定期接種と予防接種法の基本
このシリーズは、妊婦さんと生まれてくるお子さんの予防接種をテーマにしています。今回はいよいよ、子どもが生まれてから受けられる定期接種の話です。
前回は妊娠中の妊婦さんが受けられるRSウイルスのワクチンがテーマでした。とみーさんは「そちらも本当に勉強になった」と話しています。
あきさんは、今回の情報は2026年4月時点の最新情報に基づいていると強調します。予防接種の事情はどんどん更新されていくため、実際に受ける際は最新情報の確認が必要だとも話しています。
今回紹介する予防接種は、日本の予防接種法という法律に基づき、公費で無料で受けられるものです。
そもそも予防接種法っていう法律があるんですね。
あきさんによると、予防接種法にはワクチンで健康被害が起きた場合の救済措置が書かれています。さらに、実際より多くの患者に接種したと嘘の報告をして公費をだまし取るような行為への罰則まで定められているそうです。
こんなところまで想定するんだな、法律はっていうので、非常に面白かったです。
この法律で定められているのが「定期接種」です。定期接種は公費負担で受けられる接種を指し、希望者が自己負担で受けるものは「任意接種」と呼ばれます。
定期接種は、社会的に非常に重要な病気に対して位置づけられており、基本的に全員に受けてほしい重要なワクチンです。
A類疾病と集団免疫の考え方
定期接種には、病気に応じてA類疾病とB類疾病の2種類があります。A類疾病はできれば全員に受けてほしい子ども向け、B類疾病は主に高齢者が予防的に受けるものだと説明されています。
A類疾病のワクチンでは「集団免疫」の獲得が重視されます。多くの人が免疫を持つと、ウイルスや細菌が次の宿主を見つけられず、感染の連鎖が断たれるという考え方です。
あきさんは、この仕組みがワクチンを打てない人を守ることにつながると話します。アレルギーや重い病気で打てない人、生まれたばかりの赤ちゃん、打っても免疫がつかない人も、周囲が免疫を持っていれば間接的に守られます。
みんなで免疫を持つことによって、免疫を持てない弱い人も社会で守りましょうということになります。
集団免疫は病気の絶滅も目指せます。実際に絶滅した病気は今のところ天然痘のただ一種類だけで、天然痘のワクチンを受けたことがあるのは今ではお年寄りに限られると説明されています。
さらにあきさんが大事だと指摘したのが、変異株の抑制です。感染者が増えるほどウイルスは変異株を生みやすく、薬や治療法、ワクチンが効かなくなる恐れがあります。集団免疫でウイルスを増やさなければ、変異株も出にくくなるという考え方です。
多くの人が免疫を持つ
病原体が次の宿主を見つけられなくなる
感染の連鎖が断たれる
打てない人も間接的に守られる
ウイルスが増えない
変異株の発生も抑えられる
生後2ヶ月から始まる乳幼児期のワクチン
A類疾病には多くの病気が含まれ、いつどのワクチンを受ければいいのか、何を防いでいるのかが分かりにくいまま接種が進みがちだとあきさんは話します。
乳幼児期のワクチンは、まず生後2ヶ月から受けられるものから始まります。5種混合ワクチン、肺炎球菌ワクチン、B型肝炎、ロタウイルスなどです。
生後3ヶ月以降には、いわゆるハンコ注射と呼ばれる結核予防のBCGを受けられます。その後、1歳以降、幼児期から学童期、思春期と、段階的に受けられるワクチンが用意されています。
この回で詳しく取り上げるのが、生後2ヶ月から受けられる5種混合ワクチンです。5種類の病気に対するワクチンが混ぜ合わされたものです。
5種混合が対象とするのは、ジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオ、ヒブの5つです。ここからは、この病気を一つずつ見ていきます。
百日咳、2025年に大流行した理由
最初は百日咳です。病原体は百日咳菌という細菌で、この菌が作る百日咳毒素が気道の粘膜を傷つけ、激しい咳を引き起こします。
感染力は非常に強く、免疫がない集団では一人の患者から12人から17人に感染を広げるとされています。はしかと同じくらいの強さだと説明されています。
大人が感染しても咳が出る程度で済みますが、ワクチンを打っていない赤ちゃんが感染すると重症化することがあります。
流行の規模は年によって大きく変わりました。2024年の感染者数は全国で約4100人、重症化は数十例で死亡者はいませんでした。ところが2025年には感染者数が約8万3000人へと急増します。
20倍もっとか。
2025年には数百例以上の入院・重症化例が出て、特に乳児の入院が増加し、残念ながら4名の乳児が亡くなっています。2026年現在は流行が沈静化しつつも続いていると説明されています。
この大流行の背景には、コロナ禍の感染対策があるとあきさんは話します。ステイホームなどで人との接触が5年ほど少ない時期が続き、社会が「無菌状態」に近づいたことが関係しているといいます。
ここで語られるのが、風邪系の病気の免疫の特徴です。喉などの粘膜で抑え込む病気は、粘膜の免疫細胞が記憶を長く維持してくれません。だからこそ定期的に軽く感染することで、記憶が消える前に免疫が思い出し、重症化せずに済むといいます。
一方、血液など体内にまで入ってくる病気は、免疫の記憶が非常に強く、一度かかると基本的に一生免疫が残ると説明されています。百日咳のような風邪系は、どうしても免疫を忘れてしまうというわけです。
これはワクチンを接種してても忘れてしまう?
