関西ダンスシーンとH2という会社
番組の第6回は、他業界篇としてジャパンダンスディライトなどの照明プランニングや各種イベントの照明を担当する株式会社H2の桂翔乃さんが登場します。
MCのパンチ翔平さんは、関西でダンスをしていればH2の照明を浴びたことがない人はいない、と紹介します。
桂さんは普段は照明のサイドにいるため、表に出て話す機会は少ないと話します。
僕の声を聞いたの、初めての人いっぱいいると思います。
H2は15年続く会社で、桂さんが入社した当時は先代の社長がいました。ダンスの照明を始めたのはこの先代で、そこから声がかかるようになり現在に至ります。
照明の世界に入ったしょうもないきっかけ
桂さんが照明を始めたきっかけは、専門学校に通う前のコンサートのアルバイトにさかのぼります。もともとは大阪に出たいという思いが先にありました。
広島出身の桂さんは、先輩の紹介で広島グリーンアリーナのコンサートバイトに入りました。そこで同じ日雇いのおじさんに激しく怒られ、腹を立てたことが転機になります。
怒りながら会場を見渡すと、バイトの人たちを顎で使う立場の人たちがいました。それが照明さんだったのです。
こういう人をアゴで使うにはどうしたらいいんかなと思って、この会場を見ると、そういう人たちをアゴで使ってる人たちがいた。それが照明さんやと。それで、目指しました。
パンチさんは、10代の頃はみんなしょうもないきっかけから夢を持つものだと受け止めます。
専門学校に入った桂さんですが、授業は意味がないと感じてしまったといいます。通信制の高校で半分働きながら過ごした経験から、仕事はやってみないとわからないという考えが強かったためです。
給料未払いと48連勤、それでも続けた理由
アルバイト先にそのまま就職した桂さんですが、この会社は給料の未払いがあり、労働環境も過酷だったと振り返ります。
これが職人の世界かと思わされるぐらいの。3ヶ月ぐらい未払いで、連勤も48連勤とか。3徹とかしたこともあります。
パンチさんは48連勤や3徹という数字に驚きます。桂さんは、そういう業界だと聞いていたので耐えられたと話します。
それでも続けられたのには理由がありました。桂さんの家は職人が多く、祖父は宮大工でした。働き出してすぐお金になる感覚がなく、下積みとはそういうものだと捉えていたのです。
働き出してすぐお金になるっていう感覚がなかったというか。下積みってそういうもんぐらいの感じで捉えてやってたので。
ただ、お金が入らないことだけはつらかったといいます。迷っていた時に出会ったのが、専門学校の先生でもあった先代社長でした。
飲み仲間からの入社と、H2を継ぐまで
先代社長は桂さんの授業を持ったことはなく、直接の関わりはありませんでした。ただ、ダンスの照明で有名なデザイナーとして学校でも知られた存在でした。
桂さんの最初の会社は照明専門の人材派遣に近い形で、デザインやオペレートをする会社ではありませんでした。ちゃんと照明をやってみたいという思いを抱えていたところで、先代と出会います。
最初は桂さんから飲みに誘い、2回目3回目からはお互いに誘い合う仲になりました。会社を辞めようと思っていた時に入れてほしいと伝えると、二つ返事で受け入れられたといいます。
内容聞いてないけど、「あ、いいよ」。これなんですよね。
その後、先代が亡くなり、社員4、5人の中で一番古く、一番近くでやっていた桂さんが自然とH2を引き継ぐことになります。
代表になって丸5年。始まった時期はコロナ禍と重なり、良い状況で引き継げたわけではありませんでした。最初の2年は死に物狂いだったと振り返ります。
現在のH2の仕事はほぼダンスで、桂さんは9割9分9厘がダンスだと話します。営業はせず、口コミと紹介だけで広がってきたといいます。
H2が大事にしている「ふてぶてしくない」姿勢
パンチさんが、H2がダンスシーンで選ばれる秘訣を尋ねると、桂さんは大事にしていることがあると答えます。それは照明の技術そのものよりも前の話でした。
照明やって、ふてぶてしくないですかっていうところが。
ホールに入った時に、照明・音響・舞台監督にぶっきらぼうな人が多くないか、と桂さんは問いかけます。H2は絶対にそうならないように気をつけているといいます。
