妊婦への定期接種化と、RSウイルスの怖さ
今回のテーマは、赤ちゃんが生まれる前に妊婦さんが公費で受けられるようになった予防接種です。
2026年4月1日から、RSウイルスが定期接種に指定されました。対象は妊娠28週0日から36週6日目までの妊婦さんです。
とみーさんは、SNS上で妊婦さん同士の話題になっていることは知っていたものの、RSウイルス自体はよく知らなかったと話します。
RSウイルスって何?みたいな感じで、全然聞き覚えがないのが正直なところで。ただ、SNS上で妊婦さん同士で直近の話題なので、受ける受けない、実際どうなのみたいな話を結構目にしていて、気になっているところです。
あきさんによると、RSウイルスは風邪のウイルスの一種で、大人になるまで何度も感染します。
大人がかかっても、鼻がグスグスする、喉がイガイガするといった、ちょっとした鼻風邪程度で済みます。
ところが、生まれたばかりの赤ちゃん、特に生後半年までの赤ちゃんが感染すると、非常に重篤なことになる場合があります。
日本では毎年数十件ほど、全世界では毎年およそ10万人の乳幼児がRSウイルスで亡くなっていると言われています。
大人が引くとちょっとした風邪って言われたから、最初は全然余裕じゃんって思ってたけど、全然余裕じゃないですね。
なお、高齢者も加齢による免疫力の低下で重症化することがあり、日本では60歳以上で年間およそ6万3000例の入院、約4000人の死亡があると言われています。
ただし高齢者はこのワクチンを公費では受けられず、費用は2〜3万円ほどの自己負担になります。今回無料化されたのは、乳幼児を守るという観点から妊婦さんに対してだけです。
RSウイルスとはどんなウイルスか
RSウイルスが発見されたのは1956年です。アメリカのウォルターリード陸軍研究所で、実験用のチンパンジーが激しい鼻水やくしゃみを伴う風邪にかかり、その原因として単離されました。
当初はチンパンジー特有の風邪だと考えられていました。しかし翌1957年、小児科医のロバート・チャノックさんが、重い呼吸器疾患の乳幼児から同じウイルスを発見しました。
これにより、乳幼児に重篤な疾患を引き起こす病原体であることが明らかになりました。
ウイルス学的には、RSウイルスは「エンベロープを持つ一本鎖マイナスRNAウイルス」に分類されます。
ちょっと何言ってるかわかんないです。
エンベロープウイルス粒子の外側を覆う脂質二重膜のこと。細胞から飛び出すときに、細胞の膜をまとって出ていくため生じる、いわば油の膜です。エンベロープとは、ウイルス粒子の外側が脂質二重膜という膜で覆われている状態を指します。
ウイルスは細胞に感染し、細胞のタンパク質工場を乗っ取って自分の部品を作らせます。部品がそろうと、細胞と外を隔てる油の膜をまとったまま外へ出ていきます。
あきさんは、スープに浮かぶ油を箸で切ると分かれる様子にたとえて説明しました。内側からコブが押し出され、プチンと切れてウイルスになるイメージです。
エンベロープは油の膜なので、石鹸やアルコールで簡単に破れます。つまり手洗いや消毒で感染性をなくしやすいウイルスだということです。
一方、エンベロープを持たないノロウイルスやロタウイルス、アデノウイルス、ポリオなどは、カプシドという頑丈なタンパク質の殻で覆われています。これらには石鹸やアルコールが効きにくく、次亜塩素酸ナトリウム、いわゆる漂白剤での消毒が必要です。
もう一つの特徴が「RNAウイルス」である点です。地球上のほとんどの生物は遺伝情報にDNAを使いますが、一部のウイルスはRNAを情報として持っています。
RNA動物や植物では、DNAの情報を写し取ってタンパク質を作るために使われる物質。DNAより変化しやすく壊れやすいという特徴があります。動物では、RNAは核の中に大切に守られたDNAの一部を写し取り、タンパク質工場まで運ぶ役割を担います。RNAウイルスは、その役目のRNAを最初から自分のゲノムとして使っています。
DNAは安定していて変化しにくいのに対し、RNAは変化を起こしやすく、壊れやすい性質があります。
RNAウイルスは大した情報量を必要としないため、少ないRNAをゲノムとして使えます。ただし、たくさんコピーされて一気に増える一方で、情報伝達がうまくいかず、どんどん変異してしまいます。
