なぜ選挙なのか?祭りと政治はもともと一つだった
前回の放送では、高村さんが進める、投票とフェスを結びつけるプロジェクトが紹介されました。今回は黒田さんが「そもそもなぜ選挙なのか」と高村さんに問いかけるところから始まります。
高村さんは音楽フェスを作り続けるなかで、祭りの起源を調べてきました。たどり着いたのは、縄文や弥生の頃の儀式だったかもしれない、という古い時代の姿です。
(昔の儀式は)亀の甲羅を炙って、ヒビ入れて、割れ方見て、今年は豊作かどうかとか。
高村さんによれば、昔の儀式では亀の甲羅を焼いて占ったあと、山の民・川の民・海の民を集めてどんちゃん騒ぎをしていました。前半の占いは町の方針を決める政治の役割を持ち、後半はまさにお祭りだったといいます。
高村さんは、政治を「政(まつりごと)」と呼ぶことにも触れ、祭りと政治は起源的には一体化していたと説明します。
占い(一次会)
亀の甲羅を焼き、割れ方で豊作や方角を見る。町の方針が決まる政治の役割
宴(二次会)
山の民・川の民・海の民を集めてどんちゃん騒ぎをするお祭り
(祭りと政治が)今一番対極にあるというか、離れちゃってる現代があるから、この離れたっていうことはもう一回くっつくんじゃないかなと思って。
高村さんは、昔のままには戻らないとしても、現代風にアレンジすれば祭りと政治はもう一度くっつけられるのではないか、と考えたといいます。これが選挙に取り組むうえでのベースになった発想です。
企画の定石「ねじれの位置」とは何か
高村さんがもう一つ注目したのは、世間の感覚とのギャップでした。今の祭りと政治が遠いことは感覚的にもわかる一方で、起源的には近いという食い違いがあります。
このギャップがまあねじれの位置にあるっていうのを僕は結構読んでるんですけど、そういったものがあることでメディアでも取り上げやすいし、話題にもなりやすい。
高村さんによれば、「ねじれの位置」にある組み合わせは話題になりやすいうえに、実は無理をしていないという強みもあります。黒田さんはこれを「実は理にかなっているけど、誰もまだ気づいていない状態」と言い表しました。
高村さんは、企画脳で世の中を見ると、こうした組み合わせは意外とたくさんあると話し、いくつか例を挙げます。たとえば、ちくわとバームクーヘンは細かく見れば全然違うものの、形状や焼き方はざっくり一緒です。
高村さんは、ちくわ型のバームクーヘンやバームクーヘン型のちくわはプロモーションとしてありかもしれない、と語ります。営業と恋愛は一緒だという俗説から、営業のリアリティ番組を作る発想も挙げました。
さらに高村さんは、火の用心と石焼き芋のアナウンスにも目を向けます。どちらも火にまつわることを声で知らせているので、コラボできないかと考えたといいます。
ダンスフロアと風呂屋、どちらも「沸かす」
高村さんは、意味の近いもの同士だけでなく、本来は意味が遠いのに言葉で近づく組み合わせもあると話します。好きな事例として挙げたのが、知り合いの先輩が手がける「ダンス風呂屋」です。
ダンス風呂屋は、銭湯でDJパーティーをする企画です。お湯を張っていない昼の営業時間にDJが音楽を流し、来場者は飲んだり食べたり踊ったりできるといいます。ダンスをしている黒田さんも、この企画は初耳だったようです。
これの面白いのはダンスフロアも風呂屋さんも沸かすじゃないですか、両方。
黒田さんが「その心は、みたいな感じですね」と応じると、高村さんは謎かけの形で説明を続けます。お湯を沸かす風呂屋と、客を沸かすダンスフロアが、「沸かす」の一語で結びつくわけです。
ちくわとバームクーヘン、営業と恋愛、火の用心と石焼き芋。形や仕組みが近い組み合わせ
ダンスフロアと風呂屋。お湯と客をどちらも「沸かす」
高村さんは、普段からこうしたねじれの型を物事に当てはめて考えているといいます。その感覚で政治と祭りもいけるのではないかと気づき、面白いからやってしまおうと決めたそうです。
ねじれを見つけても、なぜ「自分がやる」理由が要るのか
黒田さんは、政治と祭りのねじれを見つけたこと自体を高く評価します。しかし高村さんによれば、ねじれ自体は意外と見つかるものの、多くはちくわとバームクーヘン程度のレベルにとどまるといいます。
ちくわもバームクーヘンも作ってないし。なんで俺がやるかの、きっかけというか理由が全然ないものがほとんどで。
