近くに教室がない子の選択肢として
三村智保九段が今回のテーマに選んだのは、オンライン囲碁指導の利点です。子供向けを中心に、ネット道場というサービス名で10年近く続けてきた体験がベースになっています。
三村九段がまず挙げるのは、通える教室が近くにない子が増えているという現実です。東京の中心地ならどこかにありますが、特に子供の囲碁教室は少ないと話されています。
さらに、いい勝負ができる相手や、いい先生がいる場所が近くにないケースもあります。そうした時にオンラインレッスンを検討する人がいる、というのが出発点です。
地方に住んでいる、全国大会に出るような強い子とかもそうですよね。
オンラインレッスンはパソコンで囲碁を打つため、画面を見て打つことが合う子と合わない子はいる、と三村九段は前置きします。そのうえで、最大の利点は別のところにあると続けます。
最大の利点は「手直し」がすぐできること
三村九段が一番いいと考えるのは、打ち終わった後の手直し、つまり講評の場面です。「ここの手が良かったね」「この手はこっちの方が良かったよ」と、内容を振り返る時間を指します。
子供にはそれぞれ、直すと飛躍的に伸びるポイントがあると三村九段は言います。それを見抜き、具体的に石を置いて説明することが指導の核心だと話されています。
ところが、この講評を対面で行うのは大変だと三村九段は指摘します。両方を経験しているからこそわかる難しさだといいます。
一人(の生徒との)対局が終わった、一局終わったそこにパッと行って、「じゃあちょっと並べ返してごらん」って言っても、まず思い出せない子がほとんど。
対面では、対局が終わった直後に生徒が棋譜を再現できないと、講評が始められません。三村九段によれば、5年生で5段くらいになってやっとどうか、それでもちゃんと並ばない子もいるといいます。
プロ志望の院生でさえ、何日か経つと思い出せないことがあると三村九段は言います。思い出せる子と思い出せない子で差があり、初段や級位者の子ではまず全く思い出せません。
かといって、先生がすべての碁の手順を覚えておくのも無理です。ここに対面式の限界がある、というのが三村九段の見立てです。
碁盤の記録が残るから、終わってすぐ検討できる
パソコンを使ったオンラインレッスンなら、打った内容がすべて記憶されている、と三村九段は説明します。簡単に再生できるので、対局が終わってすぐに検討に入れます。
そう、だから検討ができる。終わってすぐに検討ができるというのが一つ。うーん、それが何より大きいですね。
三村九段は、この「すぐ検討できる」点を何より大きいと評価します。対面で最大の障壁だった棋譜の再現が、そもそも不要になるからです。
検討機能で選ぶ、囲碁指導ソフト
一方で、どんなソフトを使うかが重要になる、と三村九段は続けます。ネット対局そのものは、対局サイトが多くあり誰でもできるからです。
しかし、十分な検討機能があるかというと、ほとんどのサイトにはないと三村九段は言います。自分一人で並べ返す程度ならよいものの、指導には使えないと感じる場所が多いといいます。
三村九段がオンラインレッスンに欠かせないと考える条件は、次の3つです。
- 先生が碁盤に石を置いて説明できる
- お互いの声が届く
- 顔が見える
現在三村九段が使っているのは、ネット囲碁学園というフリーソフトです。Windowsなら誰でもインストールして使えると紹介されています。
三村九段はこのソフトの開発協力をしており、自分が使って欲しいと思った機能をすべてつけてもらったといいます。
例えば碁盤の上に線や矢印を引き、「この石はこっち向きに出ていくといい」「ここを塞がれるとここが地になる」とエリアを示す、お絵描き機能です。大人でも子供でも分かりやすいと三村九段は話します。
「声が届く」ことが検討を左右する
三村九段が繰り返し強調するのが、お互いに喋って声が届くことの大きさです。これはプロ同士の検討でも同じだといいます。
石だけ置いて意味は通じるは通じるけども、伝えられる量はね、極端に減ってしまう。
一言ポロっと言えば通じることを、チャットで書いたり石を置くだけで説明するのは無理だと三村九段は言います。先生がパッと喋れれば、短時間でかなりのことが伝えられます。
もう一つ大事なのが、先生が喋った時に生徒からも石が置けることです。この機能はなかなかない、と三村九段は指摘します。
