エンタメ×社会課題を語る番組は、なぜ始まったのか
ソシャエンは、「ついやってみたくなる体験」をつくる一般社団法人UMF代表理事の高村治輝さん(ハルくん)と、ダンスで健康やつながりを育む一般社団法人日本ダンスウェルネス協会代表理事の黒田雄介さん(クロメガネ)による番組です。
高村さんと黒田さんは別々の組織で活動していますが、「エンタメ×社会課題」というテーマは共通しています。高村さんは、エンタメはジャンルが広く、使い道がわかりにくいからこそ、このテーマで話し合っていきたいと語ります。
黒田さんも、エンタメという言葉は表面的にしか捉えられていないと感じてきたといいます。もっと深掘りすれば、みんなが関心を持てるものになるのではないかという期待が、番組への思いになっています。
エンタメっていうのをもっと深掘りしたら、みんなに関心あることになるんではないかとずっと思ってたんで、これを深掘りする場所になったらいいなと思ってます。
音楽フェスをつくる高村さんは、エンタメ業界は裏方に徹する意識が強く、表に発信する機会が少なかったと振り返ります。一方で、より多くの人に届けたり、魅力的に伝えたりするノウハウには長けた業界だとも考えています。
そのノウハウを社会課題やまちづくりの事例に当てはめて紹介し、手詰まり感のある人や、新しい発想に興味を持つ人とつながっていきたい。これが番組の出発点として語られています。
選挙とエンタメを掛け合わせる?ボートホープロジェクトの仕組み
第1回のテーマは、高村さんのUMFが取り組む「選挙の投票率が低い」という課題へのアプローチです。黒田さんは「選挙をエンタメと掛け合わせる人はなかなかいない」と驚きます。
UMFのプロジェクト名は「ボートホープロジェクト」です。選挙で投票した人が、投票済証の写真を公式LINEに送ると、さまざまなクーポンが使えるようになる仕組みです。
投票済証を発行していない地域もあるため、その場合は投票所の看板を撮った写真でも投票の証明として受け付けています。
投票する
期日前投票または投開票日に投票する
写真を撮る
投票済証、または投票所の看板を撮影する
LINEに送る
UMFの公式LINEに写真を送る
クーポンを使う
表示されたクーポンを提携店舗で見せる
提携店舗は北海道から沖縄まで全国にあり、400以上にのぼるといいます。たとえばカラオケのジョイサウンドでは、投票すると何回でも30%オフになります。
ジョイサウンドのクーポンの期間は、期日前投票から投開票日、さらにその1か月後まで、合わせて1か月十数日です。若者に人気の古着アパレルSPINNSでも10%オフになり、多くの人が買いに行っているそうです。
投票した人だけが無料になる音楽フェス
高村さんたちは、クーポンに加えて、投票すると無料で楽しめる音楽フェスもつくっています。出演するのは、プロのアーティストや賛同者の方々です。
出演者として挙げられたのは、梅田サイファー、Nobodyknows、YouTuberのレイクレ、ガクテンソク奥田さんなど、アーティストからアナウンサー、お笑い芸人まで幅広い顔ぶれです。一部の名前はミキ道山、そうそうくん、ホリジョン、ゼンジローです。
このフェスの定価は1万円に設定されています。実際に1万円を払って来る人もいますが、大半は「投票しました」と言って来場しているそうです。
高村さんが特に大事にしているのは、「行きましょう」ではなく「行ったよ」に報いるという点です。投票を呼びかける啓発イベントは多くありますが、ボートホープロジェクトは投票したという行動をもとにクーポンを渡しています。
高村さんによると、フェスの来場者のうち、およそ4割は「このフェスが楽しみで投票した」という人です。フェスがなければ投票に行かなかったかもしれない、いわば離脱していた人たちが、投票所に足を運んでいることになります。
フェスには毎回500人から1000人ほどが参加するため、その4割にあたる200〜400人ほどの票が動いている、と高村さんは見ています。
HIPHOPとレゲエから政治に詳しくなった、という入り方
黒田さんは、投票をきっかけに政治へ関心を持つ流れが生まれる点で、ボートホープロジェクトはエンタメから入っていると指摘します。高村さんは、それが自分自身の体験とも重なると話します。