だからワクチンを接種するメリットは、自分で守れるようになる手前で守ってあげることができるみたいな。
つまり、感染対策で大人たちが免疫を思い出す機会を失っていたところに百日咳菌が入り込み、一気に広がったのではないかと考えられています。ちょうど2024年頃からマスクをする人が減った時期とも重なったと話されています。
生後6ヶ月未満の赤ちゃんが感染すると、無呼吸発作やチアノーゼといった症状が出ることがあります。激しい咳で体力を消耗したり、脳症でけいれんを起こしたり、肺炎になったりすると危険な状態になります。
百日咳の免疫はすぐに薄れるため、思い出させる目的で小学校就学前や11〜12歳ごろにも追加接種が勧められています。ただし大人になれば軽い風邪程度で済むため、何度も打ち続ける必要はないと説明されています。
ジフテリアと破傷風、北里柴三郎が挑んだ病気
5種混合の2つ目はジフテリアです。病原体は細菌で、かつては「子どもたちの絞殺者」という恐ろしい異名で呼ばれていました。
あきさんは、この番組のシーズン2で北里柴三郎を紹介した回でジフテリアも詳しく扱ったと触れます。ジフテリアの血清療法を開発したのは、北里の同僚だったドイツのエミール・フォン・ベーリングでした。
北里がベーリングに助言したことで、ジフテリア毒素を抑える抗体を動物に作らせ、治療に使えるようになったといいます。ベーリングは第1回のノーベル医学生理学賞を受賞しましたが、北里は同時受賞できませんでした。
本当だったらここで北里も同時受賞できたはずなんですけれども、残念ながら取ることはできませんでした。
ジフテリアでは、喉の細胞に感染した菌が増え、ジフテリア毒素で細胞が破壊されます。すると喉の粘膜の上に灰色っぽい厚い偽膜ができ、空気の通り道を塞いで呼吸困難を起こします。
特に乳幼児は気道が狭いため、そのまま息ができなくなることがあります。毒素の影響で心筋炎や末梢神経麻痺が起こることもあります。
現在ではジフテリアで病気になる人はほとんどおらず、世界の一部地域に残るだけです。それでも免疫を持たない状態で日本に入ってくれば一気に広がる恐れがあるため、5種混合に組み込まれています。
3つ目は破傷風です。病原体の破傷風菌は土の中のどこにでも存在し、酸素を嫌う嫌気性菌です。空気があると増えられず、むしろ空気のない環境を好みます。
この「空気のないところでしか増えない」性質を見抜いた北里柴三郎は、破傷風菌の純粋培養に成功し、世界的に有名になりました。さらに破傷風菌の毒素を無毒化する血清療法を開発しています。
あきさんによると、北里はまず破傷風で血清療法を成功させ、同僚のベーリングにジフテリアでも応用できるのではと助言しました。この経緯が、北里もノーベル賞に入っていてよいのではという見方につながります。
破傷風菌の毒素は神経細胞を壊し、痙攣や激しい発作、呼吸困難、全身の痛みといったつらい症状を引き起こします。かつては、へその緒を切るはさみが不潔なことで亡くなる新生児破傷風も少なくなかったといいます。
現在はワクチンの普及でそうした死は大きく減りました。ただし今でも高齢者が土いじりから重篤になる例があります。赤ちゃんも庭や砂場で土に触れる機会があるため、必ず防いでおきたい病気として5種混合に入っています。
ヒブと、日本の「ワクチンギャップ」
4つ目はヒブです。病原体はインフルエンザ菌B型という細菌で、インフルエンザウイルスとは別物なので注意が必要です。
ややこしい。
もともとインフルエンザの病原体を探すなかで見つかったのがこの菌で、当時はウイルスの存在が知られていませんでした。後にインフルエンザウイルスが見つかり、実は別物だったと分かりましたが、名前だけが残っているそうです。
ヒブは乳幼児の未発達な免疫をすり抜け、血液に入り込んで脳まで侵入する特性があります。代表的な怖い病気が細菌性髄膜炎で、高熱、激しい嘔吐、痙攣、意識障害を起こします。
