賞与を払ったら「賞与支払届」を必ず出す
まず超基本の話からです。賞与を支払ったら、日本年金機構に「賞与支払届」というものを出す必要があります。
これは何のためかというと、賞与を払うと社会保険料がかかるからなんです。
仕組みとしては、うちの会社のスタッフさんに賞与をいくら出しました、という届け出を会社から日本年金機構に出します。その届け出をもとに、日本年金機構が社会保険料を請求してくるんですね。
つまり、賞与支払届を出していないと、そもそも請求がかかりません。結果として社会保険料の未払いにつながってしまいます。
超基本なんですけどね。でも、忙しい時期って油断するんです。
たとえば労務担当者の方や社会保険労務士の先生だと、年度更新や算定の時期って本当に忙しいと思うんですよね。
7月に賞与を支払ったのに、忙しさが一段落したところで「あれ、届け出出してなかった」なんてことは、人間だから起こりうるんです。
大体は、決算を組むときに気づくことが多いと思います。スタッフさんから預かった社会保険料がいつまでも消えなくて、経理部門や税理士の先生が「これおかしいじゃん」と気づくんですね。
ただ、賞与支払届は本来、支給してから5日以内に出さなきゃいけません。そこで気づいて出し忘れが発覚すると、遅れの問題や会計処理への影響も出てきます。しっかり適切に出すことが重要です。
金額が少なくても、寸志でも届け出は必要
たまに、金額が少なければ賞与支払届は出さなくていい、寸志なら出さなくていい、と考えている人がいます。でも、それは関係ないんです。
たとえば1万円、2万円でも、賞与っぽく出しているなら賞与支払届の提出が必要です。ご注意ください。
あと、届け出関係の凡ミスでいうと、労働保険の年度更新もあります。1年の賃金を集計して労働保険を計算する時期があるんですが、そこに夏と冬の賞与を全く入れていなかった、なんてこともあるかなと思います。
こうした未届や入れ忘れがどうトラブルになるかというと、行政官庁は定期的に調査をしているんですね。そのときに賞与支払届が出ていないと、指導されることになります。
いずれいつかはバレます。賞与を支払ったなら、賞与支払届は必ず提出しましょう。
減額は簡単。でも説明なしにやると労働組合の話になる
次は減額の話です。前回もお伝えしましたが、賞与は金額を上げたり下げたりするのが比較的容易です。
何と比べて簡単かというと、月給と比べてです。基本給を切り下げるのは法的にものすごく難しいんですが、賞与の金額を前年と比べてカットするのは、法的な制限が非常に弱いんです。
就業規則や雇用契約書に「賞与は最低いくら以上出します」といった特別な約束がない限り、減額してもそんなにトラブルにはなりません。
でも、ここを甘く見て大変な思いをした会社があるんです。
慣行として月給の3ヶ月分くらいの賞与をずっと出していた会社がありました。それをある時、社長が「このスタッフは仕事をちゃんとやっていない」と怒って、何の説明もなくいきなり10分の1くらいにカットしてしまったんです。
ここまでだと、違法だと言い切れるほどのものではありません。
ところが、この会社はめちゃめちゃ苦労しました。何の説明もなく賞与がガツンと下がると、スタッフさんからすれば「なんで?」と思うわけです。
それで納得がいかず、労働組合に加入してしまったんですね。
労働組合は憲法で定められた権利ですから、加入して交渉するのは自由です。会社としても誠実に対応しなきゃいけない。これに対応するのが本当に大変だったんです。
一度加入して交渉が始まると、賞与以外にもいろんな議題が上がってきます。賞与の減額を入り口に団体交渉が必要になった、なんて話もあるんです。
だから減額するときは、ちゃんと説明したほうがいいと思います。
業績が悪いなら「業績が悪いです、だから頑張っていこう」と言えばいいし、個人の勤務成績や態度が悪いなら、それをちゃんと説明する。
そして「それが解消されれば元の金額に戻るから頑張ろう」というコミュニケーションをすれば、そんなにトラブルにはならないかなと思います。
