同じ方向を向けない人への対処法
最初に取り上げられたのは、チームのモチベーションを下げる人への向き合い方でした。相談は、メンバーから外す以外にどうするか、というものです。
西野さんはまず「それあるなぁ。外すなぁ」と正直な反応を見せます。そのうえで、別のアプローチを挙げていきます。
鍵になるのは「誰が言うか」だと言います。同じ言い分でも、聞く相手と聞かない相手がいる、というのが西野さんの前提です。
あいつに言われたら聞くけど、お前に言われるのは嫌みたいな、そういうのあるじゃないですか
言い分が全く一緒でも、Aさんの言うことは聞くけども、Bさんの言うことは聞かない。人ってそういうもんだと思ってるんです、僕、元々
だからこそ、自分が「お前の言うことなら聞く」と思われる人間になるしかない、と続けます。責任は相手ではなく自分にある、という割り切りです。
具体的な方法として、圧倒的に結果を出すこと、そして相手にとことん近寄って仲良くなることを挙げています。正論だけでは通らない、という考え方です。
映画のスタッフが500人規模になれば、全員が同じ方向を向くのは難しいとも話します。だからこそ、方向を変えてほしいときに「西野さんが言うならやります」と思われる関係を先に作ることが大事だとまとめています。
音楽と森の美術館、エントランスの作り替え
今一番手応えのあるプロジェクトを問われた西野さんは、河口湖の「音楽と森の美術館」を挙げます。今年の春から運営のバトンを引き受け、つきっきりで手を加えているそうです。
まず3か月ほどかけてお金回りを徹底的に見直し、出血を止める「止血」から始めたと言います。その後、コンテンツという「上物」に手を入れていく順番です。
西野さんが最初に嫌だと感じたのは、入り口でした。プリンセス体験のためのレンタルドレスが並び、荷物倉庫のような印象になっていたと振り返ります。
音楽と森の美術館、入り口が嫌
なんかドレス、プリンセス体験みたいなのがあって、そのドレスが並んでて、入り口からなんか荷物置き場みたいな、荷物倉庫みたいな感じがして
ただ、初日に「これやめましょう」とは言えなかったと言います。そこにはスタッフの思いがあり、外から来た人間が急に否定はできないからです。ここで前半の「西野さんが言うならやる」という信用の話につながります。
そこで3、4か月かけて信用を築き、お金回りを整え、集客を伸ばしたうえで、ようやく「このドレスどけませんか」と切り出したそうです。
なぜレンタルドレスを一番奥に動かしたのか
レンタルドレスをどかしたい理由は、来館者の大半にとってノイズになっている点でした。実際に利用するのは数十人に1人ほどの割合だといいます。
ドレス着ない人からするとそれはノイズなんだから。なんでドレスを着ない人までがそこを通らなきゃいけないの?
一方で、レンタルドレスは売上が大きく、目立つ場所にあることも効いていたため、移動には売上が下がるリスクがありました。
それでも西野さんは、売上が下がっても構わないとミーティングで押し切ります。下がった分は自分がどこかで回収する、という前提でした。
売上下がってもいいから、テーマパークとか美術館、エンタメ施設の入り口をこんなようなことにしてはいけない
移動先はミュージアムショップの2階、施設の一番奥にしました。ここで「奥に動かしたのに、なぜ売上が伸びたのか」という展開につながります。
空いた入り口をどう作り替えたか
ドレスをどかして空いた入り口を、西野さんは思い切って作り替えます。もともと入り口と出口が別々だった点も問題視していました。
来館者は帰り際にお土産を買うのに、出口には何もなかったといいます。そこで入り口と出口を一つにまとめ、レジのある場所にグッズを並べる方針にしました。
並べたのはオルゴールです。西野さんは、オルゴールは売れればよし、売れなくても金色に光って商品棚が映える点に価値があると考えました。
オルゴールがたくさんあるってめっちゃ綺麗なんですよ。商品棚が綺麗なんですよ
さらに光の量を増やすため、館内にあるアンティークの鏡をすべて集めるよう号令をかけます。エントランスの壁一面を鏡にして、オルゴールの光とシャンデリアを映り込ませる狙いです。
西野さん自身も倉庫を探して鏡を運び、位置を細かく調整しながら、1日かけてエントランスを完成させたと語ります。手伝ったスタッフからは、こんな言葉が返ってきたそうです。
西野さん、ありがとうございます。これです。これだったんです
私たちこれやりたかったんです。そうか、これをやればよかったんですね
奥に動かしても売上が伸びた理由
一番奥に移したレンタルドレスは、売上が下がるどころかガンと伸びたと西野さんは報告します。世界観を作り込み、来館者が写真を撮って広めてくれたことが大きかったといいます。
なぜ奥でも伸びたのか。西野さんは理由を2つに分けて説明します。
1つ目は、レンタルドレスがすでに目的になっているからです。ふらっと来て着る人は少なく、着ると決めて来館する人がほとんどなので、場所はどこでもよかったと言います。
着るぞって言って、レンタルドレスを着に行くぞって言って音楽と森の美術館に来られてるので、ぶっちゃけ場所どこでも良かった
2つ目は、写真を撮ってもらえる場所として作り込んだことです。ドレスを着て最初に出ていく場所を、2階のベランダから外の景色が一気に広がるように設計したといいます。
ドレスは来館前から借りると決めている人が多く、場所は問われなかった
着替え後に景色が広がる動線を作り込み、来館者が写真を撮って広めた
西野さんは、今の段階ではお金をかけず、今あるものを移動させるだけで価値が生まれると強調します。演出を間違えていただけで、調度品やコンテンツ自体は素晴らしいという見立てです。
事業再生が終わったら次は何をするのか
最後の質問は、美術館の事業再生が終わったら次に何をするか、というものでした。西野さんはまず、取り組みが美術館だけではないと答えます。
会社としては河口湖の北側全体を盛り上げるのが目的で、範囲が広いため1年や2年で終わるものではないといいます。自分が死んだら次の代にバトンを渡す、というほどの長さです。
そのうえで、ほぼ間違いなく訪れる未来として「事業再生キャラ」になることを挙げます。すでにそうなりつつある、とも話します。
あの、多分私、事業再生キャラになるんですよ
実際に「うちの施設をどうにかしてほしい」という相談が、2週間に1度ほどのペースで来ているそうです。番組中にも、年間来館者25万人の施設の再生を頼む声が寄せられました。
西野さんは、河口湖の美術館の数字をいずれ公表する考えで、わかりやすいV字回復を見せれば事業再生キャラとして認知されるだろうと語ります。
ただし、何でもできる魔法使いではないとも釘を刺します。ギリギリ手伝えそうなものを、チームと相談しながら選んでいく方針だと話しました。
まとめ
今回の公開収録は、河口湖の美術館をどう作り替えているかという具体的な話が中心でした。人を動かすには「この人が言うなら聞く」という信用を先に築くこと、そして今あるものを正しい場所に置き直すことが、西野さんの手応えの根っこにあると語られています。
- チームを動かす鍵は正論ではなく「お前の言うことなら聞く」と思われる信用にある
- 美術館の立て直しは、まずお金回りを整える「止血」から始めた
- 来館者にノイズだったレンタルドレスを一番奥へ移し、入り口を作り替えた
- 奥に移しても売上が伸びたのは、目的化と写真映えの設計が効いたから
- 西野さんは2027年に向けて「事業再生キャラ」になると見込んでいる