三村九段は、よく使われるフリー対局場の検討機能も、あまり試してはいないと断りつつ、なかなか機能が揃っていないと話しています。
子供は喋らない、でも石で答える
検討中の子供の反応について、三村九段は特徴があると話します。大人は「この手はどうすればよかったですか」と質問してくることが多い一方、子供は少なく、受け身であることが多いといいます。
ただし、受け身でも頭の中では碁を考えている、というのが三村九段の見立てです。「こう打ったらどうするつもりだった?」と聞くと、子供は言葉ではなくパッと打つ手を石で示します。
碁のことは頭の中で考えているんですね。先生がいろいろ喋ってきた時に、そのことを頭の中で処理はしている。
「もっといい手があったんだけど、どれだと思う?」と考えさせると、割と早く石を置くと三村九段は言います。生徒同士に着手権限を与えると、二人でその後の攻め合いを並べたりもします。
三村九段は、一緒に検討できることでアウトプットが生まれる点を重視します。受け身だけで終わらず、打った後の振り返り学習を有効に行える、というわけです。
10人で回すネット道場の2時間
三村九段のネット道場では、1つの部屋に10人ほどが入ります。10人が対局し、終わった対局ごとに三村九段がその場に行って検討します。
その間、手空きの子が検討室に入って、喋ったり石を置いたりしながら説明を聞き、また次の対局へ進みます。この流れを2時間続けるレッスンです。
ある程度まとまった人数でも振り返り学習ができる。これがオンラインレッスンのいいところだと三村九段はまとめます。
上達したい大人にとっても利点は多いといいます。出かけずに限られた自由時間で碁の勉強と振り返りができ、工夫すれば画面録画などでデータも残せます。
ブラウザアプリへ、9月からの新しい形
三村九段は、新しくオンラインレッスンアプリを自作したと明かします。9月からこれに切り替える予定で、これまで使っていたものの足りない点を補った版だといいます。
新アプリでは音声がより良くなり、対応端末も広がります。これまでWindowsパソコンが必須だったのが、タブレット、Mac、スマホからも参加できるようになります。
つまりブラウザアプリになったんですね。全ての機能をブラウザアプリで実現できた。
開発にはVibe Codingを用い、Claude Codeを使って作ったと三村九段は話します。「うちWindowsないんです」「タブレットで受けたい」という声に応えられ、対象が幅広くなります。
今後こうしたオンライン囲碁学習ツールは増えていくだろう、と三村九段は見ています。集まって仲間と練習し先生から習えるのが一番だとしつつ、通うのが大変な現実もあるといいます。
見落とせない「目」への配慮
三村九段が心配として挙げるのが、目のことです。特に子供は視力が下がる恐れがあり、ここは重要だと話されています。
対策として、ブルーライトカットのメガネや、大きめのモニターを離れて見る工夫が挙げられます。三村九段の道場にもパソコンが5台ほどあり、ちょうどいい相手がいない時は生徒がネット道場で打つといいます。
道場内の相手だけでは少ない時に、地方の強豪とも打てるのが利点です。日本全国をつないで囲碁の仲間を作れる、と三村九段は話します。
ただし子供は前のめりになって画面を近くで見る癖があり、その都度注意していると三村九段は言います。子供を放っておかず、大人がチェックし、いい端末や画面を選んであげることが必要だとまとめています。
まとめ
三村智保九段が10年近くのネット道場の経験から語ったのは、オンライン囲碁レッスンの強みが「打った後の検討」にあるという点でした。棋譜が自動で残り、声が届き、生徒も石を置ける環境が揃うことで、対面では難しい振り返り学習が実現します。9月からはブラウザアプリへ切り替わり、参加できる端末も広がります。
- 最大の利点は、対局後すぐに検討できること。対面で障壁だった棋譜の再現が不要になる
- 検討には「石を置ける」「声が届く」「顔が見える」の3条件が欠かせず、ソフト選びが重要
- 子供は質問こそ少ないが、問いかけると石で答える。一緒に検討することで振り返り学習ができる
- 9月から自作のブラウザアプリに移行し、Mac・タブレット・スマホでも参加可能になる
- オンライン学習では視力への配慮が大切で、メガネや大きめモニター、姿勢のチェックが必要



