大学から魚類養殖研究所への出向
前回まではカリコの大学時代の話でしたが、今回はそこからの続きです。
カリコは大学の研究所から、出向という形で魚類養殖研究所に行くことになったと話されています。
この研究所では、養殖魚の中の脂質の構成を調べる研究をしていたそうです。養殖魚はトウモロコシ飼料で育てられていたといいます。
固まらない脂と養殖研究の狙い
ここで脂質の話になります。この時代、すでに飽和脂肪酸が健康にあまり良くないとわかっていたそうです。
飽和脂肪酸は、簡単に言えば固まっている脂のことです。バターは常温で固まりますが、植物油はサラサラしています。この固まる脂が体に良くないとされていました。
一方、寒い地域の魚の脂は、動物性でありながら冷凍庫の中でも固まりません。
もし体の中の脂が固まってしまうと生物は動けなくなるため、生体内の脂はサラサラしています。冷たい水温で暮らす魚は、固まらない脂を体に貯めておく必要があるわけです。
この固まらない脂肪が作られるメカニズムや、脂肪の生成に温度がどう関わるのかがわかれば、水産養殖に貢献できる。そうした狙いでカリコは派遣されたと説明されています。
指導者不在で酢酸エチルを自作
ところがカリコが研究所で働き始めた日、実験指導をしてくれる予定だった人が、入れ違いで休暇に入ってしまったそうです。
指導者がいないまま課題をこなさなければならない状況になりました。
なかなかな過酷な実験。
指導者がいないなら放っておく手もあったはずですが、負けず嫌いのカリコは、とにかくやってみようと取り組んだといいます。
僕だったら絶対遊ぶなと思うんですけど。
実験では、魚から脂質を取り出し、薄層クロマトグラフィーという技術で分析することはわかっていたそうです。
この実験には酢酸エチルが必要でした。しかし研究室の人に聞くと、ここには置いていないと言われてしまいます。
これも言い訳のできる状況でしたが、カリコは酢酸エチルを自分で作ろうと考えたそうです。
発想が。さすがですね。
参考書を片っ端から調べ、エタノールと硫酸と氷酢酸が必要だと突き止めます。
氷酢酸は近くの米研究所にあったため、自転車を借りて取りに行きました。エタノールと硫酸は魚類研究所にあったので、器材をそろえて酢酸エチルを合成したそうです。
なお、米研究所に氷酢酸があっただけで、米から作ったわけではありません。
この材料から自分で作るっていうのはすごいなと思いました。しかも教える人もいないのに。
その後、小さな昆虫が温度低下に反応して不飽和脂肪酸を作るという研究も、別系統で行っていたそうです。
そして、カリコの初めての論文は、この虫の不飽和脂肪酸の研究に関するものだったと話されています。
ディスコで出会ったベーラとの初デート
勉強漬けの日々を送っていたカリコに、ここで初めて男性との出会いが訪れます。
12月に学期末の打ち上げパーティーがあり、その2次会でディスコに行ったところ、背の高いハンサムな男性と出会います。彼の名前はベーラでした。
しばらく踊った後、ベーラは「コーラでも飲まない?」と誘ってきました。ビールではなくコーラという点にカリコは疑問を抱いたそうです。
頷くと、ベーラはバーに注文しに行くのではなく、ダンスフロアの空き瓶を集め始めます。その空き瓶をバーに持って行き、換金してコーラに換えていたのです。
会話でわかったのは、ベーラがまだ高校生だったということでした。近くの技術高校に通い、寮生活をしていたそうです。当時カリコは22歳、ベーラは17歳で、5歳年下でした。
ベーラは友達と寮を抜け出して遊びに来ており、守衛にはディスコでワインを調達すると言って見逃してもらっていたといいます。
その後、ベーラはカリコの寮まで、5キロの道のりをずっと歩いて送ってくれました。