多くはうまく機能せず死んでしまいますが、稀に感染に有利な変異を起こし、形が変わって免疫が効きにくくなることがあります。インフルエンザウイルスやHIVも、こうしたRNAウイルスだと考えられています。
逆にDNAウイルスは安定していて、一度免疫がつくと一生持つこともあります。ただし細胞の核内のDNAに紛れ込んで潜伏し、免疫が弱ったときに暴れ出すという厄介さもあります。ヘルペスウイルスや水疱瘡がその代表です。
変異を起こしやすく形が変わりやすい。免疫が持続しにくく、何度もかかる。RSウイルスやインフルエンザなど。
安定していて変化しにくく、免疫が長く持ちやすい。一方で潜伏感染し、あとで暴れ出すことがある。ヘルペスなど。
感染経路と、赤ちゃんに起こる症状
RSウイルスは飛沫感染もありますが、ほとんどは接触感染だと言われています。
乳幼児では特に間接接触が多いとされます。ウイルスがついたおもちゃやドアノブ、手すりを触った手で、自分の目や鼻、口の粘膜を触ることで感染します。
生まれて間もない赤ちゃんへの主な感染経路は、保育園や学校に通う兄弟が家に持ち込むケースです。仕事などで外にいた両親が経路になることもあります。
大人は無症状か軽い鼻風邪で済むため、健康に問題がないと感じて赤ちゃんに接触し、知らぬ間にうつしてしまう危険があります。
大人の場合、RSウイルスは鼻や喉といった上気道でまず増殖し、鼻水、鼻づまり、喉の痛み、軽い咳、発熱、倦怠感などの一般的な風邪症状が出ます。ただし症状は軽いのが普通です。
問題は乳幼児、特に生後半年未満の場合です。初めて感染した乳幼児のうち2〜3割で、上気道から下気道へと炎症が広がります。
ウイルスが肺の奥の細い気管支まで届くと、炎症で空気の通り道が狭まります。大人なら通り道が太いので問題になりませんが、赤ちゃんは腫れによって窒息してしまうことがあります。
うわぁ、なるほどなぁ。
赤ちゃんに現れる危険な症状として、あきさんは次のようなものを挙げました。呼吸のたびにゼーゼー・ヒューヒュー音がする、呼吸が速い、肩で息をする。
さらに、肋骨の間や喉の下がへこむ陥没呼吸、鼻の穴を膨らませる鼻翼呼吸、無呼吸、おっぱいを飲む力が弱くなる、といった状態です。
唇や爪が青白くなるチアノーゼは、酸素が取り込めていないサインです。こうした症状が出たら、早急に病院に行ってほしいと呼びかけられました。
なぜ赤ちゃんではなく妊婦さんが打つのか
では、なぜ生まれた赤ちゃんに直接打たず、妊婦さんに打つのでしょうか。理由は赤ちゃんの免疫の仕組みにあります。
生後半年ほどまでの赤ちゃんは、まだ免疫機能が十分に働いていません。そのため、この時期にワクチンを打っても免疫応答や記憶が起こらず、意味がないのです。
その代わり、お母さんの体で作られた抗体が、胎盤を通じて赤ちゃんに積極的に送られます。赤ちゃんは生後半年ほどの間、このお母さんからもらった抗体で体を守っています。
だから妊娠中にお母さんへ免疫をつけると、お母さんの体内でRSウイルスに対抗する抗体がどんどん作られ、それが胎盤を通じて赤ちゃんに送り込まれます。結果として、死亡リスクの高い生後半年までを守れるわけです。
妊婦がワクチンを接種
お母さんの体がRSウイルスに感染したと錯覚し、抗体を作り始める
お母さんの体内で抗体が増える
接種から約2週間で抗体が十分に増える
胎盤を通じて赤ちゃんへ
抗体が積極的に赤ちゃんへ送り込まれる
生後半年まで赤ちゃんを守る
もらった抗体が赤ちゃんの体内で活躍する
接種期間が妊娠28週0日から36週6日目までと厳密に決まっているのにも根拠があります。お母さんから赤ちゃんへ抗体が最も盛んに送られるのが、妊娠後期の28週以降だからです。
さらに、接種後にお母さんの体内で抗体が十分に増え、赤ちゃんに届くまでに約2週間かかります。この時期に打てば、生まれる頃にはしっかり抗体が届くという逆算です。
ここでとみーさんが、もともと持っている抗体は赤ちゃんに移らないのか、それならもっと早く打ってもよいのでは、と質問します。
もともと持っている抗体も赤ちゃんに移るなら、もっと早い時期に注射を打ってもいいのでは?
