科学系ポッドキャストの日と、映画『MISSION100』とは
今回は8月の科学系ポッドキャストの日への参加回です。
ホストは目からウロコの理科ラジオ、共通テーマは「水」です。
そこで水にまつわるゲストとして、映画『MISSION100』のプロデューサー、大崎さんが登場しました。
大崎さんによると、MISSION100は正式名称をMISSION ONE HUNDREDといい、略してM100とも呼ばれるドキュメンタリー映画プロジェクトです。
追っているのは、小坂薫平さんというスピアフィッシャーです。
小坂さんは、自称プロスピアフィッシャーとして、それだけに人生をかけている人物です。
彼自身は本当にスピアフィッシングに人生をかけていて、それしかやってない人間なんですね。
その小坂さんが挑むのが、イソマグロという魚の最大級、100kgの個体です。
しかも使うのは「手モリ」だけ。長い棒の先端にホコが付き、後端のゴムを引いて手を離すと棒が伸びる、という道具です。
チームはどう始まったか
大崎さんとあきさんの縁は、コロナ禍のYouTube企画にさかのぼります。
アウトドアコメディ集団として無人島滞在などをノリでやっていたところ、そこに集まった人の一人があきさんでした。
YouTubeが人を集めたことをきっかけに、興味のある人を集めて魚を突きながらキャンプするイベントも開かれます。
そのイベントの際、同じ宿にたまたま小坂さんや、監督のムロさん、カメラマンの野口さんが泊まっていたのが、チームの始まりでした。
大崎さん自身は、小坂さんとは以前から薄く知り合いだったといいます。初対面は下北沢のスタバでした。
狭い世界なんで、TwitterとかでつながるんですよねО。お互いおもろそうだなと思って電話したりとか。
同じ宿になったとき、小坂さんがなぜ100kgのイソマグロに挑むのか、そのプロセスを初めて詳しく聞いたそうです。
翌日、たまたま近くにイソマグロが出る場所があり、大崎さんも監督も海に入りました。
そこで見たのは、モリを向けようとも思えないほどの威圧感を放つ「モンスター」でした。
これはやばいことやってんなっていうので、最初はノリで、じゃあこれ映画にしようっていう。誰も映画作ったことなかったんですけど。
こうして2020年末、映画作りが動き出しました。
命がけのハンティング。ビル10階相当の水深とサメの恐怖
素潜りで魚を突くことは、非常に命がけです。
タンクをつけず、息を止めて潜ります。
小坂さんが突くイソマグロは、だいたい水深20〜30mにいるといいます。
これはビルにたとえると7階から11、12階ほど、25mプールを縦にした長さにも相当します。
その深さで100kgの獲物を狙う行為は、聞き手のとみーさんも「意味がわからない」と驚きます。
大崎さんによれば、小坂さんは30kgのヒラマサや40kgのハタなども突く、スケールがまるで違うハンターです。
リスクは息が続かないことだけではありません。魚を突くとサメが寄ってきます。
イソマグロが多い場所にはイタチザメやシュモクザメも多く、危険と隣り合わせです。
さらに手モリは、モリと本人を輪っかでつないでいます。100kgのイソマグロが猛烈なパワーで走ると、輪が手から離れなければ一瞬で数十m引きずり込まれかねません。
「安全圏から一方的に獲りたくない」という流儀
ここで、とみーさんはヒグマと戦う猟師のイメージを重ねます。誰にも頼まれず、安全な方法があるのに、自分の命と相手の命でやり取りするような姿です。
大崎さんは、小坂さんはリスクを減らすのではなく、あえてリスクを取るアプローチだと語ります。
彼は別にイソマグロをたくさん獲りたいとか、でかければいいみたいな思想ではなくて。
海の中で出会い、「こいつやべえな」と感じた相手に、自分の命を全部かけてぶつけたい。その衝動に抗えず突いているといいます。
だからこそ、安全圏から一方的に獲りたくない。タンクを背負わず、強力な水中銃も使いません。
小坂さんは、人が教えたイソマグロの居場所には行かず、すべて自分で見つけるという流儀を持っています。
その本質は、獲ってお金や称賛を得ることではなく、自分で決めたルールで究極的に満足できるかにあります。
一方で、大崎さんは小坂さんを「人間的にはムカつくことばかり」とも語ります。
ただ、船を出してくれる人や家を貸してくれる人に対して、ちゃんと接することも含めてやりきる姿は「ちょっと偉い」と評します。
