新フォーマットの実験と、南木将宏を呼んだ理由
番組は二周年を迎え、今回から形式を変える実験回として始まりました。佐俣さんは事前原稿をあえて使わず、南木さんに相談しながら進めると伝えます。
新形式の狙いは、調べればわかる話ではなく、今まさに興味を持っていることや迷っていることを聞くことです。
ディープリサーチとかが進化しすぎて、一般的に調べられることを5秒で調べられる。それを芝居かのごとく聞いて「すごいですね」っていうのが虚無だなと。だったら、オンゴーイングで興味持ってることや迷ってることを話した方がいいんじゃないかなと。
聞く軸は二つです。仕事で今いちばん熱いことと、仕事以外で目の前に起きている熱いことです。
佐俣さんと南木さんの付き合いは約9年半に及びます。南木さんは学生起業からスタートし、香りのサービス「カラリア」を運営してきました。
そのHigh Linkが、ToCサービスとして約50億円規模のexitでZOZOグループへ入ったことを、佐俣さんはセンセーショナルなニュースだったと振り返ります。
佐俣さんが特に熱く感じているのは、南木さんが誠実に、真面目にやり切ってこの結果を出した点です。
若い挑戦者の応援をずっとやらせてもらってますけど、8、9割は咲かないわけだよね。その中で咲いた人が、別にズルっこしたわけでもなく、ちゃんとやったんやでっていうのを、もっと盛大にどやってほしいんだよね。
なぜ真面目にコツコツ続けられたのか
なぜ真面目に続けられるのかと問われた南木さんは、そもそも当たり前の前提だったと答えます。
学生で人生かけて起業して、うまくいくかどうかゼロ百じゃないですか。だったら、可能な限りシンプルに時間を投資して、やるべきことをちゃんとやりきる。それはもう大前提、当たり前みたいな価値観が僕の中ではあったので、言われるまで思ったことなかったですね。
創業初期には「週140時間働けば成功率が上がる」という話を参考に、日曜以外は毎日オフィスにいるルールを決めていたと振り返ります。
佐俣さん自身も、かつて所属した会社で「週七を週六にするか」という議論があったと語り、今思えば両方とも間違いだったと苦笑します。
学生ができる唯一の差別化だと思う。社会人経験もネットワークも予知もないんだから、純粋に時間でやるしかないだろうな。
ZOZOグループ入り後のリアルシナジーとPMI
仕事で今いちばん熱いことを問われた南木さんは、ZOZOグループ入り後の動きの速さを挙げます。四月中旬に正式にグループ入りし、五月から完全子会社となりました。
最初の取り組みは、ZOZOの顧客への郵送物にカラリアのチラシを同封し、認知を広げることでした。
かなりストレッチに考えて「ここからここくらいまでかな」って思ってた部分を、もう今の検証フェーズでタッチできていて。これは磨けば絶対超えれるなっていう形で。サービスがすごく、今まで以上に考えたとおりに急成長させられそうなのが見えているのが、まず一番熱いですね。
その結果、例年は落ちやすい五月から六月の社内の雰囲気が、今年は上がり続けているといいます。
PMIとはM&A後の統合プロセスのことです。買収した会社と組織や業務、システムなどをすり合わせ、想定したシナジーを実際に生み出していく作業を指します。
うまくいっている理由を、南木さんは二つの側面から説明します。一つは受け手として動きやすいPMIの進め方です。
ZOZOさんがLINEヤフー社に半分買われたときに、その中で受け手側として良かったことだけを抽出して、今回High Linkにやろうと。本当に元々そうおっしゃってくれていて、今もそのテンションでやってくれているので、すごく動きやすいんですよね。
もう一つはカルチャーの近さです。DD期間中に来た開発やコーポレートのメンバーからも、雰囲気が似ていると感じられたといいます。
DDとはデューデリジェンスの略です。M&Aの前に、買う側が対象企業の事業や財務、組織などを詳しく調査することを指します。
佐俣さんは、単純に自社商品を送るのではなく、込み入ったオペレーションで価値を生むコマース同士だから近いのではと問います。
南木さんも、物理のものを届けてこそという世界観を共有している点で、ソフトウェアだけで完結する会社とは信じるものが違うと応じます。