途中で映画のポスターを見つけ、ベーラは次はこれを一緒に見に行かないかとデートに誘います。しかしカリコは相手が高校生だということもあり、もう会うことはないと思いながら別れたそうです。
カリコ先生っぽい。戻っちゃったんだ。
鼻血の初デートと家族ぐるみの関係
ところが次の週、友達がカリコの部屋をノックし、下に男性の客が来ていると告げます。降りてみると、それはベーラでした。
開口一番「やっぱり映画に行こうよ」と言われ、カリコはあまりのびっくりに、思わずOKしてしまったそうです。
約束の日、カリコは映画館の前で待ちますが、ベーラはなかなか来ませんでした。だいぶ遅れてやって来た彼の言い訳は「鼻血が出ちゃって」というものでした。
映画を見た後は食事に行き、ベーラは家族の話をしてくれます。父親は大工で、建築以外にもミシンや車のエンジンまで何でも直せる人だったそうです。
これはカリコの父親とよく似た人物像でした。ベーラ自身も、父と同じように何でもできると自慢したといいます。
さらにベーラの家族はハンガリー南部に土地があり、子どもの頃は畑仕事を手伝い、ミツバチを飼っていたそうです。カリコの境遇とよく似ていて、親近感が湧いたと話されています。
ところが話の途中、ベーラは突然トイレに立ち、戻ってきませんでした。カリコが帰ろうとすると、他の客から声をかけられます。
連れの男性がトイレで鼻血が止まらず倒れている、と告げられたのです。先ほどの言い訳は嘘ではありませんでした。
初デートは鼻血の思い出っていう。
ベーラは気さくな性格で、カリコの同級生ともすぐに打ち解けたそうです。仲間の実家を訪ねる旅にも一緒についてきたといいます。
別れられなかった二人と、遺伝学の大変革
努力の人だったカリコも、ベーラとのデートの時間が欲しくて、ついに宿題をサボります。ただし取りこぼさないよう、宿題は同級生に頼んでやってもらったそうです。
一方で真面目なカリコは、勉強の邪魔になると考え、何度もベーラと別れようとします。しかしベーラは一時離れても必ず戻ってきて、別れてくれなかったといいます。
とうとう実家に連れて行くと、ベーラと父親はすぐに仲良くなりました。母親は「こんな息子がいたらどんなにいいか」と言いつつも、あなたたちは釣り合わないと口にしたそうです。
ところがこの一言でカリコの天邪鬼が出ます。逆に「うまくいくんじゃない?」と思ってしまったと話されています。
ここで学問の話に戻ります。この頃、遺伝学は日進月歩で、毎日のように新しい発見がされていた時代でした。
DNAがメッセンジャーRNAに転写されることは、すでにわかっていました。
ただし、すべてのDNAがメッセンジャーRNAに転写され、タンパク質に翻訳されるわけではないとわかってきました。
DNAには、タンパク質まで行かない無駄な部分があります。この捨てられる部分をイントロンと呼ぶそうです。
こうして生物学に大変革が起こり始め、カリコはこの世界へ飛び込んでいくことになります。次回からは研究者へと話が進んでいきます。
なお、このベーラは最終的にカリコの夫となり、生涯を支える良き伴侶になっていくと語られています。
後にカリコが研究に没頭し、家庭を顧みる余裕もないほど打ち込んでいく中で、家族を支えたのが夫のベーラだったと話されています。
まとめ
Part.5では、指導者不在でも酢酸エチルを自作したカリコの粘り強さと、鼻血だらけの初デートから始まる夫ベーラとの出会いが描かれました。負けず嫌いな性格と、生涯を支える伴侶との縁が印象的な回でした。
- 魚類養殖研究所では、固まらない脂と温度の関係を調べる研究に取り組んだ。
- 必要な酢酸エチルが研究室になく、参考書を調べて材料から自作した。
- ディスコで5歳年下の高校生ベーラと出会い、初デートは彼の鼻血で忘れられないものになった。
- 母親に釣り合わないと言われたことが、逆にカリコの気持ちに火をつけた。
- 遺伝学の大変革期に飛び込み、ベーラは後にカリコを支える夫となる。