もともとの抗体も赤ちゃんに移ります。ただしワクチンはウイルス感染を体に錯覚させて抗体を作らせるもので、接種後しばらくすると抗体は下がっていきます。RSウイルスに対する抗体の量を最も高めておくには、この時期に打つのが最適なのです。
つまり、生後半年まで効果を最大限に発揮させるため、母体のなるべく後の時期に接種したい、という考え方です。
赤ちゃんが生まれてから生後半年ぐらいまで抗体の効果を最大発揮するために、母体になるべく後の方でワクチンを入れたいみたいな感じなんだ。
一方で、37週以降になるといつ生まれてもおかしくないため、今から打っても抗体が届くか不安になります。だからこそ28週から36週6日目までと定められ、国がサポートしているのです。
変異への対応と、接種のメリット・デメリット
追加の質問として、とみーさんは2点を尋ねました。1つ目は、変異しやすいRNAウイルスなら型が変わって打つ意味がなくなるのでは、という点です。
2つ目は、前回扱ったポリオの生ワクチンのような明らかなリスクやデメリットがないのか、という点です。
まずデメリットについて。お母さんには軽い副反応があります。筋肉注射なので、打った場所が腫れる、痒くなる、熱を持つといった、インフルエンザワクチンと同じような反応です。
次に変異の点について。このワクチンは、あまり型が変わらない部分にターゲットを絞って作られています。
RSウイルスが細胞に感染するには、細胞側の「鍵穴」に、ウイルスが持つ「鍵」がはまる必要があります。この鍵の部分が変化すると感染できなくなるため、あまり変化しません。ワクチンはここを狙っています。
ここの鍵の部分は変化してしまうともう感染できないので、ここの部分はなかなか変化しない。だからここにターゲットを絞って作られています。
そのため、RNAウイルスの特徴が多少変化しても、ワクチンを打つ意味はあるということです。
ただし、この免疫自体は短期間で失われていきます。RSウイルスやインフルエンザ、コロナも同様で、型が違うからではなく、体が抗体を忘れてしまうため、大人になっても繰り返しかかります。
大人はかかっても重症化しないので大丈夫ですが、乳幼児は生後半年以内が非常に危険なので、その間はお母さんからの抗体で守るという考え方です。
なお、心臓系の疾患を持つ人などは重症化しやすいため、外から抗体を打つ治療法もあります。事前や感染時に抗体を入れて増殖を抑えるやり方です。
ここでとみーさんは、妊婦は薬を飲めないことが多いのに、ワクチンは打つことへの直感的な戸惑いを打ち明けます。
妊婦さんって薬飲めなかったりするじゃない。頭痛薬とかも飲めるものと飲めないものがあるのに、このワクチンは妊娠中に打つんだっていうところで、直感的に拒否反応が起きたりするのかなって思った。
あきさんは、その気持ちはよくわかるとしつつ、お母さんから赤ちゃんへプレゼントしてあげられると考えてほしいと答えました。
とみーさんは、妊娠後期のギリギリに打つからこそ生後半年のリスクを減らせると納得し、打つ時期も含めて最適なのだと理解したと話しました。
なので私は打つと思います。
アメリカと日本で推奨時期が違うのはなぜか
一度収録を止めたあと、話しきれなかった話題として、アメリカと日本で推奨週数が違う理由を追加で解説しました。
日本は28週からを推奨する一方、アメリカは妊娠32週から36週までを推奨しています。アメリカのほうが遅い設定になっています。
理由は臨床試験の結果にあります。承認前の試験で、ワクチンを接種したグループと偽薬のグループを比べたところ、ワクチン接種群のほうがわずかに早産の割合が高かったのです。
プラセボ効果のない偽薬のこと。ワクチンや薬の効果や安全性を確かめる臨床試験で、比較のために使われます。この早産がワクチンによるものか偶然かは、現時点では分かっていません。ただ、若干多かったという事実がありました。
具体的な数字として、ワクチン接種群は3522人中202人で早産、割合は約5.7%でした。プラセボ群は3568人中169人で、約4.7%でした。
この約1%の差を重く見たアメリカは、安全を優先して早い時期からの接種を避けています。
一方、日本は32週まで待つとすでに生まれてしまう赤ちゃんも一定数いると考え、早産のリスクよりも「打てないリスク」を大きいと判断し、アメリカより早い時期からの接種としています。
あきさんは、この背景には医療体制の差もあるかもしれないと推測します。日本では早産でも助けられるという自信があるのではないか、という見方です。
ただし、なぜその週にしたのかの詳しい根拠までは調べきれていないと、あきさん自身が断っています。
早産の差はごくわずかなので、あまり怖がらなくてよいとしつつ、気になる場合はアメリカが推奨する32週以降に打つ選択もあると説明されました。
とみーさんは、妊娠後期につわりが復活する人もいる中で副反応が重なる負担にも触れ、いずれにせよかかりつけの医師と時期を相談したうえで判断したいとまとめました。
生後半年の赤ちゃんを守るために非常に有効な手立てであるというところは、私は理解したので。
まとめ
妊婦へのRSウイルス定期接種は、お母さんが作った抗体を胎盤を通じて赤ちゃんに届ける「免疫のプレゼント」の仕組みです。免疫機能が未熟で重症化リスクの高い生後半年の赤ちゃんを守るために、接種時期にも根拠のある制度だとわかります。
- 2026年4月1日から、妊娠28週0日〜36週6日目の妊婦を対象にRSウイルスワクチンが定期接種となった
- 赤ちゃんは生後半年ほど免疫機能が未熟なため、直接ではなく母体に接種し、胎盤経由で抗体を届ける
- 接種期間は、抗体が最も盛んに赤ちゃんへ移る妊娠後期と、抗体が届くまでの約2週間から逆算されている
- ワクチンは変化しにくい「鍵」の部分を狙うため、RNAウイルスが多少変異しても効果が期待できる
- アメリカは早産の約1%差を重く見て32週以降、日本は打てないリスクを重視して28週以降を推奨している