高村さんの場合、政治と祭りの組み合わせには自分の軸がありました。祭りしかやってこなかった高村さんにとって、祭りの延長で政治に気づいたことで、やるしかないと思えたそうです。
黒田さんはこれを、得意分野や好きなことに軸足を置いたまま、もう一方の軸足を掛け合わせる形だと整理しました。自分の軸足があるねじれだからこそ、企画として動き出せたといえそうです。
選挙は5800万人を動員する巨大イベントだった
高村さんは、イベンターとして選挙を見ると「すごいことが起きている」と語ります。日本の投票率は世界と比べて低いと言われるものの、低い選挙でも30%くらい、衆院選や参院選なら50%くらいあるといいます。
高村さんの説明では、全国の市区町村だけで1741ほどあり、多くの選挙は4年に一度です。単純に4で割っても約400の選挙が毎年確実に行われ、都道府県や国政、市議会と首長の選挙を含めると毎年600から1000くらいになるといいます。
大阪府を例にとると、人口約880万人のうち半分ほどが投票に行くため、高村さんは「400万人イベント」だと表現します。衆院選になると、有権者は1億人ちょっと、前回の投票率は55%くらいで、約5800万人が12日間で動員されている計算になります。
高村さんは、ほかの大型イベントと比べてその規模を示します。黒田さんも「全然ちゃいますもんね」と驚きを隠しません。
| イベント | 期間 | 動員数 |
|---|---|---|
| コミケ | 2日間 | 30万人ほど |
| さっぽろ雪まつり | 8日間 | 232万人(1日あたり29万人) |
| 大阪・関西万博(目標) | 半年間 | 2200万人 |
| 衆院選 | 12日間 | 5800万人(1日あたり483万人) |
桁が違いすぎるし、5800万人が参加するって、あの大阪関西万博、あれが半年間で2200万人目指しましょうって言ってたんですよ。
「家を出させる」力を、なぜ街の消費につなげないのか
高村さんがさらに重要だと考えるのは、選挙が人を家から出させる点です。期日前でも投票日でも、有権者は投票所まで行き、家に帰ってくる必要があります。
これがすごく強くて。家を出させるっていう圧倒的に強い要素を持ってる。
黒田さんも、普段は家を出るのを面倒がる人まで外に出ることになると応じます。高村さんは、投票のあとにラーメンを食べに行く、映画を見に行く、フェスに行くといった動線が生まれるのに、なぜそこにリンクさせないのかが不思議だったといいます。
高村さん自身も、一有権者として投票を終えたあと「どうしよう」となった経験があり、その行動をもったいないと感じたそうです。
投票所へ行く
有権者が家を出る
特典を受け取る
ラーメンの替え玉無料、コンビニのアイス、スーパーの特売など
街で過ごす
家族での外出やフェス参加など、次の行動の理由づけになる
高村さんたちはフェスに人を呼びたいという思いもあり、投票するとフェスが無料になるという仕組みは理にかなっていると考えて始めたといいます。黒田さんは、5800万人のイベントだと言う人が誰もいなかった、と着眼点の面白さを語りました。
じゃあその(家を)出てるついでに何かこうセットの抱き合わせのイベントにしようとかですよね。
高村さんはこれを「バーター」だと表現しました。
ABEMA「10億円会議」で2500万円の助成が決まる
こうした取り組みをきっかけに、高村さんはABEMAの番組「10億円会議」に出演しました。ボートレースを運営する日本財団が取り仕切る番組で、10億円の予算を使って世の中を良くしてほしい、というピッチ番組だったといいます。
高村さんの説明では、日本財団は年間800〜900億円ほどを助成しており、その原資はボートレースの売上金です。その助成金の枠のなかに10億円が用意され、志願者が次々とピッチをしていく形式でした。
高村さんは、番組を昔のマネーの虎 ── 起業家志望者が事業計画を発表し、投資家たちが出資するかを決める形式で人気を集めた日本のテレビ番組ですのようなものだと例えます。審査員5名全員が起立すれば合格という仕組みで、高村さんは無事に合格し、2500万円を得ました。
黒田さんは、大赤字を出しながらイベントをやった先行投資が返ってきた形だと受け止めます。高村さん自身は「棚ぼた」だと笑いつつ、その事例があったからこそ審査に合格できたと振り返りました。
2500万円とコロナ禍、なぜ一気に溶けたのか