治っても約20パーセントに後遺症が残るとされ、難聴や発育不全、てんかんなどが残ることがあります。喉の奥に入れば猛烈に腫れて窒息を起こし、菌が血液中で増えれば敗血症を起こすこともあります。
ヒブが5種混合に入るまでの経緯には、日本ならではの事情があります。2013年まで日本では定期接種されておらず、それ以前は毎年600人以上が感染し、約400人が重症化、毎年20〜30人が亡くなっていました。ヒブは小児の細菌性髄膜炎の原因第1位だったといいます。
世界では1990年ごろからヒブワクチンが広まり接種が進んでいましたが、日本は先進国の中でも承認が非常に遅れました。これがワクチンギャップと呼ばれる問題です。
あきさんは、その原因として1970年代から90年代に予防接種訴訟が相次ぎ、国が敗訴し続けたことを挙げます。新しいワクチンを承認して薬害が出れば、また責任を問われるのではと厚生労働省が恐れたのではないかと言われています。
定期接種化の効果は劇的でした。感染者数は600人以上から約40人へ、重症化は約400人から数人へと減り、髄膜炎は98パーセント減少したと説明されています。
とみーさんは、今では感染者が0〜2人ほど、重症者・死亡者が年間0という年が続くほどだと補足します。あきさんは、ワクチン導入によってこの病気で苦しむ人がいなくなった成功例だと話しています。
早くても遅くても問われる、ワクチンとリスクの向き合い方
ヒブの話を受けて、とみーさんはワクチンとリスクについて考えを語り始めます。20年遅れは相当に遅いと感じる一方で、コロナワクチンでは治験も済まないうちに承認が早すぎるという意見をSNSでよく見たといいます。
早くても遅くても文句言うんだな、と思ったのが一つと。
とみーさんは、これは犠牲が起きてよいという話ではないと前置きしたうえで、医療は広く使われることで知見が積み重なる側面があると話します。ただ命に関わる分だけ、日本人の「ゼロリスク信仰」が強化されやすい分野だと感じたそうです。
あきさんも、ゼロリスクを言い出すと難しいと応じます。人間である以上どうしても失敗や想定外は起こるとしつつ、それを恐れて拒み続けた結果、後遺症が残ったり亡くなったりする子が出たことは重いと語ります。
拒んだ結果、やっぱりこれだけの後遺症を残したり、死んでしまう子が出たんだなっていうのは、本当に重たいよなと思います。
とみーさんは、どのリスクを取るのが正解かは、その時点では分からないと指摘します。ヒブの20年の遅れは、2026年の今から振り返れば良くなかったと言えます。
しかしコロナワクチンを世界と同じスピードで進めたことが、20年後30年後に良かったと評価されるのか、もっと慎重であるべきだったとなるのかは、まだ分からないことでもあると話されています。
5種混合の5つ目はポリオです。ポリオは前回のエピソードで説明したため、この回では省略されています。
5種類も一本で打って大丈夫なのかという声がSNSでも見られると話されましたが、その点の詳しい解説は次回に持ち越しとなりました。
まとめ
5種混合ワクチンは、百日咳、ジフテリア、破傷風、ヒブ、ポリオという5つの病気から赤ちゃんを守るものです。それぞれの正体や歴史、そしてヒブのワクチンギャップの経緯を知ると、定期接種が積み重ねてきた意味が見えてきます。
- 5種混合は百日咳、ジフテリア、破傷風、ヒブ、ポリオの5つを対象とする定期接種のワクチンです。
- 集団免疫は、ワクチンを打てない赤ちゃんや弱い立場の人を社会全体で守る仕組みです。
- 風邪系の病気は免疫を忘れやすく、赤ちゃんが自分で守れるようになる前に接種で守る意味があります。
- ヒブは日本で承認が20年ほど遅れ、定期接種化後は髄膜炎が98パーセント減少しました。
- 早くても遅くても問われるワクチン承認では、どのリスクを取るかの判断が難しいと語られました。