高村さんはHIPHOPやレゲエが大好きでした。高村さんの若い頃は風営法 ── 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の略称。クラブの深夜営業やダンスにも規制がかかり、音楽シーンで大きな議論になりましたが熱いトピックで、ラッパーやレゲエDJが楽曲で強く反発していたといいます。
風営法とか政治っていうところじゃなくて、好きなHIPHOPレゲエシーンの先輩たち、アーティストたちがやってることを追いかけていったら、政治のこと詳しくなったみたいなタイプだったので。
好きなものを追いかけた結果として政治に詳しくなる。高村さんは、この順番のアプローチがとても自然だと感じていたといいます。黒田さんも、その「順番」という発想はなかったと受け止めます。
政治や制度そのものに関心を持ち、そこから行動する
好きなアーティストの行動を追いかけた結果、政治に詳しくなる
赤字覚悟で始めた理由は「いいフェスをつくりたい」
ボートホープロジェクトは2019年の選挙から始まりました。当初は無料のフェスなので来場者から料金を取れず、お酒の売上とスポンサーの支援以外は持ち出しで、大きな赤字だったといいます。
なぜそこまでして始めたのか。黒田さんの問いに、高村さんは「いいフェスをつくりたい」というモチベーションを挙げます。
高村さんは、フジロックやロッキン、関西の京都大作戦やCOMING KOBEなど、長く続いて規模が広がり、愛されているフェスには、その街に貢献しているという共通点があると気づいたそうです。
このフェスがあるからこそ頑張れる人がいる、救われる人がいる、またやってほしいっていう声が生まれるっていうことを丁寧に作っていかないと、いいフェスって生まれないなって。
フェスオーガナイザーとしてその点を意識した高村さんは、社会課題の現場に足を運ぶようになり、なかでも政治はエンタメと相性がいいと感じたといいます。
黒田さんは、政治はタブー視されやすく、エンタメと掛け合わせるのは危険だと思われがちだと返します。相性がいいと思える理由は、後半回で掘り下げることになりました。
ボートホープロジェクトは、その後、日本アントレプレナー大賞やマニフェスト大賞などで表彰されながら発展してきたと紹介されています。
なぜ5年間アイデアを温めたのか
高村さんがボートホープロジェクトのアイデアを思いついたのは、実施した2019年の5年ほど前だったといいます。当時は、選挙の投票に営利活動など別の要素を入れ込むことへの反発が強く、やめておこうと判断しました。
その5年の間に、LGBTQをめぐる動きなどを通じて「言っていいんだ」「アクションを起こしていいんだ」という空気が広がったと高村さんは感じました。実際に始めてみると、批判されることなく実施できたそうです。
2019年の約5年前。投票に別の活動を入れ込むなという風潮が強く、実施は危ないと判断
2019年。自由にアクションを起こす動きが広がり、批判されることなく実施できた
野球少年がDJになり、18歳で1000人のフェスを目指すまで
黒田さんは、自身は学生時代に社会課題解決を考えたことがなかったと明かし、高村さんの学生時代を尋ねます。高村さんは小学校から高校まで野球一筋だったといいます。
大学では野球をやらないと決めた高村さんは、ずっと好きだった音楽に向かい、DJを始めました。イベントの企画や出演を重ねるうちに、大きなイベントもつくるようになります。
高校生の頃から通っていた野外フェスの風景が忘れられず、18歳のとき「野外の会場で1000人集めて音楽ライブをやれば、それはフェスと言えるのでは」と思い立ちました。
難波のグリコの看板前に毎日立ってればチケット売れるかなとか、いろんな人に会いに行ったら買ってくれるかなとか思って。
やり方はわからないまま、まず1000枚売ると決めて動き出したのが始まりでした。助言をくれる大人の言葉は全部試し、思いついたことも全部やらないと1000人は集まらないと考えて、行動し続けたといいます。
高村さんのモチベーションは、今も「社会を良くしたい」より「いいフェスをつくりたい」だといいます。憧れていた淡路島のフェスに近づきたいという思いで、赤字の年もありながら毎年続けてきました。
東北の震災ボランティアで聞いた「何が楽しかった?」
