若くしてノーベル賞を受賞した喜び
キャリー・マリスは非常に若くしてノーベル賞を受賞できたことを、心から喜んでいたと話されています。
その理由は、人生の残り時間の多くを、ノーベル賞受賞科学者として世界中から尊敬されながら生きていけるからだと語られています。
一種のセレブリティとして持ち上げてもらえる特権を生かしながら生きていく、そんな後半生になっていきます。
一方で、この後のマリスは科学者としては何もやっていないに等しいのではないか、という見方も示されています。ただ、人の生き方はそれぞれだと語られています。
正しいとされる説に異を唱える生き方
権威ある立場になったマリスは、科学的に正しいとされることに異を唱える生き方をしていきます。
その一つが、エイズHIV懐疑論です。今ではHIVがエイズの原因ウイルスとして知られていますが、当時マリスは、エイズ患者からHIVが検出されないこともあると主張しました。
そこから、HIVはエイズの原因ではないという論を張っていきます。
この発言は反発を招く一方で、ノーベル賞受賞者の言葉ということで一定の力を持ってしまい、賛同する意見も出て、一時は信じる人も結構いたと語られています。
コロナの時もそうでしたけど、何が正しいのかをどう判断するかってところですよね。ノーベル賞学者の人が言うと、やっぱりそうなのかなって皆さん思いますもんね。
間違った情報を信じたい人がかなりいるのだと感じる、とも話されています。
反対意見が生まれるのは生物学的な必然か
話は、なぜ反ワクチンや原発反対など、何にでも反対する人が出てくるのか、という問いに広がります。木浪さんは生物学者として、これをよく聞かれると言います。
その答えとして、生物が生き残るためのプログラムではないか、という見方が示されます。
みんなで同じ選択をしてしまうと、その選択が間違った時に種が滅んでしまうので、本能として、二つの選択がある場合はどちらかに偏るのではなく、分かれるようにプログラムされているのかなと思ってます。
多様なものがなければ、環境が突然変化した時に、どちらかが死んでも片方が生き残るようにできない。意見の多様性も生物学的に見れば必ずある話だ、と腑に落ちたと語られています。
ただし、ノーベル賞学者の立場を利用してこうした発言をするのには、目立ちたいという思惑もあったのではないか、との指摘もあります。一方で、マリス本人は本気で信じていたようだとも話されています。
マリスがもともと化学者であり生物学者ではなかったこと、そして世の中で正しいとされることを裏から見たいタイプだったことが、背景にあるのかもしれません。
検出されないことが実際にあるという指摘自体は、生物の曖昧さゆえに当時は完全には否定できず、それが彼が主張を続けられた理由だと考えられています。
地球温暖化懐疑論をめぐる議論
マリスはもう一つ、地球温暖化懐疑論も唱えます。人為的なCO2排出が原因ではないという説です。
人類が排出するCO2はほんのわずかで、太陽活動の変化の方が圧倒的に大きく、今はそういう温暖化の時期なのではないか、という主張だったと語られています。
なんでそうなるかっていうと、Nobody knows、誰もわからないんですよ。CO2排出が主な原因であるっていうことは証明されてないんです。あくまで説なんですよね。
CO2削減が進んでいるのは事実ですが、これは人類がまだ試している段階であり、結果的に温暖化が止まればCO2が原因だったとわかる、という段階だと説明されています。
要因は複雑で、CO2だけだとするのは乱暴ではないか、という見解も広まってきていると話されています。
気候はパラメータが地球規模、さらには宇宙規模になるため難しい。ただしCO2も一つの原因であることは、おそらくそうだろうとも語られています。
CO2の影響が仮に主因でないなら、他のことにも気を使う必要が出て、生活はしづらくなるだろうとも話されています。
この時期に温暖化懐疑論を主張したのは先進的とも言え、目立ちたかったのか主張したかったのか、いかにもマリスらしいと振り返られています。
占星術への傾倒と多動な人柄
マリスは、確率論から外れることがあると感じ、占星術に強い関心を持ちます。
かなりのめり込み、占星術を調べることを続けていたと、自身の自伝でも語られているそうです。
研究者は一つのことを突き詰める人が多い中で、関心が広いマリスは独自の印象を受ける、と話されています。
なんか多動ですよね、すごい。
注意力散漫とは言わないまでも、いろんなことに興味を持てるのはすごい、との評価もあります。金澤さん自身も多動な方で、そこには親近感を持つと語られています。
サーフィンと執筆に生きた晩年、そして参考図書
科学から距離を置いたマリスは、晩年をカリフォルニアの自宅で過ごし、相変わらずサーフィンや執筆活動を楽しんでいました。
メディアにも出ており、TEDでは子どもの頃にロケットを打ち上げた話を面白おかしく語る動画もあると紹介されています。
物議を醸す発言をしつつ楽しく過ごし、つい最近の2019年、肺炎のため74歳で亡くなっています。
このシリーズは、インターネットやAIでの調べ物に加え、二冊の参考図書をもとに構成されたと明かされています。
一冊は、マリス本人が書いた自伝『マリス博士の奇想天外な人生』です。福岡伸一先生の訳で、早川書房から出ています。自分に都合よく面白おかしく書かれ、宇宙人に出会った話や毒蜘蛛に刺された話も収められているそうです。
もう一冊は、ポール・ラビノー著、渡辺雅隆さん訳の『PCRの誕生』で、みすず書房から出ています。シータス社でマリスの周りの研究者がどうPCRを開発したかを、インタビュー形式でまとめた本です。
この本では、周囲の研究者がマリスへの不満を語っている点も印象的だと紹介されています。
ノーベル受賞式でも、俺たちに対して一言でも感謝の言葉がないのかよみたいな感じで、キャリーは受賞の時に、PCRチームに対する感謝を一言も言わなかったみたいなので。
シリーズを終えて、化学者からの視点
最後に、初めてナレーターを務めた木浪さんが、シリーズ全体の感想を語ります。
普段から使っている技術ですけど、その開発をしてた人がこんな人だったんだというところで驚きが大きかったです。技術への思い入れも深まりましたし、研究者として自分がどういう道を歩むべきか改めて考えさせられました。
金澤さんは、木浪さんが化学をベースに生命科学へ来た科学者で、そのスタート地点がキャリー・マリスと重なると語ります。
自分が体験したことのない化学の世界、たとえばNMRの話を聞けたことがとても面白かったと振り返っています。
化学者はそういうことをやっているのだと初めて知れて面白かった、これからも知識をシェアしてほしいと語られ、シリーズは締めくくられます。
次回については、また科学者を紹介するシリーズにするのか、別のことをやるのか思案中で、準備をして臨みたいと話されています。
まとめ
受賞後のキャリー・マリスは、科学から距離を置き、懐疑論を唱えながら「ノーベルセレブリティ」として自由に生きた人物として描かれました。その生き方の是非を超えて、正しさをどう判断するかという問いへと話が広がった回でした。
- マリスはノーベル賞受賞を喜び、その特権を生かした後半生を選んだ
- HIVや地球温暖化をめぐり、正しいとされる説に異を唱え続けた
- 反対意見が生まれるのは、多様性を残す生物学的なプログラムではないかという見方が示された
- 晩年はサーフィンや執筆を楽しみ、2019年に74歳で逝去した
- 自伝『マリス博士の奇想天外な人生』と『PCRの誕生』が参考図書として紹介された
