照明人生で過去一よかった現場は「舞台」
今回はダンサー向けの照明の話ではなく、照明を手がける桂さん自身の視点にフォーカスした回です。株式会社H2の桂さんは、西日本を中心に九州や長崎のアリーナなど、大きな現場も数多くこなしてきました。
最初のテーマは「照明人生で過去一よかったダンサーの現場」。数えきれないほどの現場を経験してきた桂さんが挙げたのは、グラフィーホールでも手がける「舞台」でした。
本当に舞台が一番好きで。普段のイベントだったら、言われただけの照明をしないといけない瞬間も多々あったりするんですよね。
桂さんによれば、舞台では音響、照明、ダンサー、映像、レーザーなど、それぞれのプロが一つのことに向かって創作していきます。ああでもないこうでもないと最高の提案と技術をぶつけ合う過程に、舞台ならではの魅力があると語られました。
それぞれのプロが最高の提案と最高の技術をぶつけ合った結果に生まれる感動、みんなで一緒に一つのことに向かうという部分で、舞台は過去一やれてよかったなと思う現場ですね。
パンチさんも、2022年、23年から始めた舞台「踊り場」の制作を振り返ります。現場でダンサーや照明、舞監、美術が一緒になって作り上げ、シーンがつながって最後の感動に至る過程は、通常のダンスイベントとは違う訴えかけがあると話しました。
埋もれさせない、1組に1つの見せ場
舞台とイベントでは、ダンサーへの照明の当て方も変わります。何十組も出演するナンバーの現場では、埋もれさせないための工夫が必要だと桂さんは言います。
例えば45組ナンバーがありましたってなったら、照明で1個印象に残るかなと思える場面を、ひと組1個は絶対作る。
要望や照明プランとの兼ね合いで発揮できないこともあるものの、観客がその作品を見られるのはたった1回だけ。だからこそ、1組ごとにポイントを作ることを心がけていると話します。
さらに、照明プランがなくてもリハを見て2回目には合わせに行くという技術に、パンチさんは驚きます。桂さんはそれを「慣れでしかない」と語りました。
照明のトレンドは「細い照明」と技術革新
続いてのテーマは最近の照明トレンドです。桂さんはまず、大きなコンサートで使われる技術が一般のイベントに降りてくるまでには時間差があると説明します。
たとえばムービングは、大きなコンサートで登場してから、地域の発表会など一般のイベントで使えるようになるまで約10年ほどかかったといいます。
現在は電球がLEDになり、さらにLEDではないレーザー光源も登場。首の可動域の制限がなく360度回るムービングなど、細かな技術革新が進んでいます。
首の一番上がここ、首の一番下がここ、これの制限がなくて360度回るやつとか。
そして今、大きな会場で使われてきた「細い照明」がダンスイベントや地域イベントにも降りてきて、主流になってきていると桂さんは感じています。
細い照明が一般的にやるイベントとかに降りてきているなって感じるかなってところですね。
ムービングは神。次に来るのは動く灯体か
では、この先の照明はどう進化するのか。桂さんは、照明の技術革新においてムービングが与えたインパクトの大きさを強調します。
照明の技術革新ってムービングが神すぎたんですよ。これ以上があるかって言われたら、どうなんやろって思うところも正直あるというか。
その上で、これから来るのは灯体そのものが動く世界ではないかと予想します。当てる位置自体が自ら変わるようなイメージです。AIやドローンの技術と組み合わせれば、十分あり得るという見方も示されました。
新しい技術がどこから入ってくるのかという問いには、桂さんは「一番はヨーロッパ」と答えます。ムービングのメーカーはほぼヨーロッパで、次いで中国、アメリカといった大国が続くといいます。
3倍に高騰した機材と、エンタメが受ける経済の影響
技術の話は、機材コストの現実にも及びます。桂さんによれば、ヨーロッパ製のムービングの値段は、この7、8年で約3倍に高騰しているそうです。