ところが、助成金が下りたのは2020年2月ごろで、ちょうどコロナ禍に入った時期でした。高村さんたちは2500万円でフェスを開き、アナログの広告も打って仕掛けていく計画を立てていました。
しかし、ロックダウンのような状況でイベントは有観客が認められず、延期や中止が続きました。結果的に、オンラインを基本としたイベントを作ることになったといいます。
2500万円でフェスを開催し、アナログの広告を打って仕掛けていく計画
延期や中止が続き、オンライン中心の配信型イベントへ。経験もなく費用が倍ほどかかる
準備だけじゃなくて、やっぱ経験もないから、お金も倍くらいかかるし。なので2500万すぐ溶けて。
対面型イベントを作るつもりだった高村さんたちにとって、配信型への転換はとても大変だったといいます。そのため大きなことはできず、取り組みはまだ知られていない部分も多いと高村さんは話します。
調査で見えた投票率低下の正体は「関心」ではなく「離脱」
高村さんが助成金を得て良かったと感じているのは、調査研究に取り組めたことです。コロナ禍で時間ができたこともあり、匿名のネットリサーチで仮説ごとに統計的に意味のある数のデータを集め、分析を重ねたといいます。
まずわかったのは、人口が多く経済性の高い地域ほど投票率が低いということです。人口が増えるほど政治に声が届きにくくなり、経済的な自由度が増すほど政治に依存しなくなるため、高村さんは都会型の課題だと捉えています。
もう一つの発見は、若者の投票率をめぐるものでした。19〜27歳ほどの層に「今度の選挙に行こうと思うか」と聞くと、6〜7割が行くつもりだと答える一方で、実際に投票した人は3割ほどにとどまったといいます。
だからこれは関心の問題じゃなくて、この6、7割いたのが3割になるっていう離脱の問題だっていうのをわかったんですよ。
高村さんによれば、予定があって行けなかった、忘れていた、面倒になったなど、離脱の理由はさまざまです。こうした離脱こそが投票率を下げている大きな課題だと見えてきたといいます。
黒田さんも、投票率が低いとつい関心がないと考えがちだが、関心は6〜7割あって行動で3割に減っているなら、対策も変わると応じました。
啓発は「下げない理由」、家庭の会話が子どもの投票を左右する
高村さんは、投票に行きましょうと伝え続ける啓発も大事だと認めます。ただし、高村さんたちの見方では、啓発は投票率を下げない理由にはなっても、上げる理由にはなりにくいといいます。
投票率を上げるヒントとして高村さんが挙げたのは家庭です。親が投票に行き、政治の話をする家庭の子どもは投票に行き、そうでない家庭の子どもは行かなくなるといいます。
親世代が投票しない
過半数以上が投票に行かず、家庭で政治の話もしない
子どもも投票しない
親の行動に比例して、子どもも投票に行かなくなる
次の世代へ
その子どもが親になると、さらに行かなくなる
高村さんはこの連鎖を「デフレスパイラル」のようなものだと表現します。そのため、投票率の低さは若者だけの問題ではなく、親世代など別の要因も含む構造的な問題だと話しました。
つまるところ言うと、若者の問題じゃないんですよ、これって。
高村さんは、都市部の経済的に恵まれた地域で、親世代から子どもまで幅広く届き、離脱を防ぐ仕組みが必要だと考えます。現代でいちばんのベースになるのは経済合理性であり、投票することで得をするかどうかを連動させれば面白いものを作れる、と自分たちの取り組みとの合致を語りました。
全高校で出張授業をした東京都、2年後に何が起きたか
高村さんは「投票率はお金を使えば上げられる」と話し、18歳選挙が始まったときの東京都の事例を挙げます。東京都の選挙管理委員会は、都内の全高校で出張授業を行ったといいます。
人口が多く経済的にも自立した東京都は、投票率が最も低くなると見られていました。ところが全高校での出張授業の結果、全国トップになったそうです。
全高校で出張授業を実施し、18歳の投票率が全国トップに
2年後は並の啓発に戻り、順位も普通に。授業を受けた世代も普通の投票率に戻った
高村さんによれば、全年代にきめ細かく啓発すれば投票率は確実に上がるものの、それは現実的ではありません。行政がお金を注ぎ込むべきでもなく、変えられるのは民間だと考え、自分たちのアプローチを入れていくべきだと話しました。
黒田さんは、調査で自分たちの取り組みの答え合わせができ、間違っていないと確かめられたのですね、と受け止めました。
なぜ「急がない」のか?社会課題に向き合う姿勢
