体が問題なのではないと吉田さんは言います。
会社の信用に傷がつき、採用や上場後の株価にも影響を及ぼすため、非常に大きな問題になると話されています。
残業がなぜ発生するのかを問い直す
未払いを避ける方法を問われた吉田さんは、まず残業がなぜ発生しているのかを考えるべきだと答えます。
理想を言えば、その契約通りに残業なしに働いてもらえれば、会社が回るような体制になってないといけないんですよ。
だからこそ、人員配置が適切かどうかを社内で調べたほうがよいといいます。
人手が足りず毎月残業しているのであれば、業務の見直しやスタッフの増員で対応体制を作ることが最初の重要なポイントになります。
次に、社労士など外部の専門家に、自社の給与の支払い方に問題がないか確認してもらうことを勧めています。
給与計算ソフトの設定ミスから、スタッフが打刻した後に実は仕事をしているケースまで、原因はさまざまだからです。
「45時間」が一人歩きする落とし穴
打刻後に仕事をしてしまう背景には、会社のルールがきちんと伝わっていない問題があると吉田さんは説明します。
残業は原則として月45時間まで、年間360時間までとされています。360時間を12で割ると、平均で月30時間という計算になります。
これはあくまで原則で、会社が必要な書類を準備しておけば、45時間や年360時間を超えることもできると吉田さんは補足します。
ところが会社が「月30時間まで」などと現場に伝えると、労働基準法に詳しくない営業や開発の人には、数字だけが一人歩きしてしまいます。
三十時間とか四十五時間っていう数字が一人歩きしちゃって、絶対に超えちゃいけないんだっていうような誤解が生まれたりします。
その結果、スタッフがタイムカードを打刻した後に、知らない間に残業してしまうことが起こります。
そして通報などのきっかけで発覚し、実は残業代が支払われていなかったと分かるのです。
吉田さんは、特に営業や開発の部署の上長に教育を行い、スタッフにルールを徹底することが重要だと話します。
固定残業手当という一つのテクニック
吉田さんは、細かいテクニックとして給与計算のミスへの備えも紹介します。
人間が給与計算をする以上、たとえば半年前の賃金台帳で1時間分が未払いになっていた、ということも起こります。
過去にさかのぼって処理を直すのは大変で、賃金台帳を修正すると会計処理のやり直しも必要になるため、税理士や公認会計士など会計の専門家への相談が必要だといいます。
そのやり直しを防ぐ一つの方法として、たとえば月10時間分ほどの固定残業手当をつけておくことを挙げます。
小さな計算ミスであれば、その固定残業手当の中で未払い分を吸収できるためです。ただし、長すぎる時間数は入れないほうがよいと注意しています。
早めに専門家へ相談を
最後に吉田さんは、今回のポイントとして専門家への相談を改めて勧めます。
IPO準備中だけでなく、事業承継や、会社を売却するM&Aの場面でも、未払いは焦点になることがあるからです。
自分の会社が大丈夫かっていうのは、なるべく早い段階で顧問社労士であったり、そういった専門家に相談することをお勧めします。
給与設計の段階から作り込むことで、すべては解消できなくても、未払いが生じにくい仕組みを整えられると話されています。
まとめ
未払い残業代は、打刻の不備やソフトの設定ミス、ルールの誤解など、さまざまな原因で発生します。IPO準備中の会社では信用や株価にも関わる大きな問題になるため、早い段階での対策が重要だと語られました。
- IPO準備中の未払い残業代は、通報で発覚し上場を遅らせることがある
- 原因は打刻の不備、固定残業代の誤り、給与計算ソフトの設定ミスなど多岐にわたる
- 残業は原則月45時間・年360時間まで。手続きをすれば超えることもできる
- 「30時間まで」などの数字が一人歩きすると、打刻後の隠れ残業につながる
- IPOだけでなく事業承継やM&Aでも焦点になるため、早めに専門家へ相談するとよい
