試写会で受けた「圧倒的な情報量」という衝撃
この回は、佐俣アンリさんが門脇監督の初長編『我々は宇宙人』の試写を見た直後の収録から始まります。
佐俣さんは「映画の感想を収録が始まるまで我慢していた」と話し、その衝撃を独特な言葉で表現します。
要はとんでもない情報量を圧縮して全身で受けると、こういう状況になるんだなって。動けなくなって。いろんな感情とか、自分の生きてきた思い出、素敵な思い出もつらい思い出も、誰かとの関係値みたいなものが引き出され、まとめてボンってぶつけられてる感覚があって。どえらいもん見たなっていう。
門脇監督は東京藝術大学デザイン学科を卒業後、アニメ制作会社を経て独立したアニメーション作家です。
一般的にはYOASOBI「優しい彗星」のミュージックビデオが最も知られていると話されています。優しい彗星YOASOBIの楽曲で、TVアニメ『BEASTARS』第2期のエンディングテーマ。門脇監督はこのMVの映像を手がけた。
この『我々は宇宙人』は、門脇監督が企画・脚本・監督を務め、配給元のスタートアップ「NOTHING NEW」から2026年9月25日に全国公開される作品です。
そのNOTHING NEWには、佐俣さんが代表を務めるANRIが出資しています。作品づくりの起点は、4年前にこのオフィスで企画書を並べたところにあったと振り返られています。
二人とか三人でやっていたのを思い出したんで、これがこんなどえらいもんになって自分にぶつかってきたっていう、なんか結構独特な感覚なんですよ。
なぜアニメーション作家の活動を止めて全振りしたのか
門脇監督は現在29歳。アニメーション作家として引き合いの多い時期に、その活動をほぼ4年間止めてこの作品に全力を注ぎました。
その動機の源は、高校生の頃からずっと抱えていた「アニメ映画監督になりたい」という思いにあります。
一本その、長編が自分にチャンスが来て作れるとしたら、どんなのを作りたいかなみたいなのを結構妄想していて。その時からずっと、ぼんやりした原型みたいな、我々宇宙人に近いものがずっとあって。
ただ、当時の門脇監督にはアニメ映画監督になるルートの選択肢が見えず、知り合いに映画監督もいなかったと話されています。
結局、アニメーション作家の活動を続けながら、そのチャンスを待つような状態が続いていたそうです。
もうアニメーション作家としてのキャリアを一旦止めて、全振りした四年間、五年間だったんで。もうこれでダメだったら、まあほんとダメだろうっていうくらいやりきったんで。
一人で描き、同じ絵を描ける人を育てる「画塾スタイル」
この作品の特異さは、その制作体制にもあります。門脇監督は、自分と同じように描ける人を一から育てる方法を選びました。
一般的な商業アニメの生産ラインでは、この絵柄が「のっぺりする」と感じたことが理由だと話されています。
そこで門脇監督は、デッサンとは何か、アニメとは何かをスライドで説明するところから始め、この作品専用の少数精鋭チームを育てていきました。
最初もう美術予備校みたいな感じで、一日ほんと一枚も進んでるのか進んでないのかみたいなペースの時もあったんですけど、まずデッサンって何かとか、アニメって何かみたいなのを一回スライド作って、みんなにプレゼンをするみたいなこともスタジオでして。
制作期間は3年半。原画の進捗は直線的ではなく、最後の1年で半分以上を描くという形になったそうです。
門脇監督はさらに、監督・作画監督・美術監督をすべて一人で兼任しました。発注を全部自分がすることで、画面の整合性を頭の中で保てると考えたためです。
キャラクターだけを見せたいわけでも、背景が綺麗ですってことを見せたいわけでもなくて、その画面に映る世界そのものみたいなのを切り取っていく作品なので。
この独特な発注の仕方は、商業のアニメーターや背景美術家に打診しても受けることが難しく、断られた経緯も長かったと話されています。
無名で、レーベルも無名、主題歌も声優も決まっていない。そんな状況で「完成すれば傑作」と言っても、協力できる絵描きは見つからなかったそうです。
でも完成すれば傑作なんですって、これ誰が乗るんだっていう。
作品の狙いは「画面の中の世界に憧れさせること」
佐俣さんが「何を作りたかったのか」と問うと、門脇監督はこの作品の究極の狙いを語ります。
画面に映るのは、多くの人が生きてきた景色です。楽しいこともつらいことも平等に映っている、と話されています。
なんか小学生の時こういう嫌な瞬間とかあったはずなのに、また机並べてここに座りたいなとか、翼と一緒に自分もランドセルしょって登校したいなとか。その画面の中に、この世界に行きたいなみたいな気持ちになってほしくて。
そして劇場を出た時、憧れていた画面の中の世界が、実は自分が今生きている世界そのものだったと気づいてほしい、という仕掛けです。
その気づきから、もう少し前向きに生きてみようか、面白いものを探してみようかと、前のめりに生きる活力になってほしいと門脇監督は話します。
佐俣さんは、この感想を綺麗に言語化せず、モヤモヤさせながら話す意味についても触れます。
AI時代、全部が綺麗に言語化してまとまっていくので、うまく言葉にまとまらないものをモヤモヤさせながら作っていった方が、人間が生きてる感覚が伝わるなって。
短期の非合理を、長期の合理に変える挑戦
この作品への出資は、佐俣さんの「チェンジャーキャピタル」という仕事観と深く結びついています。
製作委員会方式ではなく、NOTHING NEWの林さんが人にとことん付き合う経営スタイルで作れているからこそ、埋まっている部分があると佐俣さんは話します。