資金集めと、崩壊しかけたチームの立て直し
映画にしようとなって最初に必要になったのは資金でした。
最初の1〜2年は自分たちでお金を出していました。船は一度出すのに10万円ほどかかり、遠征では何十回も出すためかなりの負担になります。
機材はほぼ各自の持ち出しで、大崎さんはカメラを壊してしまったこともあったそうです。
2年目ごろにはチームが崩壊しかけました。魚を獲りたい小坂さんと、映像を撮りたい撮影陣の間に、根本的な反発があったからです。
小坂さん一人と、カメラマン二人を背負って潜るのとでは、魚が逃げるリスクがまるで違います。
大崎さん自身も、撮影では潜らないため、みんなが見た景色を共有できず、自分の意味を見失いかけました。
転機は、メンバーの大地さんの提案でした。自分たちの活動報告会を開いてみてはどうか、というものです。
葉山のカフェで、遠征のダイジェスト映像を流したところ、思った以上に受けが良かったといいます。
これをきっかけに各地で報告会を開き、参加費やTシャツ販売、個人・企業のスポンサーで少しずつ資金ができていきました。
番組『生命科学の冒険者』もスポンサーの一つになっています。
5年間の密着、最後の一潜りで訪れた100kg
このプロジェクトは、大規模な遠征を5年で区切ることになりました。
4年目ごろには、資金があってもメンバーに給料はほぼ出ておらず、年に2ヶ月まるまる時間を充てるのが難しくなっていたためです。
そして最後の年、2025年。大崎さん自身は子どもの誕生と重なり遠征に行けず、電話で状況を聞いていました。
遠征も終わり「今年は無理だったか」となったとき、本当に最後の一潜りで奇跡が起きます。
五年間二千何百回潜ったうちの本当に最後の一潜りで、目標としてた百キロのイソマグロを突いた。
ただ、途中から目標は「100kg」という数字そのものではなくなっていました。
始めたころ小坂さんの最大記録は63kgで、当初は100を目指していました。
しかし次第に、記録の戦いではなく、自分が望んだ形で、応援してくれた人たちの中でやりきれるかが終了地点になっていったといいます。
大崎さんは、その話を聞いたとき「これ終わらないじゃん」と感じたそうです。
いつしか小坂さんは「アルファ」という言葉も使うようになりました。群れの中で一番大きい個体を指す、北極星のような一番星の意味です。
最終的に、小坂さんが「あそこで撮りたい」と言っていた場所で、そのメンバーと船長とともに100kgを突き、プロジェクトは一つの区切りを迎えました。
時代と国境を超えた継承。フロリダのレジェンド、キャメロン
100kgを獲った後も、小坂さんは変わらず海に向かい、今年も同じ島へ行っています。
その後、2025年6月に撮影チームはアメリカ・フロリダを訪れました。
目的は、キャメロン・カーコネルさんに会うためです。世界記録を16個ほど樹立した、スピアフィッシング界の世界的レジェンドです。
キャメロンさんも若い頃にイソマグロを追い、その体験をブログに書いていました。小坂さんはそのブログを読んで学びながら、イソマグロを追いかけていたのです。
小坂さんは、自分が納得する一匹が獲れたらキャメロンに会いに行くと決めていました。100kgを機に、いよいよその時が来たのです。
会ってみると、キャメロンさんは小坂さんそっくりの「海バカ」でした。
会ってみると、キャメロンっていう人がマジで君平なんですよ。もう海大好き海バカで、昔の話聞くと本当に君平と同じことしてて。
インタビューで出会いのきっかけを尋ねたとき、印象的な事実が明かされます。
2021年、小坂さんが86kgのイソマグロを獲ったとき、初めてキャメロンさんに連絡し、「あなたのブログを見てイソマグロを追いかけていた」と伝えていました。
そのDMを見て、キャメロンさんは泣いたといいます。
大崎さんは、時代と場所を超えて継承されてきたものの上に、今回の100kgがあったのだと感じたと語ります。
キャメロンさんも、手モリで100kgのイソマグロを獲るのはスピアフィッシング史上、圧倒的最高の偉業だと評したそうです。
なお、監督のムロさんは「オークジール」というブランドでモリを作っており、そのモリをキャメロンさんにプレゼントし、海を渡ったといいます。
魚突きの危険とマナー、そして島の人々との関係
ここで、道具と法律の話にも触れられます。
日本では水中銃は漁師しか使えず、趣味ではモリを使います。県によっては禁止されている場合もあり、ルールを守る必要があります。