桂さんは社員にも同じ態度を求めます。ぶっきらぼうな態度は意味がわからないからやめてくれ、と指導していると話します。
もう一つ大事にしているのが、ミスをした時の対応です。照明さんはミスしても謝らない人が基本的に多いと感じてきた桂さんは、それをずっと疑問に思ってきました。
照明さんってミスしても謝んないんですよ、基本的に。だから僕らはもうすぐスライディング土下座しに行くという。
パンチさんは、ダンスシーンは若い出演者やオーガナイザーが多い分、照明さんが味方でいてくれる感覚が重要なのだと受け止めます。
サスとピンスポ、SS問題という舞台用語のつまずき
ここからは、ダンサーが知っておきたい照明の演出や舞台用語の話に入ります。ベテランでも意外と詳しくない人がいるテーマです。
桂さんが最初に挙げたのが「サス」です。サスとピンスポットを混同している人が多いといいます。
サスっていうのは舞台上の上からの明かりでソロをフォーカスすること。ピンスポットは客席後方から自分に向かって当たってくる照明。見え方も性質も全然違う。
よくある要望に「ピンスポで追ってください」がありますが、実はサスで追ってほしいという意図だったりします。サスは基本動かないため、掛け違いが起きやすいのです。
舞台上部からの明かりでソロをフォーカスする。基本はその場にとどまり動かない。
客席後方から人に向かって当たる照明。人の動きに合わせて追える。
桂さんは、動くソロに対して「サスで追う」という指示は、照明側からするとやや危険な書き方だと話します。
多くの照明さんは、2番からセンターへの移動なら、2番のサスをつけた後にセンターのサスに切り替える理解をしがちだからです。思っていた見え方にならない可能性があります。
そういう意味で言えば、危険な書き方になっちゃうのかな。
それでもH2では、ムービングのサスを使って無理やり追うこともあるといいます。ただし、その場合はダンサーの位置とタイミングが決まっていることが前提です。
無理やりムービングのサスで、ぐーっと無理やり追うっていうことは僕らはやっています。
ピンスポのように人が合わせるのではなく、あらかじめ仕込んだ軌道をダンサーが正確に通る必要があります。タイミングやスピードがずれるとすぐ外れてしまうのです。
SSと色指定、伝わる照明プランの書き方
次に話題に上がったのが「SS」です。ここにもよくある勘違いがあります。
SSっていう照明は袖の辺りから顔を当てたりする照明。SSが付いてないっていうことの方が珍しい。
SSは基本的に付いているため、「SSをください」と書かれると、すでに付いていると迷ってしまうと桂さんは言います。SSだけにしたいなら「SSのみで」と書くと伝わります。
パンチさんも、常設でSSがないグラフィホールを運営して、SSがないと顔も動きも見えないことに気づいたと話します。ダンスにとってSSは必須の照明です。
舞台上部からソロを照らす。基本は動かない。
客席後方から人に当てる。動きを追える。
袖から顔や身振りを当てる。基本は常に付いている。
SSの色については、会社の考え方や機材によって変わる場合と変わらない場合があります。色を変えられるのはLED光源のSSを使っている時です。
一方で、LEDの明かりで顔を当てると、ただ照らしている印象になりがちだと桂さんは話します。情緒を出したい場合は、電球タイプの一般照明が選ばれることも多いといいます。
そのため現場としてはLEDが増えているものの、SSの色は変わらないことのほうが多いのではないか、というのが桂さんの見立てです。
どの会社が入るか、どんな機材かによって仕上がりが変わるため、ダンサーもその前提を知っておくと照明プランの書き方が変わるといいます。
作品の背景を書くと照明は動く
ここから照明プランのおすすめの書き方に話が移ります。桂さんは照明プランをしっかり見ると話します。
桂さんにとって照明プランは、作品の背景や物語、込めた思いが含まれているものです。どう見せたいか、どんな雰囲気を出したいかを強く考えながら読み取ります。
