大前提として、離職率は低い方がいい
最初に言っておかないとまずいと思うので、はっきり書いておきます。離職率は、原則として低い方がいいです。
一般的な感覚として、今後も働き続けたいと思える職場が、いい職場だと思うんです。
辞めていく人が次々にいる状態というのは、あまり健全な職場を想像できません。パワハラをしている人がいたり、上司が部下に無関心だったり、経営状態が悪くて将来性がないとスタッフが感じていたり。
これは会社から見ても同じです。退職されると、その人に教えてきた教育の資産のようなものがなくなってしまいますし、本来発生しないはずの引き継ぎ業務も生まれます。
それに、誰かが辞めるとき、周りの士気はやっぱり下がりますよね。「あいつ辞めてよっしゃ」となることは、あまりないと思うので。
人が続々と辞めると、残ったスタッフは沈みかけている船に乗っているような感覚になって、だったら自分もいち早く辞めよう、となりかねません。だから離職率は低い方がいいはずなんです。
居心地のいい職場で気づいた、負の側面
ここからが実体験です。私はかつて、離職率がとても低い職場にいました。
在職している間、主要メンバーは一人も辞めなかったんじゃないかと思います。みんな「居心地のいい職場だよね」と言っていて、私自身もそう思っていました。
独立志向だったので私は思いませんでしたが、人によっては一生ここで働いてもいいかな、と感じるような場所だったんです。
ところがある日、その居心地のよさには負の側面もあると気づいてしまいました。
きっかけは、業務量を個人ごとに集計してみたことです。すると、特定のメンバーだけが異常な業務量をこなしていることが、数値ではっきり見えてしまったんです。
そのうちの一人が、私でした。集計結果と、私の「あの人はものすごく働いているよね」という主観的な認識も一致していました。
もちろん、その業務量に応じて給料が分配されていればいいんです。100やった人が100、30しかやらなかった人が30、というわかりやすい制度なら納得もできます。
でも長く勤めると、この人はだいたいこのくらいもらっているよね、と肌でわかってきます。そのとき感じたのは、そんなに給料の差はなさそうだ、ということでした。
「頑張っても無駄だ」と思ってしまった瞬間
そこで私はこう思ってしまったんです。頑張っている方が無駄じゃないか、と。
業務が少ないメンバーも、惰性で昇給されていく。だからローパフォーマーでも辞めないんです。居心地がいい、と言って。
その状況を肌で感じたとき、逆に、仕事ができない人のふりをして、周りから信頼されないスタッフを演じつつ、クビにならない程度に定時に出社して依頼された仕事だけをやる方が、この職場では効率よく給料を受け取る最高の方法だ、とすら気づいてしまいました。
それで、すごくモチベーションが下がってしまったんです。一言で言えば、この職場で頑張っても無意味だな、と思ってしまった訳です。
他の人の話を聞いても、こういうことはありますよね。年功序列の大企業で、うまく仕事を回避しながら勤続給を取っていくのが効率的だ、これが人事評価制度のハックなんだ、なんて言っている人もいたりします。
そうなってしまうと、やっぱり会社はおしまいだと思うんです。
会社側が本当にやるべきこと
ここからは会社側の視点に戻ります。
猛烈に業務をやっている人がいるなら、まずは単純に給料として還元するべきだと思います。
とはいえ、うちは年功序列だからあまり差を設けない、というのも会社の哲学ですから、それ自体が悪いこととは思いません。
ただ、少なくとも会社がやらなければいけないのは、ローパフォーマーに対する不足したコミュニケーションを、ちゃんと取ることだと思います。
入社時に約束した内容を守っていないとか、期待成果入社時に会社と本人の間で合意した、達成してほしい成果の水準が出ていないスタッフがいるなら、上司は気が重くても「あなたは期待成果に到達していないんです」と伝えたり、特別な指導をしたりして、追いつくようにする。
それは本人のためでもあり、それを間接的に見ている周りのスタッフのためでもあると思うんです。
たとえばローパフォーマーの人が呼び出されて指導を受けている。それを聞いたハイパフォーマーの人は、会社はちゃんと向き合って指導しているんだ、という事実がわかるので、気持ちが報われると思います。仮に給料でそんなに差がなかったとしてもです。
たとえば「この資格試験に受かります」と言って入社してきた人が、明らかに受けるつもりも受かるつもりもなさそうなら、「本当に受けるつもりはあるんですか」というコミュニケーションを取らないといけません。
受かるつもりがないなら、改めて仕事や職種の内容を合意のうえで変更させてもらったり、場合によっては給与水準まで変える必要も出てくると思います。
いい離職と、悪い離職の見分け方
そうやってしっかりコミュニケーションを取った結果、「この会社にはいられません」と退職していくなら、これはいい離職、仕方がない離職だと思います。
いい離職には他にもあります。会社には成長ステージがあって、0を1にするのが好きな人もいれば、1を10にするのが好きな人、10を100にするのが好きな人もいます。
これから始まるぞ、という混沌とした雰囲気が好きな人からすると、会社が成熟して管理部門が発達し、稟議も勤怠もきっちりやるようになると、居づらくなってくる。会社のステージと本人のやりたいことが合わなくなったなら、比較的いい離職なのかなと思います。
だからこそ、なぜ退職したのかを分析していくことが重要なんです。
もう一つ大事なのは、人間は感情の生き物だということです。給料や賞与で差がつきにくい制度でも、「あなたがこの会社にいてくれてすごく助かっているんです」と、ちゃんと言葉で伝えていく。
社内表彰をうまく活用したり、役職で認めたり。報酬は金銭以外にもいろいろありますから、そういうところで頑張りを認めていくのも重要だと思います。
注意したいのは、100人いて100人がやる気のある状態は、一般的にありえないということです。どんな優等生ばかりの学校でも、落ちこぼれる人はいます。だからある程度の妥協も必要だとは思うんです。
それから離職率は業界によって大きく変わります。介護業界や飲食業界は高いでしょうし、座って仕事ができる事務職は低めかなと思います。
だから、飲食業なのに事務職の低い離職率を目標にするようなKPI設定は間違っていると思います。同じ業種でうまくいっているところの離職率を目指す、といった前提の考え方から整えることが大事です。
まとめ
離職率が低いこと自体は、やっぱりいいことです。ただ、それだけで手放しに賞賛できるわけではない、というのが私自身の実体験からの正直な気持ちです。頑張っても無駄だと感じさせない仕組みと、一人ひとりへのコミュニケーションが、結局は一番効くのかなと、いまは考えています。
- 離職率は原則として低い方がいい。でも「低いから安心」とは限らない
- 頑張った人が報われないと、優秀な人ほど「頑張っても無駄だ」と感じてしまう
- ローパフォーマーへの指導と、ハイパフォーマーへの承認は、どちらも周りが見ている
- 退職の理由を分析し、いい離職か悪い離職かを見極めることが重要