そこそこ危険なため、テレビに憧れて安易に手を出さず、上級者のレクチャーを受けてから始めるべきだと語られます。
魚突きを広めたいとは1ミリも思ってなくて。やっぱり危ないですし、毎年人死んでますし。
やっていい場所・獲っていい魚などが細かく決められ、白黒がはっきりしている
法律がおぼろげで、沿岸漁業も盛んなため、漁師とのトラブルなど地域ごとの難しさがある
小坂さんや撮影陣が優れているのは、どこへ行っても地元の人との関係を丁寧に築くところです。
撮影の島はとても小さく、工事関係者と観光以外で人が来ない場所です。当初は「あの人たちは何だ」とざわつかれていました。
しかし今では、毎日のように料理をもらう関係になっています。漁師がほとんどいなくなり、島の人が魚を食べる機会が減っていたため、突いた魚を分け合ううちに感謝されるようになったのです。
魚をあげると煮物が返り、タケノコの季節にはタケノコが届く。そうした関係を、小坂さんと撮影陣が紡いできました。
とみーさんは、撮影地を公表していない点も良いと指摘します。聖地巡礼のようにマナーの悪い人が増えるリスクを避けられるからです。
そもそもその海はサメの危険や高い波があり、船が座礁することもある場所です。金で解決できないことばかりで、安易に来て死なれても困る、という現実もあります。
映画の進捗と、これから目指すもの
映画の進捗は、なかなか難しい段階にあります。
100kgに至るスポーツドキュメンタリー的なまとめ方ならすぐ作れるものの、描きたいのは小坂さんの生き様や、海や生き物との向き合い方、チームの成長といった普遍的なものです。
そのため、ストーリー構成が非常に難しいといいます。
チームは今、日本のドキュメンタリーを海外に出そうとするグループに参加し、海外プロデューサーへのプレゼンなどで叩いてもらっているそうです。
難しいのは企画書です。90分の報告会でやってきた内容を、3分や7分にまとめ、どこが核心かをピンと刺すのが意外と大変だと語られます。
今年は国内外で一つずつ、企画プレゼン大会にあたるピッチイベントに通り、NETFLIXのプロデューサーなどにプレゼンしていく予定です。
完成の目標は来年です。大崎さんは、来年の今ごろにはある程度形にしたいと話します。
目印にしているのは、アメリカのサンダンス映画祭です。影響を受けた山岳ドキュメンタリー『メルー』が、撮りためた映像で同映画祭を受賞した経緯があるためです。
撮りためた映像は25〜30テラバイトに及び、さらに今も撮影が続いています。
大崎さんが一番やりたいのは、映画祭以上に、ずっと一緒に歩んできた人たちと完成を見ることです。
一番やりたいのは、ずっと一緒に歩んできてくれたみんなと最後に見て、ああよかったねって言って、清々しく酒を飲むっていうのが一番の。
クラウドファンディングと今後の予定
現在、クラウドファンディングの第二弾が実施されています。
MISSION ONE HUNDREDのCAMPFIREのページで、新しいTシャツなどが用意されています。プロのアーティストと作ったもので、制作チームも気に入っているそうです。
集めた資金は、すべて制作費に充てられます。
関心のある人は、ホームページやInstagramをチェックすると、写真やイベントの予定がわかります。
アメリカ遠征の報告はオンラインでの開催が検討されており、11月には兵庫、さらに鹿児島でも報告会が予定される可能性があるとのことです。
まとめ
映画『MISSION100』は、素潜り手モリで100kgのイソマグロに挑む小坂薫平さんの5年間を追った作品です。単なる記録への挑戦ではなく、自分で決めたルールで納得しきることや、島や海の人々との関係、時代と国境を超えた継承までを含む物語として語られました。
- MISSION100は、素潜り・手モリだけで100kg級イソマグロに挑む男を5年間追ったドキュメンタリー映画プロジェクト
- 小坂さんは安全にたくさん獲るのではなく、あえてリスクを取り、自分が納得する形でやりきることを重視している
- 5年間で二千数百回潜ったうち、最後の一潜りで、望んだ場所とメンバーとともに100kgを達成した
- フロリダのレジェンド・キャメロンさんとの出会いは、ブログを通じた時代と国境を超えた継承の物語だった
- 映画は来年の完成を目標にサンダンス映画祭などを見据え、クラウドファンディング第二弾で制作費を募っている
