ZOOMの普及と、先行していたベルフェイスの逆風
雑談の入り口は、この収録でも使っているオンラインミーティングツールの話でした。吉田さんがTwitterでアンケートを取ったところ、利用ツールは圧倒的にZOOMが多かったと言います。
GoogleMeetやTeamsもあるものの、機能に大きな差はなく、それでも「みんなが使っている」という事実がZOOMの普及を後押ししているのではと吉田さんは話します。
ここで吉田さんが持ち出したのが、ZOOMが流行る前にオンライン商談ツールでトップを走っていたベルフェイスという会社です。ベルフェイスオンライン商談に特化したツールを提供するスタートアップ企業。コロナ禍以前からオンライン営業支援の分野で知られていた。
このコロナの前、ZOOMが流行る前に、オンライン商談ツールを出してトップを走ってた会社がベルフェイスさんっていう会社があるんですね。
ところがリーズナブルで高機能なZOOMが一気に普及したことがベルフェイスにとっては逆風となり、業績も下がって100人以上の人員削減をしたらしい、と吉田さんは説明します。
人員削減100人って言ったらめちゃめちゃ大変だと思うんですよ。100人人員削減してくれって言われたら、ちょっと身が持たないと思います。
人員削減はなぜ「理不尽」に見えるのか
吉田さんは安田さんに、人員削減にどんなイメージがあるかを尋ねます。安田さんは雇われていた頃の記憶から、理不尽に感じてしまうと答えました。
私の場合は雇われていた時の記憶が大きいので、ちょっと理不尽な気がしちゃいますね。
一生懸命働き、嫌な上司の指示にも耐えてきたのに、ある日突然辞めてほしい、希望退職に応じてほしいと言われる。それは理不尽に映る、と吉田さんも同意します。
何の説明もなかったりとか、そこまで本当にいろんな対策を取ってきて、その決断なのかとか分からなかったりすると、なんでいきなり?って思うんじゃないかなと思いますね。
ただし吉田さんは、法律上は「いきなり人員削減する」ことに規制があると付け加えます。
プロ野球の戦力外通告と整理解雇の違い
吉田さんは分かりやすい例として、プロ野球のシーズンオフに行われる戦力外通告を挙げます。あれに近いことを会社経営でやるのはとても難しい、と言います。
なんか普通に行われてるのかと思ってましたけど、違うんですね。
吉田さんによれば、プロ野球選手は労働基準法上の労働者ではないため、ああした通告ができるのだと説明します。労働基準法労働時間や賃金、解雇などの労働条件の最低基準を定めた法律。適用される「労働者」には要件があり、対象外の働き方もある。
一般の会社が人を辞めさせる整理解雇には、いくつもの条件があります。吉田さんが挙げたのは、会計上・財務上の必要性、そして経営者自身の責任の取り方です。
経営上の必要性
会社が赤字や債務超過など、人を辞めさせないと存続できないほどまずい状態にある
経営者の努力
業績悪化は経営者の責任であるため、役員報酬を下げるなどの対応をしたか
これらをクリアして実施
いろいろな条件を満たした上で、はじめて整理解雇ができる
業績が悪化したのってどういう理由があったにしても経営者の責任ですから、役員報酬を下げたんですか?とか、そういったいろんな条件をクリアした上で整理解雇っていうのはできるようになるんですね。
こうした話を受けて、安田さんは末端に情報が届く前の段階で会社がさまざまな手を尽くし、最終的に人員削減という選択に至るのだと理解を示しました。
日本の雇用が正社員と非正規の二層構造になった背景
吉田さんは、経営が傾いていないと人員削減できないとなると、会社経営は自由にできず、それはそれで大変だと指摘します。
では日本の会社はどうやって経営の自由度を確保してきたのか。吉田さんは、賛否はあるとしつつ、正社員とそれ以外の二層構造にスタッフを分けてきたと説明します。
日本の会社がどのようにしてその自由度を勝ち取ってきたかっていうと、これ賛否いろいろあるんですけど、正社員とそれ以外の二層構造にスタッフさんを分けて。
不景気で業績が下がったときには、非正規社員を辞めてもらったり契約期間満了で退職してもらったりして、その分の仕事を正社員が残業でカバーする。こうして不景気を乗り切ってきたのが日本のやり方だと言います。
辞めさせるのが難しく、不景気の間は残業で仕事をカバーして雇用が維持されやすい
契約期間満了などで先に辞めてもらう対象になりやすく、人員調整の役割を担わされてきた
ただし吉田さんは、非正規雇用だからといって経営者が何も感じずに辞めさせられるわけではない、とも語ります。契約社員にも家族があり、それぞれの苦労がある、と。
そう考えると、ベルフェイスの経営者や人事担当者も、大きな心労を抱えながら人員削減を進めたのではないか、と吉田さんは推し量ります。
一人一人の人生があることは十分承知の上で、その話をしなきゃいけないっていうことですもんね。
誰を正社員にし、誰を残すのか
では、こうした事態にならないためにどうすればいいのか。吉田さんは、正社員を辞めさせるのが難しい今の法律のもとでは、難しい問題だと前置きします。
その結果として一般的に取られているのが、辞めてもらったら困るメンバーを正社員にし、影響の小さい人を非正規社員にするというやり方だと吉田さんは率直に語ります。
安田さんは、人件費は最もコストのかかる部分だと言われる、と応じ、吉田さんもその通りだとうなずきました。
もし自分の会社が危機に陥ったらと問われた吉田さんは、考えたくもないと本音を漏らしつつ、起業時にすでにその覚悟をしていたと明かします。
もし自分の思い通りにいかなかったら、こちらからお願いして、頭下げて、もうこれ以上は続けられないっていう風に言う瞬間が来るのかなっていうのを覚悟して起業しました。
辞めさせる前に、外部の専門家と相談を
どんな覚悟があっても人員削減は辛い、と吉田さんは言います。だからこそ、専門家に相談できる相手がいるだけでも心強いと勧めます。
社労士への相談では「辞めさせたい」という内容がかなり多い方だと吉田さんは打ち明けます。社労士社会保険労務士。労働・社会保険に関する手続きや、就業規則・人事労務の相談などを担う国家資格者。
大声じゃ言えないですけれども、辞めさせたいっていう相談は、やっぱり社労士の中だとかなり多い方ですね。
吉田さんは、辞めさせるにもいろいろなパターンがあると言います。相談の中で「それは社長の思い込みなのでは」と気づくこともあれば、逆に「そのパターンなら辞めさせた方がいい」と判断できることもある、と。
まとめ
ベルフェイスの100人規模の人員削減を入り口に、整理解雇の厳しい条件と、日本の雇用が正社員と非正規の二層構造になってきた背景が語られた回でした。制度の理由を知ると、人員削減という言葉の見え方も少し変わってきます。
- ZOOMの普及で逆風を受けたベルフェイスは、100人以上の人員削減をしたと吉田さんは説明する
- 整理解雇には、経営上の必要性や役員報酬の引き下げなど、いくつもの条件を満たす必要がある
- 日本の会社は正社員と非正規の二層構造で、不景気時の人員調整の自由度を確保してきた
- 非正規雇用であっても、辞めてもらう判断には一人一人の人生への配慮が伴う
- 人員削減にはさまざまなパターンがあるため、外部の専門家と相談し冷静に判断することが勧められる