この作品はこういう作品で、こういう物語があって、こういう思いを込めてますって書いていただけたら、アプローチしやすい。
物語がなくても構わないといいます。「とにかく楽しい感じで作りました」でも、それはそれで十分な材料になると桂さんは話します。
秒数の指定については、細かさによると答えます。0.5秒刻みで指示が敷き詰められていると、読み取る側の目がチカチカしてしまうといいます。
8秒にドン、8.5秒にドン、9秒にドン、10秒にドドンとかって言われると、結構目がチカチカしちゃう。
明かりを変えてほしい区切りの秒数は書いてほしいものの、連続したリズムに合わせる部分は曲を聴いて理解するため、そこまで細かく書かなくてよいといいます。
雰囲気で書くと照明の選択肢が広がる
パンチさんが、シーンごとに雰囲気を書く方法は伝わるのか尋ねると、桂さんはむしろ雰囲気で書いてもらうほうが嬉しいと答えます。
雰囲気って書いてもらえる方が僕ら嬉しいんですよね。選択の幅が広がるんですよ。
桂さんは、ダンサーの流れだけでなく、音の流れや照明の明暗の流れも見ながら色を組み立てています。色ごとの流れも意識しているのです。
たとえば赤の次にオレンジが綺麗だと感じている場面で、青と指定されると流れ的に悩んでしまうといいます。否定はしないものの、全体の流れとの兼ね合いが生まれます。
一方で「次は優しい雰囲気で」と書かれると、色の選択肢が一気に広がります。だからこそ雰囲気書きは嬉しいと桂さんは話します。
桂さんは、書かれた通りにしかやらない照明さんもいるため、H2のやり方が他の現場に当てはまるとは限らない、とも補足します。
そこで桂さんは、指定と雰囲気を使い分ける書き方を提案します。ここは絶対この色という部分は指定し、任せたい部分は雰囲気で書くという方法です。
赤・青・緑と細かく指定すれば、どの照明さんでもその通りになる。イメージを確実に反映したい時に向く。
優しい雰囲気などと書くと、照明側の選択肢が広がる。思ってもみない照明が出ることもある。
どちらもできるのが理想だと2人は話します。作品によって書き方を分けるのも一つの方法です。
照明プランの勉強法と、素直に書くこと
最後に、ダンサーが照明を学ぶ方法について話します。照明演出については、多くのダンサーがすでに発表会やコンサートを見ているため、今の状態で問題ないだろうと桂さんは言います。
むしろ桂さんは、照明プランの勉強方法こそ知りたいと逆に問いかけます。パンチさんは、この部分はふわっとしたまま多くのダンサーが取り組んでいる現状を挙げます。
疑問を抱えつつも期日に追われて提出するダンサーもいるため、フォーマットや勉強できる場があるとよいのではないかとパンチさんは話します。
照明が良ければ出演者の満足度も上がり、保護者の印象を通じてスクールにも跳ね返ってきます。発表会は環境が広い分、照明の演出で見栄えが大きく左右されるからです。
桂さんは勉強方法の難しさを認めつつ、素直に書くことが一番いいと答えます。わからないなりにも、ありのままの気持ちは伝わるといいます。
本当にありのままの気持ちと、わからないなりにも伝わる人って本当伝わるんですよね。もう素直に書いてもらえることが一番いいとは思う。
パンチさんは、この答えが冒頭の「ふてぶてしくない」姿勢とつながっていると受け止めます。とりあえず作りましたではなく、出演者の作りたい作品を汲み取ってデザインする気持ちが、H2の姿勢に一貫していると感じたと語りました。
まとめ
関西のダンスシーンで数多くの照明を手がけるH2の桂翔乃さんは、しょうもないきっかけから照明の世界に入り、過酷な下積みを経て会社を継ぎました。その根底には、態度でも照明プランでも相手の気持ちを大事にする姿勢があります。
- H2はほぼダンスの照明を手がけ、営業ではなく口コミと紹介で広がってきた
- サスは動かない上からの明かり、ピンスポは人を追える照明で、混同しやすい
- SSは基本付いているため、SSだけにしたいなら「SSのみで」と書くと伝わる
- 作品の背景や思いを書くと照明側がアプローチしやすく、雰囲気書きは選択肢を広げる
- 色を確実に反映したいなら指定、任せたいなら雰囲気と、書き方を使い分けるのが理想