一方で、手厚いサポートと高い評価は、これまでとは違う角度のプレッシャーにもなっていると南木さんは話します。
毎年10%以上成長する香り市場の余白
三年後、五年後の目標を問われた南木さんは、香りを可視化してレコメンドにつなげる構想を語ります。好きな香水から近い香りを探す手段が、今の世の中にはほとんどないからです。
今年の頭にはオフラインのDX検証も始めました。百貨店のワンフロアにある膨大な種類の中から、最初から数点に絞り込める状態を目指しています。
どこに行ってもいい香りがしたらハッピーじゃないかって思っていて。オフィスでも会議室でも、極論、山手線の池袋駅とか、至るところがいい香りがするとか。朝起きたとき、スマートホームで電気やカーテンと一緒に、上から香りが出てこないかなとか。
香水市場の変化について、南木さんは具体的な数字を挙げます。長らく市場は伸びず、規模は約38億円ほどしかなかったといいます。
その伸びの要因として、南木さんはまず自社サービスの貢献を挙げます。カラリアで初めて香水に踏み出したという顧客が3〜4割いるといいます。
小分けで試せることに加え、SNSやメディアで香水の情報発信を続けたことが、市場全体を広げた可能性があると分析します。
さらに、コロナ後の出社回帰で、若い世代がメイクと同じ感覚で香水をつけるようになったという仮説も語られます。
アルコールがなくなっていくとカフェのニーズが拡大したり、シーシャが出てくるじゃない。香りを纏う権利が上がってる可能性はあるよね。香りを共有してもいいじゃんっていう。昔はもうちょっとなかった気がするけど。
自社ブランドと、香り市場の未来
High Linkは自社商品も展開しており、八月から九月にかけて五カテゴリーを同時にリリースする予定です。すべて香りをかけたライフスタイル商材です。
超少人数のチームで五カテゴリーを開発しており、「誰がどうマーケするんだっけ」という状態だと南木さんは笑います。それでも、まずリリースしてなんとかする時間が一番楽しいと話します。
佐俣さんは入浴剤を例に、日本市場の余白を指摘します。効用重視のバスロマン系と、おしゃれなLUSH系の中間で、香りに尖ったブランドが存在しないという見立てです。
薬局で買えるバスロマンみたいなものか、その次がLUSHとか、ちょっとおしゃれ系。その中間層で、とりあえず香りが良くて外さないよねっていうポジションで、香りに尖ってるブランドってないなと思うので。
一方で、ルームディフューザー以外は効果効能も求められるため、香りの主張とのバランスに社内で悩んでいるといいます。すっかりメーカーの人の顔だと佐俣さんは面白がります。
AIとの関わりでは、AIコンシェルジュを開発しています。かつてSNSで香りの相談を募ると、一投稿で数百人から問い合わせが来て捌けなくなったほど、相談ニーズは大きいといいます。
いろんなブランドを横断して商品を扱っていて、データがあるのが強みだなと。社内のフレグランスのスペシャリストに「この香水好きなんだけど、もうちょっと似たのあります?」と聞くと、5個くらいすぐ出てくるんですよ。この体験を普通に提供したいなと。
店頭でも変化が起きており、ブランド側が香水に予算を割くようになったと南木さんは言います。香水はブランドの利益商品であり、確立すれば粗利を稼げるためです。
仕事以外の「熱いこと」 ファッションと運動、そして自分を知ること
仕事以外のテーマとして、佐俣さんはまずファッショントレンドの移り変わりを挙げます。ビッグシルエットからタイトへと、一斉に切り替わっている点が興味深いといいます。
凄まじい勢いで変わっていって、コレクションも全然ワイドじゃなくなっていく。ゴテゴテのスニーカーもなくなって、みんな革靴になっていく。あと面白いのは、蛇革やワニ革がもう一回入ってきてるんですよ。
佐俣さんは、この変化の背景にリベラルの揺り戻しがあるのではと推測します。動物の革を避ける流れが止まり、クラシカルな方向へ戻っているという見立てです。
南木さんの「熱いこと」は運動でした。DD期間中に酒で失敗するわけにはいかないと考え、家にこもって筋トレをし続けたといいます。