若者がエンタメに取り組んでいることで、高村さんは東北の震災復興、地方創生、ジェンダー理解など、さまざまな社会課題プロジェクトに声をかけられるようになります。転換点になったのは、東北の震災ボランティアでした。
震災の2年後ごろ、高村さんは震災の恐ろしさを学ぶために東北を訪れました。語り部から悲惨な話や対処法を聞き、南海トラフ地震が想定される大阪で同じことを起こしてはいけない、という強い思いで講習を受けていたといいます。
その日の終わり、プレハブの商店街の定食屋で、お店の人が「今日この東北に来て何が楽しかった?」と尋ねてきました。高村さんにとって、それは思いがけない質問でした。
高村さんは、お祭りの話や地域の人の優しさ、食事の美味しさを伝え、次は夏祭りに来ますと話しました。するとお店の人は、その楽しい思い出のほうを友達に伝えてほしい、と言ったそうです。
(防災の)話を大阪の同級生にしても、多分東北に来ることなんてないよねと。
東北の美味しいご飯だったり、人の温かさだったり、お祭りの文化だったり、そういったものを思いっきり楽しそうに伝えてあげてほしい。
お店の人は、東北に来て楽しんでくれる姿を見ることが一番の復興であり、自分たちも元気をもらえると話したといいます。高村さんはこの言葉で考え方が大きく変わりました。
「しましょう」より「したくなる」が必要な理由
高村さんは、東北で得た気づきが社会課題全般に言えると考えています。「投票しましょう」と迫るほど分断が生まれるというのが、選挙に当てはめたときの見立てです。
投票しましょうとか、投票してない奴はダメだみたいなことになっていくと、どんどん分断が生まれるし、あいつ偉そうやなとか、めんどくさいなとか、わかってるわみたいな感じになっちゃう。
投票の呼びかけや防災の学びを直接伝える。偉そう、面倒と受け取られ、分断が生まれやすい
楽しさや魅力を伝え、自分から行きたくなる・投票したくなる流れをつくる
本来エンタメ業界はこの「したくなる」をつくっていたはずなのに、社会課題や真面目なテーマになると急に変わってしまう。高村さんは自分もそうなるなら世間も同じだと考え、非営利型の一般社団法人として、エンタメと社会課題をつなぐ活動を始めました。
黒田さんは、「あそこのご飯美味しいよ」のように楽しさを伝えることが一番響き、人を動かす仕掛けになると共感します。社会課題は複雑化しがちだからこそ、東北のお店の人のシンプルな言葉が刺さったと話します。
おばちゃんは別に難しく考えてないというか、自分がやられて嬉しいことを言っただけだと思うし、気軽な感じに言ってくれたからこそ、僕は心にズドンと来たんですけど。
誘われるプロジェクトでは足りず、自費で始めた
気づきを得た高村さんですが、学生には実践の場がなかなかつくれませんでした。行政や社団法人のプロジェクトに呼ばれても、ビラ配りやイベント参加で終わり、役割も爪痕も残せなかったといいます。
だからもう自費でいいからやろうってなったですね。
黒田さんは、みんなの正解をつくろうとすると最適解の範囲が狭まって何も進まないため、まず自分のしたいことをやる必要があったのだろうと整理します。高村さんも「それしか方法がなかった」と応じます。
黒田さんは、いい意味で「ネジが外れていないとダメ」だと笑い、高村さんは2本外れていると評します。政治とエンタメの相性の話は、後半回に持ち越されて第1回は締めくくられました。
まとめ
高村治輝さんのボートホープロジェクトは、投票した人にクーポンや無料フェスで報いることで、選挙を「行きたくなるもの」に変える試みです。その根底には、東北で教わった「楽しさを伝えることが人を動かす」という気づきがあります。
- 投票済証や投票所の看板の写真を公式LINEに送ると、全国400以上の提携店舗でクーポンが使える
- 定価1万円の音楽フェスに投票者は無料で参加でき、来場者の約4割がフェスを目当てに投票している
- 「行きましょう」ではなく「行ったよ」という行動に報いる点が、従来の啓発イベントとの違い
- 原点は東北の震災ボランティアで聞いた「何が楽しかった?楽しい話を友達に伝えて」という言葉
- 「投票しましょう」と迫るより、投票したくなる仕掛けをつくることが今必要だと高村さんは考えている