退職予定者・育休産休中の賞与は「説明できる」ことが大事
ここからは細かな論点をちょろちょろとお話しします。まずは退職予定者の場合です。
よくあるのは、支給日に在籍している人にしか賞与を出さない、というケースです。7月25日が支給日なら、7月24日に辞めた人は0円、7月25日に退職する人には出る、というような扱いですね。
こういう扱いをするなら、あらかじめ就業規則に書いておく必要があります。
それから、退職を申し出た人の賞与をいくら減額するか、という論点もあります。
賞与って、何に対して出しているのかは会社ごとに哲学があるんですよね。過去の頑張りに対して出している場合もあれば、今後頑張ってくださいという気持ちで出している場合もある。
後者なら、退職予定者の賞与が下がること自体は、それだけで違法とは言えないはずです。だからこそ、聞かれたら答えられる準備をしておいたほうがいいと思います。
もう一つトラブルになりやすいのが、育休産休中のスタッフの賞与です。
育休産休中で出勤していない、時短勤務になっている、それに応じて賞与が減額されるのは違法ではありません。査定期間が全部産休育休で結果ゼロ、というのも違法ではないんです。
ただ、違法になるケースもあります。産休育休に入っているだけで自動的に人事評価を最低基準にして賞与をガツンと下げる、といった不利益的取り扱いは違法と判定されるはずです。
ここでも重要なのは、この金額はどういう算定基準で決まったのか、と聞かれたときに答えられることです。
たとえば「査定期間が6ヶ月で、その半分が育休でしたよね。労務提供していないので、本来の金額と比較して約50%の賞与が出ています」と説明できることが大事なんです。
正社員だけに賞与を出すロジックは、慎重に
最後は同一労働同一賃金の話です。ガイドラインも改正されますし、昔からいろんな論点になっています。
正社員だけに賞与を出す会社は多いはずです。パートさんには出さない、というのも珍しくないと思います。
でも同一労働同一賃金の観点からすると、待遇差があるなら説明できなきゃいけないんです。
だから、うちの賞与はそもそも何に対して出しているのか、これを哲学的にというか、ちゃんと議論して定義しておく必要があります。
もし業績だけに対して出しているなら、業績が良ければみんな受け取れるよね、という話になります。
そうではなく、業績に加えて、正社員としての特定の業務や責任、そこが賞与にリンクしているんですよ、というロジックが必要です。
それがないと、非正規の方から「それって同一労働同一賃金に違反していませんか。私も少しは受け取れる権利があるんじゃないですか」という話になる可能性があります。
たとえば、よくあるパターンで「業績と個人の勤務成績で決まります」というルールがあるとします。
その場合、個人の勤務成績が正社員と非正規でどう違うのか、そもそも求められているものがどう違うのか。ここを説明できないとトラブルになるかなと思います。
正直、パートの方で当然に賞与を受け取れると考えている人は、世の中の絶対数としては少ないはずなので、そこまで実際のトラブルにはならないかなとも思います。
ただ、同一労働同一賃金の話もありますから、聞かれたら答えられる、というのはすごく重要なことだと思います。
まとめ
こうして並べてみると、賞与のトラブルって「届け出を出す」か「なぜこの金額なのかを説明できる」か、その2つに集約されている気がします。自由に決められるからこそ、説明できる準備をしておく。いまの私は、そこが一番大事だと考えています。
- 賞与を支払ったら、金額が少なくても寸志でも「賞与支払届」を必ず提出する
- 賞与の減額は法的には容易でも、説明なしに下げると労働組合の交渉などに発展することがある
- 退職予定者や育休産休中の賞与は、算定基準を聞かれたときに説明できるようにしておく
- 正社員だけに賞与を出すなら、その待遇差を説明できるロジックを慎重に用意しておく