2月で30歳になって、それがちょうどDD期間中で。30歳のいいスタートダッシュ切ったろうと思って、週5、6で夜中に仕事を終えて1時間半くらいジムにいる。そしたら明らかに短期集中でめっちゃでかくなったんですよ。
佐俣さんは、自分は予定を入れて逃げられなくする性格だと語ります。英語学習でも同じ手を使いました。
アポを組んじゃうと逃げられなくなるタイプなんで。パーソナルが激ハマりするのは、リスケできないっていう自分の性格をわかってるから。カレンダーに入れたものを守らないと死ぬっていう呪いにかかってるんです。
そこから話は、成功者が「やれば伸びるもの」に逃げてしまう危うさへと移ります。
会社経営を長くやると、どうしようもなく伸びない時ってあるんだけど、トライアスロンとかポーカーはやると伸びちゃうから。人はそれに逃げたくなっちゃう。数字に出るまで2年かかることに向き合うのが辛すぎて、人はトライアスロンに行くんじゃないか。
南木さんは、自分は八十点まで効率よく上げる過程が楽しいタイプだと分析し、ゴルフも上を目指したくなる可能性があると話します。
話題は自己理解へと深まります。佐俣さんは、四十代五十代の成功した起業家でも、最近やっと自分がわかったと語ることに驚いたと明かします。
自分を知るって難しいですよね。会社のインターン生とかが自己分析の話をしてて、一緒に考えてみるんですけど、めっちゃむずいなって思います。
苦手をやめる 佐俣アンリの人生の転換点
佐俣さんは、自分の転換点として、大学生の頃にPowerPointやExcel、Wordを一切触らないと決めたことを挙げます。
大学生ぐらいの時に、Powerpoint、Excel、Wordを一切触らないって決めて、そこから一切触ってない。長い時間机に座って何かを見るとかができないから、触らないっていう。これが人生の大転換点で、本当にやってよかった。
新卒時代は資料作りを他者に任せ、独立初期の資料もすべて任せていたといいます。徹底して苦手を手放してきたのです。
南木さんは、自分も資料作りが苦手なのに中途半端にボールを持ち続けていたと気づき、佐俣さんの徹底ぶりに刺激を受けます。
佐俣さんは、二回目の起業をした知人がPCをやめてiPhoneだけで仕事をするようになり、楽になったという例も挙げます。マイルールを追加していくことが大事だと南木さんは受け止めます。
AI時代における「ふわふわした生情報」の価値
最後に、新フォーマットの手応えを二人で振り返ります。南木さんは、佐俣さんのプライベートの話を聞けて面白かったと述べつつ、自分の趣味は浅めだと打ち明けます。
佐俣さんは、言語化されていない話にこそ価値があると語ります。何度も話し慣れた「持ち歌」ではなく、その手前のふわふわした話です。
インタビューって何回も話すから、ここがウケるなってわかってくる。そこがサビになって、そこだけ擦ると天才に見える。でも、何でもなかった頃の話の方が全然面白い。ここに価値があるんです。
南木さんも、文字にすればふわふわした話でも、音声ならその空気感ごと届けられると同意します。綺麗にまとまった情報はAIがすぐ持ってきてしまうからこそ、生の情報に意味があるという結論で締めくくられました。
まとめ
学生起業から誠実に続けたHigh Linkが、ZOZOグループとのリアルシナジーで急成長の兆しを見せています。まだ「概念がない」とも言える香り市場の余白と、自分の特性を知って習慣や苦手を選び取る生き方が、AI時代のふわふわした生情報の価値と重ねて語られた回でした。
- 学生起業の唯一の差別化は「時間」だという前提のもと、南木さんは真面目にやり切って約50億円規模のexitに至った。
- ZOZOグループ入り後、チラシ同封などのシナジーが想定を超える手応えを見せ、動きの速いPMIとカルチャーの近さが後押ししている。
- 香水市場は約38億円規模から毎年10%以上成長する市場へ転換し、自社発信や出社回帰など複数の要因が重なったと分析される。
- 成功者ほど「やれば伸びるもの」に逃げやすく、自分の特性を知り、苦手をやめてマイルールを選び取ることが生きやすさにつながる。
- AIが情報を綺麗にまとめる時代だからこそ、言語化しきれていない「ふわふわした生情報」にこそ価値があると佐俣さんは語った。
