結論は「一次情報を言語化できる人は残る」
この回のテーマは、AIが普及すると労務担当者の役割はどうなるのか、という問いです。
吉田さんはまず結論から話します。労務担当者の役割は変わっていくものの、一次情報を言語化できる人は残ると考えられると言います。
一方で、一次情報を二次情報に変換したり、ただ入力したりするような業務はなくなる、という見立てです。
AIが得意なこと・力を発揮できないこと
話を具体化するために、まずAIが得意なことと不得意なことを整理します。
AIが得意なのは、情報が言語化されていて、それを渡して処理することだと言います。
反対に、前提となる文脈情報がAIに届いていない場合は、間違ったアウトプットや一般論、抽象論で話が終わってしまうと指摘します。
情報が言語化され、文脈が整理された状態で処理を任せる場合
前提となる文脈情報が届いておらず、抽象論で終わってしまう場合
雇用契約書の作成で見る「残る業務」と「置き換わる業務」
わかりやすい例として、吉田さんは雇用契約書の作成業務を挙げます。
本人と労働条件を交渉し、説明し、細かいところを詰めていく部分は一次情報の獲得にあたるため残ると考えられます。これはどちらかというと人事の役割かもしれない、とも話されています。
一方、話し合いをもとに作った採用内定通知書があり、それをもとに雇用契約書を作る作業は、労働条件を転記しているだけに近いと言います。
つまり採用内定通知書という文脈情報を与えれば、雇用契約書は自動的に出来上がるため、AIでもできるはずだという整理です。
ワンハートで進める「業務の言語化」
吉田さんは、自社である社労士法人ワンハートでの取り組みも紹介します。
「Claude CodeAnthropicのAIモデルClaudeを使い、指示に沿ってコードや作業を進めるツール。ここでは業務自動化の文脈で言及されていますで自動化した」といった話が流行っているものの、自社はまだそこまで進んでいないと率直に話します。
前提として、業務を言語化し文脈情報を与えないとAIはうまく動かない、という課題感があると言います。そこで今は、会社の中でやっている業務を言語化していくことに力を入れているそうです。
リモートワークを推進しマニュアル文化ではあるものの、AIが判断するには情報が足りないと感じ、全社的にマニュアルの精密化を進めていると話されています。
例えば社長一人、従業員一人の簡単な給与計算でも、人間なら確定ボタンを押すだけで済みます。しかしAIに任せるなら、雇用形態は正社員のみ、固定残業手当があるため超過はまず起きない、といった前提を一つずつ言語化する必要があると説明します。
AIには準備段階があって、まず言語化しないとAIがうまく動かない、文脈情報を与えないとAIがうまく動かない。
今会社の中でやってる業務を言語化しなきゃいけないよねっていうのに、すごく課題感を持ってます。
言語化がある程度進んできたため、次はClaude Codeの研修を受けて社内で進めていく予定だと言います。
ポッドキャストで話しているぶん自動化が進んでいると思われがちだが、実際のAI活用はまだ限定的だと補足します。就業規則の品質チェックなどには使うものの、いわゆるGemを作る程度にとどまり、エージェントが自動で動くレベルには達していないと話されています。
残る業務は「一次情報を言語化する仕事」
話を本題に戻し、吉田さんは残る業務を具体的に挙げます。
現場スタッフへのヒアリング業務は今後も重要で、AIには難しいと言います。悲しいパターンとして、ハラスメントが起きた際に関係各所からヒアリングする能力を例に挙げています。
さらに、現場の様子を見て仮説を立て、社内調査を設計するような業務も置き換えは難しいと話します。集計はAIにできても、設計の部分は人が担うという整理です。
経営者とのコミュニケーションも残る業務です。どんな会社にしたいか、どんな働き方がよいかを聞き出し、それを制度化していく仕事は、一次情報を言語化する業務にあたると説明します。
なくなる可能性が高い業務
一方で、なくなってしまうかもしれない業務も挙げられます。
就労証明書を一定のルールで作る業務は、Googleフォームでの入力や過去数か月分の勤怠・賃金データがそろえば、理論上は全自動でできるはずだと言います。
勤怠処理をルール通りに行う業務も同様です。締め日に勤怠の抜けをピックアップし、担当各所にフィードバックするような作業は、気の利いた勤怠システムなら自動集計やSlack通知で対応できるようになってきていると話されています。
つまり、自分が扱っているのが二次情報を入力・編集するような業務であれば、労務担当者の仕事は消滅する可能性が高いという見立てです。
現場や経営者とコミュニケーションし、一次情報を引き出して言語化・制度化する業務
既にある情報を一定のルールで入力・編集・変換するだけの業務
下積みの場が減る時代のキャリアの考え方
吉田さんは本筋から少しずれると前置きしつつ、労務担当者のキャリアにも触れます。
労務担当者はもともと実務経験を積む場が少なく、優秀な人がAIを駆使する時代になると、下働きの担当者の活躍の場が減り、参入障壁が上がるかもしれないと話します。
だからこそ、まだAIに完全に置き換えられていない今、チャンスがあれば席を確保して上に上がっていくのがよいと言います。
チャンスを逃した場合でも、重要なのは一次情報を言語化する力をどう獲得していくかであり、キャリア開発の観点から考えたほうがよいとまとめます。
まとめ
AIが普及しても、一次情報を取ってきて言語化する労務担当者の役割は残り、むしろ活躍の場が広がると考えられます。一方で、既にある情報をルール通りに入力・変換する業務は置き換わっていく可能性が高いと話されています。
- AIは文脈情報が整理されていれば力を発揮し、前提が欠けると抽象論で終わってしまう。
- 現場や経営者から一次情報を引き出し、言語化・制度化する業務は残る。
- 就労証明書作成や勤怠処理など、ルール通りの入力・編集業務は自動化される可能性が高い。
- ワンハートでは自動化の前段として、当たり前の業務を言語化しマニュアルを精密化している。
- 下積みの場が減る時代だからこそ、一次情報を言語化する力の獲得がキャリアの鍵になる。