今後の活動を問われた高村さんは、重大だと考える選挙でプロジェクトを実施しながら細々と続けていくと答えます。その前提として大事にしているのが、急がないことだといいます。
まあ選挙の投票率なんてね、すぐ上がってしまえばすぐ落ちるっていうことだし、地道に上げていくことが一番大事だと思うし。
高村さんは、社団法人として活動が途絶えないことを重視し、年次のKPIを作らずに肩の力を抜いて続けていると話します。代わりに、今年はこのデータが取れた、この仮説を検証できたといった実験を毎年積み重ねていくそうです。
いずれ大きく仕掛けるための土台作りは毎年しているものの、社会課題は1〜2年で解決できるものではほぼないと高村さんは言います。複雑化しているからこそ、団体同士の連携や下準備、耐えうる土台が必要になるからです。
ちっちゃくちっちゃくやっていくと、所さんみたいな。あんなすごいツールだらけの素敵な場所になるみたいな、ああいうイメージなのかなと思ってて。
高村さんは、実績や情報やツールをDIYのように少しずつ用意していくイメージを、所ジョージさんのツールだらけの場所に例えて語りました。
ソーシャル活動「だけ」で生きようとしない、という選択肢
高村さんは、イベント制作やDJなど、ソーシャル活動以外の仕事も毎年積み上げています。そうした仕事があることで、メンタル的にかなり楽になるといいます。
たとえばあるイベントで100万円の赤字を出しても、ほかの仕事で回収できると考えられます。高村さんは、ソーシャル活動だけでいこうとしすぎないことも一つの選択肢だと話します。
黒田さんは、それが「急がない」にもつながると指摘します。目先のお金や事業継続だけを考えると焦ってしまうため、リスクヘッジが大事だというわけです。
高村さんはイベントの現場で染みついた考え方も紹介します。立てかけたものは倒れる、外では風が吹く、太陽は昇るといった自然の摂理を無視すると、けがやアクシデントにつながるといいます。
それを無視すると怪我が起きたり、アクシデントにつながるっていうのがなんかこう染みついてるからこそ、もう水は山の上には流れていかないよねと。
高村さんは、こうした無理をしない感覚が、社会課題に取り組むうえでの基本的なベースとして大事なのかもしれないと話しました。高村さんたちは今年は仕掛けないものの、来年はいろいろな選挙で仕掛ける予定だそうです。
投票率を「上げる」理由はクリエイティブからしか生まれない
黒田さんは、これまでの話を振り返り、投票率をめぐる取り組みは「下げないための防御」ばかりになりがちだと指摘します。上げるために何ができるかを見つけるのが、ねじれの発想だというのです。
高村さんは、NPOや行政による啓発、討論会、情報発信、ボートマッチ ── いくつかの政策質問に答えると、自分の考えと近い政党や候補者がわかるオンラインのサービスですなどを素晴らしい活動だと評価します。そのうえで、それらは投票率が下がらない理由にしかならないと語ります。
高村さんは、自分たちが正しいわけではなく、クリエイティブなアイデアを1つでも多く出すべきだと話します。そのためにエンタメの考え方や世界を利用してほしいといいます。
黒田さんは、1つのアイデアだけでは実現できないからこそ、多様なクリエイティブの足し算が大きくなれば投票率の向上につながると応じます。二人は、番組を通じてさまざまな人と話し、新しい発見を形にしていきたいと語りました。次回は黒田さんの取り組みが紹介される予定です。
まとめ
高村さんの選挙プロジェクトは、祭りと政治がもともと一つだったという「ねじれの位置」の発見から始まり、選挙を5800万人規模のイベントとして捉え直す発想へと広がりました。調査によって投票率低下の正体が関心ではなく離脱にあると見え、急がず小さく積み重ねる姿勢とともに、エンタメの創造性で投票率を上げる道が語られています。
- 世間では遠いのに起源や仕組みでは近い「ねじれの位置」は、話題になりやすく無理のない企画の定石になる
- 選挙は人を家から出させる巨大イベントであり、投票後の消費動線につなげる余地がある
- 若者の6〜7割は投票する意思があるのに実際は3割ほどで、課題は関心より離脱にある
- 親が投票しない家庭の子どもも投票しなくなる連鎖があり、若者だけの問題ではない
- 社会課題は急がず、ほかの収入源も持ちながら小さな実験を積み重ねることが大事だと語られた





