従業員のドジによる怪我は労災になるか
今回のテーマは従業員の労災です。吉田さんは冒頭で、安田さんにクイズを出しました。
従業員のドジで業務時間中に怪我をした場合、これって労災になると思いますか?
想定するのは、仕事で使う道具を手に持っていて、本人の不注意で手から滑り落ち、その先にあった自分の足を怪我してしまうケースです。
安田さんは「自分だったら恥ずかしいので黙ってしまう」と答えましたが、吉田さんはそれはダメだと指摘します。
ちょっと恥ずかしいんで黙しますね。
それダメなんですよ。
通常は就業規則に「業務時間中に仕事で怪我をしたら報告する」というルールがあるため、それに基づいて報告してもらう必要があると説明されました。
怪我を隠すと会社が困る理由
自分に落ち度があると、従業員は上司に何を言われるかわからないと考え、報告を避けたがります。しかし、それが会社にとって大きな問題を生みます。
怪我が原因で会社を休むことになった場合、会社は労働基準監督署に対して、どういう原因で休んでいるのかを報告する義務があります。
従業員が怪我を隠すと、会社は報告義務違反を誘発されてしまうことになります。
報告義務違反になるんです。なんか重大な話になってきちゃうんですね。
物を落として足を怪我した程度なら大事には至らないかもしれません。ですが、数ヶ月後に悪化したり、最悪の場合は障害が残る可能性もあります。
そうした事態を考えても、労災を使ったほうが本人のためになると吉田さんは話します。
仮に自分のドジであったというか、落ち度があったとしても、必ず会社にまず相談を、報告をしてほしい。
健康保険証でこっそり治すのはなぜダメか
続いて、従業員が上司や社長に言いたくないからと、健康保険証を使ってひっそり治療するケースについて問われました。安田さんは「話の流れからしてダメでは」と答えます。
吉田さんによれば、健康保険証は仕事以外の怪我や病気に使うものです。安田さん自身も知らなかったと驚きます。
あ、そうなんですか。もうそれを知らなかったです。
病気や怪我をしたらまず健康保険証を持って病院へ、というのが定番のため、仕事の怪我には使えないことを知らない人が多いと吉田さんは補足します。
仕事の怪我で健康保険証を使って治療を受けるのは、はっきり言えば健康保険を不正に利用していることになります。
健康保険は仕事以外の怪我を前提に保険料を計算し、労災保険は仕事の怪我を前提に保険料を計算しています。それを取り違えて使うのは正しい処理ではない、というのが理由です。
仕事以外の怪我や病気を前提に保険料が計算されている
仕事中や仕事が原因の怪我を前提に保険料が計算されている
仕事かプライベートか、判断が分かれる怪我
安田さんは、物を落とした怪我のようにわかりやすいものではなく、見過ごしそうな労災はあるかと尋ねました。
吉田さんが挙げたのは腰痛です。重いものを持つ仕事で腰痛になった場合、仕事が原因かプライベートかの判断が分かれることがあると言います。
40代50代の人であれば年齢による腰痛ではないかという意見もあれば、重いものを持って仕事をしていたのだから仕事が原因だ、という意見もあり得ます。
そういう時どうしたらいいんですか?
こうした判断が分かれるケースでは、必ず労働基準監督署に判断を仰ぐようにしてほしい、というのが吉田さんの回答です。
労災かどうかを決めるのは誰か
よくある勘違いとして、労災かどうかを決めるのは会社の経営者や社長だと思っている人がいます。安田さんも「思ってました」と反応しました。
しかし実際には、最初に判断する主体は社長ではなく労働基準監督署です。
安田さんは、労働基準監督署は悪いことをしている時に密告する場所というイメージがあり、相談先として思い浮かばなかったと話します。
吉田さんは、労基署は誤解されている役所だと説明します。残業代を払っていないスタッフが相談するイメージがある一方で、労災かどうかの相談や労働保険料の計算も親切に答えてくれる役所だといいます。
だからこそ、会社の人がやってはいけないのは、自分でこれは労災だ、労災じゃないと決めつけて、従業員からの報告を無視したり却下したりすることです。
腰痛のように意見が割れた場合は、まず労働基準監督署に労災の報告書を作って提出し、労災と見るかどうかを判断してもらう流れになります。
労基署に相談することの会社側のメリット
労基署に報告するのは会社として抵抗があるかもしれませんが、メリットもあると吉田さんは言います。
仮に腰痛を「年齢によるものだ」と決めつけて労災ではないと断ったとします。すると後日、その怪我が原因で働けなくなったというクレームにつながる可能性があります。
最初から労基署に報告し、労災だと判定されればそれに従い、労災ではないと判断されれば、その判断を根拠に説明できます。これにより、会社が後で責任を問われる可能性は低くなると考えられます。
責任がどこにあるかっていうのが、相談したかしないかで変わってくるんですね。
従業員が報告
自分のミスであっても隠さず、まず会社に報告する
社労士に相談
仕事が原因かどうか判断に迷う場合は顧問社労士に相談する
労基署に報告
最終的には労働基準監督署に報告し、労災かどうかを判断してもらう
仕事中や仕事が原因であろう怪我が起きた場合は、まず顧問社労士に相談しつつ、最終的には必ず労基署に上げたほうがよい、と吉田さんはまとめました。
まとめ
従業員のミスによる怪我でも労災の対象になり得ます。隠したり自己判断で処理したりせず、報告義務と労基署の役割を理解しておくことが、結果的に会社と従業員の双方を守ります。
- 自分のドジによる怪我でも、隠さずまず会社に報告してもらうことが大切
- 仕事の怪我を健康保険証で治療するのは、健康保険の不正利用にあたる
- 腰痛など判断が分かれる怪我は、会社が決めつけず労働基準監督署に判断を仰ぐ
- 労災かどうかを最初に判断するのは社長ではなく労働基準監督署
- 労基署に報告しておくことで、会社が後から責任を問われる可能性を下げられる