その背景として、佐俣さんは投資判断における哲学を語ります。
短期的な合理は全員が出せてしまうので、短期的に非合理であるが、長期的に合理であることに、いかに我々は向かえるか。それが我々の仕事の価値で。
佐俣さんは例として、無名時代の宮崎駿に『ルパン三世 カリオストロの城』を任せた決断を挙げます。未来から見れば正解でも、当時は非合理な意思決定だっただろう、と。
門脇監督も、この制作の間に「非合理」に耐える苦しさがあったと明かします。もともと待つのが苦手なせっかちなタイプだと話されています。
完成すれば傑作なんだろうけど、まあちょっと頑張ってくださいみたいな人たちにいっぱい会ってきて。自分は根拠のない自信で、これは合理的なんだって画塾スタイルをやって。
五年後に、その気合ため五年分一発カメハメハみたいなので全部なぎ倒すみたいな。これなぎ倒せなかったらマジで恥ずかしかったんで、ちゃんとマジで完成してよかったっていう。
佐俣さんも、27歳で独立し、最初に奥さん、次に親友へ投資したという自身の始まりを振り返り、二人の挑戦が重なる部分を語り合いました。
無名が世界へ、そして「みんなの一部」になる作品へ
『我々は宇宙人』は、海外の映画祭で高く評価されています。
佐俣さんが「何になったらハッピーか」と問うと、門脇監督は具体的な光景で答えます。
そこら辺のカフェやマックに行った時、隣の席で「去年、我々宇宙人ってやつ見たんだけど、食らっちゃってさ」みたいなのを、そこら辺の人が喋ってるみたいな。
多くの人が見て、劇場に入る前と後で人生が少しいい方向に変わってしまう。そんな作品になれたら、社会に一つ貢献したという気持ちになれると話されています。
門脇監督が悔しいほど憧れる対象として挙げたのは、ジブリでした。
ジブリはやっぱり違うのは、トトロとかもはや生活の一部というか。トトロ栄養分みたいなのをみんな摂取して子供時代を通ってるじゃないですか。あの影響の与え方は、ジブリ以外に日本にないですよね。
佐俣さんは、トトロが日本人の自然観を一部つくっている可能性について語り、二人はその影響力の大きさで意気投合します。
世界共通の「気まずさ」と、脱いだパンツ
門脇監督にとって意外だったのは、海外での評価のされ方が日本とほぼ同じだったことです。
絵やストーリーへの反応というより、自分の昔の感情の引き出しを開けられたという感想が、国を超えて共通していたそうです。
シーンとしてる時に引き出しをバコって落として大きい音立ったら気まずいみたいなのって、学校でも会社でも関係なくて。ああいう気まずさは同じなのかなって思って。
門脇監督は、自分がまだ大人になった感覚がなく、中高くらいから中身が変わっていないと話します。その子供っぽさがクリエイティブで価値を持ったと感じたそうです。
佐俣さんも、若い人を応援し続ける人には一部のイノセントさがあると話し、自分はむしろ大人になっていくタイプだと打ち明けます。
門脇監督は、この仕事の恥ずかしさを、アニメ業界でよく使われる表現で語ります。
パンツを脱ぐっていう表現をよくする人がいて。自分の恥ずかしい部分を自分で下ろせるか下ろせないかでいくと、この作品は結構下ろしたというか。だから二作目で次下ろすものがもうないなみたいな。
門脇監督は、監督が先にパンツを脱いで見せてくれたから、観客も自分の記憶を思い出せる、と語り、この仕事ではかっこつけられないと話しました。
映画館で見てほしい理由と、なぜ小学3年生からなのか
佐俣さんは、この作品を映画館で見てよかったと話します。長い動画が苦手な自分でも、逃げずに直視できたためです。
門脇監督も、劇場で見てほしい理由として、細かな描写と音を挙げます。
本当に立体音響で、5.1chで作ってるんですけど、どのスピーカーから雨の音は包んで、まるで一緒にその場所にいるみたいに感じてもらうか。空気の匂いを多分感じられるのかなって。
作品が小学3年生から始まる設定についても、理由が語られます。3年生から6年生にかけての子供の振る舞いは、まるで違うからです。
佐俣さんは、自分の子供が主人公たちと近い年齢であることから、親心として直視できない瞬間があると話します。爬虫類好きの子が、小学4年生あたりから周囲との掛け違いで変わっていく、という具体例を挙げました。
小学校の頃ってほんと小四とかで、みんなが社会化していく時にちょっと外れてっちゃう子とか、そういうやついたよなみたいな。でもそういうやつから見た世界って、すごい一つのピュアな感情だけで動いてたりする。
門脇監督自身も、お調子者キャラで小学4年生あたりで先生に怒られる姿を見られていた側だったと明かします。だからこそ、観客は画面の誰かに自分や友達を重ねてしまうのだと話されています。
まとめ
『我々は宇宙人』は、門脇監督が5年を全振りし、一人で描き、育てたチームで完成させた初長編です。短期の非合理を長期の合理に変える挑戦として、記憶の引き出しを開け、観客に「今生きている世界への憧れ」を届けようとしています。
- 門脇監督は5年ほど構想を温め、アニメーション作家の活動をほぼ止めて初長編に全力を注いだ
- 監督・作画監督・美術監督を一人で兼任し、同じ絵を描ける人を一から育てる「画塾スタイル」で制作した
- 作品の狙いは、画面の中の世界に憧れさせ、それが今生きている現実だと気づかせること
- 無名ながらカンヌ監督週間などに選出され、記憶の引き出しを開ける感覚は国を超えて共通していた
- 作品は2026年9月25日から全国公開。立体音響と細かな描写のため、映画館での鑑賞が勧められている