ムービングの値段はこの7、8年で3倍になってるんですね、約。めちゃくちゃ上がってるんですよ、ヨーロッパ製は。
背景には円安に加え、市場価格そのものの上昇があります。最初は半導体不足が言われ、次に円安が重なり、そこからどんどん値上がりしていったといいます。
エンタメの世界も経済の影響をもろに受けており、機材の仕入れやレンタル価格に反映されます。しかし全体の物価が上がる中で、どこか一箇所に負担を転嫁するのも難しいと桂さんは話しました。
一周回ってたどり着いた「見せる」照明
最後のテーマは「桂さんが思うダンサーにとって良い照明」です。今は細い照明で眩しくバチバチと当てる派手な演出が主流ですが、桂さんはそれが実は簡単だと明かします。
音はめてパチパチパチパチストロボたいてやってくだけの感覚。自分がやりたいようにバンバンできるだけなんですけど。
桂さんが一番気持ちいいと感じるのは、ダンサーの動きや表現に照明がリンクした瞬間だといいます。右手をフワッと上げたら右の照明がついたりと、動きに寄り添う照明です。
ダンサーにとっていい照明っていうのは、やっぱりダンサーの動きがしっかり見えて、一緒にリンクできた時にいい場面できたなって思っちゃうんで。
ただ、それは派手さで言えば地味な演出です。パチパチしている方が「照明っぽい」と伝わりやすく、これでいいのかと悩んでいたと桂さんは振り返ります。
そんな中、大阪の京セラドームで見たレディー・ガガのコンサートが転機になりました。激しい照明が来ると身構えていたところ、ブレイクの決めでダンサーにサス2本、ガガにサス1本という演出が来たのです。
何万人の中で、そのたった1本のサスって一番渋いなと思ったんで。でもこれやれるんじゃない?と思って。
派手さは一周回って、やはり「見せる」ところに戻っている。桂さんはそう感じ、自分の考えが間違いではなかったと自信を持てたと語りました。
パンチさんは、前回ゲストの映像の翔太さんも同じことを言っていたと指摘します。ダンサーの動きそのものが見せるものであり、映像も照明も、いかにその存在とパフォーマンスをしっかり見せるかに行き着くという点で共通していました。
さらにパンチさんは、AIやテクノロジーで多くが自動化される中で、人間にしかできない表現の価値が浮き彫りになっていると話を広げます。照明も一周回って、当てる人を輝かせるという本質に立ち返っているのではないかと語りました。
ゲストの宣言「一生楽しく作る」
番組恒例の、ゲストによる宣言のコーナー。運営するグラフィーダンススクールの「一生ダンサー宣言」というミッションにちなみ、桂さんにも一言をお願いしました。
僕は一生楽しく作るということをテーマにしていきたいと思います。
照明も現場も、どう作っていくか。その姿勢を込めた宣言でした。パンチさんは、H2のスタッフは人当たりがいい人が揃っているとして、現場で気になることは直接質問してほしいと呼びかけます。
照明を外の人間ではなく、一緒にクリエーションする仲間として捉える。そんな関係でダンサーと照明が一緒に作っていければという言葉で、回は締めくくられました。
まとめ
照明のプロである桂さんの視点から、現場の魅力と技術の進化、そして良い照明の本質までが語られた回でした。派手さを追い求めた先に、結局は「人を見せる」という原点に戻っていくという実感が印象的です。
- 桂さんが過去一よかったと感じるのは、各セクションのプロが創作をぶつけ合う「舞台」の現場。
- 何十組も出演するイベントでは、埋もれさせないため1組に1つの見せ場を作ることを心がけている。
- ムービングやレーザー光源、細い照明など技術革新が進む一方、ヨーロッパ製機材は7、8年で約3倍に高騰している。
- 良い照明とはダンサーの動きにリンクして見せること。レディー・ガガのコンサートで、世界のエンタメも「見せる」原点に戻っていると実感した。
- 桂さんの宣言は「一生楽しく作る」。照明を一緒にクリエーションする仲間として捉えてほしいと締めくくられた。
